第一話『戦巫女と不幸な彼女』7
★???★
ああ、そこに、そこに!目の前に、奇跡の存在がいると言うのに………届かない。
不可視の壁に邪魔されて、届かない。
………だが、後少しで……壁は壊れる。
そう思った影狼は一斉ににやりと笑った。
★相島★
壁となった影狼達が一斉に笑った。
それを見た私は、ぞわっと背筋が寒くなったけど………そんな事より、
「本当にやんなきゃいけないの?」
「さっき説明したでしょ?そうしないと、この魔法陣の真の機能が起動しないって!」
私の躊躇に、疲弊している女の子は怒った表情になった。
それは聞いたけど………だからって………。
思わず手に持った物に向ける。
それは………とてもよく切れそうなナイフだった。
さっき女の子に渡されたんだけど………よく見ると細かい文字らしくものが書かれていて………女の子の話だと、これには魔法による再生を阻害する力があって、これで傷付けると私の身体でもしばらく傷が再生しないって話だけど………うう、やっぱり自分で自分の身体を傷付けるのは……ちょっと……。
よく分からないんだけど、影狼達がこの魔法陣に入ってこれなくしているのは、魔法陣の本当の機能じゃなくて、魔法陣の中心に組み込んである『ある物』を封印するのが本来の機能で、その封印の余波で、影狼達は入ってこれない……との事………そして、そのある物の封印を解く為には、大量の魔力が必要で…………女の子の魔力は、これまたよく分からないんだけど……私のせいで封印を解けるほど残ってないらしくて………っで、私にその代わりの………血を使うと………。
いくら傷の治りが早いからって………痛いのはやなんだけど…………。
ちらっと女の子を見ると………なんだか今にも意識を失いそうな感じだった。
私のせいでペース配分を読み間違えたって事なんだけど…………ええいい!年下の女の子に、ここまでさせてるんだ!大人の私がちょっと自分を傷付けるぐらいで躊躇してどうする!がんばれ私!
ちょっと震える手で、ナイフの先を親指に刺し………痛いのを我慢して………流れてきた血をぽたぽたと魔法陣の中心に落とした。
その瞬間、パッキンっと言う音と共に、魔法陣が消失した!?
魔法陣が消えた事により、一気に迫る影狼達。
思わず隣の女の子に抱き付き目を瞑ってしまう。
……………あれ?…………?
いつまで経っても、何にも起きない。
恐る恐る目を開けてみると…………月に照らされた黒い樹の森が目の前に広がっていた。
★ヒロイン★
お姉さんの血が魔法陣に落ちると共に、そこに含まれている膨大な魔力が、魔法陣により封印されている黒き大樹の枯れ枝に急速に吸収された。
黒き大樹は、魔力を糧とする寄生樹で、私の一族が代々退魔士能力として受け継いでいる。
だから、一族は長年黒き大樹の研究を行っていて、その研究で生まれたのが、これ。
本来、私達の身体から出た黒き大樹は、宿り主からの魔力供給を断たれると、他から魔力を吸収しない限り、枯れて、消滅してしまう。
それを魔法陣の魔法力で、無理矢理消滅するかしないかの所で維持している。
その魔法力の余波で、魔法陣を使用した人間とその人間に触れているものしか魔法陣上には入れなくなってた。
だけれど、お姉さんの血の魔力で活性化した黒き大樹は、魔法陣の魔力を喰らい、あっさり消滅させてしまう。
その刹那、影狼が一気に迫って、小さな悲鳴を上げてお姉さんが抱き付いてきたけど、丁度良かった。
お姉さんが抱き付かなきゃ、私の方が抱き付いてたから。
何故なら………
迫る影狼が、地面から急激に伸びた黒き大樹の枝に次々と貫かれる。
活性化し、私の制御を受けてない黒き大樹が、自分の存在を維持する為に、手当たり次第に魔力を求めて爆殖しているっと言うわけ。
そのあまりの勢いと早さに、影狼達は悲鳴すら上げる事なく消滅し…………
「え!?」
っとお姉さんが驚きの声を上げる頃には、私を避ける様に黒き大樹の森が出来ていた。
黒き大樹には、同じ大樹の魔力を求めない性質があって、こんな風に爆殖した場合でも、それは適応される。
だから、黒き大樹を身に宿している私には黒き大樹は襲い掛かってこないので、お姉さんに抱き付く必要があったんだけど………魔力が限界まで少なくなっているこの状況で、お姉さんに、魔力吸収能力者に触られるのは………きつかったかな…………。
そう思った時、黒き大樹の森が魔力不足で消滅するのを確認しつつ、私は意識を失った。