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断片的な記憶

 


 雲の中のような、あるいは薄暗く霧がかった森の中のような。

 とにかくそんな曖昧な意識感覚の中で俺がそのことに気がついたのは、突然この小さな世界が少し開けたからだった。

 突如現れた小さな光。その光が次第に強まり、靄がかかった世界を照らし出すのと同時、もしくはそのすぐ後に、声が聞こえてきた。

 もっと正しく言うならば、歌が。


 まるで愛しい我が子を包み込むような、とても優しい声、そして子守唄のような暖かい旋律だった。

 その歌は小さな世界いっぱいに反響してーーーやがて全てがその声に、光に包まれ、微睡んだ。

























 ・・・誰かが、叫んでいる。


 怒鳴っている。


 悲しみを、怒りを、誰かにぶつけている。




 光に包まれてしばらく。

 未だ曖昧な意識の中で、そのことを理解した次の瞬間、まず認識したのは痛みだった。

 初めは小さかったその痛みの粒は、次第に増え、痛む箇所を大きくしてゆく。


 重く、鈍い痛み。

 鋭く、刺すような痛み。

 どちらとも言えない、いや、むしろそのどちらもが順番に、波のようにとめどめなく押し寄せてくる。

 またしばらくしてようやくその感覚が薄れてきたかと思えば、次に襲ってきたのは体中が煮えたぎるような暑さだった。


 ただ暑い、暑い、熱い。

 苦しい、苦しい、喉が、胸が。


 まともに思考も回らない状況下で、自分の呼吸が乱れていることだけはやけにはっきりとわかるのが不思議だった。


 突然、痛みも暑さも消えて、頭の中を覆っていた霧が晴れた。

 そして、それは突然聞こえてきた。






 ーーーーそれは、あなたの罪ではない。




 先程聞こえてきた怒鳴り声とは違う、むしろできるだけ感情を抑えたような淡々とした声。


 次の瞬間。


 ふと、どこかで水滴が落ちた。





 ーーーー・・・じゃあっ、だったらッ!俺の今までの人生は、一体なんだったっていうんだ!!!この後悔は、悔しさと怒りは!一体どこに、どうすればいいッ!!


 ・・・っわからない。わからないんだ、何もかも。この未練を、後悔を、思いを、忘れることなんてできない。俺に罪がないっていうんなら、すべては一体誰の罪なんだ?俺は誰を憎めばいい!!今までずっとそれがわからなかったから自分を憎んできた!!全部俺が悪いんだと理解している。理解していたさ!!そのくせ、やり場のない怒りを、他人にぶつけてきたッ!!醜く、無様にもな!!


 それでも俺に罪がないっていうんなら。俺は、一体。

 今までどうして。一体、なんのために生きていたんだ?




 ・・・どうして俺は生まれてきてしまったんだ。













 揺れていた。

 空気が、声が。

 彼の激しく揺れ動く感情に呼応するように。


 彼の紡ぐ言葉が、どうしようもなく悲しくて。

 何も分からない。

 何があったのかも、彼が何者なのかも、俺はなにも知らない。

 それなのに、あまりにも悲痛な叫びに、その声や言葉からひしひしと伝わる想いに、知らず涙が流れた。




 ーーーなぜ?


 わからない。


 わからないけど。


 ただ、苦しい。


 悲しい、悲しい。




 わけもわからず、ただとめどなく心の中に流れてくるこの悲しみが、なぜか無性に虚しかった。


 淡々とした声の人物が何かを言って、また彼が何かを呟いて。


 次第に小さくなっていく彼らの声と共に、俺の意識は遠くなっていった。













 ・・・・ーーーーーー。























 ・・・・・・・・・・・・・









『ゴルメインの英雄』。


 それは、とあるひとつの英雄譚(ものがたり)

 ひとりぼっちだった少年が、あまたの戦場や多くの人との出会いと別れを経て、時に苦しみ、悲しみ、嘆きつつ、それでも前へと進んで成長していく・・・という内容の古くからの人気APGである。

 プロローグはなかなか暗いもので、主人公が復讐を誓って旅立つところから物語は始まる。


 始まりの舞台は、とある国のはずれにある、山に囲まれた平和で小さな村。

 そこで主人公は、捨てられていたのを拾い我が子のように育ててくれた老婆、親切にしてくれる村の大人たち、そして兄弟のような近所の子供たちに囲まれて、人の優しさや暖かさに触れて育った。

 平和で、穏やかで、幸せな日々をおくっていた。


 しかしある日、主人公は大切な人たちを一気に亡くす。

 疫病が流行したわけでも、自然災害によるものでもない。

 主人公が村を離れていたほんの間に、ある集団によって一人残らず虐殺されてしまうのである。




 その日は、いつもと変わらない目覚めで、いつもと変わらない朝食で、いつもと変わらない会話があった。

 冬が近づいてきたこともあって、朝からたくさんの薪を割り、食料をとりに森に入った。

 しかし村に戻ったときに広がっていた光景は、「いつも」とは全く異なるものだった。


 血で染まった地面、炎に包まれ燃えゆく家々と、大切な人たちの無残な死体、死体、死体。誰か、判別できないものさえあった。むせかえるような血の臭いで、鼻が痛かった。




『逃げて、生きて。』


 掠れた声で涙を流しながら微笑んだ、血だらけの少女の冷たくなっていく手を、主人公は泣き叫びながら、ただ縋るように握りしめていることしかできなかった。

 生まれて初めて感じる、身を焦がすような悲しみと憎悪。

 その小さな身の内に荒れ狂う凄まじい感情によって、主人公は秘められていた巨大な力を目覚めさせる。


 体力が底を尽き、気を失ってしまった主人公が次に目を覚ましたのは、山奥に一人で住んでいるという見知らぬ老狩人の家だった。村があるはずの方角から、異常な黒煙が上がっているのを不審に思いこっそり降りてきたところ、あの惨状を目にしたのだという。

 曰く、唯一息があった主人公だけでもと連れ帰ってきたのだ、と。

 主人公は酷い高熱で危険なところだったらしく、二日も寝込んでいたらしい。



 そして、老人と別れた後に、主人公が最初に辿り着く街が貿易都市ミリディムである。

 そこは主人公が最初の仲間を手に入れる場所であり、そして、々もことあるごとく主人公の邪魔をしてくるライバルキャラと初めて出会う土地でもある。

身分を笠に着て権力を振りかざすとある辺境伯の次男坊という、悪役にもなりきれない、いわゆる当て馬キャラと呼ばれるものにあたるそのキャラクターは、主人公に嫌がらせをするためにその後のストーリーやクエストにいやというほど登場してくる。

謎多き彼の過去が明かされるのは、彼が亡くなった後のことである。


 そう、彼は死ぬ。


 最終的に彼は、幼い頃からのトラウマと、主人公への劣等感と羨望、そして最愛の姉の死を謎の連中に良いように利用され、いわゆる『闇落ち』をしてしまうのだ。

 子供のように泣き叫びながら、命を削り魔力を暴走させ、結局は主人公に心臓を突かれて息絶えるのだ。




『・・・こんなはずじゃなかった』




 そう言葉を遺して。




 彼は主人公では無かった。


 主人公にはなれなかった。


 主人公とするには、彼はあまりにも我儘であり、幼稚であり、高慢であり、それでいて怠惰だった。


 どろりとした暗い怒りと、亡き者を切愛する心を常に抱えた彼は、最期の瞬間までただの哀れな脇役だった。









 しかし、けれど、それでも。



 これは、彼───『ギルバート・アレクシディア』が、前世の記憶を思い出した場合の、『彼』が主人公の物語である。



































































 ウェスト大陸、レーインガン王国、某家領。








「ねえほら、あなた。見て」


「・・・ああ。」


「とっても可愛い。ほら、おててがこんなに小さいの」


「・・・ああ。」


「なあに、あなた。泣いてるの?」


「・・・言わないでくれ。さっきから、溢れて、止まらないんだ。」


「もう・・・本当に泣き虫なんだから」


「君もじゃないか」


「あなたほどじゃないわよ」


「ねえー!わたしもー!わたしもみるー!」


「ふふふ。ほら、この子があなたの弟になるのよ」


「・・・ちっちゃい。」


「そうねぇ。仲良く、大事大事にしてあげてね。」


「・・・うん!」


「ハウレア、本当にありがとう。この子もフレアも大事な、大切な僕たちの子だ。・・・本当に、ありがとう。」


「・・・ふふ、ええ。」




「そうだあなた、名前は決められた?」


「すごい悩んでた!」


「ああ、もちろんだとも」

























「ギルバート。この子の名前は・・・ギルバートだ!」






























 これは、俺の物語である。


















自分の頭の中のキャラクターやお話を言葉に表し紡いでいくことに全く慣れておらず、至らない部分が多々あると思いますが、どうかお手柔らかによろしくお願いします。

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