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第十四話 手取川の戦い

結局、長康は八百比丘尼を倒すことは出来なかった。

「参った…」

「はあ、ふう、よくぞここまで手こずらせたものよ…。一つ訊ねるが」

「なんだ?」

「おぬしは治癒の気術と法術も体得しておるな?なぜ、それを一度も使わなかった。それを使えば、いずれ私も疲れて後れを取ったかもしれぬのに」

「この勝負はただの力比べ、そなたが使わないのなら、俺も使わない、それだけだ」

と、格好いいことを言っている長康だが、もう指一本動かす力もなく、夜空を見上げていた。

(正直、悔しいというより安心したという気持ちの方が勝る。見沼竜神、だいだらぼっちを倒して、俺は最強だ、なんて驕る気持ちが少なからずあった。まったく前世の年齢も合わせれば、とうに還暦を過ぎているというのに情けない話だ。だが上には上がいる。俺が驕り、誤った道に進んだのなら討ってくれる存在がいる…)


「そうか、律儀な男よ。だが、女と戦い敗れたのだ。その覚悟はあるか?」

「…ん?」

「伽をせよ、久しぶりに暴れて盛ってきたわ。何百年ぶりかのう」


長康は改めて自分に治癒法術をかけて復活、もちろんサポートカードに【SSR◆4光源氏】をセット、洗浄の法術もかけて

「ほほう、便利なものを知っておるな。幾星霜に積み重なっていた垢が綺麗に取れおった」

布団なんて気の利いたものはないので、立位での愛撫となり、長康は八百比丘尼の法衣をめくって後ろから貫いた。寂れた寺に八百比丘尼の歓喜の嬌声がしばらく続いた。

齢十七のまま八百年以上を生きている八百比丘尼、長康もまた若い肢体に蕩けたのであった。


『試練【八百比丘尼と戦い勝利せよ<勝利条件あり>】を達成しました』

『【SSR八百比丘尼】を獲得しました』


脳内の『異日本戦国転生記』のゲーム画面に表示された。実を言うと単純な戦闘で勝利しても、このサポートカードは得られない。<勝利条件あり>と記されているように戦闘勝利後に光源氏のサポートカードをセットして特殊能力『房中術』を用い、性行為で八百比丘尼を満足させないと手に入らない。そして主人公との行為に大満足して、そのまま八百年以上の人生に終止符を打ち、塵のように消えていく……はずだった。


「なんと、おぬしはこの若狭の殿様だったのか!これは私が合力せねばなるまいな!」

八百比丘尼は消えなかった。普通に艶々な顔で長康の横にいて小浜城へと一緒に歩いている。

「おい、いいのか。おそらく俺との行為がそなたの召される好機だったと思うのだが」

「確かにそんな気はした。何度目かの絶頂に達した時、ああ、この極楽のなか、ようやく死ねるのだなと思った。でも同時に何度もおぬしに抱かれたいと思った。おぬしの房中術は女を殺すわ」

「そうか…。まあ、そう言ってくれるのは男として嬉しい」

「こうしよう、私はおぬしの室にはならぬ。家臣として雇われ、いくさ場でのみ抱かれよう。ほれ、戦場妻というやつだ」

「戦場妻…」

「うむ、軍を率いる大将たるもの、御陣女郎など買ってはならぬ。身元のしっかりした女子を戦場に連れていき、戦で昂った血をこの体で鎮めればよいのだ。平時は家臣として扱うがよい。こう見えても神社や寺、架橋の建築は得意じゃから役に立てよう。おぬしの子らに八百年生きてきた叡智を授けよう。武芸もの」

八百比丘尼のサポートカードの特殊能力は意外にも『建築』である。建築系のサポートカードはすでに所有している長康だが、八百比丘尼のカードは彼女が言うように神社や寺、架橋の建築に特化している。それは八百比丘尼伝説の中で、彼女が諸国で寺や神社の修築や、橋の改築を指揮したという逸話から反映されている。


「分かった。で…名前はどうする。いまそなたは八百比丘尼と言われているが、元々の名前は?」

「おりつ、人魚の肉を食べるまでは、そんな名前だった」

「りつ…。ではこんな名前はどうかな」

長康は筆を取って半紙にサラサラと名前を書いた。

『律照尼』

「おお、おぬしは中々よき感性を持っておるな。これでよい。私は塩見家家臣、律照尼じゃ!」



小浜城は大騒ぎになっていた。当主の長康がどこにもいないのだから。

そして

「殿、どちらへ!」

作蔵が城門に歩いてきた長康を見つけて血相変えて飛んできた。

「ふむ、強い比丘尼がいると聞いてな。勧誘してきた」

「え?」

「律照尼と申します」

作蔵も長年にわたり長康から武芸の指導を受けてきた者、落ち着いた佇まいながら、この比丘尼の強さを読み取った。

「…とんでもない方を連れてきましたね…」

「ほほう、分かるか作蔵、成長したな」


騒ぎが収まると律照尼は城内で長康の妻たちと出会った。長康が俺より強いと言い、驚く能と紗代、あのだいだらぼっちを倒した夫より強いというのかと。

「とはいうものの、今まで生きてきて武蔵守様より強い男には巡り合っておりません。確かに私が勝ちましたが、それは私に運があっただけ。何より武蔵守様は治癒法術を使いませんでした。あれを使われていたら、いずれ私の方が体力は尽き、敗れていたでしょう」


怪力無双の夏江が興味を示した。

「では律照尼殿、相撲を一手所望したいのですが」

「ええ、かまいませんよ」

いくら夫が『自分より強い』と言っても、にわかには信じがたい。夏江のワンサイドゲームで終わるだろうと誰もが思った。夏江は重い荷も軽々と持つあげるほどの怪力で、作蔵たち三兄弟はいまだ相撲では夏江に敵わないのだから。

城内の中庭で対峙、いざのこった。夏江とがっぷり組んだが

「……え?」

夏江は身長六尺以上の巨躯、律照尼は五尺に満たない。

「うそでしょ…」

夏江がどんなに力を込めてもビクともしない。体に闘気を纏ってもいないので地力だけだ。

「夏江様は手を抜いているの?」

能が言うと

「いえ、能様、地面を…」

紗代が差す地面を見ると律照尼と夏江の足元の土がめり込んでいる。

「よっ」

「うわあああ!」

軽々と夏江は投げられてしまった。上手投げだ。

「お、恐れ入りました」

夏江は頭を下げた。



改めて、城内で長康の妻たちと話す律照尼。

「私は武蔵守様の室になるつもりはございません。家臣として雇われます。しかしながら、いくさ場でのみ、奥方様たちの代わりに伽を務める戦場妻になろうかと。聞き忘れておりましたが武蔵守様は美少年を好まれますか?」

長康は首を振った。

「俺に男色の気はない」

当時としては珍しい、衆道に興味なしの戦国武将だった。羽柴秀吉と塩見長康くらいである。

「ならばいくさ場での血のたぎりは女が鎮めるしかございません。武蔵守様のお立場では御陣女郎を買うことは許されません。どんな病を持っているのか分からないのですから。とはいえ武蔵守様はお若く、女断ちのままでは、いい采配が取れるはずもなし。以上のことから私を家臣、そして戦場妻に就くことをお許しください」

「分かりました」

「能様、良いのですか?」

弥生は能が即答したことを少し驚いたようだ。

「ええ、今までと違い、これから殿は戦に出るのです。私たちは戦についていくことは出来ず、陣中の殿を癒してあげることが出来ません。律照尼様の申し出はむしろありがたいことです。それに…」

「それに?」

「私の父、出羽守も戦場妻をいくさ場に連れて行きましたので。お館様(道灌)に至っては三人も」

「それはすごい」

思わず長康はそう言ってしまった。

「そういえば、ひい御爺様も連れて行っていましたね。道灌に負けてたまるかと四人ほど」

紗代が言うと、ワッとみなで笑った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そして、戦役免除の二年が経過した。塩見武蔵守長康、堂々たる若狭の戦国大名として織田の合戦に加わることになった。若狭の国は石高八万五千石、海の富を含めると十二万石になるので兵役で割り当てられる兵数は千二百、長康はそれを満たし、小浜城から出陣する。

留守を預かるのは旧若狭武田家の重臣だった栗屋越中守勝久だ。小浜城門で

「殿、ご武運を」

「うむ、越中守も留守を頼んだぞ」

「はっ、作蔵、作治郎、大作、功を焦るでないぞ」

「「はいっ!」」

「律照尼様、殿をお頼み申す」

「お任せください」

「新之助殿、作蔵たちをお頼みいたす」

「任せられよ」


新之助、彼は律照尼の仕官間もなく、小浜城の門を叩いた侍だ。驚いたのは長康だ。

「言ったであろう。お釣りを返さなくてはならぬと」

足利義輝がまさかの仕官を希望してきたのだ。


塩見家は家老が空席だった。逸見昌経、熊谷直澄、栗屋勝久はいずれも若狭武田氏の元家老であったが、さすがに遠慮して、家老より一つ武階が低い『部将』から始めることにした。そんな時、長康が仕官当日に家老に指名したのが新之助だ。

さすがに若狭武田家の元家老たちは面白くなく、その顔を見てやろうと小浜城に乗り込んで来てみたら仰天した。旧主武田元明と共にかつて拝謁した足利義輝がその場にいて

「おう、駿河(逸見昌経)、越中(栗屋勝久)、大膳(熊谷直澄)、息災か」

三部将は慌てて平伏した。だが

「あっと、もう儂は将軍ではなく、ただの新之助、貴公らに偉そうには出来ぬな」

そうは言うが、粟屋たち三人はとても顔を上げられなかった。まさに王者の風格というのか。


「ことの経緯を話すが…」

ようやく顔を上げた粟屋たちに永禄の変で長康、当時作太郎に命を救われ、その後は将軍職を捨てて下野し、諸国を旅して剣術の修行に励んでいたと。

「武蔵守殿は儂が大津に屋敷を用意してくれた礼だと言った。しかし、とてもあの場を助けてくれた恩義に吊り合わぬ。そして風の噂で織田家から若狭を任されたと聞き、やってきた次第というわけだ」

「大樹…もとい新之助殿の器量は貴公たちも存じているはず。仕官初日でいきなり家老職を任せて不快かもしれぬが受け入れてくれぬか。恐れ多いことであるは承知だが、俺は新之助殿の希望に応えて家臣になってもらいたいと思う」

「「ははっ」」

粟屋たち三部将は応じた。

「さすがに足利義輝と名乗るわけにもいかぬので、いまさっき殿より姓と名をいただいた」

「ほう、何というお名前でしょうか」

熊谷直澄が訊ねた。

「『作田新之助輝久』」

「「作田…!」」

この姓だけで義輝が家臣に加わってくれた長康の喜びのほどが知れる。長康の通称『作太郎』から字を分けられて姓としたのだ。

「名の方は『輝』だけ残し、輝き続けられるようという願いも含め『輝久』と。いや、殿は名づけの感性がようござるな。はははは!」



話は戻り、小浜城門、軍勢先頭で進む当主の長康を城下町の民は頭を垂れて見送り、その左右を固めるのは戦場妻である律照尼、男装をしており、上杉謙信のような頭巾をかぶり、立派な陣羽織と甲冑に身を包む姿は凛々しく、実は女と知らないで律照尼を見て頬を染める若い娘たちもいた。

そして家老の作田新之助輝久、堂々たる偉丈夫とその貫禄、男でも見惚れてしまうほどのもの。城下の男たちは新之助を見て、唸っている。

(しかし、初陣で俺の左右を固めるのが足利義輝と八百比丘尼って、どんだけ豪華なんだ)

と、今の状況で自分でも理解できない長康だった。


戦地は北陸、塩見家は柴田勝家の与力として上杉謙信との戦いに参加することになったのだ。史実でもあった手取川の戦いである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


北ノ庄城で柴田軍と合流、勝家は自ら長康を出迎えた。

「よう参られた」

「これは…修理亮様自らのお出迎えとは恐縮にございます」

「なんの、妻と息子の恩人であれば当然のこと。あの日、貴公の伽を務めし、さえ」

「はい」

「懐妊しましたぞ。いや、見事なお点前ですな」

「ははは…」

避妊の法術を使うつもりだったが、さえもまたお市から長康の子を生むよう指示をされていたか避妊を拒否、その通りにした。この世界、女が子供を欲しがる本能は強いうえ、相手が若狭国主ならば、主命が無くても避妊しないことを望んだかもしれない。

「経過は良好、生まれる子は柴田家で大事に育てますゆえ、心配ご無用にござる」

「お願いいたす」


「それにしても…」

勝家は塩見軍を見て

「こちらもお見事、千二百という小勢なれど統率が行き届き、まさに精鋭かと」

「鬼柴田に褒められるとは嬉しゅうございます」

それもそのはず、長康は【SSR◆4天魁星呼保義宋江】をサポートカードにセットしていた。水滸伝における梁山泊の総大将だ。特殊能力の名前はそのまま『梁山泊』で統率力が跳ね上がる。

(まあ、この統率はちょっとズルしているのだけど…)


勝家がさらに驚いたのは作田新之助を見た瞬間だった。

「きっ、貴公…!?」

「お初に御意を得る柴田修理亮殿、塩見家家老作田新之助輝久と申す」

信長と共に拝謁した足利義輝がそこにいるのだから勝家が驚くのも無理はない。

しかし義輝は『今は塩見家家臣だ』という姿勢を見せる。察した勝家は

「そ、そうか…。昔、上様と共に拝謁した御仁とよう似ていたもので驚いた。勝家である。若い主君をよう補佐して下されよ」

「お言葉ありがたく」


北ノ庄城、到着から間もなく進軍を開始した。越前から加賀、越中、前田利家と佐々成政が合流した。前田利家が

「いや、まさか同朋になるとは思いませなんだ。まつはあれから今に至るまで頭痛に悩まされず元気ですぞ!わははははは!」

と、長康の背中をドンドンと叩いて陽気に話す。その利家の後ろにいる巨漢が

(この男が前田慶次か…)

史実では手取川の戦いのころ滝川軍に属し関東にいる前田慶次、しかしこの世界では滝川一益は太田道灌に木っ端みじんにされて、今は軍団長から降格して信長本隊の部隊長を務めている。相手が悪いとしか言いようがない。

前田慶次は、その太田軍相手にしんがりを務め、何とか一益を逃がすことに成功するが滝川軍は解体となり、叔父の利家のもとにいるというわけだ。

「能殿と紗代殿はお元気か」

「はい、今も槍の修練は続けていますよ」

熱田神宮で能と紗代に槍の稽古をつけたのは利家だ。

「うんうん、師匠が良かったのでしょうな!うわははは!」

利家は陽気に話しているが、慶次はさっきからずっと長康の後ろにいる作田新之助を見つめている。

「武蔵殿は大した家臣をお持ちのようだ」

「少将(利家)殿もな」

「貴公とは敵として出会いたかった」

「奇遇だな、儂もだ」


その場を去り、自陣に引き返す時だ。同じく利家と共にいた奥村助右衛門永福は

「武蔵殿の左に控えていた者、あれは女子だな」

そう慶次に言った。慶次は頷き

「戦場妻としても連れて来ているのだろうが…あれは化け物だな」

揶揄しているのではなく、その強さを慶次は読み取ったのだろう。助右衛門は頷き

「作田殿も相当なお力を持っている。その二人を従える武蔵殿…。武士ですらない若者を新たに召し抱えて、いきなり若狭国主に据えると最初に伝え聞いた時、上様は何を考えているのかと思ったが…納得した」

「ははは、慶次、助右衛門、どんどん若い者が台頭してくる。我ら前田家もうかうかしておられんぞ。こたびの戦で手柄を立てんとのう!」

「「ははっ」」



この手取川の戦いは史実通り能登の畠山氏から織田軍に援軍要請があったことから発する。

そして北陸の軍団長である柴田勝家が出陣となった。史実では柴田軍の大敗となるわけだが、やはりあの人物はそれを予見していた。秀吉である。

しかし表立って『この戦は負ける』と言い切れるものではなく、軍議でわざと激しく勝家と意見を対立させて、ついに激昂した勝家は秀吉に『帰れ』と言ってしまう。


その軍議には長康も参加していたが

(まさに文字通り猿芝居だったな…。このあと長浜に帰ってドンチャン騒ぎを続けるのだったか)

陣を出ていく秀吉、大声で

「長浜に帰るぞ!」

と、家臣たちに伝えた。

「父上、羽柴様を!」

息子の権六勝敏が秀吉を止めなければと父を諫めたが

「戦う気のないやつはいらぬ」


正直、帰りたい気持ちは長康も同じだ。史実通りなら、このあと柴田軍は増水する湊川(手取川)を強引に渡河したあと、畠山氏の七尾城落城を知って引き返すも、謙信はすぐ近くの砦にいたので柴田軍を追撃、柴田軍は大敗を喫してしまう。

とはいうものの、秀吉のように逃げることは許されない。この戦いは塩見家にとって初陣、勝てなくても一人でも多くの兵を若狭に帰すのが長康の仕事だ。


長康は何とか利家を味方につけて渡河はせず増水が引くまで待つべきと勝家に進言したものの通らず、湊川の渡河が敢行するよう命令が出された。

項垂れる長康に律照尼が

「いるのう、いつの時代にもああいう大将は。でも総大将の命令じゃやるしかないの」

「そうだな…。なあ律照尼、そして新之助、耳を」


柴田軍が渡河を終えたころ、七尾城はすでに陥落していたと知らせが入った。勝家はここで総退却を全軍に下命するが

「上杉勢が寄せて参ります!」


『試練【手取川の戦いで上杉謙信の攻撃より生還せよ】が入りました』


柴田軍は戦慄した。長康は空を見上げて

(大河ドラマで見た手取川の戦いは夜、かつ大雨だったけれど、普通の曇り空のうえ、日中だ)

この時、長康は【SSR◆4天魁星呼保義宋江】のスキル『梁山泊』をフルパワーで使った。


「浮足立つな!」


柴田全軍、勝家や利家も含めて、一斉に膝を屈して長康に頭を垂れた。

(どうなっているのだ!?)

戸惑う柴田勝家、彼の号令に体が反応したとしか言えない。

しかし、今はその理由を考えるゆとりはない。

「上杉勢は無秩序に広がった、ただの横陣で寄せてきている!こちらは魚鱗の陣で応戦する!」

「「ははっ!」」

そして勝家

「魚鱗じゃああ!武蔵殿を中心にして構築せよ!」

「「「おおおおおおおおおおッ!」」」


総大将が勝家から長康に変わってしまった瞬間だった。『梁山泊』スキルは統率力が圧倒的に跳ね上がり、軍勢を一頭の巨獣に変えてしまう。長康の脳裏にある戦場マップには神の視点、空から戦場が見渡せる。

「前田利家!」

「はっ!」

「その方の陣から前進一直線に不識庵謙信がいる。謙信が首、前田にくれてやる!」

「承知仕った!」

魚鱗の陣の構築が終わった。

「全軍かかれえええーッ!」

「「おおおおおおおおおおっ!」



「どうなっている!?」

柴田軍は浮足立ち、追撃には絶好の機会だった。後ろには増水した湊川、最悪な背水の陣に陥ってしまっている柴田軍、上杉にとってまたとない狩場と化していたはず。

それどころか士気は天を衝かんばかり。個人的武勇、闘気、法力、すべてが長康より謙信の方が上だ。

しかし、この世界でズルいようだが『サポートカード』を用いているのは長康だけ。古の名将たちの力をそのまま使うことが出来るのだ。



柴田軍の尋常じゃないほどの統率の取れた動き、陣の構築の速さ、士気の高まりを見た謙信は即座に撤退を決意した。

「儂がしんがりに立つ!みな退くのだ!」

前述したとおり、個の武勇、闘気、法力は長康より謙信の方が上。かつ『しんがり』に特化したスキルも持っている。個の武勇が戦局をひっくり返すことがあるのが『異日本戦国転生記』の世界だ。


史実の上杉謙信なら、ここで退却は選ばずに、さらに上杉家の軍旗『懸かり乱れ龍』の旗を掲げて全軍の士気を上げて柴田軍に突撃するであろう。

こちらの世界の謙信はまさに一騎当千、万夫不当であり、しんがりはいつも謙信が務めて、追撃に来た敵兵を理不尽なほどになぎ倒してきた。上杉軍が撤退を始め、謙信が『しんがり』の状態に入ってしまったら、もうどうすることも出来ない。


その上杉謙信に前田勢が寄せていく。前田利家が上杉謙信を見つけた。

「上杉謙信!武田と北条には通じたかもしれんが、織田にそれが通じると思うなよ!行け、慶次!」

「前田慶次参上!」

謙信の前に辿り着いた前田勢、愛馬松風を駆って謙信に朱槍を振り下ろした慶次だが、同じく槍に受け止められた。謙信ではない。別の武将であるが慶次と同じ朱槍だ。上杉家で武勇を認められた証。

「おぬしは?」

「上杉三郎景虎」

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