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Cの世界

憂鬱な気持ちで、騎士は扉をあける。

シャ~

何かが目の前を通りすぎた。

残像にサメの姿があったような気がする…そのまま視線を向けると。

サメの背中、サメは壺にずぼっと入った状態であった。

クル!

壺が回転し、こちらを向いた。

「おはよう」

「…おはようございます」

サメ子は挨拶をすると、壺はそのまま走り出していった。

今ここで考えても、答えはでないだろう。

(それよりも今は水が一杯ほしい)

食堂まで行く最中に、階段のスロープを壺がかけ上がっていったのが見えた。



「すいません、水をもらえますか?」

目だけ出した、料理長も務めるハンゾウに声をかけると。

「氷を入れますか?」

「お願いします」

騎士に真夏に氷の入った水はとても贅沢なものだった。

去年の夏はとても暑く、水が腐って、飲み水を確保するのも大変だった。

「うかない顔でござるな」

「先程廊下を壺が走り抜けて」

「初めて見たら、ビックリするでござる」

「あれはなんで走っているんですか?」

初めは壺の中身を拡張するつもりだった。

容量の一割以下の入り口を持つ空間は、属性が反する二つの物質を使うと、反発による膨張と収縮が起き、拡張されていく。

この仕組みを利用して、壺の内部を広げる、それが今回のミッションであった。

サメ子が壺と向き合う日々が始まっていった…

まずは反する属性の選び直しからだ、様々な材料を用意していくが、あるものが出力が足りない、あるものは一方が強すぎる、先の見えない戦いであった。

ある日、そんなサメ子を見かねて、知人たちが気分転換をするように勧めた。

「そう、思い詰めることはないさ、気楽にやればいい、もう少しで花の時期だ、花が咲いたら、みんなでまた集まろう」

そういった先に、春を迎える木々の新芽が見えたのだった。

ピンと来た!!!

満天の樹だと…

「小雨、もらっていくぜ!」

そこで満天の樹をブチブチブチ!とはさすがにいかない、ちゃんと剪定のされたもの、そしてそれと相反する…


「桑蓬の一路(そうほのいちろ)から矢をもらってきて、それを壺の中に入れたでござる」

「桑蓬の一路?それはもしかして…」

「八千代の庭、満天の樹と並ぶもの、騎士殿が庭にやって際に歩んだのが、桑蓬の一路でござるな」

しかし、問題がまだあった。


二つの材料を壺の中に入れた、その時発生したエネルギーが強すぎたのだ。

設置した瞬間、サメ子は壺から吹っ飛ばされた。

その際ハンゾウがそばにいたのだが、いきなりサメ子が回転しながら壺からシュポンと飛び出してきたといった具合だった。

「それで色々工夫して、設置する場所を変えると壺が前に走り出すことがわかったこと、そうやって余計なエネルギーを使うと壺自体に圧力がかからないこと、この二点から壺を走らせているわけでござる」

「説明聞いても、すんなり理解が出来ないですね」

「ここは、そんなことばっかりでござるよ」



トウジョウジンブツ の紹介


・サメ子

動力がない時代の壺にも入ってた。

その際はピョンピョン小さく飛びながら移動していたが、実用的ではなかった。


・料理長

普段は黒装束で目だけ出しているが、料理の際は衛生白衣着用で目だけ出している。


・騎士

とりあえず水を飲みます。


ゴクゴク

水を飲み干した。

「そっちは何事もなく終わったようでござるな」

「ご存知でしたか?…」

「この庭にいる方々は、この世界の方ではありませんから」

「?」

「今はCの世界にいます、拙者とサメ子殿、小雨殿がAから、騎士殿と姫巫女はBから来たという感じでござる」

「海を隔てただけではなく?」

「海を越えれば気候や文化が変わるし、確かにここは島ですし、勘違いされるでござるが」

「すごい術者だとは思います」

「最初自分がサメになれるとわかるのは、3歳だったという方がこの庭の管理者です」

「神童か何かですか?」

「神童ではないでござるよ、上には上がいるでござる」

ランクつけると、中の上ぐらいだそうです、上になるのが神童扱い。

「これ以上、上になられると、会話が難しくなるでござるよ」

仕事柄、ハンゾウはそういった事情に詳しい。

「だんだんと相手を見ないで会話していくようになるでござる」

「術者にいるな、そういうタイプ」

「拙者、騎士殿には期待しているでござる!」

「??」

「この間うちのオヤジ、里で頭領を務めているのでござるが、クソオヤジに今の生活がばれたでござる」

「仲が悪いんですか?」

「要人の警護などを務めるのが家業のため、親子の情はあまり強くはないでござるから、仲がいいとか、悪いとかではないではござるな」

「それではなぜ?」

「こういう家業のため、あまり自分の好きなことというのはやれないでござる、拙者がここにいるのは、まずうちの里とサメ子殿の話をしなければならないのでござるが」

サメ子が人間だった頃に、里の秘密を知ってしまい、殺されたくなければ、出世して里を守る立場になるように圧力をかけました。

「そこから料理長になることまでが繋がらない」

「サメ子殿は確かに出世したのでござるが、ついでにサメになったので、サメが里を守る立場になったら、それは里がまずいということで、里の方から話はなかったことになったでござる」

その後に里に、サメ子の方から求人が来たのだが、求人をまともに取り合う感じではなかった。

将来何もないサメのところに行く奴はいないだろうというのが、里の見方である。

「主人の経歴がそのまま生き方に直結するでござる、それだけシビアに見るのが我々でござるから」

「それでは何故、ここに?」

「拙者、好きなものがあるでござる」

それは車、クラシックカーと呼ばれる種類のもので。

お客様の送り向かいに、動体保存を兼ねたクラシックカーを用意しておりますの一文で、それがとても気になった。

「車種が書いてなかったのでござる、そしたら、どんなものが走るのか、気になって気になってしょうがなくなって、見に行ったでござる」

まだこの館はなかった時だ。

「サメ子殿はクラシックカーはあまり詳しくはなかったでござる、お客さんが面白いと思うからとか、そういう興味と、先に車の先代のオーナーが免許返納することになったりして、面倒を見る人間がいなかったという事情があったでござる」

その時、今ここで自分が動かなければ永遠に失われてしまうものがある。

「頭領に自分がサメ子殿の元にいっていいかと手をあげて」

すんなり行くとは思わなかったが。

「わかった」

なんでか通った。

「この時、サメ子殿に負い目があったり、もしかしたらこの先が暗いかもしれないとか、そういう色々があったようなのですが、あの時しかおそらく話は通らなかっただろうと今は思っているでござる」

そうしてハンゾウは、今まで写真を眺めるだけだったクラシックカーが、身近にある仕事につくことになった。

「昨日拙者がいなかったのは、そのクラシックカーを見に行ったでござる、ここはそういう日にお休みくれるし!」

サメ子はそっとそういうときに小遣いをくれたりする。

「自分の意思で、主人を決めることが難しい世界でござるが、できれば拙者はここにいたいでござる」

「つまりそういう状態を頭領がよろしく思ってないということか」

「八千代の庭というもの、それが里にも知られるようになったら、拙者もいることもあってから、評価が変わったでござる」

頭領の息子を預かるようなしっかりした、あちこちに影響力があるといった具合。

「そして、バカ親父に自由にしていることがばれて、この間親父に言われたでござる」

もうお前は帰ってこい、そして跡目を継げ、そしたら代わりに私がこちらに参りますから。

「絶対に譲らねえからな!」

それを聞いたら、ハンゾウはここを守ることを決めたのである。

「転移者はいろんな能力を発言させることがあるでござる、騎士殿は何を!」

「魔人化と言われました」

「それは素晴らしいでござる、それは一騎当千、これで勝ちは決まった」

「しかし、もうそうなることはないとサメ子殿に」

「なんだと!」

「しかし、この庭を守るためなら、この剣にかけて!」

その剣は昨晩刀身を失っている。

愕然とする二人に、廊下を走るしゃ~という音だけが響いた

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