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蜂の巣公正取引委員会

王城に勤めたからといって、途端にくらしがよくなるわけではない。

水っぽく、具がちょっぴりのスープと、固いパンが半分、これがサメ係の食事である。

そしてそれを見つめたサメがいた。

バッ!

視線に気がついて、セフィリノは身構えるが。

「おいおい、まだ苦手なのかよ」

書記のアルフレドはサメの頭をペチペチした。

「サメチカなんて、陛下が抱っこしているぐらいなんだぞ」

サメチカとはセバダでのサメ子の呼び名、意味としてはサメの女の子、つまりサメガールである。

アルフレドが皿から一つ、肉団子をつまんで投げた。

パクっ

「はい、残りはお前のな」

そういって皿のまま、セフィリノに肉団子を渡した。

「あざーす」

もぐもぐもらっておいてなんだが、あまり肉団子は旨いとは言えないものだった。

ゴクン

「もっとほしかったら、厨房の方にいってくれよな」

サメ子と小雨はセバダでは来賓の待遇を受けていた。

人命救助、羽毛献上、などの功績があったため、王都では今は使われていない王族の屋敷に滞在されることを許されている。

だがこうしてセフィリノやアルフレドの食事を見ると、何とかした方がいいのではないかと思った。

「市場に行ってみたいって?う~ん、そのままじゃダメだな、よし!」

ガサガサ

「なんですか?その格好は」

「サメのままよりいいんじゃないかなって」

キュ

「これでよし!」

スカーフを結ばれ、こんばんの夕食は何にしようかな?市場に買い物に来たセバダのご婦人にサメ子は変えられた。

その格好のまま市場を歩き、どういうものを売られているのか、調査を兼ねて歩いていった。

ペチペチ‥



「というわけで」

八千代の庭の屋敷に場面は変わる。

魔王は敗者に命じることにしたのである。

わかりやすいように、小雨のシャツには敗者と書いてあった。

そして、サメ子のシャツは「おう」何か足りない。

「忘れているでござるよ」

そういって、ハンゾウは「ま」と書いてある帽子をサメ子にかぶせた。

「サメ係の生活を良くしたいと思います」

「へぇ~どうやって?」

「給料はサメがどうのこうのいっても上がらんと思うので、他ではどうしているのか聞いたりしてみました」

すると、貴族などの場合はチップや現物支給をしているそうなのだ。

「なるほど、物をやるっていうわけか」

「それで何がいいのかも、市場に見に行ったんですが、セバダの人たちははちみつがとても好きなことがわかりました」

「それなら八千代で何とかなりそうだもんな」

「くっはっはっ、敗者にはその罰として、庭内のはちみつを搾ることを‥」

「お待ちください」

「なんだい、フルゥ」

ここは屋敷の応接室なので他の人間もいる。

「ハチミツだけでよろしいのですか?私どもの故郷でもはちみつはいただきますが、蜜だけではなく、巣のままいただいたりしますし、あれは色々と用途がございます」

「あっ、そういえば土産でもらったことあるな」

「化粧品にも使うね」

「日本の方ははちみつだけを召し上がるのですか?」

「私はハチミツぐらいかな」

「寒いところから暑いところまで、色々な気候があるから、海のないところではハチノコも食べるね」

「ノコ?」

「の子」

フルゥのところではさすがにそこまでは食べないらしかった。

「それは‥なんというか」

「海のない地域では栄養源でござる」

「どういうお国柄かはわかりませんが、はちみつを召し上がるのならば、蜜だけではなく蜂の巣まま差し上げたらよろしいのではないでしょうか」

「なるほど」

「あっ、ろうそくの材料にもなるみたいだね」

小雨は何かを見ていた。

小型の端末機?いや、白い石板を眺めていた。

「?」

「ああ、あれは漆黒の知識、八千代や満天と同じようなもんだと思ってよ」

「漆黒?白いですよ」

「だよね、フッハッハッ」

ここで魔王が復活した。

「では敗者には庭に勝手に作られた蜂の巣を壺一杯分用意するがいい!」

「ふざけんなよ!」

そういいながらも、敗者はしょうがないなと蜂の巣を探しにいった。




「フルゥまで付き合うことなかったんだぜ」

「一緒に戦いましたし、お供させてください」

「本当にいい奴だな、今日の昼食ってプリンがついてくるんだ、それやるわ」

プリンをあげると言うことは、相手を認めたということだ。

「しかし、どうやって見つけるんですか?」

「今歩いているのが道だよな」

「はい」

前にこちらの世界にやって来た時と同じような道である。

「この道は網目のように庭内を走っているが、これは水路でもあるから、蜂は水を飲みに来るから、この水路のそばに巣を作るものだよ」

ぶぅん

「あっ、いましたね、しかし、この後はどうしますか?」

「そこは俺に任せてくれよ」

小雨のさめ肌な蜂の針を通さない。

蜂の巣を見つけると、フルゥには離れた後に待機。網を持った小雨が蜂の巣に近づくと、蜂が小雨を攻撃するが全く効いてない。

バサ!

蜂の巣に網をかけるとすぐに。

「それではお先にドロンします」

ここで短距離瞬間移動で、フルゥの隣に現れる。

この時に移動のショックで、小雨と共にやって来た蜂達は酔ってしまって、それ以上の攻撃はしない。

蜂の巣を網のままカゴに入れ、そのカゴと「ゼーゼー」いっている小雨を抱えてフルゥは離脱した。

そしてこのカゴが一杯になるまで繰り返すことになる。



「フッハッハッ、ご苦労だったな」

ハンゾウは蜂の巣をチェックしている間に、魔王はレモンのハチミツがけを持ってきた。

「仮眠をした後に、ゆっくりと疲れをとるために薬草風呂に浸かるがいい」

労いを忘れない、これも魔王サメ子のクオリティである。



チャポン

「もうちょっと休んでからでもよかったんじゃないの?」

「お前一人じゃいけないだろう?」

「そりゃあそうだけど」

もう少しで漁港が見えるここは海上である。

いつものように、小舟を引っ張るのは小雨、小舟に乗るのはサメ子であるが、今回はサメ子の他にも蜂の巣が入っている壺も一緒である。

(飲む気かな)

「当たりだよ、飲むんだよ」

心の声を読まれたようで、すぐに叫ばれた。

漁港の漁師達は小雨の飲み仲間である。

(昔はそう飲むような人間ではなかったんだがな)

「最近は飲み食いするやつがいなくてな、あっちでえらくなっちゃったせいよ」

あっちというのは、サメ子と小雨が生まれた世界のことであって、小雨はあちらではお偉いさんをやっている。

「お前やメグや先生がいたときがあったけど、今考えてみれば、一番楽しかったかもしれない‥」

これに小雨を入れた四人は、同期で椅子取りゲームをした割には、未だに付き合いが続いている。

「三人に任せると、だいたいカレーが出てくるんだもの」

「カレーいいじゃねえか」

サメ子以外の三人は、「三食カレーでいい」「カレー大好き」「カレー奉行」などの異名を持っていた。

「また近いうちに集まろうや」

「その時ぐらいはカレーでいいよ」

「よし、じゃあ、カレーだな!」

そんな話をして漁港に到着した。

「おやっさん、サメコ!サメチカ!」

二匹が来たことを伝えると。

「本当か!」

建物の奥から顔役のおやっさんがばたばたやってきた。

「あんた、ちゃんと片付けてからにしなさい!」

奥さんの怒鳴り声が聞こえるが、顔役はサメにすり寄っている。

サメコというのは、小雨のことで、セバダでは最後に「コ」がつく名前は、男性の名前である。

ジャリジャリ

小雨のさめ肌は例えるならば、猫の舌で触ると痛いのはずだが、顔役は気にしてない。

「よし、飲むぞ!」

満足した顔役の頬は、酒も飲んでないのに赤くなっていた。

「サメコ!飲むぞ!」

「おう!」

そんな話をしている最中にも、他の漁師達は酒や魚の準備をし始めた。

サメ子は酔っぱらいに絡まれる前に、ここから離れることにした。

市場に運ばれる鮮魚と一緒に王都に向かうことになる。

「サメチカを売りに出したら承知しないからね」

この赤い珊瑚のネックレスをした人が顔役の奥さん。

ここで乾杯のための歌が聞こえてきた。

(寂しさは酒に癒してもらえ)

王都までやってくると、アルフレドが待っていた。

「じゃあ、行こうか、サメチカちゃん」

これから蜂の巣と共に向かうのは、蜂の巣公正取引委員会である。

本来ならこういうときこそサメ係のセフィリノだろうが、蜂の巣の鑑定などの手続きがあるために、書記のアルフレドというわけである。

「この達筆のアルフレドに任せてください!」

自分でそういうぐらい、かれの字は美しいが、調子がよすぎるところがあり、はじめて登城したときに、シャツに小雨にサメコ、サメチカと書いたのは彼である。

「しかし、サメの寝床って蜂の巣とれるんだ」

「ハチミツ好きな人多いよね」

セフィリノがいると、遠慮して言葉数が少なくなるが、そうでないときはこのように会話はしている。

「はちみつ食べないの?めっちゃ旨いじゃん」

セバダでは蜂の巣は蜂の巣公正取引委員会にまず持ち込んで格付けしてもらうのだが、今回サメの寝床の蜂の巣という、今まで持ち込まれたことがない場所のものと言うことで、先に連絡してもらっていた。

王都の官庁通りへ、海から山側に進んでいくと、蜂の紋章を掲げた建物が見えた。

「あれがハチ公」

(じゃあ、ここがハチ公前)

一匹だと口に出す度胸がない。

「すいませーん、蜂の巣を持ってきたんですけど」

「はい、それではこちらの書類に記入を」

「いえ、事前にお話ししていた、今までに持ち込まれたことがない場所からのハチミツです」

「あっ、はい、ただいま呼んでまいります」

いきなり持ってきたら、何日も待たされることになっただろう。

「今回の鑑定を担当します、マヨともうします」

「えっ?マヨさん!、サメチカちゃん、これ凄いことになったよ

ハチ公で一番有名な鑑定人が現れた。

蜂の巣はハチミツを鑑定されて、格付けは決まるのだが、マヨが鑑定したハチミツは庶民の憧れであった。

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします、マヨさん」

サメと握手した、普通なら笑いが出るかもしれないが、そういう人間はここにいない。

「さて持ち込まれたのは、いわゆる百花蜜なのですが、当国ではアカシアや栗の一種類の花の蜜のものが一番高級とされています」

「それでは献上には向きませんかね」

「しかし、この蜜には今までにはないとても濃い緑の薫りするのです、これは人を幸せにすることができる」

「生でこの台詞を聞けるだなんて!」

「一嘗めすると、舌に生命が広がっていく、‥私はこのハチミツを上級とつけました」

「やりましたよ!!!百花蜜としては、一番に上級がつきましたぁぁぁ」

「さて、鑑定は終わりましたが、あなたはこれをどうなされるおつもりですか?」

「そうです、出来ればこれを高く買い取ってもらえれば‥そうすればアルフレドさんや、いつもしっかり仕事をしてくれるセフィリノへの生活の足しにしたいんですよ、それが一番ですね」

「えっ?そうなの?」

「ふむ、それでは献上分を多くとって、その次にオークションにおかけになるとよろしい、そうですな‥サメの寝床産というよりは、マティアラ、マティアラ産のハチミツというのはどうでしょうか?」

「素敵な名前」

「海の大地からやって来たハチミツというのは、格好よすぎる」

ここからサメ子と小雨は、マティアラのサメと呼ばれるようになる。

「人にはハチミツは必要だが、ハチミツだけでは生きてはいけませんからな、その売り上げはアルフレドくんと、セフィリノ君に?」

「ええ、後セフィリノのご両親に蜜とお金を渡すことができたらいいなと」

「それでは陛下に献上したあと、オークション以外には非売ということにすればよろしいですね」

そういって、そらさらと手続きをしていく。

「俺の分も期待していいんですか!」

「そのために来たわけだし」

「この話セフィリノは知らないっすよね、俺黙ってますから」

セフィリノの両親であるパブロ夫妻にもお金を残したいわけがある。

この間、登城した際にパブロ夫妻と話をしたのだが、これが二回である。

一回目はセフィリノが無事に発見されたときに、挨拶をかわした程度なので、ちゃんと話をしたのはこのときがはじめてであるが、サメのために無理して登城した、それでちょっと渡しておきたくなったのだ。


用事は思ったよりはどきどきしたが、早く終わった。

漁港に戻ると、漁師達は肩を組んで、セバダの国歌を大きな声で歌っていた。

「サメチカが帰ってきだぞ、カンパーイ!」

帰ってきたサメチカ!に対して乾杯をした。

もう酒が入ってない人間はここにはいなかった。

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