第二話『不幸な彼女と過保護な武装メイド』6
★???★
あまりの予想外な出来事に目を見開く男。
男が喫茶店を出る前に確認したエレアの位置は、喫茶店から大分離れた場所だった。
それなのに、目の前にエレアがいる。
その驚きに、エレアは再び笑みを浮かべ、一枚のカードを取り出した。
ICチップが付いたそのカードには、『転送』と言う文字が書かれている。
男はそれに見覚えがあった。
それは魔法使いではない者でも、転移魔法が使える使い捨ての魔法具。
それは対になっている魔法具で、事前に設置した場所に転移する仕組みになっている。
つまり、喫茶店の前にいた女が、その対のカードを喫茶店に来る前にこの近くに投げていたという事だ。
そして、エレアは退魔士ではないとは言え、退魔士能力を有している人間。
普通の人間と魔力を扱う者のとの違いを見極める事くらいわけがない。
「その使い捨ての魔法具。退魔士側の君がどこから手に入れたんです?」
「答える義理がありますか?」
男の問いに、エレアは表情を消し、どこからかもう一枚のカードを取り出した。
そのカードには『隔離』と書かれており、エレアはそれを自分と男との丁度真ん中に投げ刺した。
カードが刺さると同時に、カードがICチップを中心に開き、小規模の隔離結界が展開。
男とエレアの姿がこの場から消え去った。
もっとも、人払いの結界の一種である隔離結界は、例え隔離の瞬間を見たとしても、普通の人間には直ぐにその事を忘却する様になっており、周囲でその事を気にする人間は一人としていない。
だから、隔離される一瞬、男がした行動に気付いた者はいなかった。
★相島★
エレアさんの反応が消えた。
っと言う事は、うまく魔法使いを結界の中に隔離出来たって事だよね?
エレアさんの話だと、それで式神への魔力供給が断たれて、少なくとも夜衣花ちゃんの安全は確保出来てるって話だけど………。
私はバイクを路肩に止めて、ヘルメットのディスプレイが指し示しているエレアさんが消えた場所に向かった。
………んだけど、当然、そこには何もなく、誰もいない。
この後の行動を特に指示されたわけでもなく、なんとなくこの場に来たんだけど………ん〜………ん?
なんとなく視線を巡らしていると、街路樹の下にノートパソコンが転がっている事に気付いた。
よく見ると電源は点いているみたいで………明らかに不自然だった。
…………エレアさんの話によると、現在の魔法使いは、魔法を使う為に何らかのIT技術を使っている事が多いって事だったけど………まさか……これって…………。
恐る恐るノートパソコンを拾い、開けてみると………
★???★
隔離結界の中に入った瞬間、魔法使いは内ポケットから一枚の紙を取り出し、地面に刺さった隔離結界カードに投げ付けた。
エレアは反射的にマイルームから拳銃を取り出しその紙を撃ち落とそうとするが、その紙はまるで生き物の様に動き当たらず、カードに巻き付く。
「一体なのつもりです?」
紙を撃ち落とし損ねたエレアはそのまま拳銃を魔法使いに向ける。
「そのカードの制御を奪わせて貰いました」
そう言って魔法使いは余裕のある笑みを浮かべる。
その笑みと言葉の意味に、エレアは瞬時に状況を理解した。
「『杖』を向こうに置いてきたわね!」
「その通りです。そして、今、この隔離結界は私の支配下にあります。これであなたに戦巫女を助ける可能性がなくなりました」
「………だったら、」
エレアはマイルームからもう一丁の拳銃を取り出し、二丁拳銃を魔法使いに向かって構える。
「あなたを倒して杖を破壊しに行くまで!」
二丁拳銃を連射。
連続した発砲音と飛び出した空薬きょうが地面に落ちる。
二丁拳銃のマガジンに入っていた全ての弾丸を撃ち切った。
だが、エレアの目に映ったのは、銃弾に身体を撃ち抜かれた魔法使いの姿ではなく、薄っぺらい紙になってひらひらと地面に落ちる魔法使いの姿だった。
「いつの間に!?」
慌てて周囲に気配を探るエレアに、何処からともなく魔法使いの声が聞こえてきた。
「出来ますか?退魔士にもなれなかった武装メイドに?言っておきますが、あまり時間がありませんよ?私の杖には今、私が持てる限りの魔力を使って総攻撃をする様に命令していますからね」