第二話『不幸な彼女と過保護な武装メイド』2
★???★
その男は、喫茶店のカウンター席でノートパソコンを操作していた。
格好はスーツなので一見するとサラリーマンに見える。
だが、そのノートパソコンの画面を誰かが見たのなら、その頭にはすぐさま?が浮かぶだろう。
画面にはここら一帯の精密地図が映されており、地図上には何故か様々な色の光点が点滅していた。
赤い無数の光点が、青と緑の光点を取り囲むように動いている事からすると、ゲームの様にも見えるが、ゲームにしては地図が精密し過ぎるし、ゲーム性もあまり感じられない。
かと言って、仕事として考えるには、何の仕事でそんな精密な地図が必要なのかよく分からない。
そんな男が、
「………巻き込んだか」
ポソリとつぶやいた。
その視線の先には、青い光点にぴったりとくっ付いている緑の光点があった。
★相島★
周りを取り囲む人型の紙達。
これって………
「夜衣花ちゃん。これも魔物?」
私の問いに、夜衣花ちゃんは首を横に振った。
「多分、これは式神だと思う」
「式神!?あの陰陽師とかが使う?」
「うん。原理的には魔物と変わんないけど、人が作り出して人の制御下に置かれているものだから、私達は魔物としては分類していないの」
「って事は……何!夜衣花ちゃん。陰陽師とかに恨み買うような事をしたの!?」
私の問いに夜衣花ちゃんは眉をひそめ、小首を傾げた。
「さあ?」
「さあって……」
「退魔士と魔法使いは基本的に対立関係にあるから……知らない恨みを買う事はよくある事だけど……」
それってどう言う事?
って聞こうとした時、式神達が色を持ち、厚み持ち始めて、人間になった!?
人間になった式神達は、一見するとどこにでもいそうなサラリーマンの姿になって、一斉に夜衣花ちゃんを見た。
「黒き大樹の戦巫女」
式神の内、最も私達に近い式神が喋り出した。
「一般人を巻き込むのは私の本意ではありません。結界の一部を解きますので、彼女をそこから出したいと思うのですがどうでしょうか?」
一般人?………まあ、さっき夜衣花ちゃん達側になる事を決めたばかりだし、私の病気だか特殊体質だかは、分かりにくいみたいだから、そう思われたんだろうけど………。
ちらっと夜衣花ちゃんを見ると、夜衣花ちゃんは小さく頷いて、式神達に見えない様に私に携帯電話を渡した。
?……そっか、これで助けを呼べって事ね………分かったわ夜衣花ちゃん。
★夜衣花★
人払いの結界にはいくつかの種類があって、結界を張った場所に『人か近付きたくなくなる』や『人が無意識の内に避ける』とかが結界を張る場所に人がいない時に使われるものだけど、昨日と今使われている種類は『対象を結界内の場所と少しずれた空間に移動させるもの』で、別名『隔離結界』とも呼ばれてる。
この人払いの結界は、対象以外の人を近付けさせない以外にも、対象をその結界内の異相空間に閉じ込める効果もあって、そこから自力で出るには、結界を生じさせている魔法具(魔力を流せば、そこに込められた魔法を発動させる事が出来る道具)を破壊するか、同様の魔法で相殺しないと出れない。
前者はその範囲が広範囲であればある程探すのが難しいし、結界を張った相手だって黙って探させる事はないだろうし、後者は、そもそも私は魔法使いじゃないから、そんな器用な事は出来ないし………だから、魔法使いからの提案は、正直に助かったと思った。
昨日の影狼は、ちゃんとした準備とまだそんなに疲労してなかったから、お姉さんを守りながらでも大丈夫だと思ったけど……今はちょっとしか休んでないから疲れてるし、装備もほとんどない。そんな状態でお姉さんを守りながら切り抜けるのは絶対無理。
だからと言って、これが罠って可能性もないわけじゃないから、いつでもお姉さんを助けられる様に黒き大樹との共鳴率を上げる。
「こちらへ」
そう言って式神が指し示した場所は何もない所だったけど、黒き大樹との共鳴率を上げた私には、そこに結界の穴が、通常の空間と繋がっている所があるのが分かった。
「お姉さん」
「うん」
戸惑っているお姉さんを促し、その場所に向かわせる。
結界の穴を感じられないお姉さんは、戸惑ったまま穴に足を踏み入れ、その瞬間、姿が消えた。
どうやら『まともな魔法使い』みたいね………。
「さて、一般人はいなくなったよ。っで?私にどんな用件?」
そう私が聞くと、全ての式神達の両腕が剣や銃に変化した。
「わかりやすいね」
苦笑しながら、私は黒樹刀を構えた。