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第3話 婚約破棄

ミューズはヒューヒューと浅い呼吸を繰り返し、ベッド上から外を眺める。




今日はとても天気が良く、散歩日和だが、今の体ではとても歩けそうにない。


トイレすら侍女の力を借りるのだ、自分の足だけで歩くなんて出来るわけがなかった。




(皆に迷惑をかけて申し訳ないわ)


すっと自分の手を見つめ、あれだけ白く細かった手がパンパンに腫れ上がり赤くなっているのをみると、未だに信じられない。


鏡で顔を見たときは、赤い湿疹と浮腫で我ながら驚いた。


茶会の前と後で変わってしまった自分の容貌は、我ながら嫌悪してしまう。




それなのにティタンは自分の手に躊躇なく触れ、愛おしげに髪にキスまでしてくれた。

じわりと涙がこみ上げる。


ティタンの愛情に不謹慎ながら嬉しさと喜びが湧き上がるのだ。



心配と迷惑をかけて申し訳ないと思いながらも、ティタンからの愛を惜しみなくたっぷりと感じられる今は、とても幸せなのだ。





家族やこの屋敷にいるものもそうだ。


自分のために甲斐甲斐しく世話をしてくれ、嫌な顔一つしない。


心配して手紙を出してくれる友人もそうだ。

代筆で手紙を出しているが、感謝している。





だが、この幸せをそろそろ終わりにしなくては。





「ティタン、今日も来てくれてありがとう」

弱々しく微笑むミューズにティタンも笑顔で応える。


「俺が会いたくて来てるんだ。君に会える事が俺の唯一の幸せだ」

両手一杯の土産を侍女に渡し、花を生けてもらう。




「今王都で流行っている本も持ってきた。よかったら体調が良い時にでも読んでみてくれ」

いつでも読めるようにとサイドテーブルに置いておく。


「他に欲しいものはあるか?もしあれば次の休日まで用意する。何でも言ってくれ」

「ありがとう」


侍女達が出ていき二人きりになると、いつものようにティタンはミューズの手を取る。




しかし今日は違った。そっとミューズの手が離れてしまう。




「ミューズ…?」

嫌だったのだろうかと悲しそうにしながらも、ティタンもすっと手を引いた。


言おうと思った決心が鈍りそうだが、震える声でミューズは伝える







「ティタン=ウィズフォード様、私との婚約を破棄してください」


ティタンの表情が消える。


「なぜ?」

冷めた声、鋭い視線。


身震いしながらミューズは続ける。


「私はこのような体です、あなたの隣に立つ資格がありません。あなたは将来有望な騎士です、このような醜女がいては出世の邪魔です」


自分で言って泣きそうになる、しかし伝えなくては。


「良い縁談の話があると聞きました。私ではなく良い令嬢はたくさんいらっしゃいます。その方達と縁談を組めば、きっとあなたは幸せに…」





「俺の幸せは君のそばにいることだ」

静かに、しかしはっきりと話す。




「婚約破棄などしない。してくれと言われても困る、俺は君がいないと死んでしまう」

じわりとミューズの目に涙が浮かぶ。


不安だったろうにと優しく頭をなでられた。


「病で弱っていると悪い方向に考えてしまうよな、今は治す事だけを考えてくれ」


優しいティタンに涙はしばらく止まりそうになかった。



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