第一話『戦巫女と不幸な彼女』5
★???★
力が漲る。
今までに無い以上に自分を増やしていると言うのに、影狼は力の衰えを感じず、空腹も感じなかった。
だから、強い欲求が生まれる。
ああ、もっと喰いたい。
ああ、あの奇跡の存在をもっと喰いたい。
その欲求と、それまで感じた事がない力の漲り様に、影狼は、
だから、あれは邪魔だ。
そう思い、邪魔な存在を殺す為に、増やした自分を一ヵ所に集める事にした。
影狼はあまりの強い欲求と高揚に、失念していた。
自分を一ヵ所に集めたせいで、自分がどうなったのかを。
そして、自分が相対している相手が、自分の、
『天敵』
だと言う事を。
★相島★
女の子の腕から生えた黒い樹が、まるで女の子の身体に吸い込まれるかの様に消えるのと同時に、スーパー駐車場前まで来るけど、とっくに閉店しているから入口にはチェーンが掛けられている。
……ん〜出来なくはないか………。
「しっかり捕まっててね」
「え?あ!は」
言葉通り私の腰にしっかり捕まる女の子を確認して、減速していた速度を一気に上げる。
そして、歩道のコンクリートブロックを利用して、強引にバイクを飛び上らせ、一気にチェーンを越え、バランスを取る為に一時停止。
「お姉さん。凄過ぎ……スカウトしていい?」
そんな事を後ろから言われたけど…………冗談かな?
女の子の息が徐々に荒くなっているのを感じつつ、
「次は?」
「駐車場の真ん中に魔法陣があるから、そこに入って!」
女の子にそう言われ、広い駐車場の真ん中に視線を向けると、確かにそこには光る塗料で書かれた魔法陣があった。
そこに向けてバイクを走らせよとした時、背後から物凄い足音が聞え出した。
少しだけ後ろを振り返ると、今まで以上の数の影狼がこちらに向かって走ってきているのが見える。
血の気が引くのを感じつつ、バイクを走らせる。
駐車場には、ちらほらと不法駐車らしき車があって、駐車場の外にある街頭からの光が当たって影を作っていた。
その影の一つが、進行方向上に一つ。
直感的に、バイクを無理矢理曲がらせる。
その直後、影から影狼達が飛び出し、曲がらなかったら通ってたであろう場所を埋め尽くす。
曲った先にも影が在って、影狼が湧き出している。
今の状態の女の子に、さっきみたいな事はさせられない。
だったら!
「さっきより、しっかり捕まってて」
私の言葉に、女の子がギュッと私の腰に抱き付くの感じると同時に、湧き出した影狼が私達に飛び掛かってくる。
私は重心バランスをわざと崩し、バイクを横にスライディングさせて、飛び掛かった影狼の下を滑り抜けた。
影を越した辺りで、ブレーキと勢いを使って無理矢理バイク立ち上がらせ、一気に魔法陣の中に入り、バイクから飛び降りて、転がる様に魔法陣の中に止まった。
かなり痛いと思ったんだけど………何故か痛くない。
理由が分からず地面を見ると、そこには黒い枝と葉っぱがあって、私と女の子を守っていた。
★ヒロイン★
黒き大樹は、普通に使えば実体を持たない樹だけど、やろうと思えば実体を持たせる事が出来る。
それを利用すれば、葉などを出して物理防御にも使えるんだけど………。
共鳴率を落とし、伸ばした黒き大樹の枝と葉を枯らして、身体の外に出ている分を消す。
立ち上がろうとしたけど、さっきより強い意識の揺らぎを感じて、お姉さんに身体を支えられてしまう。
「ありがとうお姉さん………でも」
ちらっと盛大に転がったバイクの方に視線を向ける。
「いいのバイク?」
「あははは、いいのいいの。命あっての物種だからね」
そう言いながら、ちょっと涙目になってるお姉さん。
「後で弁償するね」
そう言いながら、私はお姉さんから離れ、魔法陣の中心に行く。
同時に影狼が私達の周りを取り囲むけど、魔法陣の光に邪魔されて、私達に襲い掛かってくる事はない。
「あれ、子供に弁償出来るほど安いものじゃないわよ?」
周りの影狼を気にしながら、そんな事を言うお姉さんだけど………私を只の女の子だと思わないで欲しい。
「今回の退魔が成功すれば、高級車を買ってもお釣りが十分出るぐらい報酬が入るから気にしないで」