第二話『不幸な彼女と過保護な武装メイド』5
★夜衣花★
段々呼吸が乱れ始めてきた。
射撃された方向から死角になる様に移動すると、どうしても移動速度が落ちるから、剣と銃の式神に追い付かれて接近戦になり、それから逃れる為に速度を上げるとどうしても死角外に出てしまって狙撃される。
そのどちらも意識しながら逃げるとなると、息を整える暇さえなくて………しかも………追ってくる式神の数や狙撃してくる方向がどんどん増えるし…………段々ムカムカしてきた。
感情に任せて蹴散らすのは簡単だけど、こう言う相手は、絶対に今いる戦力より多い予備戦力を…………?
何だか遠くから地響きが聞こえる様な…………!?
丁度大通りの近くの道にいたので、隠れながらちらっと地響きがする方向を確認して、私は固まった。
視界を埋め尽くすほどの式神達が………規則正しく、みんな一緒のカクカクした全速力で迫ってくる!?
「な!なにれぇぇえええぇぇ!?」
思わず心の底からの絶叫をしながら、来た道を全速力で引き返す。
追って来ていた式神達と枝を利用した広範囲抜刀で一掃し、全身から葉っぱを散らして弾丸を防ぐ。
これで一気に最初に追ってきた式神達を撃退出来たけど、代償として一瞬クラっとしてしまう。
こんな状態であの大量の式神は絶対に相手出来ないのは間違いないけど………いきなりどうしたんだろう?あんなに予備戦力があるのは驚いたけど………結界の範囲と一体一体の魔力使用量から考えて、あれが全戦力……なのは間違いないと思うけど………魔法使い側に何かがあった?………普通に考えれば、お姉さんとエレアが探し当てたんだろうけど………
チラッと後ろを見ると、道路はもちろん、屋根や塀の上まで式神達に埋め尽くされてる。
あまりの不気味な光景に、背筋がぞわっとした。
こういう状況は、『ガルン』とか、『もう一つの退魔士能力』が向いてるんだけど………ほんと、昨日からタイミングが悪い。………まあ、それを狙われたんだろうけど………問題は、その情報を『誰が流した』かって事なんだよね………。
そんな事を思っていると、地面に無数の影が走る。
反射的に空を見ると、そこには無数の大きな紙飛行機が飛んでいて、私の見ている前で紙飛行機から人形の紙に戻り、人間の姿になって私の前に着地した。
……なるほど……紙だから、こんな事も出来るのね。
進路を塞がれ、私が仕方なく足を止めると、あっと言う間に式神達に囲まれてしまう。
私はため息一つ吐き、
「仕方ない……じゃあ、力比べといきましょうか?」
その言葉に、式神達はその手を剣やハンマー・ノコギリなどの様々な武器にした。
★???★
男は自分の居場所が探り当てられたと判断するやいなや、カウンターに一万円札を置き、
「釣りはいらない」
っと言って素早く喫茶店から出た。
あまりの速さに喫茶店のマスターが唖然としていたが、男にはそれを気にする余裕はない。
そもそも、男の魔法は遠距離操作型だが、探知され易い性質がある。
それは媒体として使っているのが、携帯電話の通信システムだからだ。
つまり、式神達には携帯電話と似た構造を組み込んでおり、それにより自在に操っていた。
これにより、古来より使われている式神以上の情報を得る事も、また多彩に精密な作業もする事が可能になり、非常に汎用性が高くなっている。
だが、その反面。従来の通信システムを使っている事により、そのシステムを理解している者になら、簡単にこちらの位置が割り出せてしまうと言う欠点があった。
だからこそ、それを補う為の隔離結界併用使用だった。
これにより、より確実に安全に仕事が出来ていたが………。
喫茶店のビルから出ると目の前の道路脇に先程結界から出した女がいた。
女は一瞬こちらを見たが、男は特に気にせずその場を去る。
何故なら今の男のノートパソコンは、エレア達が探知していた『式神を操る為に発していた特殊な電子通信』をもう行っていない。結界維持と式神維持の為の魔力供給は行っているが、その経路は探知されにくいものに変更しているので、直ぐにばれる事はない。
そもそも、男が最も脅威に感じているエレアは、喫茶店を出る前の確認だと、ここから大分離れた所を疾走していた。
バイクで最短距離を走ったとしても、五・六分は掛る距離だ。
それだけの時間があれば、『依頼』は完遂出来る。
最後の通信で、隔離結界内の全ての式神達に自動攻撃命令を出した。
今の夜衣花は前日の退魔の影響でその力の大半を消耗している。
そんな状態で千近い式神を相手に五分も持ち堪えられる訳がない。
ただ、一つの懸念として、『黒き大樹を操る黒樹家の者は、やろうと思えば結界切りもする事が出来る』と言う事だが、それは人がいる時間帯を襲撃時間に選んだ事により、その可能性を潰している。
隔離結界を破壊すると、本来なら消えるはずの隔離結界内で起こった現象や事象が本来の世界に突然現れてしまう。これは、隔離結界が、本来の世界からほんの少しずれた場所である為で、それを強引に本来の世界に繋げると、その世界と同化してしまい、『隔離結界内で壊れたものが、本来の世界でも壊れてしまう』。もちろん、結界内だけにいた『もの』達も本来の世界に突然現れてしまう為、町中で隔離結界が使われた場合は人のいる時間帯では行ってはいけない事になっている。
それは代々国などの人社会と密接な関係にある退魔士達には徹底されている事で、それを破り、社会に混乱を及ぼせば、それ相応のペナルティがその退魔士・その家に与えられる事になっていた。
それらの事を考えれば、結界切りはありえない。
だからこそ、男は勝利を確信し、笑みを浮かべた。
だが、その笑みは直ぐに凍り付く事になる。
何故なら、
「どこに行くのですか?」
そう言ってほほ笑みを浮かべたエレアが、進行方向に立ち塞がったからだ。