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イオは長い夢をみている(仮)  作者: 荒井三塔空
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僕は、それでもこの世界を。

 少年は言った。


 「思うんだけどさ。」


 少女は振り向いた。


 「どうしたの。」


 少年は問うた。


  「[いい加減]って、少し文が違うだけで全く違う意味になるのってなんでだろうね。あれって違和感が過ぎるよ。まるで同級生連中みたいだ。」


 少女は考えた。


 「うーん、なんでだろうね。考えた昔々の人を尋ねることもなかなか難しいだろうからね。とっくに亡くなられてるだろうし。」


 今度は少年も一緒になりうーん、としばらく考えた。するとそこで少女は勢いよく顔を上げた。


 「あ、こういうことじゃあないかな?」


 少年は嬉々として聞いた。


 「なにかわかった?」


 少女は言いかけたが、屋上からうつる街の風景を見ながら、少し息を吸い、ため息でつぶやくように言った。


 「……やっぱりなんでもない。こんなこと無意味だよ。全部無駄。」


 「え…?それってどういう……」


 少女はこちらを向き、優しく伝えた。


 「だから君も目を覚ませ。目を覚ます時間だよ。新しい朝焼けだ。」


 少女は、少年の胸先三寸まで近づき言った。


 「ようこそ、カイム、」








 ダニエル・キイスを讃えて


 その日の朝は、どことなく懐かしく、そして清々しい朝だった。日の差し込んだ窓から見える空はこの上なく晴れやかな青空だった。その隣で、まるでエイシストール、医療ドラマでみたそれのように綺麗な一本線が表示され、けたたましく鳴り響く心電図と、その隣で、同じくけたたましく鳴り響く心電図のような女性がいた。

「だぁーかぁーらぁー!あなたは死んで、ここはあの世だって言ってるの!」

 情報の整理ができずにいた。なぜなら、つい先程まで屋上で人と会話した記憶が色濃く残っているからだ。でも誰と?なんの話しをしていたのか?まるでその部分だけ、すっぽりと抜き取られたかのようだった。

 「ご、ごめんなさい!でも……」

 「でも、なんなのよ!!」

 女性は何かに取りつかれたかのような形相でこちらを睨みつけた

「い、いや、だって今、目の前で熱弁しているあなたは紛れもない看護師で、心電図といい、点滴のスタンドといい、いかにも病院で使ってる物で……とても僕の想像していたあの世とはかけ離れてしまっていて……」

 ただ、そのナース服らしい服装は、まるで一昔前の外国の物のようなナース服だった。その看護師風の女性は言う。

「こっ、これは……私の趣味というかその……一度こういうのに憧れていた自分がいたというか……あぁーもうっ!なんで来る人くる人みんな信じてくれないのよぉー!」

 地団駄をふむ看護師。サイドテールに結わえた髪が激しく揺れ動く。

「と、とにかく落ち着いてください。でないと僕も落ち着けないので……」

 対して彼、「永 魁夢」(ながらえ かいむ)は後頭部を髪ゴムで縛っているしっぽを少し揺らし説得する。彼は昔から人と話すのは苦手である。それに輪をかけて、女性と話すのはもっと苦手である。おぼつかない語り口で魁夢は語る。

 「ま、まず、あなたは誰ですか?ここはあの世だとして、し、死因はなんなのでしょうか?」

「ハッ!……コホン……失礼したわね。なにせ成り立てでほとんど教えて貰えないものだから。」

 ようやく落ち着いた彼女は口を開く。

「自己紹介がまだだったわね。私の名前は『テンジョウ ヨスガ』。今回あなたの事実上の死を報告するために配属された、あなたたちの間で言う『天使』よ。気軽に『ヨスガ』と読んでくれて構わないわ。もちろん、あなたがそれを望むならね。

 やはり理解できなかった。きっとこの看護師はなにか僕をからかっているのだと思った。しかし、その頭上には天使の象徴とも呼べるべき輪のようなものが見て取れた。年齢は自分よりも歳上だろうか。ヨスガはおもむろに自分の膝に乗せていた、バインダーで挟まれた書類を読み上げる。

「昔、手違いでここに送り込んでしまった天使がいたのよ。それから一層厳しくなってね、一応本人確認をさせてもらうわ。……あなたの名前は……永 魁夢、16歳、性別、男性……で合ってるのかしら?」

「は、はい……」

「魁夢君……あなた本当に男の子?」

  ヨスガはまじまじと魁夢を見つめた。

「うう……自覚してるからあまり見ないでくださいよお……」

 魁夢は顔を赤らめて言った。そう言われるのも無理はない。彼は目が隠れるくらい伸び、全体的に肩まである髪、細身体型、大人しい性格の所為か、よく女性と間違えられてしまう。

「そう、それは失礼したわね。話を続けるわ。身長160センチメートル、体重49キログラム、合ってるわね?」

 「はい……」

「それじゃあ次にあなたの死因を教えるわ。あなたは、『屋上から落下の後、循環血液量減少性ショックで死亡』……なかなかえげつない死に方をしたわねあなた……」

 魁夢は疑問に思った。なぜ自分は屋上で、そして落下をしたのか、と。記憶の矛盾点をおさらいしている魁夢を後目に間髪を入れずにヨスガは告げる。

 「さて、死因もわかったことだし早速本題へと入りましょうか!

 「あなたは少し若く死にすぎた。そのため、あなたには別の世界での生を与えようと思うの。その地は、あなたの元々住んでいた世界とは程遠い、危険が伴う世界よ?もちろん、あなたが決めること。あなたがこのまま天国へ行きたいというのならそれでもいいし、どちらでも構わないわ。さあ、どっちを望む?」

「質問を質問で返すようで申し訳ありませんが、二、三質問よろしいでしょうか?」

 魁夢は手を挙げた。

「どうぞ。なに?」

「その世界では、目標というものはあるのでしょうか?」

「ええ、あなたがそれを望むならね。それはあなたが作り、達成するものよ。」

「なかなか難しそうですね……。もう1つの質問、その世界で暮らした際、言語などはどうするのでしょう?違う言語だった場合不便で仕方が無いのですが。」

「その心配はいらないわ。こちら側であなたの記憶を一部改編して、向こうの世界の言語を難なく話せるようにさせておくから安心してね。」

 次の質問に魁夢は少し悩んだが質問を続けた。

「それではもう1つ……」

 一瞬言うのを踏みとどまった。言いたくない、でもこれが最後のチャンスかもしれない。魁夢はその重い口を開いた。

 「……僕の……僕の体にある傷、きれいさっぱり取り除くことは可能ですか?向こうの世界に行く前に消したいんです。」

 その傷が何でどのようにできたのか全て知っていたヨスガは、それを言おうとしているようだった。しかし彼女は言葉を飲んだのち、こう告げた。

「あぁ……ごめんなさい……作られて間もない傷はすぐ消せるけど、こう時間が経ってしまった傷はどうしても消せなくてね……かと言って、向こうの世界に傷を治せる手段があるかどうかも分からないわ……本当にごめんなさい……」

 ヨスガは魁夢の腕をさすりながら言った。

「で、でも!あなたはそれでも十分綺麗よ?目を見ればわかる。その傷も、いつか踏み台にしてしまいなさいな!」

「ヨスガさん……」

 魁夢は、色々な感情が心の底から溢れ出たように大粒の涙を流した。昔から涙脆い性格だ。だが、この目の前にいる天使の存在は、今まで感じたことの無い「母性」に見えているようだった。気がついた時には、その「母性」で涙を拭いていた彼がいた。

「わああああん!!」

「ちょっ……!!まあ、あなたは抱え込みすぎよ。何も心配することは無いわ。」

 魁夢の頭を優しく撫で、取り繕おうとしているが、ヨスガはあらぬ事か、泣きついてきたそれによからぬ感情を持ってしまったのは、言うまでもない。すぐさま、胸元に引っ付いたスポンジのようにぐしゃぐしゃな魁夢を引き剥がす。決して嫌だったからでは無い。このままでは、独身である自分の貞操を自ら破壊しそうだったからである。すんすんと鼻をすすりながら、泣き止んだ魁夢は言った。

「最後の質問、よろしいですか?」

「ん?あぁ、どうしたの?早く言ってみなさいな。」

「もし、僕が別の世界に行ったとしても、あなたに……あなたに、もう一度会えますか?」

 ヨスガは限界だった。鼻から、魁夢の涙と負けず劣らずの量の血が吹き出た。

「な、なな何言ってるの!!そんなこと望まなくても、上界から逐一か、かか観察をしつつ、何かあったらすぐ迎えに……」

「だ、大丈夫ですか!?あ、いや、そういうことでは無くて、ただ、情報交換をすることが出来たら嬉しいな!と思いましてね……えへへ、こんなこと聞いて変ですよね?」

 涙で、笑顔もクシャクシャになった顔で魁夢は言った。

 ヨスガは今にも沸騰しそうに赤らめた顔を、余計赤くし言った。

「そ、そうならそうと早く言いなさいよ全く!できるわ!下りたらすぐ連絡しなさい!」

 何よ期待させといて……とぶつぶつ言いながら、指遊びをするヨスガ。おかしな天使だな、とは思ったが同時に、話しやすくて頼もしい女性だと思った。そして魁夢は、その運命の分かれ道たる言葉を口にした。

「お願いします。僕に別世界の生をください。」

ヨスガは頷いてこう告げた。

「それでは、幸運を。《センペラ ダ メリオラ》。」

初めまして。ハーメルンさんの方に投稿していましたが、こちらでも投稿させていただきます。評価、感想、気になるところなどございましたらお気軽にコメントしてください。私の励みになります。よろしくお願い致します。

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