第三話『戦巫女と言わざる魔法使い』5
★相島★
「「分岐人類とは、魔法を自らに宿した者達が、その子供にも宿した魔法を受け継がせる事が出来る者達。要するに退魔士達の事だよ」」
「分岐って事は、」
「「そう、厳密に言えば、退魔士達は今最も繁栄している人類とは、別物だと言える。実際、遺伝子的にも極僅か違いが見られるが、これは分岐人類だけじゃなく、超能力者にも見られる事だからね………」」
「えっと………超能力者?」
「「魔法を宿したが、子供には受け継がせる事が出来ない者。もしくは、分岐人類の始祖の事を僕達は超能力者って呼んでいる」」
「超能力も魔法の一種って事ですか?」
「「言わなかったかい?この世界の法則以外の事を魔法と呼ぶと」」
「………でも、そうなると私は、超能力者になるって事なんじゃないんですか?」
「「君の魔法病は、遺伝性だ。少なからず君のご両親のどちら、もしくは先祖に、症状は軽いが同じ症状が出ていたはずだよ………まあ、魔法を宿していると言っても、君のは自身で制御が出来ない。だから、今の君は超能力者でも、分岐人類でもないわけだが………もし、退魔士能力として昇華させる治療方法を選んだのなら、君はめでたく分岐人類になる。と言うわけだよ」」
………そっか、だからさっき、私に幸運か不幸か君次第だって言ったんだ。
「「さて………何から話そうか………………そうだな。まずは、僕と夜衣花君との『表向きの関係』を話そうか」
「表向きの関係?」
「「そう。僕達は仲良くやっているが、退魔士、魔法使いの世界では、僕達は『殺し合った仲』と言う事になっている」」
「え?」
「「まあ、本当に殺し合ったから、事実と言えば事実なんだが」」
「えええええ!?」
★夜衣花★
日向さんとの出会いは、退魔士と魔法使いと言う関係では、ある意味普通な出会い方だったのかもしれない。
私が日向さん退魔の依頼を受け………殺し合いをした。
後から聞いた話だと、『お互いに罠にはめられていた』らしいけど……………あの時は……昨日以上に死ぬかと思ったな………まあ、おかげで本来なら知り合えない人と仲間になれたから………いいのかな?
そう思って、私は思わず苦笑した。
その苦笑に気付いたエレアが不思議そうな顔をした。
「夜衣花お嬢様。どうかなさいましたか?」
「え?うん。ちょっと日向さんと初めて会った時の事を思い出していたの」
「………嫌な事を思い出させないで下さいよ」
「そうね。あの時エレアとガルンは、ミーコさんにぼこぼこにされてたもんね」
本当に嫌そうな顔をしているエレアに、私は苦笑した。
★相島★
「「僕と夜衣花君には敵が多くてね。まあ、僕の場合は、忠告と牽制?……そんな様なものだったが、夜衣花君の場合は、本気で僕に夜衣花君を殺させる様に依頼を回したんだろうね。まあ、結果的にはお互いの敵の思惑は外れ、今の様に僕と夜衣花君は密かに仲良くしている。そう言うわけだよ」」
そう人工音声で語る日向さん。
何があったか分からないけど………よく殺し合ったって仲で、今の様な関係になってるなぁ~………それも気になるけど、それより気になるのは、
「………その、どうして夜衣花ちゃんがそんな目に?依頼を回したと言う事は………その、夜衣花ちゃんの………」
「「そう、僕の退魔の依頼を夜衣花君に回したのは、黒樹家の者だよ」」
言いよどんだ私の問いを、日向さんはあっさり答えた。
「「正確には、分家の者達の手によるものだったみたいだがね」」
「分家?」
「「黒樹家の退魔士能力はほぼ百パーセント受け継がれる能力でね。その分、分家が他の退魔士家系に比べて多く。そして、次期当主と言うだけで、他の分家から命を狙われるなんて事はよくある事なんだそうだよ」」
「……えっと、よく分からないんですけど……次期当主とかって、普通は本家の人間がなるもので、分家の人はあまり関係ないんじゃ……」
「「まあ、一概にそう言うわけではないんじゃないとは思うが………黒樹家の場合は、退魔士と言う家系である事も関係してか、実力で選ばれる事が多く、その為分家の者が本家の養子になって当主になる事もよくあるそうだ。ちなみに夜衣花君は黒樹家本家直系の子だよ」」
えっと………それってつまり………
「夜衣花ちゃんが黒樹家の中で一番強いって事ですか?」
「「一番強くなる可能性が高い。が正確かもしれない。実際の所、まだ今の夜衣花君より実力が上だと言われる者もいるようだしね。現当主や夜衣花ちゃんの母親もその一人かな?」」
「……夜衣花ちゃんのお母さんが黒樹家の者って事なんですよね………しかも、今の夜衣花ちゃんより実力がある。何で娘の夜衣花ちゃんが次期当主なんですか?実力で当主が選ばれるなら、それが自然に思えるんですけど………」
その私の質問に、日向さんの指が躊躇う様に少し止まった。
「「………夜衣花君の母親・黒樹夏子には、次期当主の資格は無い」」
資格が無い?
「「確かに彼女は夜衣花君の前の次期当主だった。だが、彼女は幾つかの黒樹家の掟を破っている為、親族会議で次期当主の資格を剥奪されている」」
「あの……掟ですか?今時の日本で?」
「「退魔士の家は閉鎖的な所が多いからね。厳しい掟が未だに残っている家が多いそうだよ。そして、これは、父親の操形夜にも言える事でね」」
操形?……えっと確か、日本ってまだ夫婦別姓は駄目だったよね?……って事は、
「夜衣花ちゃんのご両親は事実婚なんですか?」
「「いや、戸籍上は黒樹家に入っているよ……ただし、それを両家は認めていないがね」」
?
「「父親の生家である操形家は、黒樹家と同様に日本五大退魔士家系の一つで、彼も操形家の次期当主候補だった………つまり、夜衣花君のご両親は、両家の意向に逆らって一時期『駆け落ち』していたんだよ」」