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西の風

ちゃぷん

今日の夜は波も静かだ。

見張りは船上から今日の獲物を探すために目を凝らしていた。

バチャン

何かが落ちる音が他の男達に聞こえた。

「助けてくれ!!!!」

声からするに、見張りが海の中に落ちたらしい。

「おい、どこの間抜けだ」

「ヤスが落ちたみたいっす」

「バカヤローめ」

船底からぞろぞろと船員が出てきたのだが。

バシャン

誰かがまた落ちた。

「何か、何かがいる」

落ちたやつがもがきながらそういった。

「何かってなんだよ」

「何かなんじゃないか」

一気に海賊達は不安になった、善悪は問わず船乗りは信心深いものだ。

チャプン

何かが跳ねた音がして、それがボスの目の前にいたやつに引っ付いた。

ニヤ!

笑ったそいつはサメであり。

「うわだだぁぁぁ」

そのまま海賊を海の中に引きずり込んだ。

ボチャン

三人目の水音を合図に、隠れていた海軍の船群が一斉にあかりを灯した。

「逃げろ」

「なんなんだ、あれは」

「あれっすよ、サメっすよ、勲章もらったってサメ」

海賊達は混乱状況にあるが、それを見逃すはずはなく。

「ゴー~トゥ~ヘ~~ル」

ボスのアキレス腱を狙ってサメはタックルしてきた。

「な…」

この男は知らんだろう、そう、サメは2匹いるのだ。

「ウ~~エル、カム~トウ!ヘル~」

右脇腹にもドン!とした重い衝撃、激痛のままボスは倒れた。

「乗り込め、確保だ!」

後は軍の仕事である。

「どうよ、失恋の傷は癒えたか?」

「血を見て心が満たされるってどこで習ったんだよ、小雨」


登場人物紹介


・小雨

バリトンボイスで地獄へ連れ行くサメ


・サメ子

アルトで地獄を歓迎するサメ。




「お疲れさまでした、海賊退治に協力していただけるということで、陛下は大変お歓びに、またこの辺りで漁をするものも安心していると思います」

王宮からのやってきたセフィリノの報告を、サメ達は真水で現れながら聞いていた。

ここは八千代の庭から、イルカのヒレがズタズタになるような荒波を越えたところにある、若き女王陛下が治める美しい国である。

「陛下からな時間があるのならば、登城するようにと仰せつかっておりますが?」

「俺は用事があるからパス」

「では私がいくよ」

彼らと出会ったきっかけをここで話をすることにしよう。



まずはセフィリノのことから。

船員がは王都の山側、役人のもとに生まれた。

「赤い髪は風の神と同じだから、風に愛されているのかもしれない」

祖父はそれ故に、彼に西の風を意味する名前をつけた。

しかし、だからといって何かがあったというわけでもないまま。

「お前はどうするつもりだ」

将来を考える年齢になったとき。

「王宮に務めたいです」

これは別にセフィリノが人生安泰を考えているためではなく、先日即位した女王陛下がまだ王女の頃街でお見かけしたからであった。

愛らしさと、美しさが忘れられず、人生を女王に捧げようという、不純な動機だ。

だが庶民はなかなか働けるものではない、ほとんどが貴族の子女で、もしも庶民が仕官する場合は、難関と呼ばれる試験を合格する必要がまずあった。

セフィリノは二年でそれを合格する。

これは結構すごいことであって、母親からは…

「もう街勤めでいいんじゃないかしら

といわれたが、ここで諦めれるわけがない。

試験に合格し、仕官を志願をしている場合、王宮の欠員がなくても、他の仕事を紹介される。

優秀な人間を他に行かせないというための優遇策であった。

セフィリノはそのために面接にいくと。

「赤い髪か…それは地毛?」

「そうです」

「じゃあ、ちょっと漁港の方を紹介するから」

漁港は王城から見て、西に馬車で半日。

「すいません」

と一声かけて建物に入ると。

「兄ちゃんが王都から来た?」

「はい、そうです」

「名前がセフィリノね…本名?」

「本名です」

「兄ちゃん、いつから来れる?」

始めて赤い髪と名前が+に働いたのはここだった。

「よろしくお願いします!」

雑用から始まったが、書類整理やら掃除やら、そしてここでしかないであろう仕事。

「イルカにおやつの時間だから」

網に魚を追い込むイルカ達にゲソを与える午後三時。

バケツに入っているイカをイルカの口に投げるのだが、なかなか入らない。

バシャバシャバシャ

「グンジョウ、ゲソで遊ぶな!口の中に入れないと、遊び始めるから」

「わかりました」

「コウセイ!戻ってこい」

漁師は叫ぶが、イルカ達はからかっているようで、全然戻ってこなかった。



「兄ちゃん、今度王都の方で、貴族の坊っちゃんやお嬢ちゃんが、船貸しきって騒ぐんだと、それで人が足りなくて兄ちゃんに来てもらえないかって来てるんだけども」

「わかりました」

久しぶりに王都に戻ることになる。

ついでに友人と食事をすることになったが。

「気に入られているなら、もうそっちにいったらどうだ?」

なんて言われてしまった。


船上のパーティを行うそうだが、このご時世に豪勢なことである。

(金はあるところにはあるんだな)

この皿ひとつで、セフィリノの一月の食費分を越えているだろう。

「すまんね、わざわざ来てもらって」

今回求められる人材は、身元がしっかりしている、これは試験合格で、仕官志願者であることでok。

そして船に乗れて、手伝いができるとなると、漁港からセフィリノを呼ぶことになるぐらい人材がいなかった。

「帰りに厨房よるの忘れないでくれよ」

美味しいお土産を用意してくれるようだ。

「ありがとうございます」

遊覧船は夕日の絶景ポイントに向かっていった。

「わ~綺麗ね」

「こういうのも悪くないな」

「みなさま、あまり一ヶ所にお集まりにならないようにお願いします」

その言葉は少しばかり遅かったようだ。

波のタイミングと悪いように重なって、ぐらりと船体が揺れたとき。

体を崩したが、これぐらいならばと手すりに手を伸ばそうとしたとき、誰かが自分にぶつかって…

ドボン

この時落下したのは9人、八人はすぐに救出されたのだが、セフィリノだけは見つからなかった。



「お前はもう少し泳げる必要がある」

小雨が言い出した。

「特に泳ぐ必要は見当たらないな」

サメ子はあまり乗り気ではない。

「はい、これで練習」

ビート盤を渡してきた。

「きゅきゅきゅ」

「きゅきゅきゅ」

そこでイルカ達の鳴き声。

「あ?」

小雨はその鳴き方が馬鹿にしたような感じだったため、不快に感じた。

「お前ら見ない顔だな」

じろじろ見たあと。

「サメ子、お前は屋敷に戻ってろ」

「小雨はどうするの?」

「あいつら、追い出してくるわ」

「わかった」

そこで小雨は海に飛び込んでいった。

(あっ、タオル持って帰らなきゃ)

かけたタオルを取ろうとした、その時流木と共に人が流れ着いているのが見えた。

生きているのか、死んでいるのか、急いで確認しなければならない。

ペタッ

赤い髪の男の、その首筋から脈をはかる。

(生きてる)

ここで男はまぶたがピクっと動き目を覚ます。

「こんにちは」

挨拶をした、歯を見せたその笑顔。

「ああああああああ」

ドアップだったこともあり、男は気絶した。

その声で小雨とイルカ達はやって来る。

「なんだ、今の声」

「きゅきゅん!」

「お前らの知り合いなの?」

「きゅきゅきゅきゅんきゅん」

「船から落ちたのを探しに来たって、サメ子、こいつは…」

「きゅきゅんきゅ」

「セフィリノだそうだ、無事か?」

「気絶してるだけだよ」

「んじゃ、小船にのっけてさ、俺が引っ張っていくってことで」

「それなら食べ物を、いや、その前にさ」

イルカ達は波で傷を作っていた。

「失礼」

サメ子はイルカ達にさわり、循環していない部分を見つけた、ヒレが傷や骨折している部品を術式で補っていく。

「はい、出来た」

「おお、さすが、俺がやると爆発するものな」

回復は使えるが、弱っているものに使うと出力がオーバーしてボン!といくのが小雨の回復術。

そのままサメ子は果物をもぎにいく。

「はい、これを目覚めさせたら食べさせてね」

といった辺りでセフィリノまた目覚める。

「ニンゲン タベル」

サメ子は果物のことをいった。

しかし、セフィリノにはそれがわからなかったため、また気絶した。



再びセフィリノが目を覚ましたとき、彼は見慣れた街並み肉眼で見える海上に、小船に揺られていた。

青い空、風の向きがわかるような雲。

「帰ってきた」

そして自分の膝の上に乗るヒレ。

「ん?」

ヒレをめくって、つかんで、その先にはサメ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

そこでまた気絶。

チャポン

海に潜っていた小雨が顔を出した。

今の声は聞こえなかったようだ。

彼はもうそろそろ迎えにいったイルカ達が来るのではないかと思っていた。

これから約十分後、イルカが先導して漁船を連れてきた。

「いたぞ!兄ちゃんがいたぞ!」

こうしてセフィリノは無事に戻ることが出来たのである。


この事故をどう決着するか、それについて王城では様々な意見が飛んでいた。

「この景気でどんちゃん騒ぎをした上で、事故を起こすというのは…」

「しかも見つけたのは漁港の顔役のところのイルカですし、他の海域のサメの住み処に流れたところをサメが付き添って戻ってくるとなると」

「それもそうだが、落ちたのが貴族ではないということで、騒いだ貴族達の親も探すよりも、死んだあと金でも渡せばいいという感じでしたし」

「そうですね、まずは救助の功績を称えてイルカとサメの皆様を表彰することにいたしましょうか」

「かしこまりました」

「今回被害にあった青年は仕官志願者なのですが…」

「あきはないか…」

「ないですね」

「それならばサメとの連絡係をやってもらうのはいかがでしょ?」

「そうですね、それならば顔役への面目も立つでしょうな」

人語でやりとりできるサメは化け物扱いされる文化では、この国はなかった。

人語を理解はしているが、しゃべれないイルカや、体を持たないが人に助言を与える妖精などはいるため。

ここら辺では見かけないが、そういうサメもいるんだなぐらい。

でも一番王城が重く見たのは、セフィリノが落ちたと聞いて、自分達の船を次々と出した、漁師達の反応である。

セフィリノが帰ってきたその日は祭り騒ぎとなり、そこでセフィリノを連れ帰ったさサメの一匹がメスだと知ったとき、顔役は崩れ落ちた。

彼の船の名前はミパクトリオ号、サメの女神の信奉者という意味である。

「めっちゃ拝んできた」

「そういうときは拝まれておけ」

そして問題がひとつ。

セフィリノはサメに助けられたが、サメを見て三回気絶している。

無害だと思っても、目を合うたびにあの時を思い出してしまう。

(大丈夫、大丈夫…)

「大丈夫?」

「ひっ!はい!」

このように前途多難だった。

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