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一日魔王

『増税前のリフォームしませんか?』

テーブルの上のチラシを小雨は見たあとに。

「なあ、サメ子、これやんないの?」

チラシをピラピラさせながら、小雨が聞いてくるのだが。

「迷宮自動育成オプションとかもさ、すごい気にならない?」

「えー~」

館を建築した会社からのものだった。

「それさ、楽しそうに思えるけどもさ、トイレとかお風呂の位置も変わるんだよね」

「何%で?」

「30%ぐらい、だからトイレに入ろって駆け込んだら、トイレじゃなかったら大変でしょ?」

「そっか、それならダメだな」

「でもこの会社、ダンジョンを専門に作る部署があるから、定期的にこの手のお知らせは来るんだよね」

「そこは見学会とかもやってるでござるよ」

「ハンゾウはいったことあるの?」

「この館を建築するってことで見に行ったでござるが、営業も兼ねている見学会より、イベント会社と組んでる有料のガイドツアーなんかがおすすめでござるな」

「千円、二千円ぐらいで参加できて、お土産もらえるから、半日ぐらい楽しむつもりなら面白いと思うよ」

「土産って何よ?」

「椎茸」

「椎茸?椎茸か…」

「ダンジョン産の椎茸はどこも美味しいでござるよ、それをさっぱりとした鳥の肉と合わせて、串にうって、焼いて食べるとビールに合うと」

「それはいいな」

「養分も向こうからやってくるから、大きく育つんだよ」

「養分(挑戦者)?」

「養分は養分さ」

「大丈夫、このダンジョンのは違うでござる」

「宇宙開発や土木等の公共事業が予算がっつりと減らされて、そういうところの技術者の受け皿となったのがダンジョン事業なんだよね」

「レアな素材が見つかる、まあ、これは八千代の庭もなんだけどもさ、あれが次世代の開発、これから予算が投入される技術への足掛かりになったんだよ」

八千代の庭のレア素材、白雪のような竜の鱗や羽毛。

「羽毛はミルトス女王、今八千代の庭の所在している世界で交流があるセバタ帝国の女王陛下に献上しましたけど、あの羽毛は生地にすると、断熱と湿度を一定に保つんで、夏でも荘厳華麗で苦しくないって喜んでたわ」

「献上したら、今年発行の金貨の裏に俺らの肖像載りますって言われたけども、サメのままだったしな」

「まあ、それはしょうがないしょ」

「有料ガイドツアーか、行ってみっかな」




「というわけで、一人じゃちょっとなんなんでフルゥにもついてきてもらったってわけよ」

「そういうことなんですか」

そういう理由でフルゥは世界を越えた。

ここは小雨とサメ子、ハンゾウが出身の世界である。

「お話に聞いてましたから、一度は来てみたかったんですけど、話に聞いていたのと大分違うようです」

「まあ、ダンジョンの前だし、みんないかした装備を決めてくるわけよ」

何しろサメが目立たない濃さである。

「仮装もokだし、仮装、コスプレあると、さすがに盛り上がるな」

「あれで剣振れるんでしょうか?」

フルゥは自分の剣はないので、館から剣を借りてきた。

「腕に自信があるなら、どんな格好でもいいんじゃない」

小雨は気にしない派である。

「こういうイベントになると、怪我人出しちゃダメだから、楽しめる難易度だしな」

「そういうもんですか?」

「でもな、ノーダメというのは物足りないかな」

そこにアナウンス。

「…なんていっているんですか?」

「上級者向けもあるんだと、契約書と証明書はあれば出来るってさ」

キラン

その時サメの目が光った。

「そっち行ってみっか」

しかしだ…

「申し訳ありません」

事前に申し込まなければダメなようだ。

「しかし、そんなこともあろうかと思って用意したでござる」

「さすがハンゾウ」

「手回しいいですね」

それよりもハンゾウが現れると、周囲がざわつき始めた。

「ミヤマのハンゾウ」

それだけはフルゥにも聞き取れた。

「あいつがなんでいるんだよ」

「おいおい、有名人じゃないか」

「有名なのは拙者の父親であって、こういうところは本当に面倒くさい」

「有名な方なんですか?」

「立身出世したからな」

「息子からすると、ずいぶん尾びれ、背びれがついた話をヒソヒソとしているものだなって感じですね」

「サメみてぇだな」

小雨のツボにはいった。

「ニンジャはどういうものなのか、説明はしたけども、ハンゾウの父ちゃんは、ハンゾウが生まれる前にとんでもない功績得たんで、深山(ミヤマ)って名前と領地をいただいたんだよ」

「あれはたまたま運が良かっただけでござるよ、不満たらたらで反旗を起こすときに、戦になった、それで誰かにつかなければならなかった」

「忍者はフリーのままじゃ、そういうときだめだからな」

「そしたら、ついたところが勝ち残った、その程度でござる」

「そうはいうけどもさ」

「そうですよ、腕で身をたてるものからしたら、夢ですよ、夢」

「難易度サメのみなさま、おられましたら、こちらにお越しください」

ガイドが呼んでいる。

「難易度サメのみなさま、おられましたら、こちらにお越しください」

こっちを見ながら、音量をあげた。

小雨が自分?とボディランゲージ、

ガイドがイエスとボディランゲージ。

高校生ぐらいの少年がガイドだった。

「陽明じゃん、バイト?」

どうも小雨と知り合いらしい。

「バイトです、ハンゾウさんもフルゥさんも今日はよろしくお願いします」

挨拶されたがフルゥは覚えがない、声はどこかで聞いたことはあるが、どこだっただろうか。

「先日お蕎麦は美味しかったです」

「あっ、キノコを届けてくれた」

先日のことである。

「魔人化したはいいでござるが、今は枯渇している状態、それは自然に回復するでござるが、キノコを食べるとすぐによくなるでござるよ」

キノコが来る間の時間に、フルゥは蕎麦をうつことになった。

「あの時、どこかの部族の仮面?かぶってたし、今と違って大分派手な格好をしてたな」

「あの格好をしないとサボテンに襲われちゃうんで」

「君はそんな危険をおかしてまで、私にキノコを届けてくれたのか!」

「バイトですから」

「荒野に生えているキノコの採取は、危険が一杯でござるから」

「あっ、時間もありますから、ついてください」

「よーし行くぞ」

小雨は杖を掲げた。

「それは魔女の杖では」

「後でちゃんと戻しておくでござるよ」



「ふっはっはっはっ」

高笑いが聞こえてきた。

「ライトさんお願いします!」

カッ

ライトアップした先には誰かいる。

「ようこそ、我がダンジョンへ」

サメ子であった。

「うわ、まつ毛、長っ!」

セバタ帝国にて、女王陛下に謁見し終わった後、すぐにこちらにやってきたため。ゴテゴテに盛られ、厚化粧をし、まつ毛も牛のように長い。

これには事情がある。

イベント会社に上級者向け参加者の申し込みの中に、お偉いさんの名前を見つけた。

「管理官がイベントに参加する…」

「これはどうするんですか」

毒を食らわば皿まで、サメにはサメをぶつけよ。

「本日一日魔王を務めさせていただくことになりました」

セバタ帝国から帰国し、着替えようとしたら、向こうのドレスデザインとカラーリング、ゴデゴテの化粧のままの方が魔王と威厳があるということで、このままやることになった。

「これは…強敵ではないでしょうか」

「負けないからな」

ビシ!

そういう小雨を。

「はん!」

サメ子は鼻で笑った。

「フルゥ、気を付けろ、向こうはかなり本気だ」

ハンゾウの語尾からござるが消えた。

これは相当である。

「小雨殿とサメ子殿が同期というのは知っていると思うでござるが」

「はい、聞いてます」

「今のあれは、競いあってた頃の二人に戻ってるでござる」

「あ~お話中すいません、進行がありますので、みなさまにはこちらから魔王に挑んでいただきます」

「えっ、これは」

八千代の庭、屋敷にある、サメ子の部屋のドアである。

「こいつはおもしろいことになってきたな、さっそく!」

「注意事項です、みなさまにはこちらの部屋に入っていただいて、中から扉を閉めていただきます、そういたしますと扉に鍵がかかり、シナリオはスタート致します」

「こってんな」

「中に入ってからの、ギブアップは認められません、それでは説明は以上です、みなさん、張り切ってお願いします!」

「よーし、行くぞ」

小雨が扉を開けた瞬間。

パン!

尾びれを狙ってワイヤーが飛んできた。

「えっ?」

そのまま小雨はつり上げられ、フルゥは手を伸ばすが。

ぶつん!

「さすがにそれはないでござるよ」

(今ハンゾウは何か投げたか)

そこまではフルゥにもわかった。

グッ

小雨のワイヤーに刃物を通しブチッっと切る。

「大丈夫ですか」

「I'm ok! everyone, don't neglect preparation」

「えっ?」

「小雨殿、こちらからは英語に聞こえます」

「Zut!」

「フランス語、これは一時的に言語も介入されているでござるな」

「まだ中に入る前なので、どうします?ギブアップします?」

「Non deficere!絶対にクリアして見せる」

「あっ、言葉治りました」

「では内側から閉めてスタートお願いします」

扉の中に入ると、住居空間が広がっていたが、バタンとしめると、住居空間がス~と下がってフィールドが変化する。

バトルのためのBGMが流れだし、興奮した魔獣ががぉぉぉぉぉとあちこちで叫びまくる。

「いいの、揃えたじゃねえか」

小雨はのってきたようだ。

もうそれだけで今回の目的は達成したようなもの。

「フルゥ、これはある程度以上小雨殿に任せたいのでござるが」

「?わかりました」

「すまないでござる」

理由はあるのだろう、全てを知るまでにはまだまだいかない。

そしてあるていどは、それが見えるまでは付き合うつもりと、フルゥは決めていた。

魔物の群れが見えたとき、サメは飛び込んでいき、大暴れを始めた。それこそ力任せに、まるで小雨の方が魔物みたいだった。

打ちもらしたものを処理していくが、放って置いてもやがては力尽きるのではないかと思われるぐらいボロボロになっていた。

「それでは次に進みたまえ」

小雨、フルゥ、ハンゾウ以外が動かなくなった時に、次のアナウンスが始まった。

ガッ

道となるパネルが飛び飛びにせり出してきた。

そしてそこに液体が流れ込む。

「この臭いは酸か!」

「ただの酸ではない、とっても美味しい酸辣湯だ!酸辣湯を台無しにしたくなければ上手に渡ってくるがいい!」

「…お前、魔王に向いてないな」

そのポツリといった言葉を逃さなかった。

「魔王に対する愚弄!許せぬ、こうしてやる」

フロアの強制移動。

「そこのサメ、お前は私をムッとさせるのが上手すぎだ!」

「それほどでもありません」

「氷塊!」

えっ、それ飛んできたら死にますけどっていう大きいものがヒョイ!と小雨に降ってきた。

フルゥが前に出て、炎熱まとわせ、何度も切りつけた。

「三本だけっていったのに、ごねて五本も飲みやがって」

「すいません」

小雨は反射的に謝った。

「針山!」

床がピクピクと動いた、ハンゾウが剣山が生えるであろう場所を予想して、小雨を抱え、フルゥを引っ張る。

「明日早いっていっておきながら、明け方までぐでんぐでんになりやがって」

「すいません!」

小雨は見に覚えがあった。

「もう許してはおけぬ!」

パン!

氷塊と針山が不均一に砕けた。

「竜巻!」

風は氷塊と針山の欠片を巻き込む、これは食らったらただではないが、逃げ場はない。

「うぉぉぉぉ!ソイヤ!」

掛け声で小雨は竜巻を無効化させた。

「そんな問題ばかりを起こしている小雨さんには、セバタ帝国の西海岸にお住まいの、貴重なサメ大好きさんから、暖炉の上に飾りたいと言うオファーが来ておりますがいかがいたしましょう」

「本当にすいませんでした」

小雨は土下座した。

終わったのかな?とフルゥはキョロキョロと見回していたが、そこに上から金だらいがゴン!と落ちてきた。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥

「あれ?」

「残念でござった」

金だらいが当たってゲームオーバーになったようだ。

ヴヴン!

そこにごて盛りサメ子魔王が映像で現れる。

「私の元にたどり着くまでに倒れてしまうとはなんと情けない、コンテニューするか?しかし、こんばんはハンバーグなので、コンテニューは無しだ、美味しいハンバーグを作るので、早めに帰ってくるといい!」

ふっはっはっはっ

「サメ子殿、着替えの手伝いはいるでござるか?」

「お願い~もうこのズラ脱ぎたい」

「わかったでござる、フルゥ、小雨殿についていって帰ってください、拙者は手伝ってくるでござる」

「わかった」

小雨は空をパンチすると、空間に穴が開く、そこに『サから始まりメで終わる』と書いて門にする。

「ちょっと待って」

そこから中を覗いてガサガサとする。

「はい、これ食って」

葡萄をくれた。

「これを全部食べればいいんですか?」

「一粒でいいかな」

パクっ

「じゃあ、ここから入って」

そこは夜空であった。

ここはサメ子の八千代の庭と対になる、小雨の満天の樹。

「あっ、すいません、何故か‥」

フルゥは急激な体調異変に襲われた。

「一粒じゃ、足りなかったか‥」

光は枝葉で遮られ闇は作られる、かすかに見えるのは星のように、そのままフルゥは平衡感覚を失っていった。

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