母なる木
「じゃあ、ここの片付けは俺らがやっておくから、きちんと案内するんだぞ!」
サメはそう言い聞かされている。
「わかった」
しかし、声は眠そうで。
あまり興味がないようだ。
この時の話を騎士が後で聞くことになったとき、サメはゆで玉子と半熟卵を割ろうとしたらしく、半熟卵を撒き散らして気落ちしていたらしい。
ぶるる!
サメがその身を震わせた。
「こちらには食べ物も、安心して眠れる場所もあります」
そういってサメは歩き始めた。
慣れない野宿生活が続いているため、後を追う姫巫女と騎士の足取りは重かった。
木のウロを潜ると、そこは暗闇で。
「明かりつけます~」
そういって松明が灯る。
サメがヒレでかがげているらしい。
騎士が森に入ったのは、森の中に母なる木がないか探すためだ、母なる木があれば、近くに実をつける木があるだろうし、この時期だと根が食べれる紫の花が咲いているのではないかと。姫巫女をつれて、それは淡い期待ではあるが、その淡い期待にすがり、森の中を歩いたのだ。それぐらいもう生きるということを諦めそうになるぐらいの日々が長くなりつつあった。
そんなとき肉の匂いがした。肉の匂いはもう少し先の方からで。
「お待ちください」
姫巫女の身を隠してもらい、様子を見ると。何人かとどう見ても魔物もいる。わいわい肉を焼き、そのうち笛を吹き始めた。
笛の音色も見事なこともあって、人の姿をしている方々も、おそらくそうではないのだろう、もしかしたら、森に住む賢者…あの魔物は妖精か何か。
パチパチ
笛が一曲終わると、拍手が鳴り。
「すいません」
そこで騎士は声をかけることにした。
「申し訳ありません、私は森に迷いこんでしまった者です、よろしければ食べ物を分けていただけませんか?」
そのまま膝まずいて、目を閉じるもしかしたら、不敬にあたるかもしれない。
だがこういう時に血で場をしらけさせるということはしないだろう。
そういう意味では賭けではあった。
「あの~」
誰かの気配がした、目の前にたっている。
「顔をあげてもよろしいでしょうか?賢者様」
「かまいません、食べ物がいるのでしたら、そちらにいるお嬢さんもこちらを召し上がってください」
そういって見上げると、背の高い男が微笑みを浮かべている。
衣装はこちらではまったく見かけないようなものだった。
「ありがとうございます」
皿を掲げて、一礼した後に、姫巫女が身を隠ししている繁みにまで下がり。
「賢者様たちから、恵みをわけていただきました」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
という話し声が聞こえてくる。
「賢者様否定した方がいいよ」
サメに言われる。
「つい、今後のことも考えると、今は賢者様って思われた方が楽でだろうし」
「あっ、あの二人、帰るところないんだろう?サメ子お前のところに一回つれていけよ」
「そうですね、今から向かえば、雲の谷から」
「…わかった」
「みなさま、私はどうすればいいですか?」
笛を吹いていた少年が聞いてきた。
「せっかくだから、さっき町で流れていた曲にしたらどうだ?」
「ではそれで」
少年は演奏を始め。
「じゃあ、サメ子案内頼むわ」
となったのである。
登場人物紹介
・サメ
この森に住んでいる妖精に間違われる。
最近、面倒くさいと否定しないを覚えた。
・姫巫女
女神の名前を持つ城の、女神への供物の名前がつけられた家の生まれ、名前としてはその娘という意味である。
日本人には名前が長いのと、きちんとした発音がしにくいこと、名前を簡単に呼ぶと不敬にあたるために、略して姫巫女と呼ばれるようになる。
・騎士
愛称としてはルゥーと、姫巫女に呼ばれてはいるが、名前としてフルゥー、これもまた日本人だと発音しづらく、サメ子が習得のために騎士の似てない真似をしながらも練習し、自分ではいける!と思った発音も「まあまあ」と呼ばれたために、騎士と呼ばれる。
足下は目をこらさないと見えないぐらい暗く、そこに気を付けながら、サメの後を歩かなければならない。
「この先には食べ物も、安心して眠れる場所もあります、と申し上げました。しかし、ただ今までと違うということ、、それが慣れないという新しい苦しみになることでしょう、それで良いならばついてきてください」
サメ子は小雨から、お前は善意かもしれないが、忠告にトゲが生えていると評されている。
そんな忠告を聞いても、迷うことなく一歩踏み出した姫巫女と、何かあったら一太刀くらわせようとしている騎士はサメについていくことにした。