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第二十七話 幻の関ヶ原

安土城に到着した塩見軍、長康は息子の光太郎康義、正次郎康秀、そして子飼いと言える元弟子、塩見作蔵康久、塩見作治郎康輝、塩見大作康政を呼んだ。

「作蔵、おぬしたちは手取川、武田徳川連合軍に出陣したが、実際に戦闘行為には及んでおらぬ。こたびの関ヶ原がおぬしたちにとっても初陣となろう」

「「はっ」」

「今回の戦にあたり、おぬしたちの武具と馬を見た。それほど多く禄を与えている覚えはないが、ようあそこまで揃えておったな。いつでも戦に出られるように備えておったのが分かる」

「「ありがたき幸せ」」

「父上、彼らの奥方がしっかりしているからです」

太郎が言うと、作蔵たち三兄弟は苦笑い。作蔵が

「若殿の言う通りです。殿が娶せてくれた我が妻日代は最高の女房にござる」

作蔵の妻、日代は塩見家部将逸見昌経の姪である。

「今さら戦の心得を言うつもりはないが、戦場では俺の指示通りに動くこと。けして手柄を焦り抜け駆けはしないこと。この二点くらいだな。そして作太郎、正次郎」

「「はっ」」

「お前たちも初陣とはいえ将だ。家臣を従える身、苦労は率先して担い、手柄は部下に与える。将として、この心構えを忘れるでないぞ」

「「はっ!」」


塩見三兄弟はもちろん、息子たちにも長康は武芸と学問を教えた。けして守役に丸投げではなかった。娘には甘い父親である長康だが息子には厳しかった。

「では庭に出よ。五人まとめて稽古をつけてくれる」

「「ははっ!」」

安土の塩見屋敷、庭に出た長康は呂布奉先の出で立ちとなった。元弟子たち、息子たちも甲冑をまとう。幼少から長康に厳しく仕込まれた塩見三兄弟は体に闘気を宿すことに成功し、息子たちは生来父親の闘気を受け継いでいる。気術によって鎖帷子、甲冑、陣羽織を瞬時にまとうことが出来るのだ。

「うん、いい気術だ。鍛錬を怠ってはいないようだな」

「「はっ」」


方天戟を構えた長康

「ではかかってまいれ。遠慮はいらぬ」

「「参る!」」


その様子を遠くから見ている作田伯耆と北沢小兵衛。

ちなみに北沢小兵衛は寿能落城時に妻を亡くしている。小浜に来て新たな縁を得た。

それは長康と律照尼が花魁淵の悲劇を回避させて小浜に連れてきた元遊女たちの中の一人るいだった。

突如現れた未婚の五十五人もの女たち。律照尼がお見合いパーティーを開催して、独り者だった小兵衛も参加。そこでるいに一目ぼれして求婚、るいは元遊女なので塩見家に仕える武将の妻になれないと拒絶するも、元々パーティーに参加する前から律照尼から男たちには通達済みだったので全く問題はなかった。

元々は信濃高遠家ゆかりの女、武士の妻になる素養は有していた。

今回の出陣の日も、恭しく甲冑を装備させてくれて、笑って送り出してくれた。


「塩見三兄弟はもちろん、若殿たちもたいした武芸にございますな…」

五人の戦いぶりを見て、しみじみと北沢小兵衛が言った。伯耆が答える。

「殿は教え方がとても上手い。ああやって立ち合いながらも色々と指導しておる」

長康は前世、消防学校の教官をしていた経験があるので教え方が上手なのだ。


「反して、ご家老はお世辞にも教え方が上手と言えませんな…。見ましたぞ、作田家の若者たちに剣を教えている時『そこでグッと引き、ガッと出して、一気にビュンだ!』わけが分かりません。若者たちが気の毒に思えました」

「耳の痛いことを言ってくれるな…。全く反論できんわ。ははは」

「それにしても殿もお強い。あの五人がかりの攻撃をいなすとは。無秩序にただ、かかっているわけではなく連携して攻撃しているというのに」

「あの五人の攻撃、儂とてしのげるか分からぬ。とはいえ実際に戦場で殿や若殿に自ら槍を振るわせるようじゃ我ら家臣は失格なのだがな」


「「はぁ、ふう」」

塩見三兄弟と息子たちはついに長康から一本も取れなかった。疲労困憊で槍を杖にして立っている。

「五人とも槍の基本『受け』『突き』『払う』はよく出来ている。もっとも作蔵たち三兄弟はともかく光太郎と正次郎が実際に槍を振るう局面が訪れるようでは負けなのだが何が起こるのが分からないのが戦場だ。油断大敵、常に己に降りかかる火の粉は払えるよう鍛錬は続けるよう」

「「ははっ!」」



その夜は安土城の現地妻園子を堪能した長康、翌朝出陣前に安土城謁見の間に。信忠と隠居した信長が上座に在った。信忠が

「聞いているだろうが…岐阜城が落ちた」

「はい」

「主戦場はどこを見込んでおる」

信長が長康に訊ねる。

「関ヶ原かと」

「で、あるか」

「各諸将と合流して、ただちに関ヶ原に向かいます」

「うむ、任せたぞ、武蔵」

「ははっ!」

長康は信忠に平伏し、凛と立ち上がり謁見の間を去っていく。

「奇妙、おぬしの代でもあやつを隠居させてやるのは難しそうじゃな」

「はっ、それがしと松の間に生まれる子も、武蔵に支えてもらいませんと」

「ところでな」

「はい」

「最近、そばに召した若い娘が孕みよってな」

「そろそろ控えた方が。武蔵にも控えろと言われているのでしょう」

「儂以上の女好きの武蔵に言われとうないわ。織田家臣であやつくらいぞ、安土や小牧山、主君の居城に現地妻など娶っている男は」


その後、塩見長康率いる織田軍は味方諸将と合流した。上杉北条連合軍六万、織田勢六万、兵力は拮抗している。

美濃に入り、しばらく街道を進軍していると路傍で織田軍に平伏する一行がいた。知っている者たちだった。馬上から声をかける長康。

「女将、徳次郎殿」

「ああ…作太郎さん」

長康が稲葉山城下で宿泊した草月庵の女将登勢と料理長を始め、能と紗代に給仕を教えた仲居たちがそこにいた。長康の顔を見て立ち上がろうとした登勢、しかし体調が悪いのか、そのまま倒れてしまった。長康は馬から降りて登勢に歩む。

「お懐かしゅうございます、作太郎兄ちゃ…いえ武蔵守様」

「おお、清吉か。大きくなったな」

あの日、長康が虫垂炎を治した登勢の息子清吉がそこに。

「徳次郎殿、もしや…」

「うううっ、上杉と北条に岐阜城下は焼き払われました。儂らの草月庵も…」

「そうか…」

信長が岐阜城の前身、稲葉山城を落とした時は城下町を攻撃しなかったが、上杉と北条は行ったようだ。いい温泉宿で能と紗代も気に入り、愛着のある宿だった。

「織田の将として詫びる。守ってやれなくてすまなかった…」

「でも、作太郎さんからいただいた、このうなぎのたれは死守しました!」

徳次郎は背中にたれ甕を背負っていた。

「それさえあれば再起できる。女将、診させてくれるか」

「作太郎さん…」

登勢は風邪をこじらせていた。長康が治した。

「見たところ、能と紗代に良くしてくれた仲居さんたちも無事のよう。俺は戦に行かなきゃならんので、この場ではこれ以上のことは出来んが…」

長康はその場で書状をしたため

「安土城下の琵琶湖市場に弥兵衛という馴染みの漁師がおる。その男にこの金と書を渡せ。琵琶湖を経て、我が領地若狭に連れていくよう記してある。あとは能と紗代が対応してくれる。安心せよ」

そう言って長康は清吉に書と金を渡した。清吉は拝むようにそれを受け取った。

元々彼らは戦国大名となった長康に頼るべく西へ進んでいたのだ。偶然にも道中で再会でき、母の体も治してもらった清吉は泣きながら頭を何度も下げた。立ち去る前に長康は徳次郎が持っていたたれに箸を入れて一舐めし

「いい味だ。腕を上げましたな、徳次郎殿」

徳次郎は言葉が出なかった。大身になっても自分たちとの縁を忘れずにいたこと。そして天下一料理人である長康にたれを褒められたことが嬉しくてならず、徳次郎は男泣きをした。


さらに進軍すること数日、ついに織田軍は関ヶ原に到着した。上杉北条連合軍の本隊は未着だったが陣場はもう出来ていて敵軍将兵が配置されている。あとは上杉景虎と北条氏康率いる本隊がくればいいだけの状態だ。彼らも間もなく到着すると情報も入っている。


長康は急ぎ諸葛亮孔明、司馬懿仲達、張良子房という軍師系サポートカードをセットして陣場作りを指揮する。彼の脳内には戦場マップが表示されて、神視点から戦場全景を見渡せるのだから、かつて山県昌景が長康の構築した陣場を見て『敵ながら見事』と言うほど法に叶っている陣場が構築できるわけだ。

「急げ、敵は待ってくれないぞ!」

「「ははっ」」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


一方、上杉と北条の連合軍に激震が走った。

「殿!」

「どうした宇佐美」

先頭を馬で進む景虎に老軍師宇佐美定行が馬で寄った。そして小声で

「お父上、氏康様…。お亡くなりになりました」

「なんだと?」


北条氏康は馬上で突如胸の痛みを訴えて、そのまま落馬し、氏政が駆けつけた時にはすでに亡くなっていた。

景虎もその場に駆けつけ

「父上…!」

氏政は景虎を睨む。だが、その時

「うう…」

景虎の声が届いたか、父の氏康が息を吹き返した。

「か、景虎…」

「ち、父上…!」

父の氏康に寄り添う景虎、氏康は最後の力を振り絞るように景虎に言った。

「征朝はならぬ…」

「…………」

「織田と結び…美濃より以東を北条と上杉で治めよ。そして認めよ、織田は…畿内を統一している。織田は太政大臣になっていないだけで天下人なのだ。たとえ、おぬしが取って代わっても、あとが続かぬ…」

「…父上」

「お前の並外れた力…。蛮勇に用いるのではなく、奥羽越の民に使え…。お前とて、もう父親じゃ。息子によき国を残してやらねばならぬ。父の残したものを誇れるよう…」

「父上にとって…私は誇りですか」

「もちろんじゃ、上杉景虎…いや北条三郎は我が誇りよ」

「…………」

「氏政」

「はっ」

「北条家を任せたぞ…。氏邦、氏照、兄を補佐し、そして弟を助けてやれ…」

「「ははっ」」

「景虎…」

「はい」

「塩見武蔵はいい男ぞ。早雲公が何の迷いもなく姫をくれてやった男が、つまらぬ男であるはずなかろう。敵とするより友となれ」

「…………」

北条氏康は静かに目を閉じた。北条氏康、陣没。

「「父上―ッ!」」

項垂れる景虎、どれほど無双な戦闘力を有していようと、彼は父の氏康を尊敬していた。

上杉家を乗っ取るという遠望な大作戦を成し遂げた時、氏康より『景虎、ようやった』と褒められた時は心から嬉しかった。

「景虎」

「兄上…」

「これでもまだ天下を望み、征朝をやるのか?」

「…………」

「このまま西進をするというなら、我ら北条は上杉との同盟を破棄する。されど父上の遺命通り、美濃より以東の地を我らと共に治めるのであれば、今後も兄弟として、おぬしに力を貸そう」

「…………」

「目を覚ませ、景虎!お前はその無双の武勇に対して心が全くついていっておらん!お前は自身の力に溺れているだけ!たとえ織田を討ち征朝が成功したとしても、必ずお前は討たれる。たとえお前が無限の米を持っていたとしても!自分を倒す者が自分よりケンカが強い者とは限らんのだぞ!」

「兄上…」

「まだ間に合う、父上の言葉に従うのだ、景虎!」

「…承知いたしました。宇佐美」

「はっ」

「上杉軍は松本に引き上げる。岐阜城を始め途中で取った東美濃の城と砦も放棄する」

「承知いたしました」


「氏邦、氏照、我らも小田原に引き上げる」

「はっ」

「憲秀」

氏政は智将と名高い松田憲秀を召し

「塩見武蔵への使者になってくれ。父の氏康が陣没したゆえ我らは小田原に引き上げると」

「承知しました」



氏康陣没の報は使者の松田憲秀によって織田勢にもたらされた。

「そうでござるか…。氏康殿が…。紗代に知らせるのがつらいですな」

「はっ」

「それで松田殿、上杉不識庵殿、北条左京大夫殿は撤退と?」

「その通りにございます」

「あい分かり申した。申し訳ないが、こちらでも撤退の裏取りをさせていただく。そして確かに上杉と北条の撤退を確認したら、こちらも陣払いいたしましょう」

「承知しました。主君氏政に伝えまする」

「ご使者をお送りいたせ」

「はっ」


松田憲秀が去ると

「意外な結末となりましたな、まさか景虎が撤退をするとは…」

作田伯耆は拍子抜けしたようだ。まさに今後の日ノ本の命運を握る戦と言えたのだから。

「それほど北条氏康という人物は大きかったということだ。もしかすると景虎は天下を取って父の氏康殿に『ようやった』と褒めてもらいたかっただけかもしれぬな。俺には父親がおらぬから、その辺のことは分からんが」

「殿は氏康殿にお会いしたことがあるのでしたな」

「ああ、能とまだ二人旅だったころ小田原にしばらくいたことがある。亡き早雲公より紗代の病を治してほしいという願いを聞いて小田原城に入った時に城内を案内してくれたのが氏康殿だった。驚いたな、案内役だというのに、いきなり大物に出くわして」

長康は悲しそうに笑い

「当時一牢人、かつ十五の小僧に過ぎなかった俺に礼節を持って接してくれたな。懐の大きな方だった。本当に紗代に知らせるのがつらいのう」


しばらくして、上杉と北条連合軍が完全に撤退しているという裏付けが取れた。

長康は総退陣を下命した。

「伯耆、景虎が今後大人しくなるのであれば、これが最後の戦になるかもしれんな」

「まだ九州がございますが…」

「それは康義と康秀の世代の仕事だろう。俺と伯耆は御隠居様だよ」

「ははは、そうですな」

「塩見勢は最後尾で退却する。各備え、後方から順にの」

「「ははっ」」


その夜、長康は陣屋で泊ることに。律照尼を堪能し終えたあと

「おぬし、気づいておるか」

「うん、やっぱりな」

長康は『隠れ蓑』を装着して笹尾山本陣を出た。律照尼も共にいる。

関ヶ原を歩いていくと、一人の男とくノ一が待っていた。

「待たせたか」

「いや、儂もついさっき来たばかりだ」

上杉景虎と雪がそこにいた。

「意外だった。おぬしが関ヶ原直前で撤退とはな」

「今わの際の父に心配されているような男だったのかと…情けなくなった」

「…………」

「その後、兄氏政に懸命に説得されたわ。とうに見放されていると思っていたのにの」

「そうか、俺には父と兄もおらぬゆえ、何やらうらやましいの」


「稀代の名医殿に聴いておきたい。儂はあとどのくらい生きられるか」

「…長くて二年だ。済まんが治してやることは出来ぬ。医者失格と我ながら思うが…」

「必要ない。長くないのは分かっていたから思いっきり暴れてやると思った。おぬしも、信忠も信長も討ち、そして征朝…。思いっきり世の中を掻きまわして儂は逝きたいと思った。残る者からすれば迷惑千万な話よな。だからやってみたかった」

「おぬしの病を知る者は?」

「雪だけだ」

「…そうか」

「息子に家督を譲るつもりだ。まだ幼少だが、兄上たちがいれば何とかなろう。景勝の息子はどうした」

「長尾家を継がせる。長尾政景の孫なのだからな。華姫は家老の作田伯耆の側室となり、子も生んだ」

「そうか…。それはよかった」

もしかしたら景虎は本心から華姫を愛していたのかもしれない。どうして凌辱したのか、それは彼にしか分からない話だろう。


「おぬし、隠居後はうなぎ屋に戻ると常々言っておるそうだな」

「ああ」

「偽りなく言え。おぬしの収納法術は儂と同じく…」

「ああ、無限だ」

家臣はもちろん、信長や妻にもこの事実は伏せている。大八車二台分くらいとしか話していないのだ。

「そうか、なら」

長康と景虎は手と手を合わせた。互いに収納法術を放ち、景虎の持つ大量の米俵が長康の収納魔法に譲渡された。収納法術内は時間が経過しない。長康は隠居後、何年も米の仕入れをしなくても良いくらいの米を得た。


「こんなに多くの米、ただでは受け取れんな」

長康は返礼とばかりに大きな樽を複数渡した。

「これは何だ?この七樽の中は酒か?」

「この中に梅毒の予防薬が入っている。成分表もつけておいた。雪殿を始め、風魔の技術なら量産も出来よう」

「梅毒の予防薬だと!?」

景虎も『鑑定』は使える。結果を見て間違いがないことが分かった。

「大したものだ…」

「湯呑一杯ほど飲めばいい。ただし罹ってから飲んでも無駄だ。なる前に飲め」

「分かった。ははは、養父謙信がやった『敵に塩を送る』ではなく『敵に予防薬を送る』か」

収納法術内における交換が完了した。


「この戦が発生しても、結局最後はおぬしとの一騎討ちになるであろうと思った」

「お相手いたそう」

呂布奉先の出で立ちに姿を変えた長康。

「病人とて手加減はせんぞ」

「なに、おぬし相手なら、このくらいの負荷があってちょうどいい」


二人は槍を構えた。再び交わる朱槍と方天戟、夜の関ヶ原に干戈がぶつかる音が響き渡り、それを塩見本陣で聞く作田伯耆と前田慶次、酒を酌み交わしていた。

「いい音だ…。武蔵守殿がちょっと押されているようだが…」

「おぬしが戦いたかったのではないか?」

「そうだな、その通りだ。しかし、おぬしの主君はどうやら美味しいとこばかり持っていく仁のようだ。今さら横やりなど入れられんよ」


雪と律照尼は戦闘状態に入っておらず、黙って長康と景虎の一騎打ちを見ていた。

その雪に紙袋を渡した律照尼。

「それは?」

「寝たきりになるころには相当な苦痛が景虎を襲うじゃろう。袋の中の薬を毎食後に飲ませよ。治すには至らんが徐々に痛みが薄れていき、やがて苦しまずに逝けるであろう」

「…………」

「どうした?」

「かたじけのう…」

雪は大事そうに律照尼から袋をいただき、胸に抱いた。

「よい、これも何かの縁じゃろうて。たとえ敵味方であれな」


今回の一騎打ちも本能寺と同じく千日手となり、夜明けと同時に二人は槍を退いた。

「よき馳走であった。塩見武蔵守長康殿」

「こちらこそ、よき馳走であった。上杉不識庵景虎殿」

「さらばだ。もう会うこともあるまい」

「ああ、さらばだ」

長康は方天戟を見つめ

「もう、振るうことはあるまいな…。最後の敵将が景虎でよかった」

次回、最終回です。

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