表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

  「う・・・」

 私は、太陽の柔らかい日差しで目を覚ます。

 少し前に、お母様がこっそり部屋に侵入し、カーテンを開けたのだろう。

  「・・・」

 朝は強い方だが、今朝は何故か体がだるい・・・。見た夢が原因だろう。

  「はぁ・・・」

 あの夢は何なのだろう?二人の魔族が会話している夢、二人の魔族が背中合せに戦っている夢、嫌にリアルな夢に私は困惑する。

 二人の名前は“クロウ”と“エナン”。

 エナンと言う名の魔族は、レノリア王国の“レノリア史”に出てくるのだが・・・。

  「あっ!!マズい!」

 急に思い出した。今日は、レノリア王国の首都である、ガレノ・イーリスで“高等魔導兵育成所”へ、編入試験を受けに行く日だった。

 もともと、実家のあるウィッツロックの街で、魔導兵育成アカデミーに入学したのだが、大人の事情で、高等魔導兵育成所に編入することとなった。

  「もぉ・・・!!」

 部屋に入ったんなら起こしてくれても・・・と思いながら、鏡の前に立ち、ブロンドの長い髪を後ろで結い、急いで着替えて一階の巨大なダイニングに入る。

  「おはようジーナ、あら?」

 私に気付いたお母様は、じっと私を見つめる。

 あ、あれが来る・・・。

  「その服で首都へ行くつもり?」

  「お母様・・・」

 やはり出た!お母様の服装チェック。

 お母様の気持ちはわかる。私が着ている服は、ダボッとしたズボンに、特注(対衝撃吸収素材使用)のスポーツブラ姿である。

 伯爵家の人間が、好んで着るような服ではない。

  「貴女は伯爵家の人間ですよ?はしたないと思いませんか?」

  「それは十分に承知しておりますが・・・」

  「が?」

  「用意して頂いた服では動き辛く・・・」

  「百歩譲ってそうだとして・・・その服装はどうかと・・・」

  「・・・」

 どうしたものかと頭を悩ませていると、お父様の気配が近付いて来た。

  「やぁジーナ!準備は出来たのかい?」

  「お父様・・・それが・・・」

 私の困り果てた顔と、服装を見や否や、悟ったような顔をして口を開く。

  「ははぁ・・・またジーナの服の事で揉めてるのかい?ミリーナ?」

  「あなた・・・」

 今度は、お母様が困った顔をする番だ。お母様は、お父様には頭が上がらない。

  「編入試験は、座学試験はもちろんだが、戦闘試験も行われる・・・ミリーナも知っているだろう?」

  「はい・・・」

  「ジーナの服が見に耐えないのは分かるが、その上からローブを着れば良いんじゃないかい?」

 そう言ってお父様が、着ていた黒いローブを脱ぎ、私に羽織らせた。

  「ほらジーナ、袖を通して?」

  「はい・・・」

 言われるがまま、ローブを着た。

  「此で良いかい?ミリーナ?」

  「はい・・・」

 お母様は、諦めの顔で返事した。

  「さて・・・編入試験の前に、食事をしよう!」

 お父様の号令に似た台詞と共に、三人は椅子に座った。

 そして、お父様が指を「パチン」と鳴らすと、メイド達が食事を運んできた。

 運び終わるのを見届け、胸の前で十字を切って、祈ってから食事を始める。

 基本、私は朝食を摂らない。しかし、お父様には逆らえないので、最小限に留めておく事にした。

  「ご馳走様でした・・・」

 祈ってから言う。すると、食後のコーヒーが運ばれてきた。

 それを啜りながら、玄関側の窓に眼をやる。

  「おっと、もう時間だね」

 お父様も、窓の外を見たようで、外には迎えの馬車が来ていた。

  「急がなきゃ・・・」

 慌ただしく立ち上がり、玄関へ足を向けた。

  「ジーナ!待ちなさい」

 外に出ようとした私を、お父様が呼び止めた。

  「は、はい!」

  「此を・・・」

 お父様は、懐からお金の詰まった小さな袋を、私に差し出して微笑む。

  「お父様・・・お金はこんなに」

  「要らない?念のために持っておきなさい」

  「はい」

  「うん、それともう一つ・・・」

 お父様は、黒い横長の封筒を取り出して差し出す。封筒は、赤いロウで封がされている。

  「その封筒を、マリアに会ったら渡してくれるかい?」

  「はい」

 マリアとは、私よりも先に編入した、姉の名である。

  「わかりました・・・会えなければ?」

  「戻った時に、私に返してくれるかい?」

  「はい」

 受け取った封筒を、懐に仕舞って微笑んだ。

  「よし!じゃあ、行っておいで?」

  「はい!行って参ります!」

 お父様に頭を下げ、玄関から外に出てから、迎えの馬車の前に立つ。

 そこに、見知った男が立っていた。

  「ジーナ様、準備のほどよろしいでしょうか?」

  「うん!バッチリ!」

  「畏まりました」

 じいと呼んだ、六十代後半の男が、馬車の扉を開ける。

 私がちゃんと乗り込んだのを確認して、後から彼も乗り込み、扉を閉めてから私の向かいに座る。

 そして、後ろの窓をココンと叩く。

 すると馬車がゆっくり動き始めた・・・多分、“出ろ”という合図だろう。

  「ふぅ・・・」

 息を吐いて靴を脱ぎ、横を向いて座席に両足を置いて、膝を抱えるように座る。

  「ふふっ」

  「じい、何よ?」

  「失礼しました・・・昔からその座り方がお好きなようでつい・・・」

  「この座り方が、落ち着くのよ」

  「そうでしょうな・・・横に誰が座ろうとも、頑として辞めようとなさいませんでしたね?」

  「えぇ、お母様にはこっぴどく叱られたわ」

 昔の事を思い出しながら、微笑みを浮かべた。

 伯爵家の人間なのに、その座り方は何ですか!!と、よく怒られたものだ。

  「じい、首都にはどれくらいで着きそう?」

  「一時間・・・程でしょうか?」

  「一時間かぁ・・・“空駆け―ソラガケ―”した方が速いわね・・・」

  「ふふっ、知られたら、ライザス様に叱られますよ?」

  「わかってるわよ・・・」

 ライザスとは、私の父の名であり、“空駆け”とは、“空を飛ぶ”のではなく、空中に漂う“魔素―マナ―”を足の裏に込めた魔素で蹴り、空を駆けるように移動する技だ。

 空を飛ぶより、駆けた方が速いのである。

  「私は構わないと思いますよ?知られなければですが・・・」

  「そうね、“知られなければ”、ね!」

 屋敷の周りには、魔素を感知する結界が張られている。少しでも空駆けしようものなら、父に感知されてしまい、こっぴどく叱られる。

 私の年齢(十五歳)で、空駆け出来るのは、多分私だけだろう。

 それほど、高度な技術だと言える。

  「じいは、家にきてどれくらい経つの?」

  「おや?ご存知無い?」

  「ぼんやりとしか分からないわ・・・十年?」

  「もっとです」

  「もっと?」

  「はい、ライザス様のお父様が亡くなられた頃からでしょうか?」

 そんなに長いのか・・・お祖父様が亡くなったのが、私が生まれる少し前だから・・・

  「二十年弱でしょうか?」

  「そんなに?」

  「はい」

 じいは、ウィルハート家のお抱え執事であり、元々グランラムド男爵家の人間である。(元々って言うのもなんか違う気もする。)

 因みに、グランラムド男爵家は、ウィルハート家の分家らしいのだが・・・。

  「じい、少し休むわ!着く前に起こして頂戴?」

  「えぇ」

  「ありがとう」

 朝食のせいで、睡魔が襲いかかって来ている。私はそのまま眼を閉じた。



  「さま・・・」

  「う・・・」

  「ナさま・・・」

  「う・・・ん?」

  「ジーナ様!」

  「はっ!!」

 じいの声に、私は飛び上がるように眼を覚ました。

  「もう着くの?」

  「はい・・・間もなく」

  「そう・・・」

 靴を履いて座り直し、窓の外を眺めると、人が整備した道が続いている。

 所々に魔除けが施してあるので、間もなく到着だろうと予想できる。

  「それより・・・魘されておりましたが、大丈夫でしょうか?」

  「大丈夫よ・・・たまに魘されてるみたいだけど」

  「そうですか」

 心配そうな顔で、此方を見ていたじいだったが、安心した様子で微笑んだ。

 少しして、馬車のスピードが落ちた。

  「もうすぐね」

  「はい。間もなく検問ですね」

  「うん。二年ぶりね」

  「おや?そんなに空きましたか?」

  「そうよ?去年は急に行けなくなったでしょ?」

  「あ、そうでした!私としたことが・・・忘れておりました!」

  「ふふ・・・じいは若くないんだし、物忘れの一つや二つ良いんじゃない?」

  「そうでしょうか?執事としては、良くないと思いますが・・・?」

  「良いのよ!」

  「はぁ・・・」

 じいに、これ以上言わせないよう、強めの口調で微笑みを浮かべる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ