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第7話 思惑

「呪いの力は生まれた時より私の側にありました。この力が呪力というものだとわかったのは魔法学校へ入った時です。誰も知らなかったのに、一人のとある先生が教えてくれましたわ」


否定することもなくミューズは話し始めた。

怯えていた表情など影も形もない。


「まさか自分がかけられる側になるとは思ってませんでしたが、私にとってはとても都合が良かったのです」



煩わしい縁談の回避も出来たし、複雑な人間関係も整理出来た。

呪いが功を奏したのだ。



「ティタンからの愛情もしっかり受け取る事が出来ました」

頬を染め瞳を潤ませるミューズは、まさに恋する乙女であった。



容姿が変わろうと、もしかしたら自分も感染ってしまう可能性がある中で変わらぬ愛を注いでくれた。


一途な愛情にミューズの心は満たされた。


出世したティタンに言い寄る女性も増えたが、ミューズが回復した今はその数も減っている。


公爵家であるスフォリア家と表立った対立は出来ないし、今回の件でティタンの行動は純愛として世の女性方に好意的に受け取られている。


そこに割って入る者など0に等しい。




「エリック様とサリー様には感謝しております。呪術師が居ない中、私が解呪しては皆不思議に思ってしまいますもの」


死ぬつもりはなかったので呪いの進行を遅らせていたが、なかなか身体を張った計画だった。


「呪いの力を悪用されるのは困りますので、サリー様に協力させてもらって呪詛返しに転換しました。加減がわからず思ったよりも影響が強くなりすぎてしまいましたが、呪いをかけた者たちを根絶やしに出来て安心しましたわ」


この王都に呪いの力はいらないとミューズは思う。


強い力は害にしかならないのだ。


知っている者が皆消えてしまうのが望ましかった。





人を呪い殺したと同義であるに関わらず、ミューズは心を痛めている素振りもない。


「それにしても貴方が呪術師とは知りませんでしたわ、薬師サミュエル様」


「!!」

明らかに動揺するサリーと、顔には出さないが狼狽えるエリック。





「結構情報通なのですよ、私」

ころころと笑うミューズからは、嫌味や含みなど一切感じられない。


エリックの専属薬師として登用されているサリーことサミュエルは滅多に人前に出ない。


顔どころか存在すらも知らないものが多いのだ。





「そうですわ、サリー様にはこのお礼をさせてもらいます」


すっとサリーの方に近寄ると手から温かな光が放たれる。


「うっ!」

眩しさにサリーは目を細め、顔に熱い力が感じられた。


「何をした…」

サリーは顔を抑え、ミューズから距離を取る。


「もうフードを被らなくて良いですよ、あなたの傷はなくなりました」


サリーは自らの顔を触り、滑らかな手触りを感じる。

急いで窓に映る自分の顔を見る。




フードを外すとあれだけ忌み嫌っていた大きな傷が顔から消えているのだ。


「こんな強力な治癒魔法を詠唱なしにどうやって?」


普通の人であれば簡単なものならば魔力も呪力も治癒力も鍛えられる。


しかし、今みたいに高等なものだと適性が必要だ。




その適性も殆どの者が1つだけだと決まっている。


呪詛返しもできるほど呪術を極めているものが、治癒魔法も極めているなど、あり得ないのだ。


「私はただの一般人です。本業の魔術師様達のようにはなれませんわ。ですので、呪術の力はここだけの話にしてもらえませんか?特にティタンには」


恥じらうミューズだが、エリックは脅しとしか受け取れない。


「断ったら恐ろしいことになりそうだな」

「何をおっしゃいます、私はか弱い乙女なのですよ。ティタンが大事にしているこの国の繁栄しか願っていませんし、彼がいる限り恐ろしい事など起こるはずもありませんわ」


言外にティタンがいるうちは何もしないと言われているようだ。


彼がこの国を去ったらと考えると…ゾッとする思いだ。




「あぁ、もうすぐティタンがこちらに着きますね」

そっとソファに戻り、座り直す。


「今後ともティタンの事をよろしくお願いします。彼は真っすぐで不器用ですけれど、とても優しい人です。きっとこの国の為になるでしょう」




優雅に礼をした後、コンコンとノックの音が響いてきた。


ティタンからの愛が重いように思えて、ミューズの方が更に重い。というのを話にしたかった気がします。



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