処刑された最低王子は転生して死んだ悪役令嬢に許しを乞う
断罪された後ってどうなるの?から始まるお話。 @短編その10
3部作になったよ!
2・婚約者令嬢の朝は早い https://ncode.syosetu.com/n9802gg/ 公爵令嬢視点。
3・遊びは終わりだ、お前達 https://ncode.syosetu.com/n0046gh/ 王子視点。
ほぼ毎日うpしてます。いつまで続くか。
「メラディ。お前とは今この場で婚約を破棄する!」
やったぞ・・・言った・・・言ってやったぞ!
この時の私の胸は、達成感で熱く昂っていた。
酷く意地悪な女との、10年もの婚約という柵からやっと解放されたのだ。
これからは、愛するイヤリと人生を歩んでいくのだ。
・・・私はこの時の自分を切り裂いてぶつ切りにしてやりたい。
私は愚かな王子だった。
それは卒業パーティーでの事、多くの大臣や著名人を輩出した名門の学園だけあって、国内外の貴賓を招いての盛大なパーティーで・・
10年もの間一緒だった婚約者、メラディを彼女の言い分など全く聞かず断罪し、国から叩き出したのだ。
そして彼女との婚約を『破棄』したのだ。
その後の展開だが・・・
メラディの父であるケーラ公爵は娘への仕打ちに激怒し、王家に反旗を翻した。
彼は公爵家、しかも国でも1、2を争う権力を持つ。
国に対して不満がある貴族もそれに同調。ケーラ公爵は諸外国とも手を組んで一気に王城に攻め入ったのだ。
この婚姻は、王家と権力を握るケーラ公爵家とが手を結び、共に力を合わせて国を繁栄させる・・本当に重要な婚姻だったのだ。
好きな女がいるなら側室にでもすれば良かったのだ。
高位貴族という環境で育ったメラディはその点をしっかり教育されていたので、よっぽどの事がなければ目くじらも立てなかっただろう。
だが余りにも私は彼女を蔑ろにし、最後には大勢の人の前で断罪、婚約破棄を言い放ったのだ。
遂にケーラ公爵は、私に剣を突き付けた。
周りには父である王と、家臣の亡骸がいくつも横たわっていた。
「娘はお前に国を追い出された所為で・・・命を絶った。お前のせいでだ!!頭も良く、賢く、優しく、本当になんでも出来る自慢の娘だった!この国の為ならと、婚約を受け入れた娘に、お前は何をした!!出来が悪いのは自分のせいだろうが!娘を酷く扱う事で鬱憤を晴らす、狡いクズが。すぐには殺さぬ。じっくりと死んで行け」
ケーラ公爵の恨み言を、ぼんやりと私は聞いていた。
死んだ?メラディが?どうして!
私は追い出しはしたが、彼女が住める場所も、生きていくには充分過ぎる財産も渡したんだ。
命を絶った、と言った。という事は・・
メラディ・・君は・・・わたしを愛していたのか?
私はずっと君に・・嫌われていると思っていた。
彼女は出来過ぎで、私はいつも『彼女のようになれないのか』と言われ続けていた。
誰もが彼女を褒め称えた。誰も私のことなど見やしない。誰も・・
そんな時、イヤリが現れた。優しくて、可愛くて、温かで・・
「王子様は頑張っているよ。でもたまには息抜きも必要だよ。頑張っているの、知ってるよ」
励ましてくれる彼女に、私は慰められた。いつしか心も惹かれていった。
最初はメラディに対して後ろめたさがあったが、次第に鬱陶しくなっていった。
どんどん惹かれて、イヤリの事だけを信じるようになっていった。
今思えばどうしてイヤリをこんなに信用したのだろうか。何故あんなに心惹かれたのだろうか。
確か断罪した日より半年くらい前までは、私も政略結婚とはいえ体面だけは繕った。
お義理の愛情程度の気持ちではあったが・・・なのに。
イヤリは言った。メラディに虐められていると。酷い事をされたと。怪我もしたと。
証拠なども少なく、証拠とは言い難い物で、証言ばかり。それもイヤリが言った言葉だけ。
誰が見ても聞いても疑問だらけの罪状なのに、私は自信満々で断罪したのだ。
あの時の・・・メラディの呆然とした表情。
忘れる事など出来ない。
嘘は言っていません 信じてください
潤んだ目が語りかけていたのに、私は『国から出ていけ』と言ったのだ。
彼女の目が絶望に変わったのを見て、ますます私は図に乗ったのだ。
勝った!この女に勝った!!やっと言い込める事が出来た!!ザマアミロ!!
今ならわかる。
あの時の私はどうかしていた。いつもの私ではなかった。
それから数日後。
たった数日で、ケーラ公爵は大勢の兵を引き連れて、王城を取り囲んだのだ。
こんなに早く?
つまり、だ。
元々何かあったら、いや・・王城の者が何かしでかしたら、即刻攻め入る段取りを整えていたのだ。
きっかけ・・それが私の婚約破棄だった。
しかもその相手は、この集団の長であったケーラ公爵の愛娘だった。
更に彼女は命を絶ったのだ。何を以て赦されようか。
あっという間に城は攻め落とされた。
王族も兵も使用人も皆殺しだった。
私の愛しいイヤリは、私といつまでも一緒だと言った娘は、真っ先に逃げた。男と共に。
その男は私の親友だった。私よりも愛しているのだと。上手く騙せたと思ったのに、こんなに早く駄目になるとは、なんて役立たずだと言ったそうだ。娘を死に追いやった女だ、拷問の末、殺したそうだ。
なんだ。
私はとんだ道化、愚か者だったのか。
今私は城門前に立たされ、私の側には一本の槍が置かれている。
道行く人に刺せと用意されている。
誰も刺さなくても、食べ物も飲み物も与えられていない、あちこち傷があり、出血もある。
そして今はまだ寒い春で、夜中はまだ凍える寒さだ。私は2日と持たないだろう。
「すぐに楽にして差し上げます、王子」
親切な街の人が、早く死なせてやろうと槍で私を突き刺してくれる。
だが素人だ、どこに刺せば良いのか判らないようで、無駄な痛みばかりが増える。
それでも血が多く流れてくれるから、もう暫くの辛抱だ。
ああ・・・今思い出せるのは、メラディのぎこちない笑顔だ。
8歳で出会った時、もじもじとして、顔が真っ赤で・・
初めまして 私 メラディ です・・
一緒にいても男の子とでは遊びも違う。
私は彼女と遊ぶ時、自分のやりたい遊びばかりしていた。
木登りとか、虫取りとか、かけっことか。
女の子だとか、ドレスで動きにくいとか、全く考えてやらなかった。
彼女がもたもたついて来るので「もっと早く来い!」と急かした。
のろまだな、面倒だな、邪魔だな・・こんな事ばかり思っていた。
自分勝手ばかりしていたのに・・・
年々大きくなると、遊ぶことも無くなって、彼女はお妃教育が始まって。
そして勉強もどんどん難しくなって。そのうち私は彼女についていけなくなって。
面白くなくて、彼女に意地悪をするようになって・・
15歳で学園に通うようになって、試験の順位が張り出されて・・
1位 メラディ 102位 私
今までこの学園に通った王族は、皆10位以内、たまに15位くらいのもあったが、ここまで悪い成績は初めてだと。つまり・・私は王族の落ちこぼれだった。皆が私をガッカリとした顔で見た。
それ以来メラディに話しかける事も、話しかけられるのも嫌になった。
いや、心の中では、だ。ちゃんと普通に接していた。心を知られぬ様に接していた。
毎日劣等感ばかりが募っていく、そして彼女への恨み、妬みが心に蟠り、燻る。
・・・ああ。私が何もかも悪い。
こんな私だったから、あっさりとイヤリに誑かされたのだ。
今思い直すと、確かに証拠としては弱く、証言もイヤリの泣き落とし。
冷静であったなら、突っ返した案件だ。心奪われていたとはいえ、正常で無い頭だった。
死んだのか・・・メラディ・・・なんで死んだのだ・・・
生きていたなら、愚かな私の結末を見て『ざまあみなさい』と言えたのに。
・・優しいメラディはそんな事言わないか。
・・私もじきに死ぬよ・・・
君は天国に行くだろう。私は地獄だろうね。
もし会えたなら・・・謝りたい・・・
すまなかった・・・
メラディ・・・・
「・・・・?」
目の前には、いつもの天井。
私のベッドの天蓋だ。
辺りは薄暗い。夜中みたいだ。
なんだ?夢・・?
体を起こし、机に目をやる。日めくりカレンダーを見ると・・
3月1日・・・
3月1日?
どういう事だ?私が刑に処されたのは3月15日だ!
これは・・・
時間が戻った?なぜ?
・・・・・・・・・
そうだ。
これは神様の思し召しだ。
優しくて、賢くて、国になくてはならない・・メラディを殺すなと。
だから死なせるきっかけになる私さえも、生き返らせたのだ。
手早く服に着替え、廊下に出る。
均等な間隔で明かりが灯っているので、辺りが見渡せる。
でも警護の兵が歩いているのが見えた。今後ろ向きだ。
廊下はやめておこう。
部屋に戻ると、私はテラスに向かう。
メラディはお妃教育のために、城に住んでいる。
私の部屋は3階、メラディの部屋は2階、真下にある。
2階を見下ろすと、部屋に明かりが灯っている・・起きているようだ。
テラスの手摺りを乗り越え、ぶら下がって少し反動をつけ、飛んで2階テラスに着地。
少し躊躇したが、思い切って窓を指で叩く。
音に気が付いて、メラディが振り向いて、私を見て驚いたのか体をピクと跳ね上がらせる。
驚かせてしまったな。それはそうだ、夜中に誰かが窓を叩けば誰だって驚くだろう。
私だと分かった様で、こちらに小走りで駆け寄って、窓を開けた。
「どうしました?こんな夜中に」
寒いから入ってくださいと招き入れる。
見ると机の上には、本や何か書き物をしているだろう紙が何枚もあった。
「勉強していたのか?」
「・・・はい」
ああ、彼女はこうして頑張っているというのに・・
本当に私は馬鹿だ愚かだ間抜けだ、言葉で言えないほどの阿呆だ・・・
「頑張っているんだな」
「・・・私の価値は・・このくらいしか」
価値!!!メラディはそんな考えだったのか。
私のせいだ。
卑下して妬むだけの私のせいなのだ。
そして私は彼女を追い込んで死なせてしまうのだ。
「すまなかった」
死ぬな。死んでくれるな。
綺羅星の様な、才能溢れ、努力を惜しまない、素晴らしい君は死ぬな。
私は跪き、彼女の右手をとると口付けた。
「どうなされたのです?突然・・」
ふむ。
今までの態度からすると、真逆・・
それはそうだな・・急に心を入れ替えた、いや。
一度死んで、入れ替わったのだな。
「最近の私は君を粗末にした」
「・・・」
「君は・・少しは・・・・」
「?」
「やきもちを妬いてくれただろうか?」
「ま・・!」
「あまりにも君の反応が薄いので、無駄な戯れは止めることにした」
「・・・そういう事でしたの?」
嘘だ。前の私はもうあの女に心底ゾッコンだった。
・・愚かだった。
この愚かな私と、私を誑かした毒女こそ断罪されるべきなのだ。
だが、もうメラディを断罪する愚か者はいない。既に頭は冷え、正気の私だ。
毒女の口にする世迷い事に、耳を傾ける事は無い。
正しく私の行く道を指し示す、綺羅星が傍にいるのだから。
だが、私の罪は消えた訳ではない。
今日に至るまで、彼女を苦しめ悩ませたのだ。
「意地悪ですわ・・・私、お父様に婚約を解消してくださいと言うところでしたの」
メラディの唇が震え、弱々しい声で告げる。
机には封筒と封蝋もあった。
今書いていたのは、その旨の手紙だったか。
間に合った・・心の中でほっとするも、彼女を苦しめた罪は消えない。
愚かな私の所為で、長く悩ませた。
「毎日が苦しくて・・辛くて・・それを、やきもち?許しませんわ!」
ポカポカと屈む私の頭を叩いているが、ちっとも痛く無い。
ぽた、ぽた・・
滴が頬に滴った。メラディの涙だ。
私が泣かせてしまったのだ。長い時間、彼女を苦しめた。
ああ、私に罰を与えてくれ。
君に赦しを乞う資格は私には無いのだから。
「許さなくていい。私にうんと怒って欲しい」
立ち上がり、メラディをそっと腕の中に包み込む。
逃れようとすれば簡単に逃げ出せる力で。
彼女は抜け出さず、私の胸に体を寄せてくれている。
・・そうか、やはりそうなのか。愛おしさが募るのは仕方がない。
もうメラディが手放せなくなっている。なんとも、私は他愛無いものだ。
ちょろい、とも言う。これからは彼女だけを見ていこう。
「そしてもっと私に感情を見せて欲しい。勿論、私にだけだ」
「でも・・」
「お妃教育で、感情を表に出さない様に、ってあるのは知っているけど、ずっとでなくていいんだ。公式の場所だけだから・・でもそんな真面目なところが君の良いところなんだろうね」
「・・・」
「私も真面目にするとするか・・・ねえ、メラディ」
「はい」
「キスして良い?」
「もう・・それは真面目とは・・・くす。お願いします」
こうして話して、触れて、一緒にいると、普通に可愛らしいではないか。
節穴か、私は。
・・・うん。節穴で愚かで馬鹿で間抜けで阿呆だった。一つ増えたな。
そう言えば、メラディを真面目すぎでお堅いと言っていたのは私でなく、周りの他人だった。
こんな他人の戯言を真に受けるなど、本当に愚かだった。
「メラディ。これからも私を怒ってくれるか?」
「ま!!怒らせない様にする気はないのですのっ?」
あはは!こんな面白いことも言えるんじゃないか!
もっともっと彼女を知れば、うんとうんと好きになって、ずっとずっと幸せになれる。
他所の女に入れ込むくらいなら、メラディに尽くす方がよっぽど良い。
うーむ・・なんてことだ。
こんな当たり前なこと、死なないと分からなかったなんて!!
本当、昔の人は良いことを言う。
『馬鹿は死ななきゃ治らない』って。
まだ捨てられていないので、私は全力でメラディに縋り付く所存だ。
一度死んで、婚約者に惚れ直した、私の話はこれで終わりだ。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191