炎と古代林の邪竜
古代林に到着した俺は、さっそく目標の草食動物を探していた。
今回受けたクエストの目標は、古代林に生息する草食動物『ケルフ』だ。温厚な動物なので危険はないだろう。
「…お、見つけたぞ」
群れで行動しているケルフを発見した。さっそく近づいて角を手に入れようと走っていく。
「ごめんな、俺も生きていくのに必死なんだ…」
少し可哀そうだが、俺も生きていくためにやらなければならない。ただ殺しはしない。殺す必要がない。
数分がたち、目標数まであと1つになった。最後の一匹を探して古代林の奥深くに入り込んでいく。
「――いた!」
最後の一匹を発見し、クエストの終了が目の前になって足が速まる。駆け足でケルフに駆け寄る俺の前の地面に―――一瞬で大きな亀裂が出来た。
目の前にいたケルフも地面と共に肉片となり、砕けた地面を赤く染める。
俺が恐る恐る辺りを見渡すと―――
「―――!!」
大きな牙を生やした竜がそこにいた。
「……マジかよ………」
俺は腰を抜かした。魔法も使えない、剣技もまだ拙い、仲間もいない。そんな状態の俺が、この獰猛な竜にどう太刀打ちすればいいというのか。しかし恐らく逃げることも叶うまい。戦う以外の選択肢は残されていない。
「さぁ…どう戦う…?」
こちらを見つめる竜と正面から対峙し、戦い方を考える。
しばらくすると、竜は鋭い爪を生やした前足で俺を殺しにかかってきた。
「はぁッ!!!」
俺はそれを反射で回避した。避ける前に俺が立っていた場所の地面は抉れ、奥にある木も折れていた。
俺はその攻撃力に対し大きくひるみ、膝震え始める。
「くそ…どうすれば……」
竜は容赦なく大きな尻尾で俺を叩きつぶそうとする。
またしても俺はそれをギリギリで回避した。そして今度は、竜の尻尾が地面にめり込んで抜けなくなった。
「…!今だ!!」
俺は手に持った剣を大きく振りかぶって尻尾に斬りかかる。しかし――
俺の剣は二つに折れた。
竜の尻尾の硬さに俺の剣の硬さが負け、剣は使い物にならなくなった。
俺はここで真に絶望した。戦う手段もなくなり、逃げることもできない。終わりだ。
竜の前に膝をつく俺に、竜は無慈悲に前足を振るう。それをまともに食らった俺は容易く吹き飛び、大きな木に激突する。その衝撃に内蔵の位置が動く感覚を覚え、地面に倒れこむ。
「がはッ……」
竜は地面から尻尾を引き抜き、俺に歩み寄ってくる。俺はもう体に力が入らない。剣を握る事すらままならない。ここで死ぬとしたら、俺は何のためにこの世界に召喚されたんだろうか。
立つことすらできない俺に、竜は尻尾でさらに攻撃する。
重い腕をとっさに動かし、頭部への直撃を回避する。しかしその強力な攻撃に俺の体は浮き、またしても俺は地面に転がる。体中をすり剥き、小石に斬られた肌からは赤い血が流れている。さらに、俺はさっき地面を転がった時に剣を手放してしまった。そしてその剣は、獰猛な竜の足元に落ちている。
「…くそ」
俺は全てを諦めた。戦うことも考えることも辞め、目の前に迫る『死』を受け入れようとした。
そんな俺に竜は止めの一撃を放とうとする。
――その時だった。
どこからともなく飛んできた弓矢が、竜の眼球を見事に射止めたのである。
その激痛に竜が怯み、体制を崩した。そしてその竜に追い打ちをかける一撃を、弓矢を放った女の後ろから出てきた男が叩きこんだ。
竜はその一撃に倒れ、血を流して唸る。女と男は俺のもとに近寄り、何やら魔法のようなものを使い始めた。
「大丈夫。少しじっとしててね」
その魔法の光に当たった所の傷は癒え、痛みもすぐに消えて行った。俺は何事もなかったかのように回復し、すぐに立つことが出来たのだ。
「よし、お前は遠くで見てろ」
「さぁ、悪い竜は対峙しちゃうわよ」
二人の『戦士』が、獰猛な竜と向き合い、武器を構えた。