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 涙を拭い、少し落ち着いてきたころ。改めて周りを見渡してみる。

 この日当たりの良い部屋は、俺に用意された自室なのだろうか。


 月並みな感想だけど、すごく居心地が良い。


 ほとんどが白と金で統一された室内の家具は、どれも質の良さが一目でわかるようなものばかりで品がいい。ちらほらポイントに鮮やかな赤が見えるのは、別邸とはいえアレクシディア家を象徴する色だからだろう。

 カーペットから、天蓋付きのベッドに、テーブル、やけに大きな本棚、クローゼット、天井にかけられたシャンデリア。

 部屋中に繊細な華やかさがあり、それでいてこの暖かな空気感と解放感を崩さないので、用意をした人間のセンスの良さがわかる。


 ・・・すごく、いいな。


 少し開かれた、大きなガラス張りの窓には薄く白いカーテンがかけられており、それが風に合わせてふわりふわりと揺れている。

 カーテン越しにうっすらと見えるバルコニーは広く、植物やらテーブルセットやらハンモックやらが置かれており、手すりのすぐそこに木の上部が見えることからして、ここは二階か三階らしい。

 まるで、最近まで誰かが住んでいたみたいだ。


 未だ寝起きの感覚が抜けきらないぼーっとした頭で、この部屋のスタイリストのセンスをべた褒めする。どこから目線なのかわからないようなことばかりを考えてしまうのは、昨日思い出したあの記憶の持ち主?の影響だろうか。その人もよく家具にこだわっていた。そういう仕事をしていたような気がする。






 そのまましばらくぼけーっと過ごしていると、突然部屋の扉が静かに開かれた。


 ベッドで仰向けになっていた身体をひっ繰り返し、扉の方をみる。




 そこに立っていたのは、年若い女性だった。女の子、と表現するべきか。

 真新しいメイド服に身を包み、両手で一つの小さな箱を何やら大事そうに抱えている。

 浮かない表情をして俯いているため、俺の様子には気付いていないようだ。




「・・・・・」




 おそらく俺の様子を見に来た使用人さんなんだろうなぁ、とは思いつつも、なんと声をかけたら良いのかわからなかったので、とりあえず黙って見つめてみる。


 女性は扉を静かに閉めると、こちらへ歩き出した。


 すると同時にその視線が上げられ、ばっちりと目が合った。






「・・・」

「・・・」




「・・・・」

「・・・・」




「・・・・・」

「・・・・・ッ!?!?!?!?」






 目を見開いて止まっていた女性の時が、ようやく動き出した。



「ぼ、ぼぼぼ、ぼっ、ぼっちゃま!?」



 どうやら、なかなかいいリズムを刻んで話す方のようだ。

 個性的である。



「ああ。おはよう」

「よかったで、あっ、おは、いやえっと、私、まだお眠りになっているかと、邪魔してはいけないとっ、あの、ノックもせず、し、失礼致しました!私、セヴィルス様をお呼びしてきます!!」



 そういうと、女性は酷く焦った様子で部屋を飛び出していった。

 なかなか慌ただしいメイドさんらしい。






























 少しすると、部屋の外が騒がしくなり、一人の壮年の男性と十五歳ほどに見える年若い少年、そして先程の慌てん坊メイドが、揃って瞳をキラキラとさせてやってきた。

 執事服を見に纏った男性はセヴィルス、少年はビート、メイドはルクリアと名乗った。

 セヴィルスはこの別邸を任された執事、ビートは本邸のヤード・ボーイ(要するに雑用係)で、ルクリアはこの家のハウスメイドらしい。


 よほど心配をかけてしまっていたようで、涙ぐまれて大変だった。

 長くなるので細やかな内容は割愛すると、すごく丁寧に、体調は大丈部ですか、とにかく目覚めてよかったです、後でもう一度医者に診てもらうので安静にしていてくださいねと言われた後に、俺が眠っている間のことについて説明があり、最後に朝食はどこでとるかと聞かれた。

 お腹は特に空いていなかったのでそう伝えると、すごく真剣な表情で、とにかく何かは口にした方がいいと言われたので、結局、この後部屋に食べやすいものを届けてもらうことになった。


 すると話が一段落したところで、セヴィルスが変な顔で尋ねてきた。


「・・・坊っちゃま。不躾な質問で恐縮ですが、こちらのお部屋は、お気に召していただけましたでしょうか」

「? ああ、すごく」




 頷きながら答える。

 ああ、もしかして、セヴィルスがこの部屋を用意したのだろうか。


「雰囲気がすごく心地よくて、あたたかくて。とても気に入ったよ。セヴィルスが用意してくれたのか?ありがとう。」

「・・・そうですか。それは、大変嬉しゅうございます」


 セヴィルスは暖かく微笑んだ。


「それでは、何かございましたらすぐにお呼びくださいませ。向かいの部屋に常に人を待機させておきますので、いつでもご遠慮なく。」


「あ、じゃあセヴィルス。最後に一つだけいいか」


「もちろんでございます。なんでございましょう」


「姉は・・・、あの、姉さんに、会いたい」


「・・・旦那様からは、しばらく難しいとだけ、伺っております。」


セヴィルスが申し訳なさそうな顔をする。


「・・・それは、俺だけ?」


「いえ、今は誰とも会いたくないと。本人の意思だそうです」


「そうか・・・ありがとう」


「とんでもございません。」


 彼らは静かに部屋を出ていった。











わかりにくい部分がたくさんあったと思うので補足をしておきます。

現在のギルバートは、あくまでも本来のゲームと同じ人格です。中の人物は別人ではありません。自分の未来と人生の結末を齢六歳にして知ってしまったみたいです。

思い出した記憶については、間違いなくギルバートの前世です。行き来して、魂って忙しいですね。

ちなみに前世ではインテリアデザイナーをしていたみたいですが、本編にはほとんど関係ありません。


現在のギルバートの自室は、かつての彼の母親の自室です。彼女を溺愛していたアレクシディア家の当主が、いつ彼女が戻って来てもいいように部屋の維持を命じていたようです。

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