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楽しいよ

ふわん!

カレーの匂いがした。

これは絶対にうまい奴だ!

斉道要(サイドウ カナメ)は確信した。

しかし、店は営業時間前、まだ早い。

(やっているなら、食べてから行くのに‥そうだよ、今日は早く終わるはず、説明だけだから、そう!終わったら、すぐに食べに来ればいいんだよ)

ずっと終わったら、食べに行く、そればっかり考えていたせいで、説明の内容は本当に覚えていなかった。

「‥というわけで、本日はこれで終了になります、なにかありましたら事務局お願いします」

よし、終わった。

さあ、行こう、カレーが俺を呼んでいる。

「お一人様ですね、カウンターへどうぞ」

と空いているカウンター席に座ろうとすると。

「あっ、どうも」

「こんにちは」

自分と同じ受験者が、たまたま隣の席に座ったので軽く挨拶をした。

「ご注文は?」

「カレー定食」

「すいません、同じものください」

一緒に注文したが、特に会話することなく、カレー定食が運ばれてきた。

それじゃあ、いただきます。

「すいません!」

そこに館林(たてばやし) (めぐる)佐藤季芽(さとう きのめ)をつれてやってくる。

「あのお二人にですね」

話しかけてきたのだが。

「まずはカレーに集中させてくれ」

「話は聞くからよ、先にカレーを食べさせてくれよ!!!」

「えっ?」

「では向かいのカフェで待ってますから、佐藤さん行きましょう」

そういって店主に頭を下げて二人は出ていく。

「というわけで、あのお二人が来るまでお話ししましょうか」

あっ、これは館林は佐藤と話をすることも狙っていたなということがわかった。

「何頼みます?僕持ちますよ」

それでカフェラテを頼むと、館林も同じものといった。

「聞いていいですか?」

「何をですか?」

「さっきの続きですよ、なんで試験をから自分から降りるんですか?ってやつです」

「他の試験も受かってますし、この試験を受かったとしても、派閥で苦労するかなと」

「ああ、それは確かに、僕らはその他ですもんね」

受験者には仮の番号がふられてるが、館林と佐藤は後ろから数えた方が早い。

「館林さん、こちらからもいいですか?」

「いいですよ」

「ラテ、お待たせしました」

「ありがとうございます」

「なんであの二人に話しかけたんですか?」

「あの二人は数字が上から数えて早いからと、一般人からだからです」

「数字はわかるけども、一般人までわかるの?」

「基礎が手慣れてなかったので、どっかに所属しているなら、基礎があの程度では、他のところに出さないと思いますし」

術師の世界にも基礎というものがあり、それを身に付けていることが当たり前とされる。

「だから特殊能力なんかあるでしょうね、そうじゃないと、一桁、それに近い番号ってふられないですよ、でも私から見ると、佐藤さんもなんかあるのかな?って思ってますけど」

「一般人に限りなく近いと思いますよ」

「それ鵜呑みにすると思います?」

「疑わないというのも、信頼に繋がりません?あっ、そうそう、佐藤さん、食べるものも頼んでおきましょうか、たぶん長くなる」

「なるかしら?」

「なるでしょ、おすすめはパイ類ですって、賭けません?」

「何を?」

「あの二人が何を頼むか?」

「そうね‥」

「じゃあ、先にミートパイ(カレー)かな」

「さっきカレー食べてたわよ」

「カレー好きは三食続いても大丈夫なものなんですよ」

「二人がそうだと?」

「ええ、そうです」

「いい忘れたけども、私はそこまで戦力にはならないわよ」

「う~ん」

「やめるなら今のうちよ」

「二日目のオリエンテーションの時って覚えてます?」

「二日目?封印術?」

「そうです、あの時術式をおもしろいといっていた」



「おもしろいね‥これは」

そういって手がかりとして残っているものを見ている。

「みんなはAだと思っているわけか‥」

「何かわかったのか?」

班を作って課題をこなしていくのだが。

「ただ術式が面白いなってだけよ」

「そんなことかよ」



「あの時の説明してもらえますか?」

「え~するの?」

「課題と関係ないけども、あの術式は性格が悪かったのよね、偽装をわざわざかけててさ」

「続けてください、あれは元々Cという式なんだけども、課題のためなのか、なんなのかはわからないけど、わざわざBという構成要素を抜いててさ、何も知らないで見ると、Aにしか見えなくてさ」

「いつもそんなこと考えているんですか?」

「そんなことないわよ」

「え~嘘だ」

「面倒くさい人間の面倒くさい考えなんて気にしない方がいいんじゃないか」

「そういうことを言われると、僕はAだと思わせたい理由を知りたくなるんですよね」

これが館林 廻という男で、他の3人を引っ張っていくことになる。



嵐の後、サメ子と小雨は浜に出てきた。

浜に流れ着いたものをサメ子は拾い、小雨は海の中に入っていった。

海の中はこちらでは見かけない南国の海草や流木が賑やかで、小雨はその中で良いものを見つけた。

立派な枝振りの赤珊瑚だった。

ぷう!

赤珊瑚に近づき、小雨は息を吹き変えて、空気で覆った。

するとそこまた一つ赤珊瑚がす~と流れ、あっ、あっちにもある。

ぷう、ぷ~う!

同じように息を吹き掛け、それを数珠繋ぎにするために、最後に強く吹いた。

そしてそのまま浮上した。

「お~い、面白いものあったぞ」

そういってサメ子に見せると。

「これ赤珊瑚だよ、ずいぶんと南の方からきたんだね」

「今回の風は強かったからな」

「でもさ、全部は無理だけど、俺の飲み友達にお祝いとして渡せたら言いなって」

その飲み友達は若い漁師で、結婚するために珊瑚を買おうとしていた。

珊瑚は漁師が結婚する際に必要なもので、既婚の女性は、財産として赤珊瑚を身に付ける。

「こんぐらいの赤いやつ、良すぎるから王宮にまず見せたら、王宮行きかもしれんけども」

「結婚だったら、一本ぐらいはあげておきたいけどもね」

「ただ折れないように持っていくにはどうすればいいかな」

「海草に包んだら、これ」

クッションにはなりそうである。

ヒヒーン

「えっ?馬?」

「なんか海上走ってる」

「海馬ってやつか、始めてみた」

あの辺りは流れが早いので、普通の馬はもちろん、魚も流される。

これから漁港にいかなければならないので、ああ、いたなぐらいで、向かうための準備をした。

本日は顔見せですぐに戻るつもりだ。

嵐の前に。

「いい、あれは危ないの、だから見に行ってはダメよ、特にサメコ!」

とサメコ、小雨を名指しで注意された。

付き合いが短いが、確実に性格を見抜かれている。

「すぐに顔を見せに来なさい、もしも海が危ないなら、王都にいなさい、心配だから」

そういってサメチカ、サメ子の方に抱きつかれた。抱きつかれなかった小雨は悔しそうにしている、でも小雨はざりざりしているので抱きつくと危ない。

「あれ?」

「どうした?」

「海馬がついてくるよ」

「危ないぞ!この先は」

コミュニケーションをとろうとしたが、駄目のようだ、ついてくる。

そのまま漁港そばまで一緒に来てしまいました。

「おい、あれなんだ」

「馬?」

「馬の前にサメコとサメチカいるんだけども」

「おやっさん呼んでこい、判断つかねえよ」

「おやっさーん!」

漁港の顔役は冷えた体を暖めるために、暖炉の前に当たっていた。

「どうした?」

「サメコとサメチカ来てる」

「本当か!」

嬉しそうだ。

「でもなんか馬もいてさ」

「馬?」

「波の上を軽やかステップしてんだけどもさ」

「海馬じゃねえか、それ」

一緒に暖炉の前にいた漁師がそういった。

「知ってんのか?」

「そういうのがいるって、昔聞いたことはあるけどもさ」

「とりあえず見に行くぞ」

船着き場には人が集まってきていた。

「お馬さん」

「そうだね、お馬だね」

小さい子がそう指をさして、お母さんがそれを返していた。

「本当に海馬だな」

海馬はサメ子が乗り、小雨が引っ張る小舟の後をついてきたが、いきなり小舟の回りをくるりくるりと走り出すと、そのまま海原に走り去った。

「おーす、みんな、元気」

小雨が元気よく挨拶すると。

「サメチカ、これはどうなってんだ」

「俺にもさっぱりよ、ついてきちゃった感じ」

「ついてきちゃったって、あれ、どこにいるんだよ」

「海って、本当に不思議がいっぱいだな」

不思議の代表格である小雨がそんなこというのだ。

「とりあえずさ、今日は生きてますっていうことで、顔を見せに来たわけ」

サメが二匹漁港に来たということで、王都に向けて狼煙をあげる、数は二本。

サメ一匹につき一本の狼煙とこの間取り決められた。

「あっ、そうそう、海の中でこれ拾ったんだわ」

サメ子が壺を渡すと。

「おいおい、赤珊瑚、これは高いぞ」

「一番赤いやつは、陛下に渡すとしても、結婚のために真面目に金貯めている奴に、例年の価格で買えるようになんねえかなと」

「わかった、そこは俺の方からも話を進めれるようにしておくわ、しかし、あれだな、冷静に考えてみたら、サメコとサメチカの方が珍しいんだもんな」

「そう?そういわれるかもしれないけど、旨い酒の前には、人もサメも関係ねえしな」

「そりゃあそうだな、じゃあ、飲むか」

「今日は顔見せだからな、飲まずに帰るわ」

「いつでもいいから、絶対に来いよ」

「おう!」

そういってドボンと海に飛び込み、サメ子はペコッと頭を下げて船に乗る。

漁師たちに見送られて小さくなっていった。



「帰ったぞ」

八千代の屋敷。

「お帰りでござる」

「お帰りなさいませ」

「人気者は辛いよな」

そこで時計をちらっと見て。

「じゃあ、戻るから」

「ずいぶんと今日はお急ぎで」

「でも顔を見せないとダメなわけよ」

「それを言われると弱いですが」

「小雨殿、差し入れでござる」

「すまねえな」

ハンゾウは仕事場で食べれるように、ミートパイ(カレー)を作ってくれた。

そのまま元の世界から通勤するために、サメから斉道要(サイドウ カナメ)の姿に戻る。

「管理官、こちらの書類の確認お願いします」

今日は大変忙しく。

「はい」

「すいませんが、サインをいただきたいのですが?」

「はーい」

「次の会議の資料についてですが」

「はい、はーい」

だんだん返事が適当になっていく。

一息ついたところで。

「どちらへいかれるんですか?」

「ちょっと飯を食っていくから」

「わかりました」

今の心を癒すには、カレーしかない。

ハンゾウに作ってもらったミートパイは通勤中に食べてしまった。

こんな時間、この辺りにある、美味しいカレーを食べさせてくれる店、行ったことはないが心当たりはあった。

やはり、当たりだった。

店に近づくと漂うカレーの匂い、これは旨い匂いである。

「おや、珍しい顔ですね」

余儀七瀬の店であった。

「カレーもらえる?」

「ええ、いいですよ、しかし、どこでお聞きに?」

「カレー好きだからね、旨いカレーには目敏いの」

「えっ?まさか、カレーでうちの店に来ているんですか?そういう見つけ方されるとは思わなかったな」

「今、紹介制にしているんだっけ?」

「こんな時代ですし」

販売しているものは良く効く生薬、この先車で10分のホテル街に向かう人たちが、ささっと買っていく感じのやつ。

「扱っているものの話はなしにしましょうよ」

「ああそうね、あれだろ、一服盛っちゃうとか思われたりするんだろう」

「ああいうことが起きると、真面目に商売している方としては、いい迷惑なんですよね」

「しかし、面白いな、いたもん、学生時代にさ、同級生とか、向こうの作品にはまっちゃうやつって。その同級生からしたら、その時に登場する技術が、えらい人たちがこんなところで生きているわけじゃん?」

「だからこそ、あんまり目立ちたくないんですよ」

七瀬がカレーを作り始めるので、カウンター席でそれをじっと見ることにした、カレーは食べるのもいいが、見るのも面白くて好きだ。

「漬け物です」

「漬け物屋ができるぐらい美味いな」

「どうせ、出すなら美味しさにもこだわりたいじゃないですか」

「それは商売としてどうなの?」

「そういうのもクリアするのも面白いので」

(こんなところ見ると、術師っぽいよな)

「まっ、あと一般人のお客さんってあまり来ませんしね」

飲食店にふらりと入ろうとすると、格好や持ち物で入店拒否されるような術師も多いので。

「それはしょうがない」

「どこで何が起きるかわからないから、装備品はずせませんからね」

「そうなんだよな」

術師は誰も信じない方が長生きできるとされている。

「サメは楽しいですか?」

「楽しいよ」

「後輩さんがいるから、まだ自由なんでしょうが」

「そうね、不老不死の後輩がいてくれるおかげで、天地の糸?それより不老不死の実用化が先じゃになって、縛り少なくなったな」

「予算も時間も限りありますから、優先順位がつくのはしょうがないかな」

「ヨギーさ、ここのカレーってなんか特徴あるの?」

「う~ん、そこまで、あっ、でも栄養を考えてご飯は大豆系、黒大豆とか枝豆を一緒に炊き上げたり、調理時間早くするために、玉ねぎのみじん切りは冷凍したもの使ったり」

「キーマ?」

「創作料理になるんじゃないですかね、これは、でも見た目はキーマっぽいけども」

卵黄が乗っかります。

「おお、いい!」

「野菜スープもつくんですけど、卵白を最後にいれて、ふわふわにして出す、それがうちの味かな」

「いただきます!」

ぱくぱく、ごく!

「あれ?」

「どうしました?」

「全部食べてからね」

「わかりました」

カレーに集中し、完食。

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

「あのさ、このスープの味って」

「あっ、やっぱりわかります?」

「ハンゾウっていうか、サメ子の味なんだもん」

「ハンゾウとは料理の話をしたりするんですけど、最近うちの常連に鈴砂(すずさ)がいるので」

滅木(めぎ) 鈴砂(すずさ)、サメ子の人間時代の元彼氏である。サメ子がサメになった際に、サメ子の記憶を失うことになったが、この間思い出した。

「まあ、完全に思い出す前にもうちの店に来たんですよね、その時習ったものが上手く出来ているのかどうか、たまたま来ていた鈴砂に黙って出したんですよ。ほら、忘れているから、社交辞令とかないでしょ?それかるも何回かふらっと鈴砂が来たときに、そんな感じで繰り返して味を整えていって」

忘却の術が完全に無効になる前も、なぜか、その前にも何回か解けていた。そのたびに斉道にどういうことか!教えてくださいと話を聞くために挑みにきていたこの話で理由が少しみえたかもしれない。

「それってそこで忘却の術解けてない?」

「ええ、そんなことありませんよ、大丈夫、忘れてましたよ」

笑顔で答えた。

人を思いやるということがあったとしても、自分の都合は確実に入れる、これが術師というやつらである。


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