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第十三話 旗印『理世安民』塩見武蔵守長康

「久しぶりだのう、作太郎殿」

この日、塩見作太郎は完成して間もない安土城に招かれて、織田信長に謁見していた。

当初、この申し出を断った作太郎だが、光秀と秀吉に頭を下げられ断るに断り切れなかった。


「織田右府様においては、ご機嫌うるわしゅう」

そして信長の用件は作太郎が想像していた通りのものだった。

「塩見作太郎長康、余に仕えよ」

「…恐れながら」

「念のため言うが『おぬしは泉、独占してはならぬもの』という気持ちは今も変わらぬ」

ふう、と息を吐いて信長は城主の席を離れて窓から琵琶湖を見つめた。

「武士になりたくない、おぬしは吉乃にそう言ったな」

作太郎は熱田神宮から美濃に行く間、小牧山の城下に宿泊して、信長側室吉乃の病を治している。生来病弱だった吉乃は作太郎に大変感謝をして、その場にいた信長に召し抱えることを強く勧めた。

しかし作太郎は『申し訳ないですが武士になりたくありません』と断った。吉乃と信長もこの時は苦笑で返した。十分な報酬を支払い、翌朝に作太郎が妻二人と出立するのを見送った。



「気持ちは分かる。武士なんて窮屈なものよ。おぬしのような生き様は我ら武士からすれば羨ましいとさえ思う」

本心だろう。料理人、医者として自由に生きる作太郎、戦なんてしているより、そちらの方がよほど幸せだ。

「織田家は大きくなった。私としては、おぬしを独占するのはならぬという気持ちは変わらぬが織田家当主としては、そうもいかぬ。妻の命を救いし者の自由を奪わねばならぬ。おぬしのような優れた名医が必要なのはもちろんのことだが、先の長くない三好長慶をおぬしが治したと聞く」

「…………」

「おぬしは敵軍総帥の寿命を待つという戦略を根底から覆す存在だ。事実、長慶には随分と苦戦させられた。あれで織田の天下は大きく遅れたであろう」

信長より先に天下を取った三好長慶、史実では四十三歳の若さで亡くなるが、こちらでは存命であり信長と戦った。

史実の長慶は信長より先んじて実力や才能で家臣を登用し、総石垣の城、鉄砲の導入も行っている名将。こちらの世界でも強かったが、信長の勢いに抗しきれず、戦に敗れて炎上する芥川城で切腹して果てた。松永久秀も運命を共にしたという。


「さらに信玄と謙信、早雲や道灌、毛利元就、尼子経久にも同様なことをされては叶わぬ。長慶を治したことは今さら咎めぬ。だが、今あげた大名たちを治すことは認められぬ。作太郎殿、おぬしは儂が統治する大津の民、君主の言葉は聞いてもらわねばならぬ」

信長の言うことは正論である。たとえ一平民であれ君主の言葉を聞かないと云うのは、むしろ傲慢であるし大罪でもある。

作太郎とて愚かではない。近畿、つまり中央の覇者が三好か織田か、はっきりとした時点で信長か長慶に出仕を求められるのは分かっていた。信長の言う通り作太郎は“寿命待ち”という戦略を根底から覆す。放置できない存在なのだ。

薄々想像はしていたので、今回信長のもとに出向く時、家族たちには『武士にならねばならぬだろう』と伝えてある。家康に『城を与えると云ってもだめか』という誘いを断れたのは家康統治下の領民ではなく、かつ家族は能と紗代だけという身軽であったため。

今の作太郎は四人の妻、三人の妾、愛弟子たち、子供たちもいるのだ。


「右府様の申し出、ありがたくお受けさせていただきます。塩見作太郎長康、織田家家臣の末席にお加えください」

「そうか、申し出を受けてくれて嬉しい。官位もくれてやる。おぬしは武州牢人と言っていたの」

「はっ」

「では、この日より塩見武蔵守長康を名乗るがいい」

「ありがたき幸せにございます」

信長の左右に控えていた光秀と秀吉も胸をなでおろした。作太郎が強情を張れば何とか説得しなければならないと思っていたからだ。


「武蔵」

「はっ」

信長は城主の席に再び座った。

「賢い主君なら、おぬしを戦場に連れて行かず、医療もしくは料理に専念させるのであろうが織田家ではそうはいかぬ。おぬしもここにいる筑前と日向と同じく武功を立てよ」

「ははっ、上様、一つお願いがございます」

「なんじゃ?」

「天下一料理人になった時、私は亡き三好長慶殿より『理世安民』の書をいただいております。それを塩見の旗印にすることをお許し願いたいのです」

『理世安民』乱世を鎮め、民を安心させること。これが三好長慶の旗印であった。三好家は滅亡しており、この旗印を継ぐ者はいない。

「つい先日まで上様と戦っていた三好家の旗印を使うのはご不快かと思いますが、私の名『長康』は長慶殿より賜った名ゆえ、せめて志は継ぎたいと思うのです」

「使うこと許す。その旗に恥じぬ将となれ」

「はっ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「という次第で、大津を離れることになった。いきなり若狭一国、小浜の城主に任命されてしまった」

「それは!」

「一国一城の主!」

能と紗代は素直に喜んだが

「あまり手放しでは喜べないかと。若狭武田氏は頑強に織田家に抵抗して、小浜を始め、各支城や田畑も焼き討ちに遭い、今は何の実入りも期待できない国です。民も織田家に反感を持っているでしょう」

弥生の言葉にさっきまで喜んでいた能と紗代は

「「ええ…」」

と言い、気持ちが沈んだ。厄介ごとを押し付けられただけではないかと。


「戦役は二年免除すると言われた。この間に小浜を中心に若狭を富国とし塩見家も強くならねばならぬ。残念だが、うなぎ料理屋『さくたろう』店じまいだ。隠居後にでも再びやるか」

「旦那様…」

このまま放っておいてくれたらよかったのに、能はそう思う。十分に幸せだったのだから。

だが信長は、この世界の歴史は彼女の夫に平穏無事な暮らしを許さなかったのだ。


「それと…正室を決めなくてはならぬ。能、そなただ」

「ええと…それは嬉しいのですが嫁の実家を味方につけなければならない状況も生じるかもしれません。北条の姫の紗代様の方が」

確かに太田家より北条家の方が勢力は大きい。まして能は太田本家の姫ではない。分家である潮田家の姫だ。

正室になりたいものの、ここは北条氏康の娘である紗代の方が適任と思ったのだが。

「能様、残念ですが現在の戦国大名の版図を見るに織田方の武将となった旦那様に太田と北条も味方のしようがないと思います。やはり最初に旦那様のご寵愛を受けて長男太郎様を生んだ能様が正室に相応しいと思います」

「紗代様…」

「そうですね。私も能様が相応しいと思います。旦那様、紗代様と私、夏江様は側室としてお側に置いて下さい。後継ぎは能様の生んだ太郎様と、いま決めてしまった方がいいです」

「私の生んだ三郎と紗代様の生んだ次郎を頼もしい弟に育てなければなりませんね。毛利の三兄弟を越えるほどの!」

「毛利三兄弟とは大きく出たな夏江、しかし塩見家は俺が初代を張ることになる。家の繁栄は二代目の太郎の双肩にかかっていると言える。息子たちが毛利三兄弟ほどになってくれれば、これほど嬉しいことは無い。可哀そうだが、これまで以上に厳しく養育するように」

「「はいっ」」

「能」

「はい」

「頼りにしている」

「分かりました。殿」

「殿か…。いいもんだな。ははは」



妻たちへの話を終えると、長康は妾の三人と弟子三人を呼んだ。

「というわけで、残念だが、うなぎ屋『さくたろう』は店を閉める」

「「…………」」

はる、ちよ、とみは項垂れた。無理もない。『さくたろう』で働くことが彼女たちにとって何よりの幸せだったのだから。

「そう、がっかりするな。隠居後にまたやるから手伝ってもらうぞ。俺が武士でいられる時間など、そんなに長くない。太郎が一人前になったら、とっとと家督を譲って料理人に戻るつもりだ」

「はい、その日を楽しみにしております」

笑顔で答えるはる。

「で、はる、ちよ、とみ」

「「はい」」

「そなたたちの息子は今日限りで俺の弟子ではなく、家臣として取り立てる。無論、俺との間に生まれた男子も長じれば取り立てる」

「「えっ!」」

「そなたらも今日を持って武士の母になると腹を括れ」

「「はっ、ははっ!」」


「しげ」

「はっ!」

「おぬしは今日より『塩見作蔵康久』を名乗るがいい」

長康が名を記した書を渡した。

「はっ、塩見の姓、作蔵康久の名に恥じぬ将になることを、師匠、いえ殿に誓います!」

「ゆう」

「はっ!」

「おぬしは今日より『塩見作治郎康輝』を名乗れ」

「はっ!塩見の姓、作治郎康輝の名に恥じぬ将になり、殿に忠誠を誓います!」

「いぞう」

「ははっ」

「おぬしは今日より『塩見大作康政』を名乗れ」

「ははっ!塩見の姓、大作康政の名に恥じぬ大将になり、殿と若殿にお尽くしいたします!」


はる、ちよ、とみは涙を浮かべて、その光景を見ていた。いつの間にこんな凛々しい若者に成長していたのか。母親の私たちが後れを取るわけにもいかないと、はるたちも武家女になることに腹を括った。とみが

「作蔵殿、作治郎殿、大作殿、お殿様が生きるも死ぬも、自分たちの器量次第と思いなさい。幼少より師作太郎様に学んだこと、存分に発揮するのですよ」

「「ははっ!」」

長康はニコリと笑い、とみを見た。俺が言いたいことを言ってくれたと。

「三日後の朝には小浜に向かう。みな準備を整えておくように」

「「ははっ!」」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


戦役が免除されるのは二年まで。よく信長がここまで譲歩したものだと長康も思う。

史実では若狭武田氏滅亡のあとに入ったのは丹羽長秀であるが、この世界では織田家仕官間もない元料理人だ。いきなり国持ち大名!?と言えば聞こえはいいが、要は能と紗代が想像した通り厄介ごとを押し付けられた形だ。

だからこそ、戦で織田家に貢献をしていない長康にとって、若狭の国を建て直せば信長を始め、他の重臣たちも納得するというもの。


また戦国期で若狭国内の最大の城は後瀬山城であるが、この世界ではその城は存在せず、若狭武田氏の居城はこの時点で小浜城であった。長康が若狭に入ったころは焼け野原であったが。

長康は二年で若狭を立て直して、さらに富国にするために若狭の国中を駆け巡った。まず民心掌握のために若狭の人々で病や障害、怪我の後遺症などで苦しんでいる人々を助けて回った。長康はこれが一番手っ取り早いと考えたが、まさにその通りで若狭の人々は憎き織田の武将なんて気持ちは長康が若狭に入って、わずか三月ほどで吹っ飛び、武蔵様は神仏の化身と敬いだす。



さらに滅んだ若狭武田氏の元家臣である国人衆に会った。若狭国内の主なる城や砦はみな織田軍により破壊されてしまったため、国人衆は帰農していた。

主なる国人衆である逸見昌経、熊谷直澄、栗屋勝久を再建中の小浜城陣屋に召した。


「主君、武田元明殿を討ち、若狭の国を蹂躙した織田家にその方たちも思うことはあろう。まして、新たに若狭に入ってきたのは、つい最近まで料理人と医者をしていた若者だ。織田家に召し抱えられ士籍を得たのも、ごく最近のこと。我ら若狭の国人を馬鹿にしているのではないか、そう考えているかと思う」

「「…………」」

「だが、おぬしたちにも養わなければならぬ者がいるはずだ。ここは堪えて、俺の陣営に加わってくれぬか。なにせ俺の家臣は三人しかおらぬうえ、中々優秀ではあるが若い。おぬしらの力が必要だ」

長康が頭を下げると栗屋勝久は

「武蔵守様は知らぬ間に行ったことでしょうが…貴方はそれがしの老いた母の病を治して下された」

続けて逸見昌経が

「我が娘の命も…」

熊谷直澄もまた

「同じくそれがしの妻の命も…」

長康が最初に行った若狭の民の命を救ったこと。その中には彼らの家族がいたのである。

だからこそ召しだしに応じた。長康の言う『つい最近まで料理人と医者をしていた若者』と侮っていれば、最初から応じない。

「家族を守るのが武士のありよう。その家族を救ってくれた方のお役に立てるのなら、喜んで我ら三人、武蔵守様にお仕えいたしましょう」

史実において度重なる朝倉氏の侵攻を防いできた若狭武田氏の猛将たちが長康の配下となったのだった。



若狭の石高は推定八万五千石である。長康が入る前は戦で荒廃して五万石を下回っていたが長康は何とか新田開発を進めて、この数字に至らせる。かつ海からの実入りも含めれば十二万石ほどの富国になる。

小浜城は若狭攻めのさいに炎上落城していたが、長康は現地の民を積極的に雇い、賃金とは別に飯は腹いっぱいに食べさせた。十日に一度、昼食にうな丼を振舞うと、みな大喜びだった。


最初の家臣である、元弟子たちの活躍もあった。

三国志の劉備三兄弟のように『我ら死す時は同じ日』と義兄弟の契りを交わしている。師匠であり主君である長康のため懸命に働いた。元々長康は彼らが幼少のおりから、それぞれの適性に合った指導をしている。拳法、剣、槍という個の武勇は三人共通に仕込んだが学問において長兄作蔵は建築、次兄作治郎は計数、末弟大作は開発に秀でていたため、それを徹底的に教え込んだ。

なにせ建築、計数、開発の知識を弟子たちに教えている時、長康はその道の神様のサポートカードをセットして教えていたのだから。


もしかすると長康は後に自分が武士にならざるを得ないことを予見していたのかもしれない。自分を慕う弟子たちが後に頼りになる家臣になってくれたらと願い、真剣に指導を行っていたのだ。

元弟子の若き家臣たちは頼りになった。長康が民心掌握のため小浜を留守にしていた時には現地の民をまとめて、築城の指示をしている。新たな小浜城の縄張りをして指揮を取ったのは長兄の作蔵だ。与えられた予算を上手にやりくりして長兄の補佐をしたのが次兄の作治郎、末弟の大作は織田家に焼き討ちされた田畑を周り、新田開発の指揮を取った。


家臣となった国人衆の領地はそのまま旧領を割り当てた。国人は昔から土着した領地にこだわるもの。領地から離れて他所の地を拝領というのは受け入れがたい。長康はそれを汲んで、そのまま任せることにした。もちろん、これは信長の許可も得ている。

若狭武田氏の旧臣三名と作蔵たち三名とも打ち解けた。栗屋たちにすれば息子ほどの年頃であり、自分の子と孫にとって良き同胞になるであろうと思い、作蔵たちを将として厳しく仕込んだ。


東の越前は柴田勝家、西の丹後は同じく織田信長に仕える細川藤孝が治めている。藤孝は義輝から『俺の命を救ってくれたのは作太郎だ』と伝え聞いているに加えて、彼自身がうなぎ屋『さくたろう』の常連であったこともあり長康には友好的だ。


越前の柴田勝家、この世界では信長の妹お市の方は浅井長政に嫁ぐことは無く、最初から柴田勝家に嫁いでいる。世にいう浅井三姉妹は柴田三姉妹として存在し、史実では養子もしくは側室の子とされていた権六勝敏は勝家とお市の長男である。


長康が若狭に入って間もない頃、勝家の妻お市が重篤な病に罹ってしまった。勝家は単騎早馬で越前北ノ庄城から若狭小浜に訪れて、妻のお市を治してほしいと新参かつ若僧と言える長康に平伏して頭を下げた。

それを受けた長康は北ノ庄城へと赴き、お市の病を治している。また勝家とお市の次男が幼少期の熱病により全盲となっていると知り、その場で治した。

勝家とお市の感激は相当なもので『貴公のためなら、この勝家、いかようにも犬馬の労を取りましょうぞ』と約束し、その日北ノ庄城に宿泊した際、お市は侍女から選りすぐりの美少女に長康の伽を務めさせてもてなした。生まれた子供は柴田で大切に養育するとも。

つまり、長康は織田の天下が覆らない限り、西と東の国主と良好な友好関係を築いていた。


長男太郎の守役が決まった。栗屋勝久と逸見昌経が選ばれた。普通、次期当主の守役は譜代の重臣が就くものだが、塩見家は長康が初代となるため、そんな都合のいい家臣はいない。

いないからとはいえ、昨日まで敵将だった男二人を守役に就けるかと、当初は驚かれた人事であったが彼らは敗れたとはいえ、多勢の織田軍に一歩も引かなかった武将だ。その武士の心意気を息子に仕込んでほしい、そう長康に望まれた。

若き主君の期待に応えよう、粟屋勝久、逸見昌経は若君太郎を立派な大将に育てようと決意するのであった。


能を中心とする長康の女房たちも国づくりに尽力した。国人衆の逸見、熊谷、粟屋の各正室と側室も城に召して、侍女として雇うことに。元々彼女たちも家族の命を長康に助けられていたこともあり話はすぐに決まった。国人衆の女房たちは若い正室である能に忠誠を誓い、塩見家を盛り立てて行こうと決めた。共に築城や新田開発の現場に赴き、炊き出しに励んだ。

忙しいが充実した日々、夜は能を始め、妻たちと睦みあうことも忘れない長康。

最近は三人四人まとめて、ではなく一人一人をじっくりと堪能している。翌朝に見る能たちの顔は艶々だ。


『理世安民』の旗印のもと、塩見家はまとまり、若狭の国は富んでいった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そろそろ信長の定めた戦役免除の二年が経とうという頃だった。長康はある場所に向かっていた。供はいない。若狭の国主として軽率な振る舞いだ。

「すまんな…。若狭に入って以来、ずっと迷っていたが…男として、このイベントは体験しておきたい」


訪れたのは小浜の海岸近くにある寂れた寺だった。史実では江戸時代初めに『空印寺』と名付けられる寺。

しかし、長康の目的はその寺ではなく、その横にある洞穴だ。その洞穴の前に立ち、しばらく待った。

「サポートカード【SSR◆4鬼一法眼】【SSR◆4源九郎判官義経】【SSR◆4達磨大師】【SSR◆4聖獣玄武】【SSR◆4聖獣白虎】【SSR◆4聖獣朱雀】」


今までの戦いでは聖獣系のサポートカードは桃太郎の犬、猿、雉であるヤマト、ヒヨシ、アスカのサポートカードを使っていた長康、今回の聖獣はヤマトたちのものより強力だ。玄武は守備力、白虎は攻撃力、朱雀は素早さを格段に上昇させる。そのぶん法力と闘気の使用量も増えるが、今日はそんなことを言っていられない。戦闘態勢に入った。これから現れる者に一切の油断はない。戦闘時の赤い闘気を身にまとう長康。


洞穴の奥からすさまじい殺気を感じる。そして次の瞬間、長康の首に刃が襲い掛かるが玄武の特殊能力『局部亀甲』が出現して、寸でのところに刃は止まった。

「ほう、これは嬉しい。ようやく私を殺せる者が現れたかもしれぬな」

「俺はただ、そなたを口説きに来たのだがな。問答無用で男に襲い掛かったんだ。敗れた場合の覚悟は出来ているか」

「口説くのう…。私には喧嘩を売りに来たとしか思えんが…念のため訊ねる。私を倒したら、どうする気か?」

「抱く」

「ほほう、最後に男に抱かれたのはいつになるか…。よかろう、命のやり取りをした男に抱かれるのは悪くない。しかし…そう簡単にはやられぬぞ」


長康が挑んだ女、それは八百比丘尼である。彼女のサポートカードはRとSRは存在せずSSRしかない。かつ一枚目を入手するには見沼竜神とだいだらぼっちと同様に戦って勝つ必要がある。

そして、この八百比丘尼、見沼竜神やだいだらぼっちのように巨体ではないのに、とにかく強い。出現条件は主人公の段位四十以上、戦闘系SSRカード◆4、これを三枚以上セットしていること。そして八百比丘尼の入定の地と言われている、この洞穴に訪れることだ。


『試練【八百比丘尼と戦い勝利せよ<勝利条件あり>】が入りました』


「きゃははははっ!!」

長刀の一閃、衝撃波も飛んできて、そのまま飛んで衝撃波を追って八百比丘尼自身が突進してくる。

顔は歓喜の笑み、戦うことが大好きな女なのだ。伝承上の彼女がどういう性格であったかは不明だが『異日本戦国転生記』では、そういう設定の人物で、過去には平将門をぶん殴り、平清盛を蹴り飛ばし、源頼朝にビンタ食らわせ、足利尊氏をデコピンで吹っ飛ばしたと、とにかく破天荒な武勇伝を持つ女だった。そろそろ織田信長を殴りに行こうかと考えていたのではなかろうか。

衝撃波を同じく衝撃波で相殺、八百比丘尼は笑いながら長刀を振り下ろした。


ギイイインッ!


何と義経愛刀『薄緑』が八百比丘尼の一閃で折れた。

「嘘だろ、おい…!」

義輝を助けた時の装備では歯が立たない。急ぎサポートカードを鬼一法眼と義経から呂布と項羽に切り替えた。

方天戟で八百比丘尼の強烈な長刀を受けて、隙を見て強烈な蹴りを叩きつけた。

「ふうっ、蹴られたなんて、いつ以来かね。拳の勝負が望みかい?受けて立つよ」

八百比丘尼は長刀を地に放った。

「なめるなよっ!」

方天戟を置き、少林寺拳法開祖、達磨大師の拳が八百比丘尼を捉えるが

「ふんっ」

「うおっ」

まるで合気道や柔道の達人を相手にしているかのよう。拳はとられて投げ飛ばされた。当たらないどころか、長康の拳や蹴りの威力をそのまま利用して投げ飛ばされる。


「強い…」

呂布、項羽、達磨大師のサポートカードをもってしても敵わないとは。これじゃ足利尊氏をデコピンで吹っ飛ばした話も嘘じゃなさそうだ。妙に納得した長康。

「仕方ない…。肉弾戦ではそなたに勝てない。法術と気術も使うぞ」

「いいぞ、どんどん使え」

楽しくてたまらないという顔だ。方天戟を納め、サポートカードを法術と気術に特化したものに切り替えた。

「炎気弾!」

業火に包まれる闘気の大砲、先の八百比丘尼と同じく撃つと同時に走った。

「喝!」

なんと長康渾身の炎気弾は八百比丘尼の一喝で消滅してしまった。長康には想定内だった。目くらまし、もしくは避けさせるために放ったに過ぎない。

彼はゲーム内の格闘術において最強奥義『鳳凰天舞』を繰り出した。闘気を帯びた強烈な拳と蹴りを連続で叩き込む技。

しかし、すべて八百比丘尼は捌き、それどころか至近距離で彼女も強烈な気弾を長康に撃ち、それは直撃した。同時に紙の人形に変わった。安倍晴明の特殊能力『擬態』だが見沼竜神には通用した技が八百比丘尼には通じなかった。背後に回っていたところ、強烈な肘撃が顔面直撃、よろけたところにとてつもなく重い蹴りが長康の延髄を直撃して吹っ飛ばした。

「すごいな、どれだけ修行したのか…」

「そんな面倒なことはしておらん。女も八百年以上生きると色々なことが出来るようになる。ずいぶん頑丈なようだが…まだ続けるか?」

「当たり前だよ。こちとら、そなたを抱きたくてたまらないんだ」

「ほほう、その助平心を汲んで、もう少し稽古をつけてくれよう。かかってくるがいい」

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