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第六話 織田信長

ついに織田信長登場ですが、史実の彼より、ちょっとソフトに書いてみました。

作太郎一行は尾張の熱田神宮に到着した。ここにまで至ると作太郎の名医たる評判は近隣に響いていた。彼は何も能と紗代、そして瀬名だけ病や怪我を治してきたわけではない。道中で立ち寄った村や町で病や障害、怪我で苦しむ者たちを治してきた。貧しい者からは取らないと決めている作太郎。彼の治療を受けた者たちが、どれほど作太郎に感謝していることか。


熱田神宮に到着すると、宮司が出迎え丁重に遇された。そして願い

『しばらく当神宮に逗留し近隣の者たちの病と怪我を治してほしい』と。

作太郎に断る理由はなく、引き受けた。このころになると能と紗代は作太郎のよき助手ともなっていた。武芸を教えて欲しいとも言ってきた。守られるだけの女は嫌なんだと。

元々武芸の基本は互いの実家で学んでいた二人、作太郎が教えられない時は二人で槍を交えて鍛錬し合っていた。そんな時だ。


「よければ、俺が教えようか?」

それは今日、病の妻を連れて、作太郎の治療を受けに来た武士だった。

「あ、おまつさんの旦那さんね」

と、能。

「覚えていてくれて何より。俺は織田家家臣の前田又左衛門利家というものだ」


妻まつが最近ひどい頭痛に悩まされていたので訪れた。作太郎の治療を受けると、頭痛は嘘のように消え失せてしまい、大喜びだ。

「あんな闘気の使い方があるなんてなぁ…。びっくりだよ。でも申し訳ないけど、今の俺にはあんまり金が無くて…五百文しか出せなかった。せめて得意の槍で作太郎殿に恩を返したいんだよ」

「良いのですか?私は北条の姫、この方は」

「太田のお姫様だろう。結構評判だよ、敵同士の家のお姫様を連れている若き名医と言うのは」

「そうなのですか?」

「でも作太郎殿を見て分かった。ありゃあ実家が敵対関係なんて事情、どうでもよくなるくらい、いい漢だ」

「ふふっ、前田様はお上手ですね。それは私たちにとって、すごい誉め言葉ですよ」

「そうかい、でも能殿、稽古は手を抜かないぜ。二人がかりでいい、かかってきな!」


史実では織田に滅ぼされる武田勝頼の妻紗代が前田利家に槍の稽古を付けられるとは、これもまた『異日本戦国転生記』の世界ならではだろう。能も豊臣に滅ぼされる潮田家の娘だから利家と無関係というわけではない。

これで一本利家に報いられたら史実の二人の姫も喜ぶかもしれないが、さすがは槍の又左、まったく歯が立たなかった。でも能と紗代は利家に立ち向かう。今まで作太郎は盗賊から二人を守ったが、いつも撃退できるとは限らないではないか。若い男と女二人、盗賊に狙われやすい。まして能と紗代は美少女だ。だからこそ二人は戦える術を身につけたかった。一緒に天橋立、日本の美観を見るために。


「「てやああああ!!」」

「能殿、紗代殿、槍の基本は受け、突き、払うにござる。毎日素振りを続けなされ。旦那様もすさまじい鍛錬を経たからこそ、あの治癒の術と武芸を身に付けられたのですぞ!」

「「はいっ、前田様!!」


木槍のぶつかる音が神社内で治療を続ける作太郎の耳にも届いた。宮司が

「織田家の前田様が奥方二人に槍を教えているようです」

「そうですか…」

能と紗代が、まさか前田利家に槍の稽古をつけられるとは。作太郎は史実の姫二人を思うと妙な巡り合わせと思った。

(強くなりたい、そう言ったな。史実の君たちは巨大な織田と豊臣に対して成す術がなく死んでいった。だから強くなりたいと言う気持ちが無意識のうちに芽生えたのかもしれない)

だったら、作太郎の役目はその気持ちを汲んで武芸を教えることだ。実戦に裏打ちされた前田利家の槍を少しでも覚えられたらと作太郎は思った。



熱田神宮で過ごすこと数日、ついにあの男がやってきた。今日で熱田神宮での臨時診療所は終わりだ。作太郎、能、紗代が後片づけをしている部屋の扉が乱暴に開けられた。

覇気溢れる体、眼光鋭く、面構えは鬼のよう。能と紗代は見た瞬間にペタンと座り込んでしまったほどだ。


「おぬしが奇跡の名医と言われている作太郎殿か」

「奇跡の名医か知りませぬが、作太郎は私です。妻二人と旅をしております」

「儂は尾張の国主、織田弾正忠信長である」

この男が織田信長…。作太郎はそう思った。

信長がチラと能と紗代を見た。作太郎は察し

「二人は外しなさい」

「「はっ、はい…」」


「勘がいいな、女子には聞かれたくない」

「弾正忠様は患者として来たのですか?」

「当たり前だ。医者に会いに来る理由はそれ以外にあるまい」

信長は最終日に来た。しかも最終日の一番あとに。国主だから重病ではない限り民や家臣より先に治療を受けてはならないと思ったゆえかもしれない。作太郎の前に座った信長は小声で

「作太郎殿、実は…儂のナニが最近全く勃起せんのだ」

嘘だろう、作太郎は思ったが顔には出さない。史実の信長がどれだけ子だくさんか。


「子をたくさん成して家を強くするのは当主の務めじゃ。なんとかならぬか?」

作太郎が鑑定したところ、信長はストレス性の不能だった。大河ドラマでは、あんなに堂々たる振る舞いの織田信長だが、彼も人間であったということだろう。軍事や政治に日々ストレスを感じていても不思議ではない。気力を使い果たし、それが勃起不全となって現れたのかもしれない。男の陰茎は案外繊細なものだ。


「弾正忠様が日頃抱える鬱憤が体に出たのです。とはいえ軍事と政治を離れて静養ってわけにもいきませんよね」

「それは無理じゃ」

「それでは不能を治しますが、効果は後ほど現れるように施したいと思います」

「なぜじゃ。出来るのなら今すぐここで」

「いま、ここで不能を治したら弾正忠様は私の妻二人に襲い掛かる可能性もあるからです」

「失敬な、そんな分別もない振る舞いをするわけが…って、そこまで効くのか?」

「はい、だいたい一刻後(二時間)ほどで効果が出るように施します。その時まで行為が可能なご正室様、もしくはご側室様を寝所に呼んでおくようにしてください。それ以降は普通に性行為が可能ですよ」

「あい分かった。施術を頼む」


『試練【織田信長の不能を治せ!】が入りました』


作太郎は不能を治癒する闘気を施した。効果に時間差があるため、この時は股間に少しの温かさを感じた以外、治ったと言う実感は無いが信長は作太郎を信じた。

「ふむ、かたじけない。さっそく一刻後に奥たちと試してみる」

信長は百貫置いて去っていこうとしたが

「弾正忠様、いただきすぎです」

「かまわん、取っておけ。旅に金は必要じゃ」

部屋の外にいた能と紗代に

「おう、太田と北条の姫よ。おぬしらはいい男を捕まえたのう!ふはははは!」

こうして織田信長は去っていった。



翌朝、熱田神宮を発とうと言う時だった。再び織田信長がやってきて

「作太郎殿!」

両肩をガシリと掴んだ信長。

「おぬしはまことの名医じゃな!昨日は奥と側室二人を足腰立たなくなるくらいしてもうたわ!ふははははは!」


『試練【織田信長の不能を治せ!】を達成しました』

『【SSR覇王項羽】を獲得しました。限界突破をいたしますか?』

『はい/いいえ』⇒『はい』

『【SSR◆2覇王項羽】⇒【SSR◆3覇王項羽】』


「今度は腎虚で私の前に来ないことを願っております」

「ふはははは!これは手厳しいの、おう、今日は悩む家臣夫婦を連れてきた。出立直前に押しかけてすまんが、こやつの頼みも聞いてくれい」

信長って、こんなに優しかったか?と、思いつつ

「私が作太郎です。あなたは?」

「名医殿、俺は木下藤吉郎と言います」

「私は藤吉郎の妻のねねです」

とんでもない大物夫婦が現れたので作太郎は圧倒されそうだ。しかし、この夫婦の悩みなら史実情報で分かる。案の定

「「我ら夫婦、子供が出来ないのですっ!」」

「それはおつらいでしょう。若輩の私から見てもお二人は中睦まじいご夫婦でしょうに」

「どうか、子供を作れる体に…」


『試練【木下藤吉郎夫婦に子供が作れる体にせよ】が入りました』


作太郎に手を合わせるねね。鑑定すると藤吉郎は不妊ではないが精子が弱いのか、相手の女性を妊娠させづらい。ねねは完全に不妊の女体だった。

「診察の結果ですが…」

つらい話だと前置きして作太郎は藤吉郎とねね夫婦に話した。涙を流すねね

「だから、それを治してしまいましょう」

パアッと顔を明るくした夫婦だったが

「だっ、だけど名医殿、俺たち夫婦には、そんなにお金は払えねえけど…」

「昨日、弾正忠殿より頂戴したので結構です」

「おっ、お館様!俺たち夫婦の治療代を!」

「う、うむ、貧しい家臣夫婦の治療代くらいドーンと出せるくらいの君主でないとな!」

「ではお二人の下腹部に触れますね」

このころになると、直接肌に触れずとも着物の上から闘気を通せるようになっていた作太郎。彼もまた闘気で治癒を続けているうちに段位が上がったのだ。


「これでよし、藤吉郎さんの精子は強くなり、ねねさんの不妊も治りましたよ」

「あああ…!お館様!今日この場に連れてきて下さりありがとうございました!作太郎殿、御恩は忘れませぬ!」

「ようし、ねね!早速長屋に帰って子作りじゃ!」

「作太郎殿」

「はい」

「何か困ったことがあれば織田を頼るといい。家臣に出来ぬのは残念であるが、おぬしの治癒を待つ者は多かろう。おぬしは泉よ、独占してはならぬ存在じゃ」

「弾正忠様…」

「可愛い女房たちを大切にな」

本当にこの人、織田信長か、と作太郎は思うのだった。信長、藤吉郎、ねねは馬に乗って去っていった。



改めて出立となった。熱田神宮には作太郎を見送るため多くの人々がやってきた。

熱田神宮のご神体より作太郎に手を合わせている。みな、作太郎により病や障害、怪我が治った者たちだ。前田利家とまつも信長たちとは別に訪れ、作太郎に

「道中で召し上がって下さい」

と、弁当を渡してくれたまつ。

「ずっと悩まされていた頭痛を治していただき、本当にありがとうございました。道中ご達者で」

「ありがとう、おまつ殿、こんなにたくさん…。妻たちと美味しくいただきます」

「能殿、紗代殿、毎日の鍛錬を忘れてはなりませんぞ」

「ありがとう前田様」

「今度は一本取ってみせます」

「楽しみにしておりますよ、紗代殿」

宮司、元患者たちとその家族に見送られ、作太郎、能、紗代は西へと向かうのだった。



途中に寄った清州城で藤吉郎とねねと再会、ねねが見事に妊娠したと大喜びだった。

史実でも、この夫婦に子供が生まれていたら、どうなっていたのか。晩節を汚した秀吉の末路のようなことは起きないのかもしれない。

作太郎は戦国三英傑を味方につけたに等しいが、本人はそんなことで驕ることはない。

今はうっとりとして自分の両腕を抱いている妻二人と楽しく暮らしていきたいだけだ。


『試練【木下藤吉郎夫婦に子供が作れる体にせよ】を達成しました』

『【SSR源義経】を獲得しました。限界突破をいたしますか?』

『はい/いいえ』⇒『はい』

『【SSR◆3源九郎判官義経】⇒【SSR◆4源九郎判官義経】』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お前は何て迂闊なんだ!宝の人材をむざむざ逃すとは!」

ここは太田道灌居城の江戸城、寿能城主の潮田資忠は領内の統治状況を報告に来ていた。太田道灌は広大な見沼にいくつか港も築いており、この当時は寿能から江戸までは舟で行き来が出来たのだ。

そして、いまその資忠を怒鳴るのが資忠の父の太田三楽斎資正、宝のような人材とは作太郎のことだ。まして病が治った能をそのままくれてやるなんて、どれだけお人好しかと。病の発症前は美しき姫と言われていた。道灌は上杉に嫁がせたいと考えていたが病が発症したので、あきらめていた。


「申し訳ございません。作太郎殿は我ら太田の影狼も顔負けなほどの素早さで逃げてしまいましたゆえ。よっぽど武士になりたくないのでございましょう。無理に召し抱えても逃げられるのがおち、それに元々作太郎殿がいなければ能は苦しみぬいて死ぬだけでした。そんな能が元気になり彼に惚れた、一緒になりたいと言うだけで私と妻は嬉しさのあまり舞い上がってしまい…」

『影狼』とは太田家の忍軍だ。他の大名の忍軍と異なり、優れた軍用犬を多く所有している。これは太田資正の特殊能力によるものが大きい。

ともあれ、作太郎はそんな道灌の信頼も厚い忍び衆と比べても劣らない素早さだったと。


「はっはははは、資正、そう怒るな」

「お館様…」

「早雲も随分と惚れ込んだらしい。ひ孫の娘をそのままくれてやったとか。大したものではないか。はははは!」

江戸城の本丸、君主の席で豪快に笑う太田道灌。

「資正、そういう男は泉と同じだ。独り占めしてはならぬものよ」

「泉にございますか」

「我ら武士、百姓たちにとってもな。必ず大事を成す男になろう。むしろ我ら太田の姫がその男の嫁になっていることに喜べ。これ以上の良縁はあるまい」



一方、作太郎と嫁二人はついに美濃まで到着した。風魔小太郎が予言した通り、彼らは熱田神宮から、ここ美濃の稲葉山に至るまで一度も盗賊に襲われなかった。この時代、美少女二人を連れて諸国漫遊なんて出来るものではないのに、作太郎の武勇は盗賊の間にも知られたようで、襲うのを控えたと思われる。

ちなみに美濃国主は斎藤道三だ。『戦国武将、夢の共演』シナリオだけあって現役の君主である。


「この金剛山の上に建つのが、稲葉山城か。きれいなものだな」

「城下も活気がありますね」

「あ、旦那様、能様、川魚の塩焼きが売っていますよ!」

「よし、食べようか」

現在、稲葉山城に到着、城下町は道三の治世行き届き活気に溢れている。ここでしばらく過ごすつもりだ。


温泉宿に着くと女将が迎えてくれた。

「当草月庵にようこそ」

「しばらく逗留したいと思います。三人部屋はありますか」

「はい、ございますよ」

女将は作太郎と嫁二人を見て

「あの、もしかして名医と名高い作太郎様ですか?」

「名医かどうかは知りませんが、いかにも私が作太郎です」

「やはり!その名声は美濃にまで届いておりますよ!可愛いお嫁さんを二人連れている精悍な顔つきをした凛々しき男子だと!」

能と紗代は思わず顔を赤くした。

「いや、私の妻たちは確かに可愛いですが、私が凛々しき男子と伝わっているとは思いませんでした」

「もう、旦那様ったら」

能、とても嬉しそう。続けて女将が

「あ、あの…すみません。私の息子を診ていただけませんか?ずっと腹痛と下痢、嘔吐が激しくて」

「いいですよ」

「ああっ、ありがとうございますっ!」


仲居さんに泊まる部屋に案内された。二階の角部屋、壁の障子を開けると

「美しい清流です。せせらぎの音も心地よいですし」

「いい部屋を用意してくれたんだな…。と、さっそく女将の息子さんを治してくるから二人はお茶でも飲んでくつろいでいてくれ」

「「はい」」


作太郎は階段を降りて、女将の案内で彼女の息子の臥所へと。

「清吉、お医者さんが来てくれたよ」

「ううう…。母ちゃん、痛いよぅ…」

横になってお腹を押さえている。七歳くらいの子供だった。

作太郎は早速触診および鑑定法術を使った。盲腸だった。母の女将に

「腸の一部に膿が溜まっている状態です」

この当時どころか、後の江戸時代でも不治の病と言えた。

「な、治るのですか?息子は助かるのですか?」

「任せて下さい、清吉、ちょっと布団をめくるぞ」

「痛いよ…。もう我慢できないよぉ…」

患部に触れて作太郎

「気術『万病治癒』」

万病治癒は文字通り、万病を治す技。しかし診察、かつ鑑定して病名が分かれば使用する闘気の量がわずかで済む。いつ戦闘が起こるか分からない戦国時代だ。闘気を扱うものとして使用量を抑えるのは当然のこと。闘気が切れてしまうと著しく体力を低下する。それが命取りとなりかねない。だから作太郎は最小限の闘気しか使わないよう診察と鑑定をしてから治癒を施すようにしている。


「…痛くない、苦しくない!?」

清吉は布団から出て動き回る。

「母ちゃん、もう痛くない!痛くないよ!」

「良かった、良かったね…」

母親に抱かれながら眠ってしまった清吉。

「今までの腹痛により、かなり体は疲れております。そのまま眠らせてやるといいでしょう」

「ありがとうございます…!このご恩は忘れませぬ!」


このあと、温泉に入ったあとの夕餉では豪華な食事が出た。女将自ら配膳し、そして

「作太郎様、治療代にございます」

銭の入った袋を作太郎の手元に置いた。作太郎は富んでいる者からは取る主義だ。

「ええと、間違えてはおりませんよね。治癒の闘気か法力でお医者様に怪我か病気を治してもらった時の代金は…」

「はい、一律三貫です」

これはゲーム内での公式設定なのだが、現実となったこの世界では暗黙の了解として広まっている常識で、必ずしも、というわけでもない。

しかし、さすがは宿を切り盛りしている女将は、その常識を知っていたようだ。

「ああ、よかった。改めまして…私は当草月庵で女将を務めます登勢と言います。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ宿泊の間、お世話になります」

「さ、どんどん召し上がって下さい。当館の料理人が腕によりをかけて作った料理です」

「「いただきまーす」」

作太郎も嫁たちに少し遅れて『いただきます』を言い、料理を口に入れた。

「美味い!」

「「美味し~い!」」

登勢は作太郎が美味しそうに料理を食べていく姿を満足そうに見つめるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


その夜、宿の温泉に入った三人、そのあとはもちろん若い三人、お楽しみだ。

部屋に遮音と無振動の法術をかけて、能と紗代を同時に愛でる作太郎。だてに前世五十五年も生きておらず、年相応に女には慣れていた。

かつ作太郎自身も若いし、法力と闘気を豊富に有していると精力もそれに比例する量となる。二人を同時に愛でて、かつ絶頂に数度至らせるほどの絶倫である。

遮音の法術を施していなかったら宿中に能と紗代の嬌声が響いたかもしれない。


十分に満足したあと、小の字で眠る。

作太郎は起きていたが

(実は避妊の法術を使っているなんて知ったら怒るだろうな…。二人も薄々気づいているだろうけれど何も言わない。天橋立が見たいと、こだわっていたけれど二人は俺の子供を欲しがっている。今浜か大津あたりで落ち着くかな)

伴侶を持つとは、そういうことだ。日本一周の風来坊なんて、やりたくても出来ないことだ。

作太郎は妻二人を連れて歩く旅に限界を感じていた。

(とにかく、明日に実は避妊の法術を使っていたことを正直に話して詫びる。そして旅は琵琶湖で終わりと告げよう。どこかに落ち着かないと子供を産むことも出来ないのだから)


翌朝になった。朝食を食べ終えたあと作太郎は

「話がある」

そう能と紗代に告げた。お茶を一口含んで作太郎は話を切り出した。

「旅は琵琶湖で終える。六角氏居城の観音寺の城下にするか、今浜か大津か、いずれかはそなたたちと相談のうえ決めたいと思う。それと済まない。今までのそなたたちとの行為には避妊の法術を使っていた。そなたたちは俺の子を欲しいと言ってくれたのに」

「「…………」」

「すまなかった」

「旦那様、顔を上げて下さい。旦那様が避妊をしていると言うことは法力とは無縁な私たちにも何となくは分かっていました。毎夜、胎内に旦那様の精を受けているのですもの。伝わってきました」

「能…」

「ですが、それを旦那様に問うことはすまいと能様と決めていました。作太郎様の妻になると決めたのも、共に美観を巡る旅に出たいと思ったのも私自身、ですが…」

「紗代…」

「やはり母親になりたいのです。私と能様も」

「それを誰に責められようか。俺だって子供は欲しいよ。だから…旅は琵琶湖で終わりにする。なに、生まれた子供と共に行くなり、もしくは子供たちが巣立ったあとでも行けばいい。天橋立は逃げないのだから」

「「旦那様…」」

「なら話を次の段階にしよう。どこに住むか、何を生業に…」


「大変だっ!留さんが自宅で寝ている最中に亡くなったんだと!」


いきなり部屋の外は大騒ぎになった。

女将の登勢が矢継ぎ早に指示を出しているのが分かったが


「騒々しいな…。こっちは大切な話をしているのに…」

襖を開けて何事かと、三人して顔を出した。登勢が

「留さんの葬儀は後日、草月庵でやらせてもらうとして、お前たち今日の夕餉大丈夫かい?」

「「…………」」

登勢が料理人たちに訊ねるが自信がないようだ。留という人物は、この宿の料理長だった人物だが昨夜就寝中に亡くなったらしい。昨日、作太郎たちが美味しいと食べた料理を調理した人物だろう。突然死は令和の世にもあるのだ。戦国時代にも当然ある。

「しっかりしておくれよ!今日はお城の道三様が食事に来られるんだよ!」


『試練【草月庵の窮地を救い、斎藤道三の舌を満足させる料理を出せ】が入りました』

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