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生ひ月の達成者

舞台の始まりは演奏の責任者である指揮者の合図から始まる。

貴族や他国の要人達の社交場である劇場マーレ・ジェーナは、「全てに妥協しない」という目標を掲げ、セバダの芸術文化の王道を歩んでいた。

ただ近年、年によっては穀物や薪が値上がりするので、その度に王城は節制を呼びかけているのだが、マーレ・ジェーナや同じく庶民の娯楽劇場マーレ・クレシエンテともに例外扱いになっている。

それは何故かというと、秋に入り、収穫期が終わりかけるぐらいから、クレシエンテにおいて炊き出しや薪の配布などを行い、その支援が積極的だったからであった。



「おやっさん、サメコとサメチカが来たみたいっすよ」

若い漁師が漁港の顔役達が揃う建物に入ってきた。

「あれ?」

もういるぞ!

サメ二匹が注目されているとわかったためにポーズを決めた。

「イルカと見間違えたんじゃないの?」

「海馬が馬車を引っ張ってきてるから、この間海馬じゃないの?あれ」

そこで建物の中にいた人やサメ達が窓を開けてみると。

「あっ、本当だ」

海馬が馬車というのか?この場合は?を引いてきている。

「あれ、お前達が呼んだのか?」

「いーや、今日も俺が船引っ張ってきたぜ」

セバダの漁港にサメ達が訪れる場合、サメ子(セバダ名サメチカ)が乗っている小船を、小雨(セバダ名サメコ)が引っ張ってくる。

ここで顔役が小雨の尾びれが気になった、尾びれには焼き目がついている。

「やっぱりよ、それ痛々しいな」

「見た目はそうなんだけどもな、痛くはないんだぜ」

「包丁で切ろうとしても包丁の方が折れたり、欠けたりするぐらい固いお前に、そんな傷を負わせるだなんて‥」

「ふっ、男の傷は勲章よ」

そう格好つける小雨に。

「こたつは強敵だったよな」

サメ子はボソッといった。

小雨が焼き目がついている理由は、こたつで寝てしまった低温やけどである。

「ん?」

何かに気づいた。

「どうしたの?」

「馬車の御者、フグジさんじゃないか?」

河豚顔が遠くに見えた。

「あっ、そうだね」

「知り合いか?」

「私は挨拶する程度」

「知り合いなら話に入ってくれねえか、用があるのか、それとも迷ったのか聞いてきてくれよ」

ボチャン

小雨は海に飛び込んだ、白い波の道が海馬車に近づいていく。

「やっぱり白浪(しらなみ)のフグジじゃん」

「お前さんは八千代の、ちょうど良かったわ、配達頼まれたんだけどもよ、この辺りは初めてでな、ここに行きたいのよ」

届け先を指差すと。

「マーレ・ジェーナ?マーレ・ジェーナはここじゃねえよ、もっと先だ」

「そうなのか、マーレ・ジェーナのジェーンさんって人に頼まれてお届けに来たんだけどもよ、今時間あるか?あるなら、案内してくれた方が話早いと思うんだよ」

「そだな、それならそこ港によっていった方がいいぜ、荷の引き受けの資格持っているやついるから、先に話つけた方がいいんじゃない?」

クッシュン

セフィリノはくしゃみをした。

「おっ、サメ係仕事だ」

サメ達と王城との連絡役を務めているセフィリノ、通称サメ係は嫌な予感がした。

「ちょうどいるから良かったわ」

サメ子とセフィリノは目があった。

「ええっとこちらがフグジさん」

河豚の顔をした魚人(ギョジン/サカナビト)が彼を待っていた。

「どういうことです?」

「おっ、セフィリノ来たか、こちらの方がマーレ・ジェーナに荷物を運んできたから、その書類を作ってくれ」

「‥わかりました」

「それで誰宛ですか?」

「へい、マーレ・ジェーナのジェーンさんって方です、依頼して来た方が昔見た公演を忘れられないので、また都合がついたらよろしくと、その伝言と、贈り物の薪です」

「だそうです」

100%フグジの言葉は理解できないので、足りない部分はサメ達がこんなことをいっていると埋めてくれている。

「ジェーンだと?」

顔役が不思議そうな顔をした。

「なるほどな、サメコ、お前は持ってきた薪を数えてこい」

「はい」

「あっ、これ伝票ですが読めますか?」

フグジの伝票はセバダの文字ではない。

「セフィリノ、これ読めるか?」

「う~ん、書式が同じだから、ああなるほどお届け先、こっちが依頼人かな」

実はセフィリノは勤勉+加護のせいで言語を理解する能力がとても高い。

(本当、他の人たちが四桁の単語を覚えなければわかりにくい言語のルール、それを読み解くのが早いんだよな)

サメ子はわかっていても口には出さない。

「だいたいあってるよ」

「ほら、こういってますし‥まあ、後はそうですね、後はサメを信頼していますから、変なことにはならないでしょ」

しかし。

「えっ?なんですか、その顔」

セフィリノのサメを信頼してますからという台詞で、漁師とサメたちはショックを受けていた。

サメたちとはどこか壁があり、一歩以上の距離をとっていると思われているセフィリノがそんなことをいったからだ。

そこでサメ二匹がセフィリノに集まってきた、セフィリノは顔役の後ろに隠れた。

「王都側にはどう説明しますか?」

「荷物だけだから、そこまで時間はかからないだろう」

「じゃあ、顔役も馬車に乗っていこうぜ」

「えっ?俺がか?」

「一緒にいったら確実だし」

「いや‥しかしだな」

顔役の歯切れが悪い。

「じゃあ、セ‥」

セフィリノは視線をそらした。

「それならさ、顔役の船使えばいいじゃん、それにセフィリノも乗せてさ」

サメ子は助け船を出した。

「そ、そうだな、それがいいな」

「そうです、そうしましょ!」

先に船に出てもらい、手続きを初めてもらうということになった。

海馬車には小雨とサメ子が乗り、セバダはどこの食事が旨いのかとか、おすすめの酒は何がいいのかという話をしながら揺られていった。

「そういえばさ、八千代にも海馬がいるんだよ」

「ありゃ、はぐれちまったかな?」

「みたい、浅瀬でパチャパチャやっていたりするぜ」

「ああ、それは子馬だな」

「うちにオーパスって奴がいるんだけども、客人としてうちに来たんだが、ただ世話になっているのは性に合わないっていってな、今その馬の面倒見ているんだわ」

「それなら大人になる前にしつけた方がいいぞ、海馬っていうのは大きくなると海中もぐったりするもんだからな、そのオーパスはエラあるのか?」

「エラないな」

「エラないなら、早いうちに馬のしつけはした方がいいよ」

「誰かいい人いないもんかね」

「これからしばらく忙しいんだよな、ほら、肉を楽しみにしている奴多いだろう?」

「それ終わったらでいいから、誰か八千代に来てくんねえかな」

「そうだな、八千代は肉でも世話になるからな、よっしゃ声かけてみるわ」

「お願いします」

「肉の方は楽しみにしてっから、ごろんごろんなの頼むからな」

セバダの王都波止場につくと、顔役とセフィリノが先に話を通してくれていたお陰で、フグジの荷物はすぐに受け取ってもらえた。

「早く帰れるとは思わなかったわ、また何かありましたら、よろしくお願いします」

「だそうです」

礼儀正しいフグジは、セバダの湾岸に勤める人間たちには好印象を与えた。

「海馬車っていいよな」

「セバダの行き来が便利そう」

サメ二匹は帰ったら海馬車のカタログを取り寄せようなんて話をした。



フグジも楽しみにしている肉、先日魔物が興奮する狂乱期が訪れる地域のものを、フグジの上役にもあたるエイ太郎に試食してもらった。

「この肉は‥いいですね、癖の強さ、それでは肉はお願いします」

興奮している魔物の肉は、同種や近縁種が食べても理性を失うまで興奮はなく、せいぜい強い酒を飲んだぐらい、食べた感想などをサメ子が見ている限りでは、熟成されたチーズのようなもののようだ。

「お兄様、そんな肉ならばもっと活きのいいものがほしいですわ」

エイ太郎をお兄様と呼ぶのは、妹のエイミさん、エイ太郎さんはエイの魚人だが、エイミさんは二人の種族である辰砂エイ(シンシャえい)の特徴である辰砂色の髪が美しい人といった感じだ。

この辰砂色は家族だと色合いがほぼ同じ、エイ太郎さんの着物に隠れて見えにくいが、そこから見えるボディの赤い部分は色が同じだ。

「しかしな、活きのいいのっていうのになると、難しいんじゃないか?」

「でもこれをやると、満足度が違いますよ」

「あ~それを言われると弱いな」

世界と世界の狭間にある「白浪」その白浪の住人達が肉でどんちゃんする、きっかけは白浪の主である「アオハ」が命を狙われたことにある。

犯人はすぐに捕縛され、調査が開始されたが、住人からそのまま処刑しろという意見は強かった。

サメ子の知り合いではないか?と問いただされたが、これは無関係とわかり、その後の交渉についてはどんなことが行われたのか知らないままだった。

先日襲撃犯は引き渡しとなり、多額の金銭が代わりに白浪にもたらされた。

本来こういったときは、うちとはかかわり合いありません!などと多額の支払いを拒否する場合が多いのだが‥

「え?支払わないの?支払えないの?そんな財政難の人間が、なんでこんなところでえらそうにしているの?」

「小雨、いきなり何を言い出すの?誰のマネ?」

「石咲さんのマネ」

小雨の現在の上司でもある石咲は、会議において支払わなければならない人間に対してこんなことをいったらしい。

このままでは会議に参加する度に言われるので支払いに応じたのだが。

「石咲さん、また敵増やしたね」

「本人は気にしてないようだけどもな」

それでも無傷で引き渡されたことが気にくわないものはいるので、得たお金などで住人たちに肉や酒を振る舞うことにした。

しかし白浪では肉や果物は高級品なので他所から手に入れなければ行き渡るものではないので、そこで八千代に再び連絡が来たのであった。

「要望があるのでしたら、出来るだけ対応したいものですし、言っていただければ」

「そうですか?それなら、20体に一体ぐらい生きたまま欲しいかな」

「もうお兄様、遠慮はこういう時なしですよ、10体に一体、その一体は強いのがいいです」

「それなら腕に自慢がある住人たちで強い個体を奪い合ったらいいですよ」

「それは素敵ね」

「勝手に決めて‥でもそういうのできます?出来るのだったらそれにしたいと思うのですが、こちらからサンバ蜘蛛六体、二交代で梱包も手伝ってもらうようにしますし、大きなテントも用意しましょう、ヒーラーを招くための資金で出します」

大金がもたらされたというが、ここまで羽振りがいい理由はもう一つある。

白浪の名産の椿油にとんでもない高値がついていたからである。

先程名前が出た石咲、彼の姪にあたる石咲クリス(イシザキ クリス)彼女が人間にとって理想的な不老不死であると発表され、そのために歴代の資料に記載されている不老不死の妙薬の材料の値段がガツンと値上がりした。

そのうち資料に記載されていた時代と同じ作り方をされたものは、値段がつり上がりすぎてなかなか値上がりがつかない、ついたらニュースになるぐらいで、そんなニュースとして取り上げられたものが一つに椿油があったのだ。そんなわけで白浪は現在の好景気を迎えており、そのきっかけが石咲の叔父と姪が関わっているのはたぶん‥偶然かな。



館林廻(タテバヤシ メグル)は調査協力のために終わるまでこちらに留まるように言われていた。

そのちょうどいい暇潰しではないけども、弧山大象(コヤマ タイショウ)

から二枚地図が手に入ったと連絡をもらったので、それをこちらに送るように、そしてもうちょっと判断材料になるようなものをいくつか揃えてほしいと頼んだ。

狂乱期、これまでの予定では難所として数えられる「双頭の黄泉路(デビルフォーク)」排水口は二つあり、そのいずれかの側道からかけ上がってくるものをぶった押すという予定だったのだが。

・肉はいくらあっても困らない

・10体に一体は生きたまま、出来れば大物が望ましい

・梱包係にサンバ蜘蛛が六体、二交代で使ってほしい

・休憩用の大型テントをつける

・ヒーラーはお金は出すので交渉などはお任せしたいと言われた。

そんな情報もこうした世界を越えたやりとりも、ほぼリアルタイムで共有が可能になる理由が廻たちにはある。

廻達‥

リーダー 館林廻

天地の糸 斎道要(さいどう かなめ)

一番机 佐藤季芽(さとう きのめ)

怪物の双腕 弧山大象

の四人は古巣では「生ひ月の達成者(おひづきのたっせいしゃ)」なんて、いかにも術者がつけましたといった名前で呼ばれていたりする。

要注意人物の間違いじゃないの?うん、たぶん正解。

この四人は一年かけて行われる術師の試験、それが終わる三月(生ひ月は三月の別名)までに、術師業界問わず今後解決していかなければならない課題に対して存在感を出した。そのためこれからの期待できる、担い手に!ということでこの名前をつけられた。

話は戻るが、世界を越えて情報共有できるのは‥

「満天の(まんてんのき)

「八千代の(やちよのにわ)

「蓬桑の一路(そうほのいちろ)

「漆黒の知識(しっこくのちしき)」を彼らが所有し、またそれぞれを繋げているからである。

そして一国が所有していてもおかしくはないような代物をリンクさせることで、それぞれ一人づつ管理しているもの以外、他の三人のものもある程度以上使うことができた。

「場所変えるか、最初の案で行くか‥」

廻は唸った末に。

「ヒーラーが確保できるか、どういう能力があるのかわからないとこれ以上は決められないな‥」

それでは現場を呼んでみましょう、ヒーラー確保のためにギルド窓口にいるサメ子さんに繋ぎます。

サメ子さん、そちらはどうですか?



「はいはい、こちらは狂乱期なんでどこもヒーラーはね、忙しいの、あっ、そういやいたな、一人、これ、ヒーラーの住所と書類を渡され、今その方がおられる宿の受付に頼んで、呼び出してもらっているサメ子です」

「はいはい、お待たせしました、ごめんなさいね、待たせちゃって、この時期いつも呼んでくれるところが今年は予算が少なくてって呼ばれなくて、ふて寝していたところを起こしたものだからね」

「女将さん、どちらの方が私を呼んでいるんです?」

そこでサメ子と目が合いまして、すぐに落胆した。

「話を聞くだけ聞きなさいよ、はい、そっちの奥使ってもいいから」

あちこちで狂乱期なので、大きな街の冒険者の溜まり場はがらがらになっていた。

「討伐のヒーラーを探してまして」

「あなたはどこの迷宮から?今の時期まともなヒーラーいないと思いますし、討伐といっても」

「場所は双頭の黄泉路です」

「すいません、それならお断りします」

ヒーラーは席から立ち上がる。

「やはりそれは遠いからですか?」

「ええ、山を越えてから討伐の仕事は金銭的にも体力的にも割りに合わない」

「お話は最後まで聞いてくださった分は損はさせませんよ」

そういってサメ子は成人男性の一日分の推奨カロリーがとれる食料をずいっと差し出した。

(これだけで三日は食いつなげる)

目の色は変わった。

「こちらはお話を続けても?」

「はい!」

「ではお座りください、お腹いっぱいでなければいい仕事はできませんから」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「ギルドの方から書類を渡されたのですが、これはお名前はなんとお読みすればいいのですか?」

岩木(いわき)です」

「えっ‥そ、それで演奏系の術を使うそうですが」

「ええ、そうなんですよ、ここら辺ではあまり見られないんですが、五つの音、五音(ゴオン)使った曲を奏でます」

「五音ですと‥」

「こういう笛なんですが」

そういって縦笛を出した。

「野外だと音が通りすぎちゃって効果の持続が難しくて、あんまり仕事ないんですよ‥それでもいいなら」

「今回大型テントを用意することになるので、一時間に一回程度一曲演奏、ただ場所が場所なので他に避難してきた方がいたら、そちらもお願いしたいのですが」

「それは構いませんが、大型テント?兵団か貴族のお仕事ですか?」

「依頼人の情報は明かせませんが、そちらからの提供品です、食事と宿もこちら持ちで、あと移動の方もですが、よろしければ行きも帰りも私と一緒なら送迎しますよ」

「任せてください、ええっとあなた様はなんとよべば、どのような種族の方なのでしょう」

「種族としてはサメになりますね、色々な方がそれぞれ呼びたいようにお名前を呼びますが、サメ子と呼ばれることが多いでしょうか」

「サメの皆さんが討伐するんですか?」

「参加者は人・サメ・蜘蛛・蜘蛛・蜘蛛・蜘蛛・蜘蛛・蜘蛛になってます」

「蜘蛛多いですね」

「どのような作戦で?」

「人とサメがボコる感じで」

「二人で!」

「そうですね、だいたい四人なのですが、二人でも準備すれば色んな事が出来たりするんですよ」

やっぱり要注意人物というのは間違ってないような気がする。

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