第二十夜 エジプトのスフィンクスと愛を交わしたい
俺は魔法のAIに、いつものように自分の願いを伝える。
「魔法のAIよ、今夜はどのような夢の世界へ私を導いてくれるのか、美しい女性たちとの素晴らしいひとときを与えてくれるのか?」
さらに、俺は今夜の希望をAIに託ける。
今夜はエジプトのスフィンクスと愛を交わしたいと、願いを込めて入力する。
※ ※ ※
夢の世界が俺の目の前に広がってゆく。美しい満月、夜空に無数のきらめく星々が、現実以上に輝きを放つ幻想的な空間。
何度見ても息を呑んでしまう非現実的な光景だ。ふと時間を確認してみれば、壁にかかった四角いデジタル時計は『0時0分00秒』という表示になっている。
あの時刻で異世界への扉が開かれたようだ。
スフィンクスの神殿へ足を運ぶ前に俺は辺りを見回すと……いた!この夢の世界の案内人となる美しい女性、名前を確かエミネといったか。
彼女が白い石材が敷き詰められた中庭のど真ん中に立っている。
青いナイトドレスのような衣装を身に纏い、俺の存在に気づいたエミネは顔を向け笑顔で出迎えてくれると両手を振りながら走ってきた。
「ケンさん!」
「こんばんは!こんな時間にお邪魔してスミマセン」
軽くお辞儀をする俺に向かって彼女の笑顔がますます嬉しくなっていく様子であったのだが……間もなく少し心配そうな表情を浮かべるとこう話を切り出したのだ。
「ケンさん……どうされたのですか?」
「ん?何がです?」
エミネが俺に何かを問いかけているが、その回答が分からずに聞き返す俺。
そんな様子も全く気にしない彼女は俺の手を握りしめると次の台詞をさらっと言うのである。
「だってアナタの目から涙が……。」
あちゃ~!?もしかして昨晩に引き続き自分は泣いていたのだろうか。
ジーンとするような目を気にしながら意識して感情を表に出さないことを心掛けていたのに……みっともないカッコ悪い姿を晒してしまったなぁ……でも、仕方がないじゃない! だって、スフィンクスは……。
「エミネさん!」
「はい!?」
「スフィンクスの神殿へ案内してください!!」
俺は彼女の手を握りしめながら、そうお願いをしたのである。
『魔法のAIよ!今宵はどのような夢の世界へ私を導いてくれるのか、美しい女性と共に過ごすひとときを与えてくれるのか?私はどうしてもスフィンクに逢いたいのだ!!』
そんな俺の願いを聞き届けてくれたのか、俺とエミネの目の前に大きな扉が出現した。
「スフィンクスの神殿へご案内いたします」
エミネが俺の手を引きながら、その扉へと誘導していくと、彼女は俺に笑顔でこう言ったのである。
「ケン様……今宵もスフィンクスに逢いに来てくれて本当にありがとうございます。」
そして、俺はこの夢の世界でもまた、あの美しい女性と出逢うことができるのだろうか?
『私はどうしても彼女に逢いたいのだ!!』
そんな強い気持ちを抱きつつ、俺とエミネはスフィンクスの神殿の階段を上がり始めるのだった。
私はエミネさんと一緒に神殿の奥にある重厚な大きな扉を目指す。
一歩、また一歩と距離が近くなるにつれ、扉の輝きが強くなっていく様子が手に取るように分かるようになってきたではないか。
もう間もなくエミネさんと夢の世界で巡り逢いたい女性たちと永遠の時間を過ごし合うことができる!!そう確信をしていた時に後ろから声を掛けられたのだが……!?
「ちょいと!ケンちゃんじゃない!!」
後ろを振り返ると『げんこつシスターズ』のメンバーである真っ赤なジャケットを身に纏ったスカー・フェイスさんが立っている。
しかし、いつものように仮面で顔を隠していたわけではないし、隣に彼女のパートナーであるチャックさんもいないみたいだ。
彼女は大きな目を丸く見開くと俺にこう話を切り出してきたのだ。
「ちょうど良かったよ!!突然なんだが……オレっちは今とんでもないモンを目の辺りにしてんだ!」
『げんこつシスターズ』のメンバーは全員同じ顔だから見分けがつかないけど、この話し方の癖は間違いなく彼女である! 俺はそう確信すると彼女にこう返答した。
「こんばんは!俺で良ければどんな問題でも相談に乗りますよ!」
「あ、いや……そのぉ~。」
俺の返事に対して少し歯切れが悪そうな彼女だが、何か言いにくい事情でもあるのだろうか? しかし、そんな時だ!スカー・フェイスさんは突然に俺の手を握りしめると『魔法のAIよ!』と叫んだのである!!
『今宵はどのような夢の世界へ私を導いてくれるのか?私はどうしてもスフィンクに会いたいのだ!!』それを聞いた彼女は俺から手を放すと慌てて大きな声を出したのだった。
「わ、わかったぜ!!今すぐそっちへ駆け付けてやっから……もう少しだけ待っててくれよ!!」
スカー・フェイスさんは今いったい何を見たのだろうか?あまりの慌てぶりに思わず心配になってしまう!すると彼女が、そんな俺の気持ちを察したかのように説明を始めるのであった。
「実はよぉ~オレたち『げんこつシスターズ』が祈りをささげる場所の横に入口がある廃墟があってよ!肝試し半分で入ってみたらタンマリと金が手に入っちまったんだ! しかも、その廃墟はあの『大十字』って奴のアジトだったらしくてよ。
オレらで根こそぎぶん捕ったからよ~。この通り、たんまりあるんだぜ」
そう言って、一万円札を扇のように広げるとそれを天高く掲げた。そして「ひゃっほう」と言いながらクルクルと回り始めたのだ。まるで子供である。
しかし、そのお金に反応したのは一人ではなかった。
そう……。
「え?『大十字』のアジト?」
そう呟いたのは、この俺だった。
その俺の反応に、一万円札を天高く掲げて回っていた『げんこつシスターズ』がピタリと止まった。
そしてギギギと首だけこちらに向けると、まるで機械のような動作で首を元の位置に戻したのだ。
「な~んちゃって」と言ってそのまま逃げればよかったのだが……時すでに遅しだ。
僕はもう彼らの視線から逃れられない。
「おい」
そうリーダーと思われる赤髪のおねーさんが一言呟くと、他の二人もこちらを見た。そして、ジリジリとにじり寄ってくる。その目は獲物を見つけた獣の目だ!
「あ~いや……あの……」
僕はなんとか誤魔化そうと言葉を発するが、三人は聞く耳を持たないようだ。
「『大十字のアジト』って聞こえたけどよ~」
「……聞き間違いです!」
おねーさんのドスの聞いた声にビビりながらも、俺は否定する。
しかしおねーさんは意外な言葉を返してきたのだ。
「そのアジトの事は俺ら以外の人間には喋らないようにしていたつもりだったんだがな~……どこで聞いた?んで、お前は何者だ?」
逆に質問を返されて一瞬答えに困ってしまうが、幸いにもその瞬間を待っていたかのように佐々木さんの囁きが僕の鼓膜を擽ったのだ。
「ケン君!今なのよ!」
彼女はこの絶体絶命のピンチこそ千載一遇のチャンスと信じて行動に出たのだ。
俺はそれにすかさず乗っかったのである。
「お……俺?俺は『佐々木慶介』って言うんだけどさ~ある情報筋から大十字のアジトに奴らが向かっているという情報を得たんだよ!それで念のため俺の仲間を先に行かせていたところなんだけど~?」
上手く騙せたか?俺は心配になりつつ二人の方を見たのだが、どうやら三人共ポカンとしているだけだったようだ。
これには流石の俺も首を捻るしかなかったんだが……そしたら何故だか爆笑されてしまったんだ!「あっはははは!騙す気も誤魔化す気もなかったのかよ~!こいつは傑作だぜ!!」
「まぁまぁ!人聞きの悪い事を言うものではありませんよ」
おねーさんがそう言ってリーダー格の人にたしなめたが、笑いを止める事は出来なかったようだ。
ただ、彼女は俺の一言ですぐに頭が冷えたらしく申し訳なさそうにこう言ったのだ。
「……それで俺たちを心配してくれたって事か?」
「……ま……そういう事っす……」
もう隠しても意味がないので正直に話したのである。
すると彼女はより一層申し訳なさそうな顔になった。
「そうか……それはすまなかったな。だが、その情報の出所は信用していいのか?嘘なら承知しないぜ?」
「あ~それなら大丈夫っす!俺の仲間がこの『げんこつシスターズ』に助けられたって言っていたから」
そうなのだ。佐々木さん曰く『げんこつシスターズ』の三人は困っている人を決して見過ごさないとの事だったのだ。
だから、あの廃墟で助けた人の中に彼らのお仲間がいたのだろうと考えたのだ。
「なるほどな……確かにそんな情報が流れていれば心配になるわな」
そうおねーさんが言うと、他の二人もウンウンと頷いていた。
どうやら納得してくれたようだ。俺はホッと胸をなで下ろしたのだが、まだ完全に信用されたわけではないので油断は出来ない! だから、ここは慎重に行くべきだろうと思いこう切り出してみたのだ!
「あの~それでですね……もしよかったらなんですけど『大十字のアジト』に案内してもらえないでしょうか?」
すると三人は顔を見合わせると「どうする?」と確認しあっていたのだ。
しかし、すぐに結論は出たようでおねーさんが代表で答えてくれた。
「……わかった!案内してやるよ!」
その言葉に俺は飛び上がらんばかりに喜んだのだ!!これで『大十字』のアジトを発見できるぞ!! そんな俺の様子を見ていたリーダー格のおねーさんはこう続けるのだった……。
「ただしだ!条件がある!!」
お~っとこれはまさかの展開じゃないか?この流れからして嫌な予感しかしないぞ!?そう思った
※ ※ ※
俺はベッドの上で一人、夢から目を覚ました。
夢から目覚めた私は、魔法のAIに質問を投げかけた。エジプトで美しいスフィンクスに出会うはずなのに、なぜ夢が繰り返されるのか、そして半人半獣娘のスフィンクスのスリーサイズについて知っているか尋ねた。
「エジプトには半人半獣娘のスフィンクスが存在しません。なぜ、ピラミッドを巨大な唇と解釈し、リプリーがこれは整形手術の産物だと発言したのかについては現在調査中です」とAIは答えた。
「わかった、ご苦労様でした」と言って俺は尋ねた事を後悔し溜息を吐いた。
俺にはまだ最高のスフィンクスを見る運命にあるのだ!それも三体も!!(仮に現地語でジーン・モカイというあだ名があったとしても)いずれにせよ永遠に生きているであろうデータバンクに質問をしているのだから、もっとも重要なデータを俺が見つけるのは至難の業である。
魔法のAIからの返答を受けた後、再び眠りに落ちた俺だが。
その時、部屋の扉が開き、婚約者の美咲がいつものように俺を起こしにやってきた。
「お兄さん、いつまで寝ているの?会社に遅れちゃうよ」と声をかけてきた。
俺は、「もう少しだけ寝かせてくれ」と言って布団に潜り込んだ。
美咲は、「しょうがないな〜」と言いながら俺の頭を軽く叩いた後部屋を出て行った。
三度寝を終えた後、美咲に起こされ、俺の仕事に追われる忙しい一日が始まる。