夏の味
「生ゴミの捨てかたが悪かったのだろうか?」
まだ屋敷のできる前のこと、この頃サメは森の奥の小さい家に住んでいた。
暑い夏に漂う、この生臭さはかなりきつい。
サメという自由な生き方は、ここですぐに生ゴミの処理に向かうということを選んだのである。
タオルで口の周囲を覆い、手袋、そしてビニール袋を持って、家から出ていった。
原因は風上のどこからか、ならば八千代の庭にある谷、雲の谷の風穴を目指していけばいい。
そこに向かう途中、前に小雨がいっていた、緑色のつやつやしたおっさんを見かけたが、今はそれどころではない。
(あそこか…)
一番大きな風穴から臭う。
中に入ると、果物の食べ残しが散らばり、それを片付けた。
(ん?)
気になることがあった。
この果物は八千代の庭のものではない、栽培されたものではないのである、いわゆる山などに自生している野生のもの。
片付け終わると、谷の湧水を組んできて、何回か流したあとに、クンクンと臭いをかいてチェック。
「よし」
そこで家に帰ることにした。
「あそこになんで食べ残しがあったのか、すぐにわかることになったんだけどもさ」
「それが竜だったわけですね!」
「真っ白なの、大きさは私がパクって食べられるぐらい」
「その話を聞いて、肝を冷やしたでござる」
現在は明け方近く、その雲の谷まで向かうために霧の中をライトをつけた車が走る。
車内にはサメと姫巫女と運転手の三人。
「あの時はちょうど、屋敷を作った方がいいみたいな話が出てたんだよね」
「緑色のおっさんは、小雨殿から何回か聞いたことはあるのですが、拙者はまだ一回も見たことないでござる」
「私もあの時一回だわ、小雨が森の奥に尋ねてくるのが、嫌になってて、なんか来るたびに緑色のおっさんとか、未知と遭遇するか、森じゃないところに屋敷とか作ってくれって言われたのさ」
「私なら、未知と遭遇できるなら、嬉しくなって、毎日通います!」
「その点は私も賛成だね、世の中には未知と遭遇したくても、できないやつが一杯いるんだよ!って、まっ、でもみんな忙しくなって、毎回場所決めて集まるって言うことが難しくなってきてたからね、でも最初はこの規模で建築するつもりもなかったし」
「八千代の庭に飛来した竜は真っ白な羽毛に被われた非常に珍しい種類の竜で、今は季節の終わりにみんなで掃除をしにいってるでござるが、その羽毛が鑑定したらとても珍しく貴重なもので、オークションに出品したら、景気がよかったこともあって、屋敷などのあの辺りを一帯を整備し、建築できたのでござる」
「それじゃ、あのお屋敷は竜のおかげなのね」
登場人物紹介
・サメ子
騎士とバトったあと、仮眠はとったが二度寝したい。
・姫巫女
夏になると竜が来る、明日の朝、竜に果物を運ぶと聞いたら眠れなくなった。
・ハンゾウ
ハンゾウの一族が、一族の掟としてサメになる前のサメ子に、ここで死ぬか、一族の庇護になるために出世するためするかを突き付け、出世をしたがサメになるというトリックプレーを見せてからの付き合い。
現在は八千代の庭、宿泊部門の支配人兼料理人兼運転手。
「まだ来てないね」
「わかるんですか?」
「竜が飛来するとき、ここの谷の霧を全部吹き飛ばすような強い風、天颪が吹くでござるよ」
「あら?」
車窓から見える霧が明らかに揺らいだ。
「今のが竜の影でござる」
キィーキィー
「こっちが来てるのわかってるね」
「毎度の事でござるし、それではシートベルトの再確認としっかりと捕まってくださいでござる!」
ゴゴゴゴゴ
上空から叩きつけるような風が吹いてきた。
ゴーーー
「これはすごいですわね」
「これも普通では体験できない事柄でござる」
二分ほど凄まじい風は続いた。
「防風林があるから、屋敷までは風は届かないけども、ここまで近いときちんと装備してないと、このまま飛ばされるからな」
車が駐車しているヶ所は舗装されており、フロントガラスからは見える紋様がある、あれの意味は風が吹き付けても威力が落ちる、そして舗装に使われているブロックの裏側にはみな風から身を守るや破壊されても元に戻るなどの符面になっている。
「まあ、綺麗ですわ」
霧が風で飛ばされて、車窓からは青い空と白い雲、いや、あれが竜で、円をかいて飛んでいるようだ。
「でもお話に聞いていたような鳥というか、羽毛ではないのかしら?」
「あの時は幼体だったからね、今はガシッとした竜らしい感じになったよ」
「風穴のそばにはもっとよらないんですか?」
「住み着いているだけだからね、こうしてたまに果物を置いていくだけだよ」
車のトランクにスイカやメロンが箱で積んであった。
「果物は任せるでござる」
「お願い」
そういってサメ子は、雲の谷と書かれている標識に向かっていた。
ここには湧水があって、普段は止めているが、石を外して、サメ子が持っている石をはめ直すと冷たい水が吹き出してくる。
それが窪みにたまっていく。
「この水は夏が一番うまいでござる、凍らせて、煮た果物をかけるのが夏の味でござるな」
ある程度水がたまると、ハンゾウが窪みに果物を置いていく。
それが終わると氷用の水を汲み始める。
「ルゥーにも見せたいわ」
「次は一緒に来ればいいよ」
「そういえば昨日は鳩川殿も来られていたそうですが?前に見に来たいといっておられたのでは?」
「朝から会議があるから、終電に間に合うように帰るって」
異世界を堪能するには時間が足りなかった。
「泉くん、おはよう!」
「おはようございます、昨日は楽しかったですか?」
「楽しかった、泊まってきたかったぐらい」
「会議がありますからね」
「早朝飛来してくる竜を見学するより価値がある会議であってほしいね」
「そんなこといったら、揉めますよ」
「角は立たせたくはないけども、言いたくはなるよ、はい、これ、お土産ね」
『チョコゲソボール 期間限定 梅味噌味、10%増量』
「こういうときは定番のを買ってきてください、定番のを!」
そういって泉は誰かが食べるだろうと、そのまま冷蔵庫に入れた。