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前哨戦

広く青い空を駆ける鳥の隙間を縫うように鉄の雨が降るようになってもう2年もの時が過ぎた。学徒兵である私もかれこれ半年以上このトリアの地で戦い続けている。

母が待つ故郷に帰るために一刻も早くかの王国を打ち倒す必要がある。栄えあるゾ―リュック帝国に…





空中を突き破るような音が通り過ぎる。


それと同時に機体に触れる整備兵から通信が入る。


「マニューバナイトの調子は完璧だ! 野郎のケツに120 mm榴弾を食らわせてやれ!」


「弾が大きくたって、こいつらの装甲は遠距離戦じゃ有効打になりませんよ。」


「気持ちの問題だ、いいから行ってこい!!」


リフトを下りながら整備兵は激励を送るようにコクピットを叩く。ちっとも効かないし、何なら少し臭いやり取りだったなと軽く後悔しながら、切り返す顔で叫ぶ。


「了解、ゲルハルト・ディープマン出ますよ!」


カタパルトではなく倉庫からの出撃であったが気持ちは大事である。ホバーを使い前進していると僚機が見える。ゲルハルトが乗るインリターナーと同型のタイプだ。


「ハルトマン!! いつも通りだ!トンガリ岩まで行って、高度狙撃!」


僚機がその手を片に置くよう接触させ通信してくる。簡単に返事を済ませると速度を上げ、目的地へと向かった。






トリアは南部の最前線であり、ハルトマンら後衛が詰めている倉庫よりも少し東に行くと鉄鋼を着た巨人、マニューバナイト同士の肉弾戦が繰り広げられている。そうした戦場が見渡せる高度から榴弾を打ちまくるのが今の彼らの仕事なのである。轟音が鳴り響く中、自身もその原因となっていながらもディープマンの表情には汗一つなかった。


 それもそのはずである。学徒兵として徴兵され、機械いじりができるからパイロットに任命されたと思えば、現場では「ヒヨッコは当てにならん」と後衛で弾をばらまく仕事を半年近く続けているのだ。


「浮かない顔だなハルトマン、この仕事は不満か?」


「顔、見えてないでしょ。 不満と言えばないですが、焦りでしょうかねこれは。」


「あのよ~いくらここ最近押されてるからって天下のゾ―リュック帝国が負けるわけないだろ? 少なくとも1000年は負けてないんだぜ!」


「それはいままで文明の利器を握るのが早かったからでしょう。 マニューバナイトは元々リーディアン王国の発明品ですよ。戦争だって原料鉱石を盾に有効に外交を進めようとする王国が…」


「っ!? 待て!なんだあいつ見たことない機体だ!」


会話を中断し、カメラを見ると確かに見える。通常マニューバナイトは16~20 mほどのサイズであるが、「それ」は明らかなオーバーサイズ、そして足を持たない、さながらチャリオッツであった。


「とにかく打て!あんなもん白兵戦の区画まで持ってこられたらまずいぞ!」


120 mmの榴弾を雨を降らせるように打つがまるで効かない、速度は遅いが着実に前線を崩されている。初陣以来の緊張感を帯び、ハルトマンは冷や汗で瞼が重くなるようだった。


「・・・撤、た・・・・・・撤退!撤退!」


砂埃を巻き上げながら前衛部隊からの指令を受け取り、牽制射撃を行いながら前線を下げる。部隊としての崩壊は免れたが、一時的な凌ぎである。


部隊は後衛の詰め所まで後退し、整備や会議を行っていた。ハルトマンは前衛部隊の機体メンテナンスに追われ、思考を巡らせる暇もなかった。日が沈むころに収集がかかり、偵察部隊の報告から敵の進行が止まった旨を聞かされる。


「最前線から詰め所までは開いた崖によって一本道になっている。 敵は万全の態勢で攻めてくるだろうが、数の有利はこの地域では関係ない、各自持ち場につき各個撃破する方針で行くぞ!」


士気は低いがそれでもやらなければいけない、戦場に慣れてきたからこそ感じられる「死ななければいけない」空気にようやっとハルトマンは死期を知覚した。決戦は、明日の早朝である。


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