遠き家族
その日、迷宮への扉は十数年ぶりに開き、中から男が一人、杖を片手にして出てきた。
「んじゃあ、私は帰るね」
迷宮の中から彼女は、無事に送り届けたというのを確認してから、自分の村へと帰ろうとする。
ふらふらと男は迷宮の扉の前に広がる市の人間が遠巻きに見ているなか、そんな様子を気にしないかのように、壁にもたれかかって座る。
「兄ちゃんさ、迷宮から出てきて腹減っているだろう?」
屋台の店主である若い男が。
「親父直伝だぜ!」
袋に入れた食べ物を投げてよこした。
(ねえ、もういい?)
その時頭の中で声が響いた。
(もういいってなんだよ)
なんだかよくわからないがそう返事をしたのならば。
(メグルがさ、いきなりいなくなって、探したら、この迷宮にいたんだよ、それでこっちからずっと呼び掛けていたんだけども、全然繋がってなかったみたいでさ)
(なんですか?それ)
(あれだね、迷宮の維持管理のための捕獲罠に引っ掛かって、連れ去られたんだよ、ご丁寧に筋書きも用意されていたから、メグルね、ずっと変なことしゃべっていた、でもうまい手だよね、それなら気を付けていても、疑問にすら思わないで引っ掛かるってやつで)
「お前は迷宮で息子に出会ったのか!」
白髪で老齢の女性はそう叫ぶ。
(全然意味わからないよ)
(説明しようか)
(そこはしてよ)
(息子かどうかはわからないが、迷宮の内側から門を開けるためにはこの杖が必要だって渡された、使い方はさっきそこにいた女の子いたでしょ、教えてもらったの)
「これは息子の杖だ」
(どうする?)
しかし、ここで幻覚が見えた。
脳裏にというか、さきほどまで一緒にいた女の子、今追いかけないともう会えなくなるというやつだ。
(今のメグルに見えた映像?はなんでか僕にも見えたから、ここが選択肢なんだろうね、本当に丁寧だな、情報量も多いから、難易度は意外と低いのかもしれない)
目の前にいる人間の話を聞きながら、通信のやり取りができるほど、館林廻は器用な方ではない。
「杖は迷宮の中で渡されました、これはお返しします」
そういって杖を押し付けて、廻は彼女を追いかけて迷宮の中へ入っていった。
(選んじゃったね)
(生きてさえいればなんとかなるよ)
迷宮の扉が閉まる音がした。
がっちゃん
(暗いな、ナビゲートして)
(こういうのは僕より佐藤さんの方がいいと思うな、そしたらじっくりとこの迷宮の仕組みを楽しめるじゃないか)
(ここが迷宮だと、もしかしたらの可能性があるから、ダメ)
(サポートは苦手なんだけども)
(それでもやれたじゃないか)
(受験の時の話でしょ?あれから一回もこういうことやってはいないんだけどもね)
(彼女の後を追いかけなきゃ)
(たぶん覚えてないだろうけども、彼女の名前はクラミだよ、そのまま道は曲がってはいるけども、あの少し小高くなっているところ目指して)
(わかった、それで説明してくれる、さっきこの食べ物を渡された時まで、本当に覚えていないんだよ)
(メグルがいきなり消失したんだよ、んで確認したら移動したんだよ、あれはもう異世界転移、そのぐらい移動した)
キャラクター紹介
迷宮に巻き込まれた男
館林廻
異世界を音声サポートしている
弧山 大象
(発見したらもうシナリオに巻き込まれてて、いっくら話しかけても聞こえてないし、それでしばらく見ていたんだけどもメグルはまるで最初っからこの迷宮のある世界に生まれ育ったみたいな)
(杖って返しちゃいましたけど、怒られませんかね?)
(あれはあれで正解じゃないかなと思う)
移動の間に情報を交換中。
(巻き込まれた人ってメグルの前にも何人もいて、思考はある程度奪ってはいたけども、選択肢なんかは個人に任せた節がある)
(それはどういう?)
(退屈しのぎとか、そういう思考の観測をしていたんじゃないかなとは思う、それであの選択肢が見えた、クラミの死が見えたのはそれとは別の術だね、系統が違うもの、たぶんね、巻き込まれて、犠牲になった人が見せている、これがまた恨みとかじゃないから‥ああ、そうか、思考を奪うと恨めないから、このぐらいしかできないのか)
(納得しないでもらえます?)
大象はこういうことがあるため、任せると脱線ばかりする。
(つまり巻き込まれた人を餌にしたいがが、下手に力を持っていると恨みで何が起きるかわからないから、思考の制限と観測が行われていると)
(そうだね、そういう感じ、それでも許さないぞがあれ、同じく巻き込まれた人へのヒントみたいに多少先を見せてくれている、これ、何人犠牲になったんだろう、すごい気になるな)
(ところで何の餌になるの?)
(ああ、それはあれ)
いわゆるG、しかしバカでかいのである。
「人より大きい‥」
(あっ、なんかそっちに送り込めそうだけど、召喚しちゃう?)
(出来るんですか?)
(先のことはわからないから、しておいた方がいいけど、能力制限されているから、いつも通りにはいかないよ、それは考えて)
(こういうときは決まってますよ)
(?)
牡蠣も美味しい季節である。
生牡蠣で食べれるような新鮮な牡蠣を炊き込みご飯にした。
それをスプーンの上に乗せ、プリプリとした牡蠣、そこに特性のオイスターソースをひと塗り、最後に葱をまいていく。
「お客様にお出しして」
シェフサメ子の本日の一皿を、いつもとは違い素顔のハンゾウがサービスを勤める。
素顔のハンゾウは忍びにありがちな地味めな顔立ちであった、本人もなんとなく落ち着かないようだ。
本職に負けないぐらいに素晴らしい動きで皿を運び、姫巫女と騎士のいるテーブルへ。
「お待たせいたしました」
「とても楽しみだわ」
二人は米料理には馴染みがないので、そういった料理を試してもらう際は一人前を出すことはない。
「美味しいですわ」
「牡蠣は私たちの故郷ではとても贅沢なもので、異国の地で食べるとは思いませんでした」
評価は上々。
「あれ?なんか美味しい匂いするんだけども」
そこに小雨が匂いにつられてやってきた。
「牡蠣の炊き込みご飯でござる」
「俺の分は?」
その時小雨の背後に陣が浮かんだ。
騎士は何者かと、剣を抜こうとするが。
「待つでござる、あの陣は!」
『万物は流転する』
ぬっ!と陣の中から手が出てくると、そのまま小雨をガシッとつかんだ。
そしてそのまま、中へと引きづりこんだ。
「牡蠣ぃぃぃぃぃぃぃぃ」
ポン!という音と共に陣と小雨は消えていった。
「今のはメグル殿、館林廻殿の陣なのでで」
「最近顔を見せないと思ったら、小雨つれていくってなんかあったな、こりゃ」「それでも小雨殿をつれていったでござるから、心配することないでござるね」
「大象くんだったら心配するけど、廻くんはそこまではね」
迷宮内でクラミの姿が見えたと思ったら、魔物であるGに襲われていた。
「小雨!」
Gにgoの指示がでた。
「任せておけ」
小雨が飛び出していって、そのままGにサメファイヤー。
「火力もっと強く、一撃で倒せるように」
息を吸い込み、サメファイヤー(強火)
「よし、燃え落ちた」
「怖かったよ」
「ええっと、クラミ」
「うん、この子は?」
「小雨っていいます、あなたをしっかりと守ります」
可愛い子がいたために格好つけてます。
「僕の仲間だよ」
「魔物?にしては見たことないし」
(この迷宮は今まであのGしか遭遇はしてないよ)
(ああ、それでか)
「さわらない方がいいよ、ごつごつした肌だから、さっき頭もったら、とっても痛かったし」
そういって廻が手を見せると、納得したのか。
「うん、わかった」
といい、その後は興味があっても触れようとしなかった。
「なんで俺は鮫肌なのか」
(サメだからじゃないかな)
「お前たち、帰らなかったのか」
闇の中から声がした。
(この声が杖をくれた人だよ)
そうして暗がりから現れたのは、恐竜のような外観をした男である。
(オーパスさん)
「一度は帰ったんですよ、オーパスさん、その証拠に、これ」
そういってもらった食べ物の袋を渡すと。
「あのオヤジ、まだ店開いていたのか?」
「いえ、店はお若い人でしたね」
「‥そうか、どれだけこの迷宮内にいたのか、長い時間が過ぎたものだ」
「元々そういう姿ではないのですか?」
「ああ、俺は門の前の街の生まれでな、若いときに仲間と迷宮を探索するために中に入った、そうしたらこの姿に変わってしまってな、戻るに戻れなくてな」
「ああ、そうだったんですか、私の村の水を飲めばそれ治りますよ」
「はっ?」
「それはお姉ちゃんの村?」
「そうですよ、ここからまた歩くけども、私たちその村から来たんですよ、他の二人とははぐれちゃったけども、ちゃんと戻れたかな」
(廻がこの迷宮に連れ去られて、迷宮内で起こったことの話をするね)
現在地は廻が迷宮に現れた出発地点から直線距離で六キロ。
(ここで一時間前にオーパスさんと出会い、杖を渡され、迷宮の扉をこれで開けろとだけ言われる)
そこから直線距離で一キロの辺りで、クラミ、アカミ、ルッパの三人と出会う、その三人から杖を使って扉のあける方法を聞いているときに、Gに襲われ、廻とクラミはそのまま門側へ、アカミとルッパはそこで別れたままその先は不明。
(それでクラミは僕が外の街から来たものだと思って、門を開けてくれて、それを見届けてから自分は村に戻ったんですね)
(そう、それで外の街で座り込むあの辺りまで僕から連絡しても全く繋がらなかったんだよ)
(なるほど、本望に面倒くさい)
(ふっふっ)
(なんですか?)
(いつも面倒くさいっていうのは、僕か、佐藤さんだからね、メグルがいうとなんだか新鮮でおかしいなって)
(そうですね、いつも巻き込まれるなっていっている、私が巻き込まれてしまったわけですから、そういいたくもなりますよ)
「そうか‥俺は元に戻るのか」
オーパスは戻る聞いてから、感傷に浸っているようだが。
「よーし、その村目指すぞ!」
「廻、この生き物なんなんだ、見たことないが」
「そういう生き物です」
「こんなものがいるだなんて」
「それはお互い様じゃねえ?」
「そういえば、この迷宮って魔物でるのに、クラミさんって武器とか持たないんですか?」
「アオの道歩いていれば魔物出ないよ」
そこでオーパス見ると。
「それは知らない」
「こっちはアカの道だもん、この分岐点だっけ?ここは魔物が来ても先にわかるから、逃げればいいから、私たちが村から来てもここから先は行かないし」
オーパスも思い当たる節はあったようだ。
「そうだよな、ここってすんごい見やすいよな」
Gのはためきが見えた。
先制攻撃からの小雨のサメファイヤー(強火)
「強い、強い!」
「ふっ、俺にかかればこんなもんよ」
「つまりなんかそういうのが決まっているってことか」
「詳しいことは村で聞くといいよ、賢女様はそういう話いっぱい知ってる」
(メグル)
(何?)
(小雨いるなら、しばらくこっちで分析していい?)
(ああ、それは私も思ってた)
(じゃあ、なんかあったら呼んでよ)
(わかった)
「俺、お腹減っているんだよ、メグ、この中のもの食べていい?」
「ああ、どうぞ」
「おっきいじゃん、これならみんなで食べれる、いただきまーす」
「‥」
「どうしたんですか?」
「迷宮に入る前にここのオヤジに、帰ってきたらいっぱい食わせるからなって約束あったんだなってさ、今日はなんという日だ、久しぶりに人と会うことができたと思ったら、この姿から戻る方法がわかるわ」
「うちの村にある水を飲めば戻りますよ、そこにそういう水があるのを発見したし、魔物出ないしってことで村にしたらしいですよ」
「本当に楽しみだ!!!」
そんな中。
「どうした?小雨」
「いや、なんかあるって」
「魔物か?」
「そんなんじゃなくて」
迷宮壁の下、崩れた部分は土がかぶっているが。
「よし、俺がやろう」
オーパスが掘ると、中から剣や槍や短剣などの武具類が出てきた。
「‥これは」
「なんですか?」
「仲間の槍だ」
「これ装飾が杖と似たようなんですけど」
「ああ、そうだ、そういえば杖は?」
「オーパスさんのお母さん?かな、息子にあったのか?その杖は息子のものだって、そのまま渡してきました」
「あの杖がなかったら、門を開くことはできない」
「でも渡さなかったら何をされるかわからないし、けど門を内側から開けるとき、その装飾が必要ってクラミから教えてもらったので、その槍でも開くんじゃないですか?」
「その通りだがな、なんだこの茶番は」
「それはちょっと前から私はわかってますよ、何とかする方法が用意されている感じなのがね、本当に嫌だ」
「ああ、ここから見えるね、あれがうちの村」
「おっ、いい村じゃん」
「もう少しだよ」
クラミと小雨の視力では見えているようだが、廻の目からは点にも見えなかった。
もう少し、その言葉を信じたがそこから一時間歩くことになった。
リンリン
八千代の庭の屋敷にある、黒電話が鳴る。
「もしもし?」
ハンゾウが電話をとると。
「お久しぶりです、大象殿!はい、今サメ子殿に変わります」
主を呼んでくる。
「大象殿です」
パチ
「?わかった、もしもし」
「ああ、僕」
「今どこにいるの?さっきメグルくんが小雨をつれていったんたんだけども」
「こっちにいるよ」
「えっ?三人で何しているの?カレーでも作るの?」
「カレーいいよね、今日は休みだったから、食べ歩こうかな?今さ、秋の牡蠣フェアやってて、焼き牡蠣のカレーにしようかな?って、でも限定だからさ、今からいってもダメかな?って」
パチ
「あのさ」
「カレー食べたかなった?」
「なんかノイズっていうか、ラップ音っていうか、それが入る」
「ああ、それはYO!」
「そっちのラップじゃない」
「話聞きたかったけども、メグルから八千代に連絡したら、八千代にも影響が出るかもしれないって、たぶんそれかな」
パチパチ
「おい!っていうことはこれ、封印の中が漏れてるってことだよ」
「あっ、やっぱりメグルが巻き込まれたの、封印の中か、卵ちゃんに聞いたらわかるかなっていう前に、卵ちゃんの具合が悪くなっているなら、そうだってよくわかった」
サメ子の事を大象は卵ちゃんと呼びます。
「ザーザーそザーザーれでザーザーさ」
「大象くん、こっちに影響出すぎているから切るよ」
チン!
「クラミ!」
村に戻ってくると、クラミの姿を見て村人の一人が駆け寄ってきた。
「帰ってこないから心配してたのよ」
「アカミとルッパは?」
「一緒じゃないのかい?後ろの人たちは?」
「なんかいっぱい言いたいことあるけど、後ろの人はメグルとオーパスさんと小雨だよ」
「おお、遠き家族よ、ようこそ!オーパスさんはあれかい?迷宮で変わっちまったのかい?」
「お恥ずかしい話ですが、クラミさんと会わなければ、これが治ることは知りませんでした」
「泉の水を飲めば一発で治るよ。そうそう、クラミ、あんたは賢女様のところへも行くんだよ。勝手に村から出て、アカの地の方までいったもんだから、怒っていたんだからね!」
「ごめんって、オーパスさん、泉に案内するから!」
村の奥にある建物、他の建物より豪華な作りになっている。
「ここにあるんだよ」
泉からは水が沸き、生活用水としても使われているらしく、水を汲んでいる人達もいた。
「この人たちは?ああ、迷宮で変わっちまったのかい?この水を飲むといいよ」
「本当に戻るんですか?」
変わってしまい、長い時間この姿で過ごしてしまったから、不安なのだろう。
「じゃあ、ぐいっと行こうぜ」
小雨がいうと。
「この子も変わったのかい?随分と不思議だね」
人間が変わってしまう場合、オーパスのように恐竜タイプになるらしいが、サメは見たことないようだ。
「俺は迷宮で変わっちまったわけではないさ」
「そうかのかい?珍しいものもあるもんだね、もしかして、迷宮の外から来たのかい?」
「外を知っているのか?」
「オーパス、まずは飲もうぜ」
話が長くなりそうなので、オーパスに先に水を飲ませる。
水が身体に染み渡ると、オーパスを変えていた呪いが抜けて、元の姿へ。
「俺ほどではないがいい男じゃねえ?」
30代後半の筋肉質な男、それがオーパスの素顔である。
「戻ったのか?」
「鏡は?」
「顔見るなら、水面覗いてごらんよ」
そう水を汲んでいた女性に言われたが、オーパスの手は震えて、勇気がなかなか出ない。
小雨の変な顔をした。
「プッ」
そこで吹き出し、水面に移る自分と目があった。
「あっ」
声を出したのは驚いたからだ。
「自分ってこんな顔していたのか、久しぶりに見たよ」
「おっさんになってる?」
「なってる、なってる、さすがにもう十年はああだったし」
「十年は長いよな、そうか、うちの母ちゃん死んでからそんぐらいか、んじゃ次、クラミ、賢女様のところ行こうぜ!」
(メグル)
(あれ、どうした?)
(やっぱりメグルがいるの、封印の中みたいだね)
(そうか)
(小雨いるなら、そっちの相手は小雨に任せた方がいいよ)
(そうしますか、では分析結果は?)
(この封印は定期的に外から生け贄を確保する仕組みがある)
(それを私が踏んだと)
(そう、だけど、歩いてみても、転移の入り口はあったけども、出口ってないじゃん、だから出入口方式になっているとおもわれる)
(ということは私の桑蓬の一路は出発地点では使えるのか)
(そういうことだね、ここから出発地点まで戻って、桑蓬の一路使えば出れるけども)
(この世界をどうするかですね)
(そうだね、ただ出るだけなら、それでいいわけ)
(でも迷宮が機能する限り、犠牲者は出ると)
(そういうこと)
(そこまでよくわかりましたね)
(八千代に電話したら、八千代にノイズ入ってたから、すぐわかったよ)
(だから連絡するなっていったのに‥)
(電話まではよかったの、だから漆黒の知識もいけるかな、いけなかったね)
(下手すればぶっ倒れてるよ)
(それは大変だ、今すぐ八千代に)
(先にこっちから)
(‥わかった)
(ここで迷宮機能潰しますよ)
(うん)
(ただこの村の人たちはどうするか)
(それはね、クラミさんだっけ、いってた、アオの道、アカの地がヒントだったよ)
(どういう?)
(出発地点・外の街・中の村の三つはそれぞれ直線距離と同じなんだよ、つまり正三角形なの)
(真ん中に迷宮の主がいる)
(うん、それで出てくる魔物から、主は蜘蛛じゃないかな)
(ああ納得)
(小雨に聞いてみてよ、仕留めたゴキブリで卵を持っていたのは肉の臭いがしたがって)
(それは‥つまり、産卵期のために生け贄を必要としていたってことですか)
(うん、そう)
(少しは遠慮してくださいよ、直接的な表現)
(ごめん、ダンジョンのインフラ機能の話していい?)
(いいよ)
(オーパスさんと最初に会った場所、二回目に会った場所から歩いて15分ぐらいの地点、その辺りと、そこと出発地点の半分ぐらいの場所の二点破壊すると、いわゆる魔物が出るアカの地は機能停止する)
(村は?)
(これさ、仕組みが面白いんだけど、なんで魔物出ないかってことに話は繋がるんだけども、アオの道には魔物が生きていくためのインフラがないの排水管がないんだよ)
(そういえば乾燥してたな、あそこら辺)
(だからアカの地が機能停止してもアオの道はそうだな、百年ぐらいは問題ないとは思うよ、けども本来迷宮の機能停止してから切り替わる補助機能が、村ではバリバリ動いているわけだから、機能停止しても大丈夫な作りになってると思うよ)
(詳しくはポイントまで行けばわかるでしょうね)
(そういうこと、それでクラミはこの村に残るとして、オーパスさんを送り届けるの?)
(そうなるでしょうね)
(意外と早く決着がつきそうだ)
(出てからの方が忙しいですよ、きっと、桑蓬の一路も大分無理させることになりそうですし)
(今わかってるのはこんなところ)
(またお願いします)
クラミは賢女に叱られたあとに。
「賢女様がみんなにも話があるって」
話を聞くと、オーパスよりも何十年も前に迷宮に入り込んだ人たちが作った村であり、やはり水があったからここに村を作ることにしたと。
外の街の話は知っているが、鍵となるものがないために外には出れなかったとのこと。
「そうではないところから来た人はいますか?」
「おりました、貴方もそうなのですか?」
「そうです」
「俺もそう」
「街と村以外にも人が住んでいるところがあったのか」
「あるよ、この迷宮に生け贄にされた人たちがたくさんいたみたいだ」
「それはわかる、ここは一番遠い場所といっておった」
「それはそうかもしれない、迷宮の扉から小高い合流点、あの辺が一番過ごしやすいから、この奥まで来ようとは‥特に姿が変わってからは一度も思えなかった」
「私が知っているのは、この村にたどり着けたのが二人ぐらいか、一人は呪われていた者を知らずに殺し門は開けられず、一人はアオの道を歩かずにここに来たといってたのだが」
(大象説明)
(出発地点・外の街・中の村が直線距離同じ正三角形の位置にある作りなら、出発地点から中の村コースもある、ただそれを探すよりは、歩いて戻った方が早い、オーパスさんいるし)
「運がいい奴もいるもんだな」
「その男はいってたな」
導いてくれる祝福がここにはあるから、それに従ったまでだよ。
「オーパスさん、そんな人に会いました?」
「いや、アカの地、村の言い方をするのならば、門の内側から、アオの道への分岐点の辺りまでは歩き回ったりはするが、その二人というのには会わなかった」
「時間があるなら、その方法を知りたいものですが、そういってもいられませんし、オーパスさん、あなたをまず外の街につれていきませんと」
「そうだな‥」
「ははん、あれだな、戻りたい気持ちと、一緒に迷宮の謎を知りたいとかそんなお気持ちございますね?」
「‥!!ああ、そうだ、本当に今日は色んなことがある、久しぶりに人と会ったと思ったら、自分の姿が元に戻ったり、母の話を聞けたり、そして迷宮の謎が解けるかもと思ったらな、少しばかり欲が出てきてな」
「わかる、やっぱり気になって迷宮に来ちゃったわけじゃない?だからこそだよな」
(小雨、オーパスさんのお母さん心配してますから)
(ゴメン)
「中の村のことも伝えなければなりませんよ、それはあなたが適任でしょ」
「そこもわかるのだ、遠き家族であることは間違いないし」
「地図とか書いてあげますよ、簡単なものですがね」
そういってメグルは漆黒の知識でマッピングした地図を書き写した。
「これがあるなら、全部書いてもらって、後は任せればいいのではないか」
「あっ、そこに気がついちゃった」
「そういうつもりでは」
「挨拶だけは済ませたい、後はお前たちについていこうと思う」
「おいおい、これ、サメ子案件じゃねえの」
「そうですね、そうなりますかね」
クラミのように見届けて自分達も迷宮に戻るを行うと、オーパスがそのまま説明もしないで追いかけてくることになり、それでは中の村との関係が築けなくなる。
(メグル、今日どうしたのさ)
うっかりすぎるので、大象に驚かれているぐらい。
(きっと疲れているんですよ)
化け物を閉じ込めるためには、とても固い檻と、お腹が一杯になる肉をたくさん用意しなければなりません。
そうやって封印というのは成り立っているのです。




