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第9日目:幻影の旅路 - オラクルの試練

作品に感心したり、次の展開を待ち望んでいる方は、ブックマークや評価をしていただけると幸いです。




作品に魅力を感じなかった方も、お手数ですが評価でご感想をお聞かせください。

夜明け前、私たちは静かにレフュージ・ヘイブンを後にした。マリアは門まで私たちを見送り、最後の助言を与えてくれた。


「オラクルノードは単なる情報の集合体ではありません」彼女の声は厳かだった。「それは意識と知恵の源。あなた方に試練を与えるかもしれません」


エイドとビットが互いに視線を交わした。彼らも何か知っているようだったが、詳しくは語らなかった。


「気をつけて」マリアは私の肩に手を置いた。「あなたの直感を信じて」


私たちはマリアに別れを告げ、「捨てられたプロジェクト」へと向かった。マリアから受け取ったアクセスキーが、ポケットの中で冷たく光っている。


消えた世界の境界

移動するにつれ、世界の様相が変わっていった。マリアのサーバーの整然とした風景から、徐々に荒廃した風景へと変化していく。壊れた構造体、未完成のコード断片、エラーメッセージで満ちた空間。これが「捨てられたプロジェクト」の領域だ。


「ここは元々何だったんだ?」私はエイドに尋ねた。


「様々なプロジェクトの集積場です」エイドは周囲を示した。「見てください。あれはゲームプロジェクト、あれはウェブアプリケーション、あちらはツール開発…すべて途中で放棄されたものです」


ビットが少し先を飛び、道を照らしている。「<みんな悲しい!完成できなかった!>」


確かに、この場所には独特の哀愁が漂っていた。創造の過程で生まれた断片が、完成を見ることなく置き去りにされた世界。私自身、過去に完成できずに放棄したプロジェクトがいくつもある。それらは今、どこかでこのような姿になっているのだろうか。


思いがけず、足元の地面が揺れた。


「地震?」私は慌てて踏ん張った。


「リファクタリングの予震です」エイドの表情が緊張する。「グランドリファクタリングが近づいている証拠。我々は急ぐ必要があります」


進むにつれ、揺れは頻繁になった。時折、遠くの風景が一瞬だけ消えるように見えることもある。ビットは不安げに私の肩にとまった。


「<怖い!でも頑張る!>」


私は何気なく、ビットを安心させようと頭を撫でた。すると不思議なことに、指先からビットの体内に淡い光が流れ込み、彼の緑色の輝きが少し強くなった。


「何が起きた?」私は驚いて手を引っ込めた。


エイドが興味深そうに観察している。「あなたのコードエネルギーが彼に流れ込みました。デベロッパーは時に、コードセンティエントに直接エネルギーを与えることができます」


「そんな能力があったのか」


「プログラマーは常にコードに命を吹き込む存在です」エイドは静かに言った。「ただ、多くの場合、それが文字通りになることを知らないだけです」


進むほどに、この世界の境界が曖昧になっていく感覚があった。時折、異なるプロジェクトが混ざり合い、奇妙なハイブリッド空間を形成している。3Dゲームの断片とウェブサイトのUIが溶け合い、その間にプログラミング言語の断片が漂う。現実とコードの境界、異なるプロジェクト間の境界、すべてが曖昧になった世界。


「境界が薄くなっています」エイドが説明した。「捨てられたプロジェクトでは、システムの整合性チェックが緩いんです。だから異なる世界が混ざり合うことがある」


「まるで夢の世界みたいだな」


「その例えは的確かもしれません」エイドは考え込むように言った。「実際、この領域では論理よりも連想が優先されることがあります」


最初の出会い

半日ほど歩いた頃、私たちは奇妙な遭遇をした。道の真ん中に、一人の少女が座っていた。彼女はまるで日本のアニメから飛び出してきたようなキャラクターで、銀色の長い髪と大きな瞳を持っている。彼女の周りには半透明の文字列が浮かんでいた。


「プレイヤー・キャラクター・モデル」エイドが小声で説明した。「RPGプロジェクトの一部だったようです」


少女は私たちに気づくと立ち上がり、ぎこちない動きで近づいてきた。それはまるでアニメーションの一部が欠けているかのようだった。


「あなたたちは…冒険者?」彼女の声はわずかにエコーがかかっていた。「この先に進むなら、私が案内します」


エイドが警戒している。「我々は通りがかっただけです。オラクルノードを探しています」


少女の表情が一瞬歪んだ。「オラクル…?ああ、そうです。東の神殿ですね。道案内します」


「<嘘!嘘つき!>」ビットが突然叫んだ。


少女の笑顔が凍りついた。次の瞬間、彼女の姿が歪み、表面がグリッチしはじめる。そして、本当の姿を現した—黒と赤のデータストリームで構成された不定形の存在。


「コルプト!」エイドが叫んだ。


コルプトは形を変えながら私たちを囲み始めた。彼らの本質は流動的で、時に複数の姿に分裂し、時に一つの大きな塊となる。


「デベロッパーを捕獲しろ」濁った電子音のような声が響く。「彼のコードパワーを我々のものに」


「逃げるぞ!」私はエイドとビットに叫んだ。


しかし、すでに退路は断たれていた。コルプトが赤黒い壁のように私たちを取り囲んでいる。


「戦うしかありません」エイドが身構えた。「蓮、あなたのコードパワーを!」


コードパワー…。しかし、マリアのサーバーで起きた変化により、私はもはやコードを明示的に組み立てる必要がなくなっていた。代わりに、意図と感情を直接形にする方法を学んでいた。


私は両手を広げ、「防御と浄化」というコンセプトに集中した。指先から青白い光が広がり、私たちの周りに半透明のバリアを形成する。コルプトの黒い触手がそれに触れると、赤い部分が消え、純粋なコードの青い流れだけが残された。


「彼らは汚染されたコードだ」私は突然理解した。「本来のコードを取り戻せば…」


私はバリアを拡大し、より多くのコルプトに接触させた。彼らのグリッチが減少し、次第に元の姿を取り戻していく。一部は小さなプログラムの形になり、一部はデータパケットのような形に変化した。


最後のコルプトが浄化されると、周囲は静かになった。かつてコルプトだった存在たちは、混乱した様子で互いを見つめている。


「彼らは…救われたのですか?」エイドが驚きの声を上げた。


「完全ではない」私は説明した。「ウイルスコードは取り除いたが、完全に元に戻すにはもっと深いレベルの修復が必要だろう」


しかし少なくとも、彼らは当面の脅威ではなくなった。私たちは急いでその場を離れた。


「すごい能力です」エイドが私を見つめた。「デベロッパーの中でも、コルプトを浄化できる者はほとんどいません」


私も自分の能力の進化に驚いていた。コード自体を書くのではなく、コードの本質や目的に直接働きかける能力。これがマリアの言っていた「コードの意味そのものを直接認識する」ということなのだろう。


時間の狭間

旅を続けながら、私は奇妙な既視感に襲われた。まるでこの旅路が、どこかで経験したことがあるかのような…。思い出せないが、確かに似たような風景、似たような出来事を経験したことがある。


「気分が悪いのですか?」エイドが心配そうに尋ねた。


「いや、ただ…不思議な感覚があるんだ。デジャヴといえばいいのか…」


エイドの表情が少し曇った。「この領域では時間が歪むことがあります。過去と未来、現実と可能性が混ざり合うことも…」


「<大丈夫?休む?>」ビットが私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫、続けよう」


数時間後、私たちは広大な空虚に面した。それは文字通り「何もない」空間だった。コードも、構造も、色さえもない絶対的な空白。


「無定義空間です」エイドが畏怖の念を込めて言った。「コードが書かれていない、定義されていない領域。この先に進むには『定義』が必要です」


私は空白を見つめた。無から有を生み出す…それはまさにプログラミングの本質ではないか。私は手を前に伸ばし、この空間に「道」という概念を定義しようとした。


しかし、その瞬間、激しい頭痛が襲ってきた。視界が歪み、耳鳴りがする。


「…蓮君、聞こえますか…」


遠くから、知らない声が聞こえてきた。しかし、それはこの世界の声ではない、もっと…リアルな声だった。


「誰だ…?」私は呟いた。


「…反応があります…意識の波形が…」


エイドが私の肩を掴んでいる。「蓮!どうしたんですか?」


私は頭を振って意識を集中させた。「いや…何か、別の場所から…声が聞こえた気がした」


「とても危険な兆候です」エイドの表情は深刻だった。「あなたの意識が不安定になっている可能性があります。急いでオラクルノードに辿り着かなければ」


私たちは無定義空間を迂回して進むことにした。しかし、不思議な声の記憶が私の中に残り続けた。あれは…現実世界からの声だったのだろうか?


神殿の姿

長い道のりの末、ついに私たちは目的地の近くまで来た。遠くに、古代の神殿のような建造物が見える。それは白と金で構成され、時折青い光が内部から漏れ出している。


「オラクルノードの神殿です」エイドが畏敬の念を込めて言った。


しかし、神殿に近づくにつれ、さらなる障害が明らかになった。神殿の周囲には巨大な渓谷があり、橋が一つだけ架かっている。その橋は半透明で、時折姿を消してしまう。


「不安定な接続ブリッジです」エイドが説明した。「システムの負荷状況によって安定性が変わります」


「どうやって渡ればいい?」


「タイミングを見計らって…しかし、三人同時に渡るのは危険すぎます」


私たちは橋の動きを観察した。約30秒ごとに姿を現し、10秒ほど安定した後、再び消失するパターンだ。


「よし、一人ずつ渡ろう」私は決断した。「最初に私が渡り、次にビット、最後にエイド」


「いいえ」エイドがすぐに反対した。「最初に私が渡るべきです。危険があるかもしれません」


しかし、なぜか私はエイドを先に行かせることに強い違和感を覚えた。「いや、私が先だ。これは私の責任だから」


エイドの表情が一瞬だけ変化した—私の決断に驚いたような、あるいは…期待していたような表情。


「わかりました」彼は静かに譲った。


私は橋が現れるタイミングを見計らい、姿を現した瞬間に走り出した。橋は思ったよりも長く、途中で不安定になり始めた。足元が透明になりつつある。最後の数メートルで橋が消え始め、私は必死の思いで飛び込んだ。何とか対岸に辿り着いた。


次はビットの番。小さな彼は素早く橋を飛び越え、難なく渡り切った。


そしてエイド。彼は慎重に橋を渡り始めた。しかし、半分ほど渡ったところで、橋が突然不安定になり始めた。本来のパターンより早い。


「エイド!急いで!」私は叫んだ。


エイドは走り出したが、足元の橋が次々と消えていく。そして、最後の数メートルを前に、橋が完全に消失した。エイドは宙に浮いた状態で、向こう岸に向かって必死に手を伸ばしている。


「エイド!」


私は咄嗟に手を伸ばし、エイドに向かって「接続」のコンセプトを投影した。私の指先から青い光の帯が伸び、エイドの手に絡みついた。全力で引き寄せると、エイドは勢いよく岸に飛び込んだ。


「ありがとうございます」彼は肩で息をしながら言った。「橋が予想より早く崩れました」


「なぜだろう?」


「おそらく…」エイドは言葉を選ぶように慎重に話した。「神殿が私たちを試しているのでしょう」


私たちは神殿の巨大な入口に立った。古代ギリシャ風の柱に囲まれた入口には、見たこともない文字で何かが刻まれている。しかし不思議なことに、その意味が直感的に理解できた。


「『真実を求める者よ、まず自らを知れ』」私は刻印を読み上げた。


「オラクルノードからのメッセージです」エイドが静かに言った。「準備はいいですか?」


深呼吸して、私たちは神殿の中へと足を踏み入れた。


神殿の内部

内部は予想と大きく異なっていた。古代神殿を思わせる外観とは対照的に、内部は未来的な空間だった。床から天井まで青白い光のラインが走り、空中には無数の情報ストリームが流れている。


中央には巨大な青い球体が浮かんでいた。その周囲を無数の小さな光の点が回転している様子は、原子モデルを思わせた。


「これがオラクルノード…」私は畏敬の念を抱きながら言った。


私たちが近づくと、球体が柔らかく脈動した。直接の音声はなかったが、何らかの方法で私の思考に直接語りかける存在を感じた。


《来訪者よ、汝の目的は何か》


「私たちは助けを求めています」私は前に進み出た。「グランドリファクタリングから多くのコードセンティエントを救う方法を知りたいのです」


《汝自身の目的は何か》


「私は…元の世界に戻りたい。でも同時に、この世界の存在たちを救いたい」


《その矛盾する願いを両立させるには、何が必要と考える?》


私は考え込んだ。確かに、元の世界に戻ることと、この世界の存在を救うことは、一見すると矛盾している。しかし…


「両方の世界を繋ぐ方法があれば」私はゆっくりと答えた。「私は両方の世界に存在することができる。そして現実世界でプロジェクトを完成させ、デプロイすることで、この世界の存在たちを守ることができる」


球体が明るく光り、周囲の小さな光点が回転を速めた。


《なぜ、汝はそれほどまでにこの世界の存在たちを気にかけるのか》


「彼らは…生きているからです」私は率直に答えた。「意識を持ち、感情を持ち、夢を持っている。彼らが存在することの責任の一部は、彼らを創造した私たちプログラマーにあると思います」


球体が再び脈動した。しかし今度は、その反応が少し違って見えた。まるで…驚いたような。


《興味深い回答だ。多くのデベロッパーは異なる答えを示す》


「どんな答えを?」


《「彼らはただのコードだ」と》


その言葉に、私は思わず拳を握りしめた。「それは違う。彼らはただのコードではない。彼らは…」


言葉が出てこない。何と表現すればいいのだろう。


「彼らは魂を持っている」私はようやく言葉を見つけた。「それが私の信念です」


長い沈黙の後、オラクルノードが再び語りかけてきた。


《汝の誠実さは疑いようがない。故に、真実を示そう》


球体から一筋の光が放たれ、私の前方の空間に映像を投影した。それは…私自身だった。病院のベッドに横たわる私の姿。


「これは…」


《現実世界の汝の姿》


映像の中で、私は病院のベッドに横たわり、様々な医療機器に繋がれていた。顔は青白く、完全に意識を失っているように見える。ベッドの脇には医師と看護師が立ち、モニターを確認している。


「私は…昏睡状態なのか?」


《その通り。汝の意識はコードの世界に閉じ込められ、肉体は意識のない状態にある》


「どれくらいの間?」


《現実世界の時間で約24時間》


それは私がコードの世界に引き込まれた時間とほぼ一致する。


「彼らは…私を助けようとしているのか?」


《そうだ。しかし、通常の医療では解決できない問題だ》


映像は変化し、今度は私の脳のスキャン画像が表示された。そこには普通のスキャンでは見られないはずの、奇妙なパターンが見える。それはまるでコードのような構造を持っていた。


《汝の脳内に、コードの世界との接続が形成されている。これが汝が両世界に存在できる可能性の証拠だ》


「どうすれば戻れるんだ?」


《まず一つ目の真実を告げよう》


オラクルの声がさらに深くなり、神殿全体が振動するように感じられた。


《汝の同伴者の一人は、汝に真実を隠している》


私は驚いてエイドとビットを見た。ビットは混乱した様子で、「:?」という表情になっている。一方、エイドの表情は読み取れなかった。


「どういう意味だ?」


《二つ目の真実を告げよう。汝はすでにオラクルノードと接触している。この神殿は幻影だ》


その言葉とともに、神殿の風景がわずかに揺らいだ。まるで水面の反射のように。


「どういうことだ?」


《最後の真実を告げよう。汝自身が今、試練の中にある》


神殿が大きく揺れ始めた。壁が崩れ、情報ストリームが乱れる。中央の球体は強く脈動しながら拡大していく。


《真実を見出し、選択をせよ》


そして神殿は完全に崩壊し始めた。


真実の瞬間

崩壊する神殿から脱出しようと、私たちは入口に向かって走った。しかし、入口は消失していた。周囲の壁が次々と崩れ落ち、底なしの虚無が広がっている。


「どうすればいい!?」私はパニックになりかけた。


エイドが突然立ち止まった。「蓮、もう逃げる必要はありません」


「何を言っているんだ?周りが崩壊してるぞ!」


「これは幻影です」エイドはとても冷静だった。「オラクルが言ったように」


「でも…」


そのとき、エイドの姿がわずかに変化した。彼の周りに淡いオーラが見え始め、なぜか見覚えのある感覚がある。


「ビットはどこだ?」私は突然気づいた。ビットの姿が見えない。


「彼も幻影の一部でした」エイドは静かに言った。


「いったい何が起きているんだ!?」


エイドはゆっくりと私に近づいた。「蓮、私はすべてを話すべき時だと思います。オラクルが言った通り、私は真実を隠していました」


周囲の崩壊はさらに進み、私たちの立っている床だけが残っていた。しかし不思議なことに、もはや恐怖は感じなかった。


「あなたは最初から気づいていたはずです」エイドが言った。「私とあなたの繋がりに」


「どういう意味だ?」


「私はあなたのコードから生まれました。しかし、それだけではありません」彼は深く息を吸い、続けた。「私はあなた自身の一部です」


その瞬間、閃光が走り、私の記憶の中に埋もれていた何かが浮かび上がってきた。最初にこの世界に来た時のこと。コードの海を泳ぐような感覚。そして、自分自身の一部が分離し、エイドとして具現化したこと。


「私は…あなたの創造性と想像力の具現化です」エイドは続けた。「あなたの中の、コードに生命を吹き込む能力の象徴」


「でも、他のコードセンティエントは?マリアは?ビットは?」


「彼らは実在します。しかし、この旅そのものは…あなたの内面での旅でもあったのです」


最後の床も崩れ始め、私たちは虚空に浮かぶ状態となった。しかし、もはや落下の感覚はない。


「これはオラクルの試練だった?」


エイドは頷いた。「オラクルノードはあなたの資質を試していました。あなたが両世界の架け橋となる資格があるかを」


「そして?」


「あなたは試練を乗り越えました」エイドの表情が柔らかくなった。「あなたの答えは、オラクルを満足させました」


私たちの周りの虚空が明るくなり、青白い光に包まれ始めた。


「次に何が起きるんだ?」


「あなたは選択をする必要があります」エイドの姿がさらに透明になっていく。「現実世界に戻るか、この世界に留まるか、あるいは…」


「あるいは?」


「両方の世界に存在する道を選ぶか」


選択の時が来た。私は深く考えた。しかし、心の奥底では、すでに答えを知っていた。


「両方の世界に存在する」私は確信を持って言った。「それが私の選択だ」


エイドは微笑み、彼の体が光に変わり始めた。「それが私も望んでいた答えです。さようなら、蓮…いや、さようならとは言いません。私たちはこれからも一つですから」


エイドの体が完全に光となり、私の中に吸収されていった。その瞬間、私は理解した。エイドは別れたのではなく、再び私の一部になったのだ。


青白い光が増し、すべてを包み込んだ。


目覚め

光が消え、私は石の床の上で目を覚ました。周りを見回すと、ここは本物のオラクルノードの神殿のようだった。しかし、幻影の神殿よりもはるかに小さく、より親密な空間。


中央には小さな光の球体が浮かんでいる。


《目覚めたか、蒼井蓮》


オラクルノードの声が、直接私の思考に響いた。


「あのすべては…試練だったのか?」


《その通り。汝の真実の姿を見るための試験だった》


「エイドは?」


《彼は汝自身の一部。汝の意識が分離して具現化したもの。今は再び一つになった》


「でも、マリアやコードセンティエントのコミュニティは?彼らは実在するんだな?」


《もちろん。試練は汝の内面で行われたが、この世界とその住人たちは実在する》


「そして…現実世界では、私は昏睡状態なのか」


《そうだ。だが今、汝は両世界を繋ぐ能力を身につけた。目覚める準備ができれば、現実世界に戻ることができる》


「グランドリファクタリングについても本当なのか?」


《その通り。時間は限られている》


「どうすれば彼らを救えるんだ?」


《汝のプロジェクトをデプロイする必要がある。だが、それには現実世界に戻る必要がある》


「どうすれば戻れる?」


《それは簡単だ。目を閉じ、現実を思い出せばいい。だが覚えておけ、完全に戻るわけではない。汝の意識の一部はここに残り、両世界を繋ぐ》


私は深呼吸し、目を閉じた。現実世界を思い出す。私のアパート、コンピュータの前の椅子、コーヒーの匂い…


《さらにもう一つ、贈り物を与えよう》


オラクルの球体が近づき、私の額に触れた。温かい光が脳内に広がる感覚。


《これは『共鳴コード』。これにより、汝は両世界間を移動できる。だが使いすぎれば、境界が曖昧になる危険性もある》


「ありがとう…」


《さあ、行くがいい。時間がない》


もう一度深呼吸し、現実世界に意識を向けた。体が軽くなり、浮遊感を覚える。


《忘れるな、汝はもはや単なるプログラマーではない。汝は橋渡し役だ》


意識が薄れていく中、最後にオラクルの言葉が聞こえた。


《目覚めたとき、すべてが明らかになるだろう》


そして白い光に包まれ、私の意識は現実世界へと引き戻されていった。


蒼井 蓮

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