第二十五話 息子たちの元服
「昨夜、宿の本能寺で賊徒の襲撃を受けたと聞き案じておった。無事で何よりである」
正親町天皇は長康の無事を喜び、労った。
織田信忠の名代として京都御所に赴き、公家の大物、菊亭晴季を経て正親町天皇に拝謁する。長康の副使には塩見家重臣の逸見昌経が就いている。
任務は当主が織田信長から織田信忠に代わったこと。そして織田家から朝廷への献金だ。
信忠は父の官位をそのまま継承し、織田右府と呼ばれることになる。
本来なら厳粛な雰囲気で行われる拝謁なのだろうが、長康が予想していた通り、正親町天皇と公家衆も彼がせっかく細川藤孝から仕込まれた口上を上の空状態で聞いており、口上が終わると
「ふむ、織田右府の勤皇の精神、朕は嬉しく思うぞ」
と、ありきたりの答礼を受ける長康。
その後、正親町天皇が発給する宸翰を受ける。これで役目は終わりなのだが朝廷側の要求はこれから始まる。
「塩見武蔵守、朕もそろそろ退位を考えておってな。その前に再びおぬしと会えたことを嬉しく思う」
「はっ」
「晴季」
「はっ」
長康の前に台に置かれた豪奢な袋が置かれた。中身は砂金と思われるが
「正親町帝より貴公への褒美である」
「いや、これは…」
信忠以外の者から褒美を受けてはいけないので断ろうとすると
「これ晴季、間違えておるぞ。褒美ではない。朕から武蔵守への単なる支払いである。うなぎの仕入れで立て替えてもらったゆえな」
「あ、これは失礼仕った」
「御所の調理場は空けてあるゆえ頼んだぞ、武蔵守」
「承知いたしました」
堅苦しい宮中の正装を脱ぎ捨て、収納法術から取り出した白い甚平を着て前掛け、和帽子をかぶった。調理場に立った長康を見て逸見昌経は
「こんなことを言ったら怒られるかもしれませぬが、殿はその姿が一番お似合いですな」
「俺もそう思うよ」
宮中に仕える女官たちが調理場近くに待機、今日は天下一料理人の塩見武蔵守長康のうな丼が食べられると御所に公家たちが大集合している。その配膳をするためだ。
長康の収納法術内では、もうたれをつけて焼くだけの状態にしてあるので調理場で炭を熾して、次々と焼いていく。調理場近くに待機していた女官たちは、あまりの美味しそうな香りに
「ああ…死ぬ前に一度武蔵殿のうな丼を食べたい…」
「私も…」
「私も…」
すると長康は
「ああ、貴女たち女官の分もあるから。とりあえず配膳の方を頑張ってほしい」
普段、厳粛な雰囲気の宮中に女官たちの歓喜の叫びが轟いた。正親町天皇の耳にもそれは届き
「武蔵のうな丼は女子も落としよるな」
公家たちはめったに冗談など言わない天皇の言葉に驚きつつも笑った。
手際のよい長康、膳の上にうな丼、漬物、吸い物を置き、女官たちが次々とそれを運んでいく。サポートカードに料理の神様をセット、琵琶湖の上質な鰻に『うなぎのたれLv50』『ぬか床Lv48』を用いた漬物、そして肝吸い、三強コンボの御膳だ。
正親町天皇はあまりの美味さに涙ぐみ
「これは本当に卑怯ぞ。これを質にされたら朕は武蔵の言うことを何でも聞いてしまう気がするわ」
「まさに…!」
同じく涙ぐんでいる菊亭晴季と公家衆たち。おかわりははしたないと思ったのか、正親町天皇と公家衆は一杯だけで終えたが女官たちは
「あの武蔵守様、おかわりを…」
遠慮がちに出す女官だが長康はニコリと微笑み
「もちろん、たくさん食べる女子は大好きです」
「まあ、お上手にございます」
『さくたろう』の常連たちはうな丼の美味しさと共に、長康の調理する姿も粋で、待ち時間が全く苦にならなかったという。男が見ても惚れ惚れするほどの姿だったそうだから、女官たちの中には、うっとりとして長康の姿を見ていた者も。かつ女官の分のうな丼もしっかり用意していたという心配り。なにより極上の美味で胃袋を鷲掴みにされた。
「武蔵様、私にもおかわりを!」
「この漬物の美味しさ何なの、もう!」
長康自身はうな丼を食べずに調理場で手製の握り飯を漬物で食べているだけ。
女官たちとは大いに盛り上がった。
長康についてきた家臣たちも別室で食べていた。律照尼は
「昨日も食べたというのに今日も食べる。まったく飽きることのない魔性の料理じゃ」
勢いよくうな丼をかきこむ律照尼。
「しかし、うなぎがこんなに美味いとは想像もしていなかった。作蔵、おぬしと作治郎、大作の三兄弟は幼少から殿に仕込まれたと言うが、このうなぎ料理を教えてもらいたいとは思わなかったのか?」
北沢小兵衛が塩見作蔵に訊ねた。作蔵も勢いよくうな丼をかきこんでいる。頬のご飯粒を口に入れ
「興味はありましたがうなぎの血には毒があるそうで、当時子供の我らは調理場に入れてもらえませんでした。武芸と学問の鍛錬に集中するよう母と殿に言われて、それ以降は…」
「ううむ、景虎もこれを食べれば殿を討とうなんて気持ちはさらさら起こすまいにな」
小兵衛の言葉に逸見昌経は
「まったくじゃな。ああ、美味い。帰国したら直澄と勝久にずるいと言われるであろうな」
元若狭武田家の家老たち逸見昌経、熊谷直澄、栗屋勝久は肉親の命を長康に助けてもらったことがきっかけで、新たな若狭国主となった長康に仕えることに決めたが、その後に長康が調理したうな丼を食べて感激し『この方の医療と料理は若狭、いや日ノ本の宝だ。絶対に死なせてはならぬ。我らが守らねばならぬ』と三人で誓い合ったほど。
景虎もこれを食べれば、それが理解できるだろうにと昌経は思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝廷への使者の役目も終えた長康は安土城で信忠と謁見した。
信忠は城主の席から降りて、長康の肩を抱き
「よう無事であったな!」
「はい」
信忠の元にも本能寺に宿泊していた長康が景虎に襲われた知らせは届いていた。
「運良く返り討ちに出来ました」
「さようか、まったく景虎もそちが朝廷の使者になったのを狙ってくるとはの…」
朝廷から信忠に宛てたご宸翰を渡せば任務は終了だ。
また、正親町天皇から得た砂金にも一切手を付けずに信忠に献上する。
信忠は受け取り、改めて砂金を今回の大役を果たした褒美と共に長康に渡した。
「しばらくは国元に帰り、女房たちの機嫌を取りたいと思いまする」
長康の帰郷を信忠は快く許した。弥生と家臣たちを伴い琵琶湖を経て若狭へと。
ちなみに園子は長康の安土城現地妻なので同行せず、信長の隠居館に行き、帰蝶の侍女に戻る。本人はそれで満足しているのだ。
船上では長康と北沢小兵衛が話していた。
「いよいよ若殿も元服にございますな」
「早いものだ…」
長男太郎と次男次郎の元服の時を迎えた。長男の太郎には元若狭武田家の家老栗屋勝久と逸見昌経が守役に就いた。これは異例なことで命じられた勝久と昌経が逆に驚いたくらいだった。普通、譜代の家臣が世継ぎの守役を務めるものだが、残念ながら長康は塩見家初代であるため、そんな者はいない。春たちの子供で、元弟子の作蔵たち三兄弟しか家臣にいない状況だったのだ。
いないから仕方がないとはいえ、つい最近まで織田と戦っていた者を守役にするものかと勝久と昌経は思うも、この二人は度重なる朝倉の侵攻も防ぎ、織田に敗れたとはいえ戦場では勇猛果敢に戦った武将である。
その武士の心意気を息子に教えて欲しいと当主長康に望まれた二人は感激し、若殿太郎を立派な大将に育てよう、そう決めたのだった。次男の次郎には同じく元若狭武田家家老の熊谷直澄が守役に就いた。
「守役の彼らは、ようやってくれた。俺の期待以上に息子たちを育ててくれた」
「能姫様と紗代様の養育も良かったのでは」
「気の毒なことをした。二人はもっと優しい母親でありたかったろうな。俺が武士になってしまったから、厳しくならねばならなかったと思う。まあ…そのように育てるよう注文したのは俺なんだが」
「そのぶん、殿は私の娘桜には甘々でございましたね」
と、弥生。
「まあ、娘にはどうしてもな…」
「ふふっ、だから私も能様たちと同じく厳しい母親になるしかありませんでした」
長康は桜のみならず、娘すべてに甘い父親であるので長康の妻たちにとっては頭痛の種であった。綺麗な着物が欲しいと言われれば買い与え、甘いお菓子が食べたいと言えば作ってしまう。
「逆にそなたらが厳しすぎるのではないか?」
「父親が甘すぎるから私たち母親が厳しくするしかなかったのです!」
「こりゃ手厳しい…。まあ、その桜も嫁入りか…。早いものだな」
「ええ、本当に」
「殿の御帰城―!殿の御帰城―!」
城門が開いて長康の家族が出迎える。能を先頭に
「おかえりなさいませ、殿」
「帰ったぞ、そなたの顔が見たくて仕方が無かった」
「私もです、殿」
帰る早々、能を抱きしめる長康、塩見家の者にとっては見慣れた光景だった。
そして紗代、夏江と抱きしめる姿も。夏江の場合は大木にセミだが。乳房に完全に顔が埋まってしまう抱擁が長康は好きだった。
城へと歩き出し、城の入り口では潮田新六郎と作田伯耆が待ち、長康を出迎えた。
「新六郎」
「はっ」
能の弟の潮田新六郎資政、文官として長康に仕えている。
「溜まっている決裁をすべて持ってくるように」
「はっ!」
小浜に帰れば国主だ。やらなければならないことが山積みだ。城主の部屋へと歩いていく。作田伯耆が
「殿、本能寺のことお伺いいたしました。ようご無事で」
「うん、危なかったな」
「ですが、家臣を先に逃がして自分は残って戦うというのは、いささか軽率ではないかと」
「確かにな…。もっと上手い方法はあったかもしれないが、あの場では思いつかなかった」
「家老としては、今後同様な局面に陥った時は家臣を盾にして逃げろと言うべきなのでしょうが…お約束していただけないでしょうな」
「残念だがな。将のために家臣がいるのではない、家臣のために将がいる。少なくとも、俺はそう思っている」
「ふふふっ、武士は嫌だと言いながら、殿ほど武士に向いている者はいないと存ずる」
「よしてくれ、さっさと太郎に塩見を丸投げしたい無責任な男だぞ。ははは」
長康が城主の席に座り、一通り彼が留守中に国内で起きたことを家臣たちが報告していく。領内の開発事情、農業、林業、漁業、財政についてと様々だ。よき文官となった新六郎資政が書類を提出しつつ説明していく。とはいえ、長康の決裁待ちにより保留中や停滞している業務はほとんどなく、家老の作田伯耆によって片付けられているものが多い。その結果の報告書を読み満足そうに
「伯耆、いつも感謝している」
「ははっ」
「華姫がそろそろ出産と聞くが…どうする?」
出産補助は自分がやろうか、という問いかけだ。いくら出産の土壇場とはいえ妊婦はもちろん、夫の方も自分以外の男が妻の性器を見ることに抵抗はあるだろう。
「ぜひ、お願いしたいと華も言っております。菊殿が初産でもさほど苦しまずに出産したのを見ておりますゆえ」
「分かった。俺がやらせてもらおう」
「ありがたき幸せにござる」
「それにしても…子供を生もうと思えるほど心の傷は癒えたのか。よきことだ」
「景虎への最大の仕返しは華自身が幸せになること。私はその一助が出来て嬉しく思います」
「俺も嬉しい。で、菊姫殿とお船殿の暮らしはどうか」
伯耆は新六郎に視線を移した。新六郎がこの二人の女性の世話役である。
正室能の実弟なので、当主の義弟にあたる彼。亡命者という立場の危うさから不安にさせないため、それなりの立ち位置にある者が世話役に就く。
新六郎は伯耆に一礼したあと
「菊姫様は生まれた男子に上杉家ではなく長尾家を継がせたいと考えておりまする」
「まあ、そう思うであろうな…。長尾政景殿の嫡男である景勝殿の子なれば、それが自然か。良いのではないか」
「それでその…」
「ん?」
「お船殿を妻に娶りたいと」
「誰が?」
「私にございます」
一瞬驚いた長康、一つ咳払いをしたあと訊ねる。
「…お船殿は何と?」
「了承してくれています」
「御台は納得しているか?」
「はい、姉上も賛成してくれています」
「分かった。ならば俺から言うことは何もない。幸せにしてやるといい」
「ははっ」
(まさか、直江兼続の正室として世に名を残したお船殿が、マイナー武将もいいところの潮田新六郎資政の嫁になるとはなぁ…)
「それと安土の御台様(松姫)より『姉上をお頼みいたします』と、お化粧料込みで願われた。現状でも手厚く遇しているが、今後も続けるよう。新六郎は世話役兼お船殿の夫として菊姫殿が願う長尾家再興に協力せよ。塩見家に長尾家があれば、今は無理でも我らの子や孫の世代に織田と上杉を結ぶ懸け橋となるかもしれぬ。心せよ」
「「ははっ!」」
評定の間を後にして居室に移った長康、長男太郎と次男次郎を呼んだ。生母の能と紗代も立ち合っている。
太郎と次郎は同年に生まれたが、太郎が二十日ほど早く生まれたため長康の子供たちの中で長兄となる。守役たち、そして長康の元弟子、作蔵、作治郎、大作三兄弟の支えもあり二人とも凛々しい男児に育った。
「太郎、次郎、そなたらは明日元服だ。もう子ども扱いはせぬし、評定にも出れば戦にも出る」
「「はっ!」」
「妻も娶る。太郎の妻は柴田様の三女江姫、次郎の妻は滝川様の次女の寿姫だ」
「「はい」」
「次郎、そなたに言っておく。当家と現在交戦状態にあるのは上杉家、その上杉家と強固な同盟関係にあるのが北条家、そなたの祖父氏康殿が当主だ」
「…はい」
「景虎はそなたにとって伯父になるの」
「…………」
「母紗代の父と兄と戦うことになることを、今のうちから腹を括っておけ」
次郎が母紗代を見ると、紗代は強く頷いた。父上の言う通りにしなさいと。
「承知しました。祖父と伯父であろうと戦場のならい。遠慮する気はございませぬ」
「さらに明日から太郎を兄上と呼んではならぬ。若殿と呼ぶのだ」
「はっ!」
「太郎、そなたにはあの関東の名将、太田道灌殿と太田三楽斎殿の血が流れている。能のお父上、出羽守殿も仁政の名君であった。この塩見家は俺が初代、塩見の家を残すも滅ぼすも二代目のそちの双肩にかかっていると心得よ。母の先祖の名を辱めるでないぞ」
「はっ!」
「ん、今日は早く休め。明日、名を与える」
「「はっ!」」
太郎と次郎は出ていった。
「能、紗代、感謝いたす。立派な若武者に育ててくれた」
「「殿…」」
「出来れば、あの二人には『さくたろう』を継いでほしかったが…」
それは能と紗代も同じ気持ちだった。微笑みつつ黙って頷く二人。
「二人と東海道を旅していたころは、こんな時が来るとは思わなかった。俺はずっと能と紗代を両手に花で日本中を旅するんだと思っていた。それなのに結局いまだそなたらを天橋立に連れて行けていない」
「そうですね。私も紗代様とずっと作太郎様の腕を抱いて楽しく旅をしていくのだと思っていました。そうありたいとも」
「ずいぶんと昔に感じます。私と能様が作太郎様の腕を抱いて、三人で笑いながら歩いて…こんな日がずっと続いていくといいなぁと思っていました」
「能、紗代、久しぶりにやってくれないか。俺の腕を抱いてくれるの。そのまま寝所に行こう」
「「ええ…」」
顔が真っ赤になる能と紗代、あれは思春期真っ盛りだから出来たようなものなのに。
「いいじゃないか、ほらほら!」
両腕を広げる長康に能と紗代は苦笑しつつ、体を寄せて腕を抱いた。そして寝所へと。子供が元服を迎えようと相変わらず能と紗代は長康との房事に蕩けるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
長康の長男と次男元服の日、奥州陥落の知らせが織田家を通して小浜にも届いた。
内容はこうだ。奥州勢は上杉北条連合軍を革籠原で迎え撃った。史実の関ヶ原の戦い直前、上杉攻めに出陣した徳川勢を迎え撃つために上杉家執政である直江兼続が主戦場に選んだ地だ。史実では幻となった革籠原の戦いが、こちらでは実現した。上杉家が侵略者側となって。
この地で奥州勢と上杉北条連合軍は激突し、結果は奥州勢が敗れて盟主である伊達政宗も退却を余儀なくされた。
その後、上杉北条連合軍は会津黒川城を落とし、蘆名氏を滅ぼして引き上げを開始した。
この時に景虎は長康を討ちに京都まで駆けたと思われる。
政宗は追撃を下命する。会津黒川城を取り返した勢いに乗じて、追撃の手を緩めずに関東に入った。政宗側近の片倉小十郎は深追いしすぎと諫め、退却を進言したが政宗は聞き入れなかった。
しかし、関東に入ってほどなく、要所要所に築かれた北条方の砦や支城群に進路と退路も塞がれてしまう。政宗はここで初めて北条氏康の術中にはまったことが分かったが時すでに遅しであった。景虎や長康に及ばずとも政宗と、その両翼である伊達成実と片倉小十郎も闘気と法力を使う武将。何とか活路を開くべく戦うも最後は『よう頑張った』と景虎自ら、政宗、成実、小十郎を討った。
盟主を失った奥州勢はもろく、その後は景虎無人の野を行くがごとし。陸奥に至るまで上杉北条連合軍は突き進み、上杉景虎は奥羽越の覇者となったのである。
景虎恐るべし、長康は思った。本能寺で風魔小太郎と加藤段蔵を討った。腕利きの軒猿と風魔の忍びも。景虎の戦力はダウンしていると思っていたが、全くそんなことは無かったのだ。
遠からず、景虎の目標は越後より以西となる。
景虎の奥州攻めのあらましが記された書を読んだ長康は、側近の作田伯耆にも読ませた。元将軍足利義輝である彼はその書を見て
(なんてことだ…。政宗の父輝宗に『奥州から大軍勢で関東に攻め入っても北条方が要所要所に築いた砦と支城群に軍勢は分断され、しまいには進路と退路も塞がれて全滅するであろう』と忠告したのに…。輝宗は息子政宗に何も伝えずに死んだのか…)
義輝の忠告を伝える前に伊達輝宗が死んだことが政宗の悲劇に繋がったのかもしれない。
かつ、政宗は初陣から奥州統一に至るまで敗北を知らない、革籠原の戦いが初めての負け戦で、その雪辱を果たしたい気持ちも強かった。
あるいは輝宗、政宗に義輝の忠告を聞かせたかもしれない。だが、これまで敗北を知らなかった政宗は義輝の忠告と側近小十郎の諫言も聞かず、罠が待ち受ける関東へ攻め入ってしまった。
「この件については、上様の指示を待つしかあるまい。今日は塩見家には慶事、一旦頭の片隅に置こう」
「「ははっ」」
長康と重臣たちは太郎と次郎の待つ広間へと歩いていった。




