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エルフの城にて

六話連続更新四話目。

バトル開始です。

 エルフの城内では、派手な容姿をした優男が三人の女を侍らせ、我が者顔で王座にふんぞり返っていた。

 金髪碧眼の男は美形と言うにふさわしい顔をしている。

 だが、私は整い過ぎた顔にかなりの違和を感じた。


「あ? 誰だ……ああ、爆乳エルフと貧乳女騎士か。ようやく僕のハーレムに入る気になったのか?

 ここまで面倒をかけたのはお前達だからな。マッパでごめんなさいしないと僕は許してやら」

「ないな」

「あ?」


 体をすっぽり包むローブで覆い、フードで隠した私の顔はきっと呆れで酷く歪んでいることだろう。余りの品性のなさに漏れてしまった私の言葉を聞き、男は柳眉を寄せた。


「何だ、お前? 何でデブが僕のエルフと女騎士の側にいるんだよ。ヤラレ役のモブがここで出てくんの?」

「私は貴様のものではないぞ! 汚らわしい!」

「そうです! 私はナラハ様のものですから!」

「あァ? ナラハってこの根暗そうなデブのこと?」


 私の腕を掴んでのクッコロとハイエロの言葉に、男は私を睨みつける。殺気の乗ったそれはなかなかの迫力だ。

 まあ、母さんが本気でキレた時ほどではない。殺気を跳ね退ける為に威圧を放つと、男はすがるように肘掛けを掴んだ。


「な、何だよデブの癖に……僕は九耀の乙女全ての寵愛を持ってるんだぞ!」


 たじろいだ男は叫ぶ。

 なかなかこいつは私を苛立たせるのが上手い。私のことをとやかく言われるのは構わないが、母さん達の寵愛を出されては、つい挑発したくなってしまう。


「嘘だな。お前のような品性のない男が寵愛を受けられるわけがない」

「は? 何言ってんだよ。僕が嘘を言ってるって言うのか!」

「そうだが。少なくとも、裸で謝罪しろなどという下劣な思考の輩があの人達の寵愛を受けられるとは到底思えない。

 お前は、偽者だ」

「な……黙れ、モブがぁ! 僕を偽者呼ばわりするなぁ!」


 男は激昂し、王座を蹴り飛ばして私へ迫った。風により突進力を増した男の手には光で出来た剣が握られている。

 私はハイエロとクッコロに空間をずらす防壁を張り、王の間に防御結界を施しながら男へ向けて駆ける。ハイエロ達に防壁を張ったとはいえ、衝撃の余波を受けさせたくないからだ。

 同じように風のブーストを受けた私は男と広間の中央辺りでかち合う。光の剣に対抗すべく私は拳に反属性の闇を纏わせ、対峙した。


「この、デブがぁぁあああ!」

「……なるほど」


 振り下ろされた剣を掴み、力比べに持っていく。腕力も魔力も申し分ない。九耀の力も寵愛を騙れる程に扱えている。

 だが絶望的なまでに技量が足りない。これでは母さん達の眼鏡に適うわけがない。


「このちぐはぐさは転移者か?」

「あァあああ!」


 男は叫ぶと光の剣を手放し、炎と氷の双剣を出現させバツの字を書くように腕を交差させる。

 これも理解出来ない行いだ。九耀の寵愛を受ける者ならば属性の相性は理解しているはず。何故、反発する属性同士で二刀流をするのか。どうせならば相生(そうせい)関係のある属性とすればいいのに。

 私は水の相生である月属性の闇と、火の相生である日属性の光でもって奴の剣を思い切り跳ね上げる。

 相生により奴の剣は私の拳に吸収され、万歳の形でその体は無防備となった。


「……ふっ!」

「あぐっ!?」


 がら空きとなった胴体へ、私は九耀の力を消した掌を打ち込んだ。

 いわゆる掌底と言う奴だ。男は整った顔を歪め、蹴り飛ばした王座の元へと吹き飛んでいった。


「ユート、大丈夫!?」

「ユートくん!」

「ユートさんっ」


 取り巻きが壁へ激突した奴へ走り寄る。

 それを見て私は駆け出した。


「危ない!」

「え?」

「ふざけるなよ、クソモブがぁぁあああああ!」


 奴の体を光と炎の竜巻が包む。私は声に足を止めた女達と今にも破裂しそうな光炎の竜巻の間に無理矢理割って入る。

 女達への防壁に力を割いてしまい、自分へ防壁をかける時間がなかった私の体を男から離れた竜巻が包んだ。


「ナラハ!」

「ナラハ様っ」

「は、ははっ……やっぱり僕は主人公なんだ。ピンチでもチートを開放して逆転出来るんだから……僕は偽者なんかじゃない……主人公なんだ」


 炎にまかれた私の耳にクッコロ達の悲鳴のような叫びが届く。ユートと呼ばれていた男は震え声でぶつぶつと呟きながら笑っていた。

 焼かれる私の体を痛みと熱が襲う。だがそれよりも強い炎が、私の(はらわた)で鎌首をもたげる。

 それは、怒りだった。


「お前、今何をした」

「は? オーク? ……何でアレを受けて死なないんだよ!」

「答えろ。今、何をした」

「あぐっ!?」


 ローブを焼く炎をそのままに私は後ずさる奴の胸ぐらを掴む。痛みと灼熱感はあるが、ゴキブリのようにしぶとい生命力を持つオークにとっては致命的なものではない。

 犬よりも鋭い嗅覚が己の焼ける匂いを捉える。豚肉と同じかと思えばそんなことはなかった。


「ぐぅうう……はな、せ……はなせよぉ!」

「先ほどの爆発。女達も巻き込むつもりだったのか」


 私が庇わなければ、女達は確実に命を落としていた。仮にも自分を慕っている女達をこいつは命の危機に落としたのだ。

 これが許されることだろうか。父から「慕ってくる人間に不義理なことは絶対するな」と言われている私にとって、先ほどのこいつの行いは到底許しがたいものだった。

 ああ、もちろん『慕ってくる人間』と言っても『黒宮麻衣(イってるやつ)』は別だ。


「うる、せ……おま、かんけ、なぃ……ぎゃっ!」

「そうだな。お前にとって私は関係ないだろう。だが、今の行動は私にとっては見過ごせないことだ。答えろ」


 私の腹を蹴ってくる男から手を離す。女達は先ほどの衝撃から立ち直れないのか私に攻撃することはなかった。

 尻餅をついた男は私から見下ろされ、涙目で睨み返してきた。


「僕のハーレムをどうしようが僕の勝手だろう! これは僕が主役の物語なんだよ!

 お前を倒せばっ、いつまで経っても弱っちいままの冒険者も、高等魔法の使えない魔法使いも、大した治癒魔法も使えない神官も、みんないらなくなる!

 ハイエルフの女王と、姫騎士が手に入るんだぞ! こいつらくらい捨て駒にしたって構わないだぁがっ!?」

「もういい。話すな。不愉快だ」


 体をまとう炎は消えたが、私の怒りの炎は男の言葉で更に燃え上がっていく。

 自分でも話させておいて理不尽だとは思ったが、これ以上聞いていても耳が腐るだけなので拳で口を塞いだ。壁に叩きつけられた男の顔がみるみる内に内出血で腫れていく。


「あ、ぁ……顔! 僕の顔が! 豚ぁっ! テメェ許さねぇぞ!」


 男は腫れた頬に手を当てると、絶叫し九耀の力を溢れさせた。背中から九耀を象徴する九色の光が溢れる。

 男が手を離した頬はボコボコと蠢き、すぐに元の美しい顔へと戻った。


「転移者確定だな」


 このような驚異的な再生力を持つ生物はシンシンには存在しない。

 恐らく、これが奴の願った力なのだろう。


 私はやたらめったら拳を振るう男をいなし、彼の背後に回り放たれた光を確認する。


「む……これは……」

「避けるんじゃねぇよぉ!」


 振り向いた男の攻撃は、怒りで拙いを通り越して単調になってしまっている。

 私は再度拳をいなし、男の服を裂き破った。


「きゃああああ! ナラハ様! ナラハ様×モブですかっ!? いきなり服を破るなんてまさかのナラハ様鬼畜攻め!?」

「お、おい。落ち着け、ハイエロ」


 腐海の住人がうるさいが、突っ込みを入れる精神的余裕はない。

 私は男の背中に刻まれた相痕に目をやる。九つの属性を象った紋様が『並んで』輪になり背中を飾っている。

 私はそれを見て、サース母さんへ念話を送った。


“はーい、もしもし、ハーくん?”

“母さん、今大丈夫か?”


「何しやがる! デブオークがぁあああ!」


 私は母さんの“うん、大丈夫よー”と言う念話を聞きながら男の拳を受ける。かなりの衝撃に私の体が後ろへ下がる。


“ぐ……”

“え、ちょっとハーくん? ハーくんこそ大丈夫?”

“問題ない。それで偽者の件だ”


 足指に力を込め、私は拳を耐える。怒りで一撃一撃の重さは上がっていた。防御の考えがないのか拳を打ち返せば簡単に当たり、男は吹き飛ぶ。


“無理しないでね? それで偽者はどうだったの?”

“酷いものだ。腕力や九耀の力は申し分ないが、性格や技量は母さん達の気に入るものとは思えない。

 そして相痕はあったが、九耀全てが『並んで』輪を作っていた”


「あァああああ! この、クソオークぅぅううう!」


 拳の乱打の速さが上がる。男の背中にある九つの紋様が更に光を発する。

 私は半ば作業のように男の顔を打ち据えた。いくら速さが上がろうとも、技術が伴わなければなんてことはない。

 母さんは私の言葉を聞くと、一瞬の沈黙の後ゆっくりと噛みしめるように問い返した。


“九つ全て並んでいたのね? 『土耀(クロノ)が中央』でなく”

“ああ。しかも並ぶ順はバラバラだ”


「当たれぇ! 当たれよぉ! 何で当たらねぇんだよぉ!」


 男の体から放たれた数多の光弾が四方八方から私へ迫る。それは九耀の力だけとは違う、何かどす黒いものをまとっていた。

 避ければ私の背後にいるハイエロ達に当たってしまう。防壁を超えるだろう力を持った正体不明の黒光弾を、私は全身で受け止める。


「ぐぅうう!」

「やっと当たったな! 豚め! とっとと死ねよ!」


“ハーくん! どうしたの!”

“……大丈夫だ”


 母さんの切羽詰まった声を聞いて私は誤魔化そうとするが、それが通じるわけがなかった。


“ナラハ。何をしたのか言いなさい”

“九耀の力以外のまずいものを感じたから、ハイエロ達に当たらないよう受け止めた……大した傷にはなっていない”


 念話越しでも感じた気温の低下に、私は素直に白状した。“そんな危ないことして……あとでお仕置きよ”と言われたのが少しだけ恐ろしい。


“ハーくん、もう充分よ。『あなた』の判断が有罪であれば私達は動けます。

 そろそろ呼びなさい、母さん『達』を”


「ああ、分かった」


 母さんの許可が出た。背中に熱が集まっていく。


「な、何だよ、それ!」


 男が攻撃の手を止め、たじろいだ。見ずとも自分の背中から光が溢れているのが分かる。

 私はエネルギー弾によって穴だらけとなり、服の意味をなしていないシャツを脱ぎ捨てた。


「分からないか? 九耀の乙女の(しるし)だ」


 溢れる光は九つ。色は男のものと同じだが配置が違う。土耀を中央に据え、他の八耀が囲むこの形が正式なものだ。

 最後に九耀全ての寵愛はおろか祝福を受けた者すら随分と過去の話だ。今ではこの正式な形を知る者は少なくなっているらしい。


「は? オークが? お前みたいな醜い豚が寵愛を?

 ふざけるのも大概にしろよ!」

「別にふざけてはいない。これが九耀の乙女の験なのは事実だ。

 だが一つ訂正しよう。これは寵愛ではない」

「は?」


 光が激流のように背中から溢れ部屋を満たしていく。

 目を開けていられない程の光の洪水が止み、私の周りに九つの強大な力が顕現する。

お読み頂きありがとうございました。

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