1.今日から新生活のスタートっ!!①
春が来て、寒かった冬が終わりを迎えた。
私は陰野冬菜。今日から高校一年生。新生活がスタートする。新しい学校は自宅から歩いて数十分くらいのところにある。
「待ってよぉ~!冬ちゃ~ん」
「…早く来な~。おいてくぞ~」
「意地悪しないでよぉ~。んっもう…」
そう言って私の隣にやってきたのは幼稚園からの幼馴染、家がお向かいさん同士、そして私の恋人でもある。彼女の名前は朝陽春菜。私と同じ高校に通う。しかし、私たちは恋人同士であることを周囲に隠していた。その理由ははやり『女の子同士』だからだ。私たちは今まで恋をするのは女の子ばかりだった。幼稚園、小学校、中学校。特に思春期の小学6年生の頃から中学3年生までで数人の女の子を付き合ったことがある、が…どの子も3か月持たずにお別れしてしまう。それは私だけではなく春菜もそうだったらしい。
私たちがレズビアンなのだと気づいたのは中学1年の時だった。きっかけは春菜の恋愛相談に乗っていた時だった。気になる人がいるということだったので話を聞くために春菜の部屋に招かれた。
「…という訳なんだけど。冬ちゃんどう思う?」
「どうって、なぁ~」
「相手も好きだと思う?」
「わかんないけど…。春菜が好きなら告ったら?」
「勇気ないよ~」
「…めんどくさ」
「冬~!」
「あ~、もう。好きなら告るしかなくない?どんな男か知らんけど」
「あ!私の好きな人は…え~っと、ね。…女の…人、なんだ」
「はぁ~。やっぱり女だったか」
「私は女の子しか好きになれないんだもん。冬だってそうでしょ?」
「私はレズだもん。今の恋人もめっちゃ可愛いし」
「いいな~。沙也加ちゃん可愛いもんな~。私も恋人ほしい~!!」
そういう話をして自覚したのを懐かしく思い出しながら学校へ向かっていた。
今私の恋人は隣に並んで歩いている春菜だ。去年の暑い夏の日のこと。私は春菜と一緒に市民プールに遊びに来ていた。春菜の水泳の訓練に付き合う為に。
「じゃ、準備体操するよ~」
「は~い。よろしくね、冬」
「ん。任せろ」
準備体操を終え、一緒にプールに入る。クロールの練習を開始した。一時間くらい練習して息継ぎが苦手だった彼女もしっかり息継ぎができる程度まで出来るようになった。
「そろそろ上がろうか」
「だね。ちょっと疲れたかも」
私たちは休憩スペースに座った。体が冷えないようタオルを肩にかけて。暫く周りの人たちをぼーっと見つめていると春菜が私の肩をちょんちょんしてきた。
「ん?…何?」
「あ、あの、さ。わ、私さ…」
「歯切れ悪いぞ。はっきり言いな」
「う、うん。私さ、好きな子ができた」
「ん?前の子と別れてまだ一か月経たず、でか?」
「うん。自分でもびっくりしてるよ」
「相手は誰?私の知ってる子?」
「うん。知ってる子」
「誰?オナクラ?」
「うん。実はね…」
「うん」
春菜は黙ったまま自分の右手の人差し指をまっすぐ私に向けた。ま、マジか。私、なのか。そ、そうか、そう来たか。
「なるほど。私なのね」
「う、うん。一番好きだとわかってしまったの。冬菜、好きです。私の恋人になってください」
そう言って右手を広げた。私の答えは決まっている。
「私も春菜が好き。ずっと一緒に居たい。恋人になって」
「ありがとう、嬉しい」
私は春菜の手をそっと握りしめた。私は春菜の今にも泣きそうな表情が愛おしくなり、頬をそっと添えた。
「冬菜!?ここ外!みんなに見られるよっ」
「あ、しまった。御免。もう帰らない?」
「うん。私の部屋、来る?」
「お邪魔します…」
そうして私たちは市民プールを後にし、春菜の部屋に向かった。春菜の部屋に到着すると扉の鍵をかけた春菜が私に近づいてきた。お互いの顔が近づいていき、あと少しで口と口がくっつく距離になった。
「…冬菜、キス…して、いい?」
「するつもりだから、この距離なんでしょ?いいよ」
お互い目を瞑り、そっと口づけを交わした。この時の私たちはキスとは口と口がくっつくだけだと思っていたから、これがキスだと思っていた。暫く時がたって、キスの種類を知るまでは。
懐かしい思い出にひったっていると学校に到着した。