お前の人生インフェルノ!!
「よう」
釣りをしていた漁師がいたので、遠くから陸に上がって近づいていった。
「サメコ(セバダでは小雨はこう呼ばれる)、来ていたのか」
「結婚決まったんだって?おめでとう」
そこで小雨はブルブルと濡れた体を震わせて、水滴を飛ばした。
「ほとんどお前たちのおかげだよ、俺の稼ぎじゃ何時になることだか」
漁港の漁師は、求婚する時に、相手に珊瑚を贈る習わしがある。
理由は漁師はいつどうなるかわからないので、財産になるものを先に渡しておくというわけだ。
「ただな、良すぎたわ、あれ」
サメコは嵐のあと、海の中から真っ赤な珊瑚を3本拾ってくる。
それはそれは見事な珊瑚で、国に所蔵されるような立派なものだったが、サメコはこの漁師の結婚したいんだけどもな‥っていう話を聞いていたものだから、一本は漁師にやってくれない?と頼んだら、その意見が通った。
「彼女さんは喜んでた」
後は驚いていた。
彼女さんは、王都の湾岸に店を構える商人の娘さんで、漁師と結婚するのはどうかな?と思っていたらしく。
「付き合っているのを知っていても、見合いしないって聞いてくるのよ?もう嫌になるわ」
そんな報告を聞いた後に。
「じゃあさ、もっと派手に祝う?
「え?」
そこでサメコの提案に呆気にとられてたところ、カモメは見逃さなかった。
スッ
漁師の荷物から弁当を盗んで、そのまま飛び立とうとする。
「オラ!」
サメコはカモメに向かって飛び付こうとするが、カモメはヒラリと避けた。
いつもなら、サメコはそこで落ち込んでしまうのだが、諦めることなく、尾びれは空を叩き方向転換、そのままカモメを追った。
空中で始まった鬼ごっこは繰り広げられるが、カモメは弁当の中身をポロポロとこぼして逃げるため、容器だけとなったとき、カモメは軽くなった弁当容器を海面に落として飛び去った。
「取り返せなかったわ」
「お前飛べんの?」
「空の高さも俺には些細なことよ」
カモメには負けたけどもね。
始まるよ!
「そういえばさ、鈴砂、おヨメさんはどうしているの?」
余儀七瀬が何気なく聞いてみたところ。
「この間な、ビックリしたのよ、部屋の電気消し忘れたかなって思ったら、ヨメが輝いていた」
滅儀鈴砂は先日結婚したという写真をみんなに送った、彼が結婚したというのはサメの抱き枕で、本名は「よい子の抱き枕シリーズ かため」という。
「へぇ~」
出来るだけ触れないようにはしていたけども、いつかははっきりしなければならない話題をこの機会に聞いてみたが、失敗したなと七瀬は思った。
「無茶して術を解くためにはこれは必要なことだったさ、そりゃ」
こういう言い方をしているとき、本人もいっぱいいっばいなんだなということは、子供の頃からの付き合いなのでよくわかる。
「ワケわからなくなるから、確認するよ」
「ああ」
「佐藤季芽さんが落雷による封印解除に再封印するために、巻き込まれて、死んでしまうところを、システムの最適化によって、70%サメになった、サメにしたのは再生力をあげるため、そういう意味では気が利いているのかもしれない」
「俺との関係は、出会いの話をすると長くなるが、捕物中にぶっとばされてな、それでシロ先生にお世話になっていたときに、世話になってな‥」
「そういう思い出で頬を一回一回赤くされるとさ、こっちは困るから」
「あ~まあ、それからいい感じになっててと、映画見た、その次の日だったからな、もう会えない言われてな、もう人の姿はしてないと、でも丸くて、可愛いとは思うんだが‥」
「はいはい、それで僕への依頼はそのサメ状態から元に戻せないかってことだね」
「そうだな、少なくとも選択の一つにできれば‥いいんじゃないかな」
「わかった、でも何にせよ、佐藤さんの納得すること、不快なことはしないだからね、それ飲んでくれなきゃおりるからね」
「わかってる、わかってる」
念をおされるのは、わかっているのかどうか、不安だからです。
「七瀬、こうなる前にも、季芽と生きていくにはどうしたらいいのか、真剣に考えたりした相手なんだよ」
「へぇ~それで真剣って何さ」
「婿入りするとかな」
「は?」
「ほらな、驚いた」
「そりゃあ、驚くでしょ、名家の当主の長男の長男が婿入りしたら‥実家どうするのさ」
「あくまで仮定の話だ、しかし、真面目に考えたら、色々な方法があるもんだな」
「それなら、功績立てて、新しい家にするとかの方が、まだ現実的じゃない?あっ、おじいさんにはいつ会うの?」
「いつ?うちに来たアキの顔見せもあるから、明日の午後に会う予定だ」
アキというのは、先日季芽が見つけ、鈴砂の元にやって来た忍である。
「先に話だけはしておいたが、アキの奴話を聞いたら緊張してしまったよ」
話をした時に、洗ったばかりの洗濯物を持っていたが、びっくりして洗濯物を落としてしまったぐらい。
滅儀の当主というのは、昔から大規模な討伐があれば遠方からでも声がかかるという剛の者として、名前が広まっている。
「そこまで怖いかな」
「気さくだよね」
孫の鈴砂と、家同士の繋がりで子供のときから挨拶している七瀬から見ると、いいじいちゃんである。
「あっ、それならこれも知っておいた方がいいかも」
「何を?」
「佐藤さんの話もすることになろうと思うから、ご当主さまとその嫡男のこんなエピソードはどうだろうね」
七瀬はそこで自分の祖父と父の知られざることを聞かされた。
「まあ、詳しくは当主様に聞いてよ」
「‥わかった」
次の日、鈴砂はアキをつれて、滅儀の邸宅を訪れた。
「お菓子は‥気に入ってくださいますでしょうか」
箱の中にはアキが選んだお菓子が入っているが、自信がないようで。
「俺ではそういう女性が喜ぶようなものは選べないからな、すごいと思うんだが」
「そうでしょうか?」
自分とおなじぐらいの年齢と背丈を持つ男性なのだが、びっくりするほど自信がない、人の意見にずっと「はい」と言ってきてしまった忍びの人間なので無理もない。
「七瀬様が、華やかなものがよろしいと言われましたので‥」
「そうだな、ばあちゃんは確実に喜ぶと思うが‥」
「スズちゃん!お帰り!」
声をかけたのは鈴砂の祖母。
「ばあちゃん!」
「は、はじめまして」
アキが深々と頭を下げる。
「もうそんな畏まらなくてもいいのよ」
二人は茶の間に通されたが、誰もいない。
バッ!
しかしすぐに鈴砂もアキも反射的に一ヶ所を見つめた。
「ふむ、なかなか反応がいいな、どちらともな」
「じいちゃん、アキ、これがうちのじいちゃん」
「どうも!うちの孫がお世話になってまーす」
「これはこれはご当主様、本日は大変お日柄もよく」
「堅苦しい挨拶はなしだ、まっ、そうもいかんか、忍びだしな」
「美味しいお茶淹れるわね」
屋敷に入ったときからいい匂いがすると思ったが、茶を煎じて待っていたらしい。
「そ‥そのようなことをしてくださったのですか、あ‥こちら、手土産のお菓子でございます、お口に会えばいいのですが」
「あら、可愛い、お皿も持ってこなきゃ、ちょーっといってくるわね、できればお皿を持ってくる間に、難しいお話は終わらせてくれると嬉しいかも」
そこで三人だけになると。
「は~相変わらずお見通しだな、でも菓子で大分機嫌がよくなってたから、でかした、七瀬が選んだ菓子なのか?」
「アキが選んだんだ」
「なかなかやるな、どうもこういうの向いてなくてな 」
「難しいと思うんだよな、どうしたら喜ぶものを選べるんだ」
祖父も孫も同じ悩みを抱えてまさた。
「これからも気を配ってくれるとありがたい」
「そんな、もったいないお言葉です」「あ~ばあちゃんが戻ってくる前に聞きたいんだけど、季芽のことを思い出すために結婚した」
「淡柚木さん、泣いたんじゃないか、あれ見て」
ここに出た淡柚木というのは、鈴砂の母のことである。
「でもまあ、それでも忘却の術を解いたわけだしな、あれは術をかけただけではかからぬのよ、その後に一度でも後悔したのなら、それにかかるのよ」
「術をかけられたのはすぐにわかった、喜怒哀楽がみんな上手いことでなくなってたし、ただ何の、どこにまでが全くわからなかったから、どういうことをすれば解けるのかわからなかった、そのために季芽のことを確実に知っているだろうから、斎道要に何度も聞きにいったし」
「天地の糸か」
「向こうが勝ったら教えてやるよっていったから、何度も試合したが」
試合といっても、鈴砂は術剣、向こうは体術と術のなんでもありである。
「勝ったか?」
「勝負は俺の負けだよ、真剣だったら‥わからないけど、問題にはなるし」
「吸血鬼大公達を敵に回してもな、切ってもいいが、後腐れが残る」
アキからすると、とんでもない名前がどんどん出てて、世界が違った。
「まあ、お前への忘却も、ごめんなさい‥もう会えないの‥って言われて、家宝の、宝刀を持ち出して、季芽ちゃんを縛る術式を力付くで砕こうとしたら、砕けたのは宝刀の方だったっていうことで、何もないわけにはいかないからな」
ゴキン、ボロンって折りました。
「鈴砂には忘却を、季芽ちゃんには賠償をってな」
「えっ?それは初耳」
「今はじめていった、そしたら季芽ちゃんとリーダーの館林くんがな、すぐにその分は払ったのよ」
「色々とあったと‥聞いていたが」
「あれですぐに払ったからな、そのお陰でようやく全部終わったものもある」
「その話、スズちゃんにするんですか?」
「しないわけにはいかんだろうよ、その支払いは淡柚木さんのものよ」
「それは母の実家ですか?それともお見合いの相手の方ですか?」
「その話は詳しくはせん、理由は子供には聞かせないことを条件に支払いを続けていたからな、とにかく、その支払いはそこで終わった」
「孫の前でする話では‥そんなこといったら、あなただって」
「そちらも知ってます」
「‥そうか、俺の方は元々長男でもなかったし、ただな、惚れた相手のお父上から、強くないとうちの娘はやれませんって言われてな、そっからだよ、真面目に素振りもしだしたの」
「その言い方では、ご当主様は幼いときから学んだものではないんですか?」
「ない」
「天才ですか?」
「短期間地獄見れば、上がる」
「何ですか、それは?」
「そういわれて荒れてな、地獄見せたら、諦めるだろうって、落とされてな」
懐かしそうに目を細めた。
「傷だらけになった姿を看たら、もう本当になんて馬鹿なことをって思いましたからね」
「そこから這い上がって、どこまで強くなったか試したら、名前知られるようになってな」
かまいたちや辻斬りと呼ばれ、その時早急に討伐するように云われたものを積極的に狩っていったのならば、次の当主なんだが、功績著しい者を差し置いては如何なものか?と言われ、当主となることが決定する。
「そういうのは今のお前には」
「よくわかる」
「それはうちに連れてきたときにはわかったよ」
「しかし、あの時あまり居心地のいい空気ではなかったようだけど」
「それはな、淡柚木さんのことを思い出したよ、あの時金もそうだが、うちの家人や従者、忍びは下げたくないところに頭を下げなければならない、そういうのはいつまでも忘れられないのよ、家の格で扱いが決まる生き方ゆえにな」
「季芽はそういうことは‥」
「彼女は星麓の鈴、いや、今は一陽の鈴か、鈴は他所の家や派を後ろから助けてきたから、立ち位置を得てきたのよ、そこで一番机を持っているなら、どこからか養子の話は確実に来ているだろうよ」
「じいちゃん的には季芽はどう?」
「養子先を抜くとか?季芽ちゃんはいいんじゃないか?うちの剣覚えればいいんじゃないか」
「えっ?いいの?」
「あんな氷柱を上手いこと切れるんだったら問題はないだろう」
実は佐藤季芽には剣技が一つ光るものある。
「うぉりゃ!」
受験のストレス、それを冬だったこともあり、氷柱をガシガシ落として発散していた。
頭上、斜め上の物を切り裂く氷柱は、上手く切らないと自分に降りかかってくる。
ザシュ!
その技はサメ子となった今でも錆びていない。
滑らかな動きで懐に入り、二メートル近い魔物の喉に刃を滑らせた。
「切れ味はどうなの?」
弧山大象が聞いてくる。
「今のところ問題ないね」
せっかくの機会と、試し切りをしているようである。
「術に強いことがまず第一だから、それはクリアだね」
剣の名前はジョビスナとつけている。
この剣は合金を剣の形に成型したしたものであって、その合金は材料になりそうなものを金属や希少材料を小雨に食べさせたもので、そこから小雨は「小雨ファイヤー」や「カムチャッカ並」「お前の人生インフェルノ」などの高熱系の技を使うと、その技に耐えられた厳選された材料が残り、それを寝かせて熟成していった。
名前のジョビスナというのは、セバダの言葉で小雨という意味である。
「じゃあ、後はお願い」
そういってジョビスナを大象に渡した。
これから二手に分かれ、双頭の黄泉路中心に討伐を始める。
「じゃあ、私はテントの前で脂ののったさんま焼いて、おびよせるから、そっちは追い立てを頼むよ」
世界と世界の狭間にある白浪では、ただいま宴会の準備のため、よその世界に働きにいったものたちも大勢里帰りをして来てる。
「しかし、この様なことは始めてですからね」
どうやったら盛り上がるのか、その打ち合わせは何度も重ねられた。
出し物として、狂乱期の双頭の黄泉路において、低栄養にならず理性を持った大型の個体達をを、白浪が用意した島に移動させる。 そこまで出たところで‥
「誰が一番大型の個体を倒すのか競わせるんですよ」
館林廻はそんな状態を知って、アドバイスをしてくれた。
そのためには食べ物が少なく痩せた状態を狩っても面白味がかけるので、食べ物も水も豊富な島で過ごしてもらう。
参加者は1チーム四名まで、優勝者は参加者や来賓など大勢の前で、表彰、メダルをかけられ、勝利の美酒の入った樽を割り、その時の写真を目立つところに飾るということにした。
「なんかそうしたら、次はいつやるんだといわれました」
たまたま大金が入ったから、このように大きな祭りになったのだと説明したところ。
「一回目が始まる前から、二回目の協賛金が集まってしまいました」
廻のアドバイスが承認欲求をがっちり満たしたのである。
そんな廻は今どうしているかというと、術師が所属している団体に聞き取り調査のために、敷地から出ること禁止がようやく終わりを迎えたのである。
「珍しい人がいる」
だからこそ、廻の顔を見たらそんなことを言い出してしまった友人がいたぐらいだ。
受験場所は違うけども、同じ年で現在受験生担当の教師でもある彼は、最後に会ったのはいつだっただろうか、大分前なのは間違いない。
「巻き込まれてね、これからどうするのかの意見を聞きたいとか言われちゃってね、今帰るんだけども」
「でもなんで料理?」
「長引くから、自炊するからって食材持ち込ませてもらったら、余ったからな、よかったら食べていかない」
「いいの?悪いね、パンもあるじゃん」
「左がカレー、右がくるみ、おすすめはカレー」
「カレー奉行が作ったカレーパンだよ、ハズレ無しだよ、おおやっぱり!」
「そっちは?忙しいの?」
「補欠候補かな、その子の同級生が受験生で、やってみたいことあるっていって、報告待ち」
「今補欠候補?」
現在術師団体の受験は、団体に勤めることを目的とする受験生と、受験生の人数が定員割れしたときにと話が来る、術の基本を学ぶ研修生、ここに出てきた補欠に候補という言葉は確かなかったはず‥なんて思っていると。
「野球やってたんだけど、怪我した子で進学先が無くなったそうなんだよ、それで補欠候補っていうのを急遽用意したんだ」
「あ~それは‥」
「というわけなんだよ」
「ゴブリン退治だ?」
術師の知名度は意外と低いので、話をするだけで、こいつは何をいっているんだ?ということを経験したものは多いのではないだろうか。
「木壺ならいけるんじゃないかなって思って」
そんな話をして来たのは、同級生の三寧。
「ひびって、あのバッターが手が出ない、あの勢いがあればいけるんじゃないの?って」
「あのね、俺はもう野球出来ないわけ、肘やったから」
他の同級生はそれぞれの進路に向けて、説明会やら何やらで、こんな時期に教室にいるのは俺ぐらいだった。
そこにこいつがやってきた。
「術使えばいいよ、そしたらかなりのスピードは出せるし」
「はっ?何それ、なんか怪しいことやってるの?」
「よく言われるけど、うちは無形の文化財を保護とか継承するところだよ、遺跡調査とかいくよ」
その遺跡、迷宮って呼ばれてません?
胡散臭い同級生の話、でもやることが特になくなっていた木壺は、術師の世界に足を踏み入れることになる。
「今の時期から補欠候補から合流するとしたら‥何するの?」
「三寧くんが、ゴブリン退治してきますって」
「最速退治するの?」
「いや、ゴブリンキングか、クィーンを奇襲で打ち取るって」
「あ~それができたら、面白いね」
「でしょ!」
今は大人数集めて、囲んで、無力化させるやり方が主流である。
そこで電話が鳴る。
「どうした?今ちょうどお前たちの話を‥わかった」
電話が終わると立ち上がり。
「パンもらっていっていい?」
「何かあったの?」
「ゴブリンキングを当て逃げして、仕留たらしいんだけど、そしたら他のゴブリンに追いかけられているって」
「手伝うか?」
「パンだけでいいよ、先生だからね、救援したあと、説教しなきゃいけないし」
「わかった、次はいつになるかわからないけど、また」
「じゃ~な、あっ、その木壺くんっていう補欠候補、一芸発表会には特別出演するから」
木壺くんが披露する「場内アナウンスによる選手紹介」は大変見ごたえがある内容になっておりますので、お楽しみに!




