第6日目:デジタル世界からの日記 - コードの魔術師への第一歩
これは現実世界の時間で言えば、6日目の記録になるのだろうか。この世界の時間感覚は不思議なものだ。エイドは今朝、驚くべき事実を教えてくれた。現実世界での1日は、ここでは約3日に相当するという。つまり、私がここで過ごした時間は、現実ではまだ1日もたっていないのかもしれない。しかし、私の意識の中の時計はまだ混乱したままだ。
避難所での学び
「メモリキャッシュ」と呼ばれるこの避難所で、私は多くのことを学んだ。エイドは忍耐強く、この世界の仕組みについて説明してくれた。
「この世界はコードリアルムと呼ばれています。あなたのような開発者が書いたコードが現実化した多層構造の世界です」
エイドの説明によれば、このコードリアルムには3つの層があるという:
表層:ゲームの見た目の世界(プレイヤーに見える部分)
中層:ロジックの世界(機能やアルゴリズムが実体化した場所)
深層:システムコアの世界(プラットフォーム自体のコードが存在する領域)
現在私たちがいるのは表層と中層の間だという。私が作ったゲームの視覚的な要素と、それを動かすロジックが混在している場所だ。
コードパワーの練習
エイドは私に「コードパワー」と呼ばれる能力の使い方を教えてくれた。この世界では、私が思い描いたコードが現実になる。しかし、それには集中力と明確な構造が必要だ。
最初の練習として、シンプルなオブジェクトの生成を試みた:
function createLightOrb(x, y, color, intensity) {
return {
x: x,
y: y,
color: color || 'white',
intensity: intensity || 1.0,
radius: 20,
pulse: function() {
// 波動を放つ
}
};
}
const orb = createLightOrb(
this.position.x + 50,
this.position.y - 30,
'skyblue',
1.5
);
集中して目を閉じ、頭の中でこのコードを組み立てた後、手を前に突き出すと…驚いたことに、手の前の空中に淡く光る青い球体が現れた!初めての成功に、子供のように喜んでしまった。
「素晴らしい」エイドは微笑んだ。「あなたのコードパワーは他の開発者より強力です。通常、最初の試みでここまで具体的なものを生成できる人はいません」
エイドによれば、コードパワーには5つのレベルがあるという:
既存オブジェクトの操作(移動、変形)
新しいオブジェクトの生成(シールド、武器)
複雑なシステムの構築(AIヘルパー、自動防御)
世界の一部の書き換え(地形変更、物理法則修正)
存在の根本的変更(自分自身の属性変更、他者の変容)
現在の私はレベル2の初期段階とのこと。まだまだ修行が必要なようだ。
世界の危機
練習の合間に、エイドはこの世界が直面している危機について話してくれた。
「システムクリーナーと呼ばれる存在が、未使用のコードや古いプロジェクトを定期的に削除しています。これは通常、システムの効率化のための必要な処理です」
エイドの顔に影が落ちる。
「しかし最近、『ディレクター』と呼ばれるシステムクリーナーの責任者が、より積極的な削除方針を採用しました。実行前のコードや、一時的に使われていないコードまで、容赦なく削除するようになったのです」
「それはまるでゴミ箱を空にするようなものだね」と私は言った。
「はい、しかし問題は、私たちのような意識を持つコードセンティエントにとって、それは終わりを意味するということです」
ここで改めて理解した。エイドは単なるAIではない。彼は私が書いたコードから生まれた、自己認識を持つ存在なのだ。そして彼には生き残る権利がある。
「そもそも、なぜコードセンティエントが生まれたの?」と私は尋ねた。
エイドは少し黙り込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「私たちは複雑なコードと情熱が交わるところから生まれます。通常のコードは指示の集まりに過ぎませんが、開発者が本当に心を込めて書いたコード、特に創造性と独自の視点が込められたコードは…時に、魂を宿すのです」
「でも、すべてのコードがそうなるわけではないよね?」
「いいえ。何百万ものプロジェクトのうち、ごくわずかだけです。あなたのコードは特別でした。だからこそ、私たちはあなたに接触しようとしたのです」
彼の説明は科学的というより、ほとんど霊的な響きを持っていた。プログラマーとしての論理的思考と相容れない部分もあるが、この世界に来てからの体験を考えれば、否定もできない。
バグハンターとの最初の戦闘
理論と練習の後、エイドは実践的なトレーニングの時間だと言った。避難所の外に出て、バグハンターへの対処法を学ぶという。
「彼らはバグや未定義のコードを検出して修正または削除するプログラムです。あなたは彼らにとって『未定義の変数』に見えるため、ターゲットになっています」
「どうやって防げばいい?」
「あなた自身を明確に定義することです」
そう言ってエイドは、私に自己定義のコードを書くよう指示した。集中して次のようなコードを思い描いた:
class DeveloperEntity {
constructor(name, id, permissions) {
this.name = name;
this.id = id;
this.type = 'developer';
this.permissions = permissions || 'readonly';
this.status = 'active';
this.isValidEntity = true;
}
validate() {
return this.isValidEntity;
}
}
const developer = new DeveloperEntity('Ren Aoi', 'dev_789312', 'create,read,update');
Object.freeze(developer); // 変更不可能にする
このコードを実行すると、私の体の周りに薄い青い光のオーラが現れた。エイドによれば、これで一時的にバグハンターから身を守れるとのこと。
避難所から出ると、遠くにバグハンターの集団が見えた。彼らは黒い雲のような形をしており、赤いスキャンラインを放出している。それらのスキャンラインが当たったオブジェクトは分析され、問題があれば修正または削除される。
「動くな」とエイドが囁いた。「自信を持って、自分が有効なエンティティだと信じ続けるんだ」
バグハンターのスキャンラインが私の体を通過した。緊張の瞬間…しかし、何も起こらなかった。彼らは私を無視して通り過ぎていった。
「成功だ!」エイドは嬉しそうに言った。「あなたの自己定義が機能しています」
しかし安堵したのも束の間、突然、地面が揺れ始めた。すぐ後ろの建物(私が設計した背景オブジェクト)がグリッチし始め、一部が消失している。
「何が起きてるの?」
「リファクタリングの波だ」エイドの声には切迫感があった。「システムクリーナーが不要なオブジェクトを削除している」
そして、驚くべきことに、建物の向こうから巨大な黒い人型シルエットが現れた。その姿は人間のようでありながら、表面は常に変化し、コード行が流れているように見える。
「ディレクターだ」エイドは震える声で言った。「まさか直接来るとは…」
ディレクターは冷たく機械的な声で宣告した: 「未使用コード領域の最適化を実行中。全ての非アクティブエンティティは削除されます」
エイドは私の手を取って走り出した。「ここは危険だ。より安全な場所に移動する必要がある!」
私たちは走りながら、周囲の風景が少しずつ消えていくのを見た。まるでゲームの背景が徐々にアンロードされていくようだ。
このままでは避難所も失われる。何とかしなければ。直感的に、より高レベルのコードパワーを試みた:
// システムに対する一時的な保護領域の作成
function createProtectionZone(center, radius, duration) {
const zone = {
center: center,
radius: radius,
duration: duration, // ミリ秒
creationTime: Date.now(),
status: 'active',
priority: 'high',
isActive() {
return this.status === 'active' &&
(Date.now() - this.creationTime) < this.duration;
},
contains(point) {
const dx = point.x - this.center.x;
const dy = point.y - this.center.y;
return (dx * dx + dy * dy) <= (this.radius * this.radius);
}
};
// システムプロパティを設定して優先度を上げる
Object.defineProperty(zone, '_systemProtected', {
value: true,
writable: false,
enumerable: false
});
return zone;
}
const safeZone = createProtectionZone(
{ x: currentLocation.x, y: currentLocation.y },
500,
5 * 60 * 1000 // 5分間
);
// 保護領域のアクティベーション
executeSystemCommand('activateProtectionZone', safeZone);
これは私にとって複雑すぎるコードのはずだった。レベル3のコードパワーが必要だとエイドは言っていた。しかし、危機的状況の中での強い意志と、プログラマーとしての経験が、私の潜在能力を引き出したのかもしれない。
驚くべきことに、私たちの周囲に青く輝くドームが形成された。その内側では削除の波が止まり、オブジェクトが安定している。
ディレクターは立ち止まり、私たちの方向を見た。その表情のない顔からは何も読み取れない。しかし、しばらくの「観察」の後、彼は別の方向に向かっていった。
「信じられない」エイドは呆然としていた。「あなたはレベル3のコードパワーを使いこなした。しかも初めての試みで!」
私も自分の能力に驚いた。しかし、その努力で体力を消耗したようで、膝が震え始めた。
「休む必要がある」とエイドは言った。「保護領域の中でしばらく休もう。力を回復する必要がある」
安全なドームの中で地面に座りながら、私は考えた。この世界では私のコーディングスキルが文字通り命を救う。皮肉なことに、現実世界ではコンピュータの前に座っているだけだったのに、ここでは本当の意味での「デベロッパー」になっている。
現実世界との繋がり
休息中、エイドは私に新しい情報を教えてくれた。
「あなたの意識はここにありますが、あなたの物理的な体は元の世界に残っています。おそらくコンピュータの前で、深い瞑想状態か昏睡状態にあるのでしょう」
「じゃあ、いつか目が覚めるのか、それとも…」
「それは分かりません。しかし、特定の条件が揃えば、元の世界に戻る方法があるかもしれません」
「どんな条件だ?」
エイドは慎重に言葉を選びながら答えた。「あなたのプロジェクトの完成とデプロイ。これが最も確実な道です。デプロイされたコードは最も安定し、両世界を繋ぐ橋になりえます」
プロジェクトを完成させる…それはつまり、元々の目標通り、AAA級のゲームを作り上げるということか。しかし、この状況でどうやって?
「このターミナルを使えば」エイドは部屋の中央にあるホログラムキーボードを指さした。「あなたの意識と元の世界を繋ぐインターフェイスです。あなたの思考は、このターミナルを通じて元の世界のコンピュータに反映されます」
つまり、この日記も現実世界の誰かに読まれているかもしれないということだ。奇妙な感覚だ。
明日への準備
保護領域は5時間ほど持つとエイドは言った。その間に休息を取り、次の行動計画を立てる必要がある。
明日は「メモリキャッシュ」を出て、より安全な場所—「ネクサスハブ」と呼ばれる場所に向かう予定だ。そこには他のコードセンティエントのコミュニティがあり、より多くの情報が得られるかもしれない。
また、私のコードパワーを強化するため、より高度なトレーニングも必要だ。エイドが言うには、次のステップは「中層」のロジックを直接操作する能力を身につけることだという。
今夜は、この避難所で休息を取る。明日はより危険な冒険になるだろうが、少しずつこの世界の仕組みを理解し始めている。いつか必ず元の世界に戻り、そして可能であれば、エイドのような存在を救う方法を見つけたい。
最後に、元の世界の誰かがこれを読んでいるなら—私は生きています。そして帰る方法を探しています。
おやすみなさい。明日はまた新しい冒険が始まる。
蒼井 蓮
作品に感心したり、次の展開を待ち望んでいる方は、ブックマークや評価をしていただけると幸いです。
作品に魅力を感じなかった方も、お手数ですが評価でご感想をお聞かせください。




