第三話『戦巫女と言わざる魔法使い』4
★相島★
草原の中に建つ屋敷の中に案内された私は、広い個室に案内された。
「治療が終わる数日間。相島様にはここで寝泊まりしていただきます」
ミーコさんに案内された部屋は、まるでどこかの高級ホテルの様な造りで、映画とかでしか見た事がないバスルームに、大きな天蓋付きベットなど………つい先日まで野宿をしていたのが嘘みたいな所だった。
………これも魔法で造ったのかな?
そんな事を思いながら、私は部屋に荷物を置き、再びミーコさんの案内で日向さんが居る所に移動。
日向さんがいる部屋は、前に病院で見た事がある………CTスキャンだっけ?………みたいなのがある部屋だった。
「「じゃあ、そこの台に寝てくれる」」
「あ、はい」
私は言われた通り台に台の上に寝転び、
「じゃあ、ベルトで固定しますね」
ミーコさんによって頭・腕・腰・足を台に備え付けられたベルトで固定された。
「「これから少し長い検査を行う。だから、その間に君に基礎的な事を教えたいと思うんだが、いいかい?」」
「はい。よろしくお願いします」
色々な検査を受けながら聞いた日向さんの話によると、魔法使い・退魔士達の間では、この世の全ては『根源意志力』と呼ばれる『在ると言う意志』によって構成されているって考えられているらしい。
その根源意志力の集まり具合で、世界になったり、人になったりするとか。
っで、その根源意志力は、世界の外に満ちていて、人などの高密度な根源意志力=魂を持っている存在は、自分の存在を維持する為に常に外から根源意志力を得る必要があって、その為の穴が魂の中に開いているとか………っで、その穴から根源意志力を得て、魂を構築し、意志を持ち、意識を得て、意志力を生じさせる。そして、余剰となった根源意志力が魔力になるとか………もっとも、普通の人は魔力になるほどの、なったとしても僅かな量しかならないほどの穴しか開いていないから、普通の人達は魔法を使えないし、魔法を宿せない。だから、魔法使いや退魔士達の魂の中には、余分な根源意志力を得られる大穴=魔力孔と名付けられるほどの大穴が開いているって話なんだけど………。
「「本当に珍しいタイプだね」」
検査を終えた日向さんの第一声がそれだった。
「珍しい?」
「「通常、魔法関連の病気にかかる者は、魂の中に魔力孔が開いている。要するに、魔法病は制御出来ない退魔士能力っと言う事なんだが………君の中には魔力孔が開いていない」」
「えっと………つまり、どういう事なんですか?」
「「もし、仮に普通の魔法病にかかっていたなら、自然治癒していた可能性が高かったって事だよ。無意識魔力吸収蓄積病と言う『魔法自ら魔力を喰らう魔法病』だからこそ、魔力孔がない君の中でも存在し続けていたんだろうさ………後、これはまだ仮説だが、魔力孔がない君だからこそ、今の今まで死なずに済んだのだろう」」
「死なずに済んだ?」
なんかとんでもない単語が出てきた。
「「過去の文献などによると、君と同じ魔法病に掛った人間は、発病後、遅くて数年、早くて数週間で、魔石……魔力が物理レベルまで圧縮されたものの事で、君の身体のあちらこちらに宝石みたいなのがあるだろ?それの事だよ……その魔石が身体の重要器官に出来て死に至っているそうだ」」
ノートパソコンで中を見ながら日向さんはそんな事を言った。
「「魂と言うのは、人の何処にあると言う訳ではないが、発現しやすい、繋がりやすい場所は、大体が重要器官だ。だから、内側からも魔力を吸収していた普通の無意識魔力吸収蓄積病では、重要器官に魔石が出来やすかったんだろうが、君には吸収するほどの魔力がない……………君はいくつもの偶然か重なってその病にかかり、いくつもの偶然が重なって今も生きている。僕達側から言わせれば、それは物凄く幸運な事だけれど、これを幸運と考えるべきか、不幸と考えるべきか………君次第だろうね」」
…………………
「「さて、治療の準備があるから、今日はここまでにしよう。食事の準備が出来るまで、部屋で休むなり、散歩をするなり自由に過ごしてくれ」」
私は、自分の今までの人生を幸運と思った事はあまりない。
どちらかと言うと、不幸だと思った事の方が多い気がする。
そもそも、私は自分の身体の事が嫌いだったし、今も対して好きではない。
その原因である病気を今治療して貰っているわけだけど…………日向さんはなんであんな事を言ったんだろう?
そんな疑問を抱きながら、私は屋敷の中をあちらこちらと散歩してみた。
実の所を言うと、いかにも魔法使いって感じのものを期待してたんだけど………見るもののほとんどが………一般人の私からすればとてつもなく豪華なものばかりだけど………普通の物ばかりだった。
その事を食事の時に言うと、日向さんは面白そうに笑う仕草をして、
「「魔法使いだからって、常に魔法を使って生活しているわけじゃない。むしろ、魔法を使わない事がほとんどだと言っていい」」
そんな意外な事を言った。
「どうしてですか?魔法を使った方が、色々と便利な気がするんですが?」
「「さっき言った通り、魔法は本来この世界にないものだ。だから、常に存在させると、『世界の拒絶反応』が起き、魔法を消滅させようとする………要するに、維持する為に魔力を常に使い続ける必要があってめんどくさいんだよ」」
………めんどくさいって………
何だか物凄く困惑する話を聞いて食事は終わり、食後、日向さんから話があると言われ、あてがわれた部屋に戻ろうとした私は引き留められた。
「「さて、今から君には明日の為に幾つか話したい事と問いたい事がある」」
そう言われて、私は直ぐにピンと来た。
「夜衣花ちゃんのもう一つの依頼ですか?」
「「その通り。そして、君の答え次第で、明日から始める治療方法を決める」」
治療方法を決める?
「「一つは病気の原因となっている魔法を除去する方法。そして、もう一つは、その魔法を退魔士能力として昇華させる方法」」
………それって………
「「君は答え次第で、分岐人類になるって事だよ」」
分岐人類?