わすれもの
「年末」をテーマに書いたものです。
卸すのが遅くなり季節はずれてますがよろしくお願いします。
クリスマスも終わりそれぞれの家で大掃除なるものが始まりだした頃、時子は実体のない何かに感情をぶつけていた。
「なんなんじゃこのクリスマス後の謎の期間は! 燃え尽き症候群で何のやる気も起きんわ!!」
「いや、時子はクリスマスに何も成し遂げてないでしょ。それに、こんな田舎でクリスマスなんて言ってもなーんもない」
そういうのは時子のクラスメイトの由華だった。今日は12月27日、何もなかったクリスマスの慰安会(?)として由華の家に集まっていたのだ。
「うるさいんじゃ由華は。頭でっかちで正論しか言わん! 私はそこらへんに落ちてる幸せ拾ってきますよー」
「拾われる幸せも時子に拾われたんじゃやりきれないだろうよ」
「特大の幸せ見つけてくるから!」
さらさらと弁の立つ由華に感情をよりかき乱された時子は飛び出すように家を出ていく。
啖呵を切って出てきたはいいものの、時子たちが住んでいる地域の近所にはふらっと立ち寄れる場所はイオンモールしかない。いわゆる田舎ってやつなのだ。
カラオケで楽しくやろうにも、一人カラオケはハードルが高すぎる。だからといって、由華に電話して来てもらうのはさすがの時子もプライドが許さなかった。
歩きながらいじっているスマホの画面さえ凍るように冷たい。
付けたままでもスマホがいじれる手袋欲しいなぁ。
そんなことを考えているとそのスマホに異変が起きた。
「あれ!?」
ぶーっという音ともに電源は二度と入らなかった。
「おかしいな、寒すぎるからかなー」
仕方なくすぐ目の前までやってきていたイオンモールに入り、フロアにあるベンチに座る。
特にやることもなく、ベンチで年末の楽しそうな家族を眺める。
「何やってんだぁ、わたし」
ふぅと横に手をつくと手袋がある。
「あれ、これスマホいじれるやつじゃん……」
この後、時子の脳内で葛藤があったことは言うまでもない。しかし、最終的に勝利を収めたのは天使の方だった。
「これが二階のベンチの方に忘れ物としてあったということですね。ありがとうございます」
忘れ物センターのお姉さんのにこやかな笑顔につられて、今まで下向いていた気持ちがすこし上向きになる。
「いえいえ。当たり前のことをしただけですよ」
善行をして少しいい気分になっている(脳内の由華が『調子乗るな』と言ってくる)と、横で家族を連れたお父さんが話し始めた。
「……はい。それならこのお姉さんがつい先ほど届けてくれましたよ」
「ほんとに!? ありがとうね! お姉ちゃん!!」
その赤と白の衣装を来ている女の子は、両親に連れられてやってきたようだった。
「その格好、かわいいね」
「おとうさんが用意してくれたの!」
「クリスマスは私の仕事で家族サービスできなかったもので。少し遅いんですがサンタの衣装を、ということになったんです」
女の子がくるりと回ってみせると、嬉しそうに百点満点の笑顔を浮かべる。
「それなのに私がうっかり忘れ物を、ありがとうございます」
お父さんが照れくさそうに説明したあとに深々と頭を下げる。
「いやいや感謝されるようなことじゃないので。娘さん想いのいいお父さんですね。楽しんでください」
「由華ー? ただいまー!」
「幸せ見つけられたか?」
「そりゃあもう、大きな大きな幸せを見つけてやりましたとも」
それを聞いた由華はにやにやしながらテーブルの方を指す。
「これよりも大きな幸せかしら?」
テーブルの中央に鎮座しているのは、ケンタッキーのボックスだった。
「あんた、こんないっぱい買ってどうするつもりさ」
好物を目の前にして興奮が抑え切れられない時子の声は少し震えていたかもしれない。
「これから他の子たちも来るの。今日は少し遅いクリパね、クリパ」
「……!!」
今年のクリスマスは遅れてやってきたみたいだ。
時子はそう思ったのだった。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
ぜひ感想をいただけると泣くほど喜び舞い踊ります、何卒。