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第一話 タイムスリップ?違う、異日本だった。

前から挑戦してみたかった戦国時代のファンタジーものを書いてみました。

どうか、最終回までお付き合いお願いいたします。

人気スマートフォンアプリに『異日本戦国転生記』というゲームがある。

それは令和日本で暮らす若者が戦国時代に転生してしまうと言うもの。

しかしながら、我々の知る戦国時代ではない。法力や闘気などが存在して主人公はそれを駆使して敵勢や怪物と戦う和風ファンタジーの世界。実際の戦国武将は織田信長を始め三英傑も登場する。

主人公は突如転生してしまった異日本の戦国時代の人物となって武将として立身出世を望むか、医者や芸術家などで身を立てて生きていく。


ユニークなのはサポートカードの存在である。史記、三国志、水滸伝に登場した武将たち。日本で言えば源義経を始め、戦国時代に入る前の英雄たち。麒麟や白虎などの伝承上の聖獣たち。彼らがサポートカードとなって主人公の強さ、法力や闘気に反映される仕組みとなっている。


アプリゲームの定番のガチャにより、サポートカード及び武器、アイテムを引くことが出来る。サポートカードのランクは下からN、R、SR、SSRとあり、同一カードを引くとカードの星が上がり、五つで◆4となる。◆4となると最大レベルの五〇まで上げることが可能となり、主人公に様々な恩恵を与えてくれるようになる。またサポートカードの人物はゲーム内に登場せず、あくまで強さの底上げと技能の提供をしてくれるだけだ。


平成の終わりごろに配信が始まり、令和五年の現在に至るまで続く、息の長いゲームだ。制作会社は『YGC』と会社で、かつて家庭用ゲーム機全盛のころ第一線で活躍したゲームプログラマーたちが定年退職後に集い、立ち上げた会社で社名も『勇退した ゲームプログラマーたちが立ち上げた カンパニー』その頭文字を取ったものだ。

旗揚げ当初のプログラマーたちは二度目の定年退職を迎えて、今は次の世代に引き継がれているが『異日本戦国転生記』を始め、その他のアプリゲーム、携帯ゲーム機で毎年のようにヒット商品を出している会社だ。



そして、この『異日本戦国転生記』を配信初日からプレイしている男がいる。課金は月に五千円と決めている。

彼が本編の主人公、冨沢秀雄、当年五十五歳の消防士である。

階級は消防司令長、役職は消防署の消防一課長、現場では大隊長と呼ばれている地位だ。


「ううむ、今回の試練は難関だな…。『前田慶次に一騎打ちで勝て』無理を言いなさんなよ…。今回進めている主人公は文官筋だし、とても…。あ、将棋や碁で勝っても条件は達成されるのだよな…。でも慶次って将棋と碁も強くなかったか?」

仮眠室でスマホ画面を眺めつつ、そんなことを思っていた。


彼は昭和の終わりごろ、高校を卒業すると消防士になった。関東消防局、令和の今では試験も厳しく中々採用されない局ではあるが、秀雄が採用される当時はバブル期であったため、なり手がおらず、試験用紙に名前を書けば採用された時代だった。

中学高校では手のつけられない暴れん坊で警察に何度も厄介になった不良少年だったが、その警察官が『そんなに力が有り余っているのならレスキューになれ』と言われ、就職先が決まっておらず大学に行く気もなかった彼は言う通りにした。


そして気が付けば三十年以上消防士を続けている。今は大隊長なんて呼ばれるくらいに。

結婚はしている。しかし妻の香苗は先年に病気で亡くなり、子供たちは巣立ち孫も二人いる。

今は亡き両親と妹、妻に手を合わせて朝に出勤し、大交代の時は車庫前で部下たちが車両と資器材の点検をしているところを見守る。


「やっぱり慶次は将棋も強かった…。今の主人公の棋力レベルじゃ勝てなかったか…」

まあ、明日に仕切り直そう。彼はアプリを切って、枕の下に入れた。

何事もなく朝を迎えられればいいが、そう思い仮眠に入った。しかし


ピーピーピー!

火災指令、火災指令

小島町二丁目三番地、バス停東小島北側、一般建物出火


秀雄の勤める南消防署の管轄だった。秀雄はベッドから起きて、仮眠室のドアを開けて階下の車庫へと駆けた。そして防火服を着装している時に悲劇は起きた。

「ぐあっ…!」

強烈な胸の痛み、心筋梗塞だ。今は真冬、北国でなくても夜中の車庫は冷え切っている。温かい仮眠中の布団から飛び起きて、大急ぎで防火服を着ていた彼の心臓がびっくりしてしまったのかもしれない。

秀雄は火災出場どころではない、そのまま車庫の床に倒れてしまった。

「救急隊長!冨沢課長が!」

救急車に乗り込んでいた救急隊長の曽根は異変に気付いて、大急ぎで秀雄の元に駆けつける。

「課長!」

「あっ、ぐああ…」

かなり危険な状態、曽根は急ぎ処置を開始して、救急車内に収容、病院を選定して出発した。

しかし冨沢秀雄はそのまま救急車内で亡くなってしまった。享年五十五歳だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


死んだら、それまで。

天国に行くのか、地獄に行くのか、それとも幽霊になって心霊写真に写るのか。

死んだ経験だけは誰にも語ることは出来ない。

それゆえ、死後何者かに転生する主人公の物語は世の人々に受け入れられているのかもしれない。


そして、その死後の転生。まさか自分に降りかかると誰が想像できただろうか。


「ん…」

一人の若者が朽ちた家屋内で目が覚めた。

「あれ?」

粗末な着物、ボロボロの草鞋、どうして自分がここにいるのかも分かっていない。

「…どこだ、ここは。俺は確か車庫で防火服を着装している時に突然胸が痛みだして…」

立ち上がろうとしたが、あまりの自分の体の軽さによろけてしまう。

「ど、どうなっている?なんでこんなに体が軽くて視力もいいんだ?」

頭に触れると薄くなっていた頭髪がふさふさ。出ていた腹部が引っ込んでいるではないか。

若返っている。死んだら何故か若返った。


「これ…まさか…」

彼には一つの可能性が浮かんだ。しかし、あまりにも荒唐無稽な話だ。

息子がよく愛読していたライトノベルにあった異世界転生。まさか自分が体験するなんて想像もしていない。

「俺はあのまま死んだのか…。温かい布団から一気に冷たい車庫の中…。俺の歳じゃ心臓がおかしくなっても不思議な話じゃない…。でも今俺は秀雄とは違う何かになって生きている」

鏡、鏡はないか、秀雄は周囲を見渡すが文化レベルが室内を見ただけで一目瞭然。大昔の日本家屋、もう住民が家を捨てて何年も経っている小さな農家、鏡なんてあるわけがないのだが


ブォン


「え?」


彼の等身大がそっくり映るであろう、大きな鏡が目の前に現れた。

「どっ、どこから鏡が…って、うええええ!?」

鏡に映るのは十代半ばの少年だった。頬を抓るが、鏡に映る少年も同じことをしている。

「こっ、これ…俺が高校に上がったばかりのころの姿じゃないか…」

そう、当時暴れん坊のヤンキーだった若き日の冨沢秀雄だったのだ。

しかし着ているものは不良じみた学生服ではなく、粗末な野良着とボロボロの草鞋、野放図に伸びた髪の毛、垢まみれの体だった。

しかし、体躯は逞しく筋骨隆々だった。腹筋も見事に割れている。

ふと脈に触れた。手首は温かく、そして脈もあった。生きている。冨沢秀雄は死んでいなかったのだ。

そして彼は恐る恐る鏡に触れて、指で軽く叩いた。鏡は消えていった。まるで、そうすると鏡は消えると分かっていたかのように。


「これって、まさか…」

秀雄には、現在の状況に覚えがあった。廃家屋となっている農家で雨露をしのぎ、孤独に彷徨う浮浪児。これは、あるゲームの主人公の開始状況に似ている。

「異日本戦国転生記の…」

浮浪児スタートに酷似していた。同ゲームでは主人公は様々な生き方が出来る。武士は言うに及ばず商人、忍者、医者、料理人、鍛冶職人、旅芸人、漁師、農民、海賊等々、ゲームを進んでいくうえで主人公が選べる道筋だ。武士の子、商人の子としてスタートも出来る。


しかし、あえて難関と言われる『浮浪児』でゲームを開始する者は多い。難易度は高いものの、浮浪児から徐々に成り上がっていく様は痛快であるのだが…

「…しゃれにならんぞ、ゲームだから楽しいが実際に体験するなんてことになったら」

秀雄は首を振り、まだあのゲームの世界に来たと決まったわけじゃないと自分に言い聞かせ、祈るように

「じょ、状況が知りたい。『巻物』」


ブォン


秀雄の前に巻物が出て、シュッという効果音と共に閉じ紐が解かれた。彼の顔は絶望と言うか安堵が一緒になったような何とも言えない表情だった。疑問が確信に変わった瞬間というところか。その巻物を手に取り、恐る恐る広げた。


氏名 作太郎

年齢 十五歳

職業 浮浪児

両親 死別

出身 武州大宮見沼村

段位 三十三/一〇〇

法力 三七七/一〇〇〇

闘気 二八八/一〇〇〇

法術 治癒(大)/収納(大)/生活(大)/鑑定(大)/錬金(大)

気術 気弾(中)/治癒(大)

装備 野良着/草鞋

防具 サポートカードがセットされておりません

武器 サポートカードがセットされておりません

特能 救命処置/号令/料理


所持金 七千八百万貫


サポートカード

【セットされておりません】所持サポートカード一覧を見る。


アイテム

【未装備】所持アイテム一覧を見る。


富札 ゼロ


備考

ガチャ機能は使えません。



ゴクリと秀雄は唾を飲む。彼の前に現れた巻物に記されているものは、いわゆるステータスオープンというものだ。いよいよ観念したか、羅列された数字と文字を読んでいく。

「作太郎と言う名前は、俺がいつもスタート時に主人公につけていた名前だ…。そしてこのステータス、サポカなしでも、この地力に育てた主人公も覚えている。かなり、やりこんだ主人公だったからな…。そして特能は俺自体が持っていた技術と知識が、そのまま特技化した感じだ…」

サポートカードは何を持っているのか、秀雄は配信初日からプレイしているし毎月五千円課金していた。武器とアイテムも充実している。


「良かった…。アイテムとサポカも死亡前と同様に揃っている。スタート時は浮浪児だが、どうやら『強くてニューゲーム』で開始された状態のようだ…。富札がゼロなのでヒヤッとしたが、ガチャそのものが無いのなら必要もないな」


スタート時の廃屋にも拾えるアイテムがあったはずだった。

自分がゲームの世界に来てしまったことを確認するかのように、秀雄は廃屋内を探ってみた。ゲーム通りの場所に朽ちた木刀と五文の銭が落ちていた。

「決定的のようだな…。にわかには信じられないが…叶うなら普通に死んであの世の女房に会いたかった」

愛妻は先立ち、子供たちは巣立っている。定年まで、あと五年、消防士として堂々と生きたと思う。死後は子供たちが何とかしてくれるだろう。


廃屋を出た。少し歩くと綺麗な沼地に出た。

「そういえば、出身は武州大宮見沼村とあったな…。この時点の主人公は浮浪児だから、確か生まれた村は凶作により逃散相次ぎ廃村となった設定のはず。もう故郷は無いと思っていいか。現在で言えば、さいたま市見沼区のことだろうが…」

秀雄自身の出身地は神奈川県の小田原市だ。関東消防局に務めるようになって都内に越して結婚もした。

「まあ、主人公が浮浪児の場合、出身地は完全にランダムだしな。受け入れよう」


沼の水面に映る自分を見て

「思えば、このくらいの年のころはヤンキーやっていて両親や妹にずいぶんと迷惑をかけていたな。本当に馬鹿だった」

そんな秀雄が消防士になり、消防学校の卒業式で見せた規律正しい振る舞いを見て、彼の両親と妹は号泣した。そんな両親と妹も、すでに秀雄を残して他界した。

だから彼にとっては死後ゲームの世界に転生したことなど迷惑以外の何物でもないだろう。若き日の自分を思えば、親孝行はいくら尽くしても足りないくらい。兄の秀雄が怖がられて妹には友達が出来なかった。消防士になり、いい兄貴になろうとした矢先に妹は病死してしまった。悔やんでも悔やみきれない。あの世で会って両親に孝行を尽くし、妹のためなら何でもしてやりたかった。でも、それは叶わないのだ。

どんな原理が働いてこうなったのかは知らない。だから

「馬鹿野郎―ッ!」

秀雄は空に向けて、この理不尽な仕打ちの怒りをぶつけた。

「香苗!君のもとに行ってやれなくてごめんな!父さん、母さん、そっちで孝行できなくてごめん!真理子、兄ちゃんを許してくれ!」

知らない間に涙が出てきた秀雄。ザブンと沼に飛び込み、怒りを晴らすように泳いだ。

そして立ち水面を乱暴に叩いた。

「こうなったら生きてやる!あの世の女房と両親と妹に、たくさんの土産話を持っていけるくらいに!生きてやるぞーッ!」

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