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第二話『不幸な彼女と過保護な武装メイド』11

  ★夜衣花★

 目を覚ますと、ふわふわのベットに寝かされていて、見知らぬ天井が目に入った。

 「あ!起きた夜衣花ちゃん?」

 お姉さんの声がしたので、上半身を起こして声の聞こえた方向を見ると、無数の食器が重ねて置かれたテーブルにお姉さんが座っていた。

 「夜衣花ちゃんの家ってすごいね。こんな所にも別荘があるなんて」

 そう言って幸せそうな顔をしているお姉さん。

 …………もしかして、これ全部一人で食べたのかな……どんなお腹してるんだろう?………それにしても……別荘?………ああ!そう言えば町の近くに黒樹家のセーフハウスがあるって言ってたっけ?………あんまり黒樹家に頼りたくないんだけどな………。

 「あ!今、エレアさんが夜衣花ちゃんの分も作ってるから」

 私が少し不快そうな表情をしていたせいか、お姉さんが勘違いをして慌ててそんな事を言った。

 私はクスッと笑って、

 「エレアの料理を全部食べた事は気にしてませんよ。そんな事より、これだけの量を一人で食べたんですか?」

 「え?あ!うん」

 何だか恥ずかしそうなお姉さん。

 「私、恥ずかしい話だけど、ご飯食べられない日がよくあったから、出されたご飯は全部食べちゃうの」

 食べちゃうのって………これだけの量を平然と………今までどんな生活をしてたんだろう?

 「だから、エレアさんが次から次にご飯を作ってくれて……今日はとっても幸せ♪」

 ………なんだかな………。

 「……でも」

 ?……でも?

 「欲を言えば、味付けがちょっと……あ!ううん。食べられるだけで満足だから」

 遠慮なのか何なのか、そんな事を言ったお姉さんの言葉に、ある予感がして、お皿を一枚手にとって匂いを嗅いでみた。

 ………いつものエレアならあり得ない………酸っぱい匂いがする………こんなのを平然と食べれるお姉さんって……本当に今までどんな生活をしていたんだろう?お腹を壊している様子もないし………それにしても……あの女……『また』か。

 思わずため息を吐いた時、エレアが料理を持って部屋に入ってきたので、ジトーとエレアを見ると、エレアはびくっとして視線をそらした。


  ★???★

 トンネル内に張られた隔離結界により男はトンネルの中に閉じ込められた。

 自立型式神が男の命令なく車を止める。

 男が何かを言う前に、自立型式神はぎこちない動きで男に顔を向け、申し訳なさそうな顔をした瞬間、自立型式神は大量の紙に戻り、崩れた。

 そして、その紙の山から何匹もの蜘蛛が現れ、僅かに開いていた窓から逃げ出す。

 男の感覚は、その蜘蛛が魔物である事と、自然物でも魔法使いによるものでもない事を感じていた。

 つまり、退魔士の仕業。

 一瞬、男は今回のターゲットだった黒樹夜衣花を思い浮かべたが、資料は蜘蛛を使う退魔士との接点は無かった。

 だが、直ぐに男は思い出す。

 蜘蛛使いの退魔士と接点のあるのは、『依頼主』だと。

 男は車から飛び出し、パートナーを失った怒りにまかせて叫んだ。

 「出てこい!いるのは分かっている!」


  ★相島★

 「やっぱり何かしてたのね」

 ジトーっとした目をエレアさんに向ける夜衣花ちゃんに、目線をそらすエレアさん。

 「な、なにもしてませんよ?」

 エレアさんのその言葉に、夜衣花ちゃんはため息を吐いた。

 「ふ〜ん………そう言う事を言うんだ。いいわ。分かった。私、そんな人とは一緒に寝たくない」

 一緒に寝たくないって………一緒に寝てるんだ………そんな思ったより子供ぽい所があるのね。

 そんな事を思っていると、夜衣花ちゃんが私を見た。

 そして、にっこりと笑って、

 「だから、お姉さん。今日は私と一緒に寝よ?」

 っと言った。

 ……別に一緒に寝る事は構わないけど……まだ寝るんだ………っと言うか、何だかエレアさんからの視線が痛い。

 「そ!そんなぁ。こんなどこの馬の骨とも分からない女と夜衣花お嬢様が寝るなんて」

 馬の骨って………この人、本当に外国人なのかな?

 「何?文句あるの?シールドさん」

 「はう!………申し訳ありません夜衣花お嬢様!」

 他人行儀で冷たい視線に、思いっきり狼狽するエレアさん。

 「分かればよろしい。幸いお姉さんは何ともないみたいだし、これくらいで許してあげるわ」

 「ありがとうございます夜衣花お嬢様」

 ……………それにしても、さっきから夜衣花ちゃんは何に対して怒ってるんだろう?

 さっぱり分からない私は小首を傾げていると、

 「まずはお姉さんに謝りなさい」

 「申し訳ございません相島様」

 「???い、いえ?」

 謝られてますます困惑する私だった。

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