第二話『不幸な彼女と過保護な武装メイド』1
「………えっと………その……大丈夫?」
「?………大丈夫ですけど?とっても美味しいですよ」
「………それならそうでいいんだけど………
★???★
通勤中のサラリーマンや通学中の学生などが大勢いる駅で、一際注目を集めている女性がいた。
透き通るような白い肌。キラキラと輝かんばかりの金髪のポニーテール。南の海の様に澄んだ青目。スレンダーで誰もが見惚れるナイスボディ。
容姿だけでも人を惹き付けるのに、その格好は更に注目させるものだった。
それは通学・通勤ではまず見られない『メイド服』。
その女性は、メイド服をさも当然と着こなしている。
そんな彼女に、注目が集まるのは、当然と言えば当然だが、その注目を彼女は特に気にしていなかった。
彼女にとってその他人の視線はいつもの事なのか、どうでもいい事なのか………若干早歩きで駅の外に出ようとしている所からすると、後者であるかもしれない。
不意に、彼女は立ち止まり、目を鋭くした。
そして、再び歩き出し、柱の陰に隠れた瞬間、彼女の姿がどこにもなくなる。
通勤通学中と言う事もあり、彼女に集まっていた視線はほとんどが刹那的なものだったので、彼女の姿が消えた事に疑問符を浮かべる者はいなかったが………それはあくまで通勤通学中の者達のみの話で、駅の清掃をしながら彼女の姿を追っていた清掃員は一人驚愕の表情を浮かべていた。
ゴミを拾う振りをしながら、メイドが消えた場所が見える位置に移動するが、そこには誰もいない。
清掃員はどこかに連絡する為か、携帯電話を取り出そうとし、固まった。
背中に何かを押し付けられ、
「あなたはどこのどなたですか?」
っと言われたからだ。
清掃員が近くにあったガラスで背後を確認すると、そこには黒髪黒目のスーツ姿の女性がおり、背中に押し付けている手には、身体で上手く隠して持っているサイレンサー付き小型拳銃があった。
その顔を見ると、いつの間にかスーツ姿になり、髪も目も肌の色さえ日本人に変装した追跡対象だった。
ちょっと涙目になっている所からすると、カラーコンタクトで黒目になっている様だ。
カラーコンタクトに、服装の着替え、髪と肌の着色、小型拳銃の用意、そして、気配を人ごみに紛らせての接近、ほんの僅かの間にそんな事が出来る彼女に、驚愕の表情を浮かべる清掃員。
「質問に答えて頂けません?あなたは、どこの、どなたです?」
二度目の質問を彼女が発した瞬間。
清掃員の姿が薄っぺらくなり、ぱさりと地面に落ちた。
それを確認した彼女は、特に驚くでもなく、拳銃を瞬時にどこかに『消し』、地面を見る。
そこには人型に切り抜かれ、『清掃員』と書かれた紙があった。
その紙には何故かICチップが付いており、その周りには魔法陣の様なものが書かれている。
「『式神』?………何で東洋系魔法使いが私を?………」
思わず疑問をつぶやいた彼女は、はっと気付く。
「まさか!夜衣花お嬢様を!?」
★夜衣花★
ぼろぼろのバイクを引きずりながら、私とお姉さんは駅に向かっていた。
こっちに向かっている仲間の一人と合流する為だけど…………お姉さんをお姉さんって呼ぶのもなんだよね………ん〜。
「お姉さん」
不意に私に呼ばれ、若干疲れた顔を私に向けるお姉さん。
……まあ、あれからお姉さんは一睡もしてないものね………私は意識を失って、ちょっとは回復しているけど………。
「ちょっと休憩しようか?何だったら待ち合わせの場所もここら辺に変更し」
てもいいから。っと言おうとして、不意に感じた殺気に反射的に反応して、黒樹刀を出して構えた。
黒樹刀は、見た目は黒い木刀だけど、その切れ味は出した本人の意思次第で変える事が出来、黒き大樹と同様に自在に自分の周囲から出し入れ出来る。これは黒樹刀が、『黒き大樹を寄生者に繋がったまま刀に加工したもの』だからで………作る際物凄く痛いんだよね………黒き大樹を最大具現化=最大共鳴してないと作れないものだから………それを私は誕生日が来る度に作らされて………思い出しただけでムカムカしてきた。
「どうしたの夜衣花ちゃん?」
私が不意に黒樹刀を出したので、お姉さんがびっくりして周囲を見回した。
周囲には誰もいない。
でも、私に向けられている殺気は……確実にある………でも、この気配は………。
カサカサ。
っと紙が動く音がし始める。
「夜衣花ちゃん!」
私を呼ぶお姉さんの声に、その視線の先を見ると、人型に切り抜かれたぺらぺらの紙が電信柱の陰から現れていた。
そんな紙が次々と、様々な蔭から現れる人型の紙。
それと同時に、人払いの結界が張られる気配を感じた。