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病み刀のパペット

猟師と一緒に出かけた孤山大象(こやま たいしょう)はしばらくしてから戻ってきた。

「どうだった?」

村のものは不安そう、そこで村長が聞くと。

「マジだな、本当に二人で片付けちまったみたいだ」

魔物が興奮状態の狂乱期、その難所とされる双頭の黄泉路(デビルフォーク)を有する地帯にある村でのことである。

「まっ、被害が出てないことはよしとするか、詫びもそっちから入れてきてくれたからよ」

「楽できていいな、来年も頼みたいぐらいだぜ」

二人で片付けたといっているが、ほとんど大象が一人、新しい剣を試すために片付けてしまった。しかし、責任は一緒にいるサメ子も背負うという。

「冬毛もたっぷりといただいたしな」

そしてお詫びとして村で使う冬毛をたくさんもって来たのである。

狂乱期は恐ろしいのだが、ある程度は必要なのものだ。

「魚もありますので」

ここから一番近い海は、歩いて一日半といったところか、干したものでも贅沢なのだが。

「生魚かよ」

「干魚もあります、こちらは酒の肴にあいますよ」

生魚はこの地のものだから、干魚はここから異世界セバダの漁港で作られたものである。

サメ子と小雨は海から流木を拾い集め、それを薪としてセバダに納め、代わりに現金などをいただいているが、出来れば現金よりも現物の方がありがたい、そんな感じのときは、現金よりも魚などにしてもらっている。

干したものは漁港の婦人部がこしらえたもので、海風仕上げなどと呼ばれている名品であった。

「まず汁物を作りましょ、美味しいですから」

さすがに村全員分の食事は用意できないので、大鍋で汁物を作ることにする。

材料はある。

(イワキくんの分だけど、イワキくんは後で村で食べてもらえばいいかな)

「卵ちゃん、火の準備をするよ」

「お願いね」

そのイワキの分なので、下拵えはもう済んでいる。

焼き魚の予定をぶつぎりに、地元の野菜を足し、こちらで馴染みのある味付けにしよう。

「しかし、生魚なんて珍しいな」

「頭と尾を落として、内臓をとって、冷やして持ってくるか、笹、こちらでいう薬の葉ですか、あれでまくといいですよ」

「懐かしいな、昔うちのじっちゃんがやってたな」

猟師が懐かしがる。

持ってはこれるが、食べ物の匂いで魔物がよってくるのでやらなくなったそうだ。

彼らは鼻がいいので、遠くから射抜くような視線を浴びることになるが、それが運び終わるまでとなると気が休まることはない。

(あら汁もいいんだけどもね)

魚に慣れてないと、食べにくい。一度サメ子は、佐藤季芽(さとう きのめ)時代に鮭の歯をがりっと噛んだことがある。

パパッとサメ子のペティナイフが葉物を切り分けていく。

サメだからこのナイフで調理しているのではなく、元々三徳ではなく、果物ナイフぐらいのサイズの刃物を愛用している。

理由は重いからであった。

グツグツ

「それでは味見を」

「匂いだけで美味いってわかるから、早く食べさせてくれ」

「わかりました」

「干したやつもどんぐらい焼けばいいんだ」

「あっ、焦げた」

「いいですよ、そっちもやりますよ、汁の配膳よろしくお願いします」

「しかし、この魚美味いな」

「鯛っていいます、傷ついて出荷できないものを安く買いました」

鯛?鯛なら何にしても美味しいよ!

「お前ら、キノコ持っていく気はねえか?」

猟師が言い出した。

「キノコですか?」

「今年は豊作で、行商人にも値切られたし」

それなら売らない、ここでサメ子たちに持たせた方がいいと思ったのだろう。

「じゃあ、僕がいくよ」

「よろしく、はいはい、できたんで、むしってね」

「酒ほしいな」

「もう飲むか」

猟師の小屋に大象は向かった。

斎道要(さいどう かなめ)や佐藤季芽、館林廻(たてばやし めぐる)そして弧山現象の四人は、生み月の達成者(おいづきのたっせいしゃ)と呼ばれているが、このような交渉などの役目は、佐藤か館林が主に受け持つが、他の二人もできないわけではない。

今必要な薬草や菌糸類、また交換に出してもいい物のデータを納めた物があれば、手が離せなくても出来るというものだ。

「ここに干してある」

そこから選べというざっくりとしたものでも。

「ええっとじゃあ」

それでも交渉を苦手としている大象は先にほしいものを見せて聞く。

「ああ、これか?これならここには、ああ、暖炉の方か、ちょっと待ってろ」

その間に大象が八千代の庭と肩を並べる神宝(かんだから)とも呼ばれる、漆黒の知識(しっこくのちしき)を起動させる。

ヒュー出番だぜ!

「新種もあるか」

今のやり取りでわかっちゃったかもしれないけど、みなさんが日本語によって観測できているこの話は、漆黒の知識ことこの私漆黒ちゃんの能力というやつですよ。

最終回のオチでそういえば漆黒の知識って、結局出てないじゃないか?実は私でしたって暴露しようと思ったのにな、あれか、待ってられないっていうのか、かー辛いわ、かー!

「漆黒、仕事しようか」

はいはーい、戻ります。

「毛皮をもらったが、夏毛も持っていかねえか?」

猟師が薬草をカゴに入れてもってきた。

「それは卵ちゃんに聞いた方がいいかも」

休憩で水を飲んでいたサメ子に問い合わせにいく。

「夏毛?」

詫びの冬毛を手に入れるときに、夏毛は赤帽子の方にも頼んでおいたが。

(あっ、そうか、セバダに持っていけばいいのか)

「ああいいよ、交換しても、たぶん塩と交換すると喜ぶよ」

そういって交換可能のデータに塩を追加した。

先程サメ子は調理をして気がついたことがある。

「すんごい美味いな」

「なんていうのしょっぱいって最高だな」

「そうなんですか?」

と訪ねてみると。

「塩は貴重品だからな」

行商人から塩を買っているそうなのだ。

(塩はうちは山ほどあるんだよな)

サメ子が住んでいる八千代の庭、この庭で使う水は、海水を汲み上げて、真水にして使っているため、その分の塩は山ほどあった。

塩はセバダでもとれるため、ちょうど漁港の背中合わせ、一山越えた浜に塩田が広がっている。そこため塩をどこかに持っていくということはなかったのだが、確認してみると、大象が調べたこの辺りの植物はもしも海の波一つ被ったら、みな枯れるものばかりであった。

(岩塩あるのかなっても思ったけども、それも難しいかもな)

ハンゾウにも今回来てもらえばよかったなと今更ながら思う。

「塩まで持ってるのか、こいつは儲かった」

ほとんど死蔵されているものです、ごめんなさいと思いながら、交渉は終わった。

村で編んだというツルのカゴを10個ほどの分量になった、カゴはそのまま持っていってもいいそうだ。

「じゃあ、後で運ぼうか」

「ちょっとサメ子さん、どういうことですか!」

「どうしたのイワキくん」

ヒーラーのイワキが怒っているようだ。

「どうしてみんなご飯食べているんですか、なんで呼んでくれないんですか」

「えっ?君のご飯の時間はまだ早いんじゃない」

「美味しいものはその限りではないですよ」

注意、そんな契約はしてません。

「あんなに旨いもの食べたことはないら鯛っていう魚、是非とも食べたい」

「みんな食べちゃったよ」

「それは許せません」

バシ

ヒートアップしたイワキを肩にのった一匹の蜘蛛が叩いて止めた。

「痛!でも」

バシ

「イワキくんがこんなに食いしん坊だとは」

「へぇ、そうなんだ、僕は三食カレーでもいいけども」

「なんですか、カレーってうまいんですか?」

「美味しいよ!」

「あ~ダメだ、美味しいもの食べなきゃ仕事したくない~」

と駄々をこねると。

バシ!

「すいませんでした」

(完全に手綱を握られている)

肩にのった蜘蛛はサンバグモという、あっちのサンバと勘違いされるが、たくさんの糸を出す種類であって、この蜘蛛とイワキはサメ子が頼んだ仕事で出会って、短期間で上下関係ができている。

「まあ、簡単でいいなら、なんか用意するよ」

「本当ですか」

こんなにイワキが食いしん坊なのは、彼はマイナー流派のヒーラーなので、金銭的にはずっと苦労してきた。

そこをある意味で甘いサメ子が、食べ物を用意したために、欲望を口にするようになったのだ。

(なんか、八姫(ハチヒメ)の弟さんみたいだな)

屋敷に務めてくれているメイドの八姉妹、八姫。彼女達は兄弟姉妹が大変に多いが、その末の方の弟のことである。

「サメ子様、返信ありがとうございます、いただいたお土産のことなんですが…」

八姫の故郷白浪(しらなみ)に帰省するということで、サメ子はバスの半分をお土産用意した、そのうちの一つにアレがあった。

「それでは歌います」

親戚たちが集まる宴会で、八姫の弟さんはアレへの愛を歌った。

「サツマイモ旨い~」と。

歌はサツマイモを愛する弟、コーラスはそのマブダチ、伴奏は八姫の中ぐらいの兄たちとなってる。

一番はこの世にはこんなに旨いものがある、そいつの名前はさつまいも、俺はこんなに旨いものを知らなかった(ワーワーワー)さつまいものことしかもう考えられない、茨城県に行きたい。

二番はこの世には色んなさつまいもがある、食べたことがない品種がある(ワーワーワー)、そこから食べたい品種名をあげていく、そして最後は茨城県に行きたいと。

拍手は起きたが、親族は疑問に思った。

(茨城県ってどこだ)

「サメ子さまの生まれた世界にある地名ですよ」

「へぇそうなんだ」

白浪は異世界に近い世界の狭間、そのためいわゆる地球に行ったことないものは多い。

それでも日本語の読み書きができているのは、元々そちら方面から来て人の子孫たちということで学校で教えているためである。

「夜になれば酒盛りが始まるので、先に子供たちにいただいた芋を一緒に焼いて食べさせようと思ったら、こんなことになりました」

全員が食べたら無言になった。そのときは相当美味しいんだなって思ったぐらいだったが、その後こんなことが起きたらしい。

歌った弟はマブダチに相談したらしい。

「お前はサツマイモというものを知っているか、アレはあんなに旨いものを食べたことはない、もう頭の中がさつまいもでいっぱいなんだよぉぉぉぉ」

「じゃあ、その愛を歌にすればいい」

「なるほど」

それでも愛を言葉にするのは難しく。

「姉上、このさつまいもが入ってきた箱にはなんと書いているのでしょうか」

「とっても美味しい名産品、茨城県のさつまいも」

「茨城県というのは?」

「このさつまいもがたくさんとれるところ」

「さつまいも…たくさん…」

曲のイメージが固まった瞬間である。

「でうちの兄弟姉妹でもうちょっとさつまいもを買えないかという話になりまして、お休みのところ申し訳ありませんが、ご連絡したところです」

「うん、わかったよ、美味しいのを用意しよう」

歌の報酬はさつまいもにするそうだ。



「それで姫巫女のことなんだけど…」

小雨が書類を持ってくる。

「またダメだったと」

「予防接種しても、なかなか免疫がつかない人はいるから、諦めずにこちらとしては受けてもらおうと思っている」

八千代の庭の屋敷、その屋敷で客人として世話になっている姫巫女とその騎士フルゥは、術師に保護された際の義務というものの一つ、予防接種を受けることになっていた。

しかし、姫巫女はこのように何度予防接種しても免疫の数値が上がらないため、ほぼ屋敷内での生活になっていた。

「特に今はな、悪化しそうな人はやめた方がいい状態になってるし」

「麻疹の話を聞けば聞くほど、絶体に行かせませんから」

フルゥには色々とその病気の起こした悲劇などを話して、慎重な男は何があっても姫巫女の無理を止めることであろう。

一方のフルゥはといえば、一度魔人の覚醒をしかけているところをサメ子に止められてはいるものの。

「人の疾患はそうかからなくなったと言われてますけど、そう…実感が」

「異世界から帰ってきても、半日ぐらい一人で過ごしてもらえば、向こうからのやばいのはそのまま死滅するしな、俺もそこはこの姿っていうの、サメの便利さを感じてる」

小雨がサメの姿になっているのは、サメ子と違いシステム魔術ではなく、それを見て、化けていることから始まっている。

「ジャージのような気楽さが便利すぎて」

ウィルスへの耐性が向こうに近く、様々なものを不活性にするが、サメのままなのは別な理由がある。

壁に飾るれているリースが見えるだろうか、花に飾られた同じ大きさのリースは、この部屋だけではなく、屋敷の様々なところにあるが、これは吸血鬼避けのリースである。

小雨こと斎道要は、天と地を束ねられるほど強い加護とされ、人よりも吸血鬼などの一族から敬意を表される人物ではある、そのようなことがあってから、人の世でもみるみる立場というのは上がっていった。

何故に強い加護を持てば吸血鬼から敬意を持たれるのか、それはこのぐらいの強い加護があると、その者との子供も吸血鬼の性質をきちんと受け継げるということもあるが、加護もちは美味しそうに見えるからである。

そのために吸血鬼の貴族にあたる、始祖とその直系の大公達は、天地の糸には失礼のないようにという立場をとっていた。

しかし、佐藤季芽がサメ子となり、その解析も兼ねて、自分もサメになってみたところ。

(ああ、なんて美味しいそうだ)

天地の糸とは知らない吸血鬼に襲われた。

「やめて!」

「旨そうなのが悪い…ってあれ?」

吸血鬼の牙は、小雨のサメ肌に阻まれ、何度やっても通らなかった、その間にサメ子と大象は吸血鬼から小雨を救出したのである。

この事件はすぐに大公に伝えられた、襲った吸血鬼は処置され、同意なしの吸血行為への罰則が強化された。

「これにメグがいると、もっと備えれるんだけども」

「廻様が?」

「うん、メグってさ、お母さんが有名な占い師なのさ」

少し前に巻き込まれた三角蜘蛛の巣において、死者の記憶が見えたのはこの血がなせる技でもある。

「予知ですか」

「いや、メグは未来は見えない」

過去を見て推測する。

「俺らが組むことになってから、メグから説明されたんだよね」

私の力は一人で何かをするのに向いてないんですよ。

「組む前に、授業で共同作業はしてたけども」

その時館林廻は誰かと組むということで、可能性が高まる、広がるを感じたそうだ。


斎道がいれば想定外の選択肢が生まれる。


佐藤ならば確率の低いものの成功率が上がる。


弧山の力は後もう少しというところに手が届きやすくなる。


「メグがそうなったのは、きちんと術師の勉強してからなんだよ」

文献などが少ない、または残ってないもの、そういった相手する際には、館林廻は非常に有効であり、あちこちからお呼ばれされる忙しい身の上である。

そして彼いわく、一番相手の情報を読めるときである、真剣勝負、本日はその場に赴いていた。

ギシギシ

薄暗い廊下を一人廻は歩いていた、角を曲がると、大きな扉の前に男がいた。

大膳(たいぜん)様はもう少しでお越しになるようです」

「わかった」

廻がその情報を読むための真剣勝負は、自分がしなくてもいい。これから行われる戦いをそばで見ていればいいのだ。

「しかし、若木も大変だな」

「しょうがありません、交通事故がこうも立て続けで起きちゃいますと」

本来は若木という男が担当であったが、彼は封印対象の移送のために廻に交代になった。

古くて長い歴史がある街には、あちこちに封印されたものが安置されていたりする。そういったものが交通事故などで破損し、大変だ魔物が出たぞとなるのであった。

「この間も建物取り壊して、埋まってた壷見つかったからな」

その壷には漢字で「三」とあり、何が入っていたかは不明とされている。

「でもこういう壊れやすいものってあんまりヤバイの入ってないんですね、まっ、でも確認しなきゃわかりませんけど」

「本当だよな、でも君がいうなら、そうかもしれない、生ひ月くんでいいんだよね」

「名前までご連絡存じのようで、サインしましょうか?…お越しになられたようですね」

着流しの男が刀を帯びてやってきた。

「それでは大膳さまよろしくお願いします」

『任せておけ』

男の表情と声がずれている。

『我と八重霞(やえがすみ)には一目を常に置いてもらわねば困るからな』

門をあけると、大膳はその奥に入っていった。

「緊張しますね」

「今日はご機嫌ななめってわかってたからな」

「まず一番に自分に相手にさせろ、そうでないなら機嫌が悪いですか、でも病み刀といわれているわりには…」

「そりゃあ、これから殺し合いするわけだから、集中するだろうさ」

どこから話せばいいのだろうか、今扉に入っていった男は人形であり、本体は彼が腰に下げていた刀八重霞の方である。

そして戦う相手がいない時の八重霞を見れば、その病み刀の意味がわかる。

ピィー

鳥が鳴く。

『大膳、今のを聞いたか、春の鳥だ!』

人形に話しかける。

しかし、顔でも見たのだろうか。

『ああ、そうだった』

これは本人ではないと気がつくようである。

八重霞が打たれた時代というのは、実用的なものが主流であり、優美な八重霞は飾り物などと言われた。

刀鍛冶はもちろんそのようなつもりはなく、故郷は霞が八重に引くという望郷の思いを込めたものだったが、女の刀などと呼ばれることもあり、強者の首をとることを望むようになっていった。

何人かの元を経て、意思を持つが、コンプレックス故に、転化するのがとても早く、もはや妖怪の域ではあるが、そう呼ばれないのは、八重霞の力を借りている術師達のおかげともいえよう。

かつての持ち主に似せた人形を与えたのは、術師の団体である「鈴」の判断である、すると八重霞はもはや会えない主に似せて作らせ、また名前も同じ大膳と名付けた。

「まだ正気ですね」

「俺は圧感じやすいから、大膳様が戦い始めると、気分がな…あ~ちょっと色々話していい?」

「いいですよ」

「なんでSSR狙えるの?」

「それはいつのどこですか?」

館林廻をリーダーとする生ひ月達成者は幾つかのチームで捕物に参加した場合でも、目標以外の相手を倒せなくても、他のものを発見したりする。

「ええっと、俺が聞きたいのは」

まだ四人が「星麓の(せいれいのすず)」がいたときの話である。

星麓は彼らが受験を受けた術師が所属する地名であり、そこの術師なので星麓の鈴と呼び方があった。

「あの時は四人ともスケジュールの都合がつきやすくて、がんがん参加してましたからね」

今では懐かしいといえるような話である。

「あっ、すいません」

「なんだ、こっちは忙しいんだぞ」

「いえ、私たちは離脱するので」

「離脱?まだ始まってないぞ」

包囲網を敷いている最中の話である。

廻が言い出すと、他のチームはこいつ何いっているんだという顔で見てくる。

「式神捕まえちゃったんで、討伐の装備足りなくなったんで下がりたいんですよ」

隣り合わせのチームには説明しないと、捕まえた式神を引っ張って移動はできない。

「はあ?」

「マジかよ」

「しかも印がありまして」

「今日宝くじ買ったら、1等当たるんじゃないの?」

そんなことをいわれたが、事情が事情なので、笑いながら移動の協力をしてくれた。

こういう野に放たれたままの式神というのは、見つけるのも退治するのも難しいのだが、確保することになっていた。「何かおかしいものがいるというか、あるというか、飛び回っている」

「あ~いるね」

佐藤が気がついて、弧山が捕まえうとしたところ、交戦。戦いに勝利し、捕獲すると、式神は上質な紙に描かれた本体に戻り、しっかり印まであった。

「印まであるってことは、どっかの大家のものだからな」

「生き月さん、後5分ほどで直行の道も作れますから、少々お待ちください」

撤退にまで力を貸してくれるそうだ。

これから楽に戻れるだろう。

「あの時捕まえた式神は有名著者の希少本、失われた一ページでしたからね」

こんなことを繰り返して、生ひ月はただの異能力者の集まりという評価ではなく、何かしらの成果を出す実力者となっていった。

「やっぱりお姉さんとか、妹さんとかの力を借りているの?」

「姉妹はいませんけど」

「えっ、いるでしょ、美少女占い師のリンネちゃんが」

それは彼らが子供の頃にちょっとした有名人だったのだが。

「あっ、それ私ですが」

「マジかよ」

「しかも占い師じゃないですよ、母の占いの結果をそのまま口にしているだけですし、男のままやっちゃうと将来同一人物ってわかるでしょ」

「それはそうだがな…俺はファンだったんよ」

リンネは輪廻、漢字にしてみるとわかりやすいね。



ブロロ

花儀園と名前がついたトラックが通ったら、つい目で追ってしまう。

「やっぱり見ちゃうよね」

三寧(みねい)が口にした。

「まあな」

そう木壷(きこ)は答えた。

(興味なさそうだからどうかなって思ったけど…心配ないみたいだな)

(トラック、なんかいたな、視線あった)

「それではみなさん」

『ありがとうございました』

「はい、それじゃあみなさんさようなら」

花儀園は一般見学コースというのがあるので、近隣の学校は遠足や授業でお世話になっている。

バイバイとガイドが手を振る、しかし何かにきがついて笑顔がひきつった。

ぶっ

無線のスイッチを入れ。

「ユキヤナギのところ、ブルーシート持ってきて」

ユキヤナギ?ええっとあの案内板のそばにある、まだ花が咲いていないので、群生地帯も人は全くいないが、あっ、肉球が見える、猫のような、しかしとても大きい。

ブルーシートを持ってきた職員が、そのそばでシートを広げて被せると、肉球が引っ込み、職員はブルーシートを持っていく…いや、あれ、ブルーシートをかけた何かが歩いてないか。

「やっぱり今日は人が多いね」

「天気いいし」

花儀園を訪れた三寧と木壷は管理棟を目指す。起伏のある丘の上にたっている、あの建物に園の職員達がいる。

「木壷大丈夫?」

「ああ、もうちょっと体力つけねえと」

怪我で野球やめてから、運動習慣もなくなり、体力はおちるいっぽうであった。

「すいません、今村さんとお約束しているんですけど」

「あれ?イマムは?」

「駐車場にいると思いますね、呼びますので奥の民家で待ってくださると」

ちょうど影にあるので、正面から見えないが、時代劇に出てくるような民家である。

「この民家、謎だったんだよな」

「文化財というか、ボロいというか」

茅葺き屋根、そして中には囲炉裏があった。

どっこいしょと腰かける木壷。

「あっ、僕トイレ借りてくる」

「俺は休んでる」

三寧が出ていくと、そのまま上半身を倒し、ぐっ~と伸びをした。

(体力つけねえとな)

先日ゴブリンを討ち取った時にも思った、足が、結構自信あったのだが、走り込むと自分のイメージからずれる。

それで凹んでいたが、先程凹みの底に触れた。

もぞ

(誰も俺に期待してないわけだからさ)

彼が体を壊して野球をやめたのは、プレッシャーからの不調で怪我をしたのが原因である。

だからこそ、それが今スッと消えたのである。

モゾモゾ

(ん?なんか足に)

そういって上半身を起こすと。自分の膝ぐらいの高さの青灰色した毛玉が足に当たっていた。

「なんだよ、これ」

するとニュと立ち上がり、シュと首を伸ばした。

「駝鳥?」

ダチョウのようなサイズは持っているが、足や首までボリュームのある毛で覆われている、こんな生き物見たことはない。

「センちゃーん!もう先に行ったらだめじゃないか、ええっと君は?」

「木壷です、お電話でお約束した」

「もう一人の子は?」

「すいません、トイレいってました」

「あっ、こんにちは、今村です、今村エルフです、こっちは私と一緒にこの世界に迷いこんじゃった、千枚皮っていう、そのもふもふは千枚の毛皮と同じ価値がある、千枚皮のセンちゃんね」

油断するとすぐこれだ、情報量が増えやがる。

「えっ?」

「はっ?」

「こう見えて、若く見えてますが、君たちのおじいちゃんより年齢は上です」

「…」

「…」

情報が多すぎて思考止まったぞ?

「センちゃんはいるけど、セイちゃんいないな」

「セイちゃん、ご飯は今あげるから待って」

民家の外から声が聞こえてくる。

「ほら、ご飯はセンちゃんも一緒に食べよ、はい、センちゃんもご飯よ」

職員さんがトレイにご飯を持ってくるのが見えると、ピクッとセンちゃんが反応した。

そして、今回の目的である唐獅子が職員の後ろについてきた形で民家に入ってきた。

「う~ん、まあまあ」

「えっ?」

唐獅子と千枚皮がご飯を食べ始める。

「君たちに会わせたかったのは、あの唐獅子のセイちゃん、本名は青苔と書いてセイタイ」

「色が青というより、緑色ですよ」

「いい質問だね、最初見つかったとき青苔色だったんだよ」

そしてこの名前がつけられた後に、雨が降ったので濡れた唐獅子を拭き取ったら、青苔色がとれてしまった。

「青苔色は本当に青苔だったようだよ、本来の色はこの玄人受けするような緑灰なんだよ」

ご飯をガツガツと食べた二匹。

「ちょっとごめんね」

話の途中だが、今村は二匹の足を拭いて、板の前にあげた。

するとセンちゃんが日当たりのいい場所に移動しごろん、セイちゃんはセンちゃんのもふもふによりかかるようにごろん。

「とりあえず二人とも、セイちゃんとの相性はまあまあだね」

「わかるんですか?」

「ここ二代ほどは見てきたけど、気に入ると近づいて、飛び付くよ」

唐獅子はライオンぐらいの大きさです。

「まあ、嫌われてはいないから、気長にやろうよ」

嫌われていると、テリトリーに入ることもも許されないそうだ。

こうして二人は花儀園に通うことになったのだが。

「よし、ついでにトレーニングな」

二人の担当でもある薄氷(うすらい)が、トレーニングをすることを提案。

「はい、園内一周」

走っても、歩いてもいいそうだ、それなら楽勝かな?と二人は思ったのだが。唐獅子と千枚皮追いかけてきた。

無言でスピードを上げる二人、しかし二匹の方は遊べると思ったようで、じゃれついてくるようになる。

二匹は鋭い爪を持っているので。

プチ

かすっただけで、服の生地に穴を開ける。

「これはシャレにならない」

しかし、そこで木壷が転ぶ。そのまま二匹が絡まれている。

「今村さん、今村さーん」

三寧は急いで今村に助けを求める。

「まずはセンちゃんと、セイちゃんをかわせないとね」

今村が呼ばれると、もう遊んで満足した二匹が離れてる、しかし口の中に砂が入っていても、木壷の体は動いてはくれなかったという。

近所で子供がいなくなった。

大人達が暗闇の中、ライトを片手に探し回る。

「いたぞ」

と見つかった子供。

いなくなった子ではなく、また探している親もなく。

「なんか鳥?と一緒にいたから助かった、あのまま朝までいたら低体温で死んでいたよ」

チェンジリング、他国ではその名前があるぐらい知られた現象、しかしこの辺りではそれは知られる。

彼はそのまま流派に引き取られ、師範であり育ての親はその子に月白(げっぱく)と名を与えた。

「それでも顔立ちとかやっぱり違うしね」

養子に入り、今村を継ぎ、今村・エルフ・月白。

「エルフっていうと、全てが話早いから、エルフにしてる」

たぶんエルフだろうし、エルフっぽい、後今を生きている人はエルフよりみな年下になっているので、今村のエルフっぷりを見慣れている。

そんなわけで今回はこれでおしまい、おやすみなさい、よい夢を。

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