雪花祭り・・
一年前の出来事・・
エイルは 黒の国の盟約により 白の国の使節・・人質となって
黒の国へ 向かう前に 白の国の統治者である 白の宗主に別れの挨拶をした時である・・
十年近く前・・前の白の使節・・人質になった羽琴の姫君と呼ばれる叔母のエリンシアが
自分の身代わりになった事を聞かされた・・
そして・・彼女エリンシア姫は 十年近く前 一度 黒の国が滅んだ際 行方知れずとなっていた
エイルは深く悲しみ・・自分を責めた・・。
それから時が流れて・・今・・
黒の王宮で アーシュは エイルと女官長であるナーリン
(ナーリンは竜の人の将軍セルトの義理の妹 14、15歳前後の姿をしてるが?)の二人に言った
「雪花祭りの前夜祭に 街へいかないか?」
と・・黒の王・火竜王アーシュラン
(現在は 魔法薬の副作用で子供の姿 ,記憶も無くしている)
「お城での王としてのご挨拶は?」
「どうせ 俺に化けている部下が 挨拶するよ もうセルトには話した」明るく笑うアーシュ
「うん わかった 僕も行きたかったんだ 行こうアーシュ」エイルことエルトニア姫
「お誘い有難うございます 私も参ります」ナーリン
嬉しそうに笑う二人
「ああ そうだ エイルの金の髪とオッドアイの瞳は目立つから
少々 変装しようか?」
「まあ 僕 気にせずに よく街に行くけど・・わかった 今回は変装するね」
「じゃあ 別部屋で 準備を致します お手伝いしますね エルトニア様」
「あ、俺も 取りにいく物があるから 一緒に行くよ」とアーシュ
街へ向かう途中の柱の道・・中庭で 男女の楽師の二人が歌ってる
リュートを奏でる黒君の娘・・
「綺麗な声だね リュートもいいね」エイル
「そうですわねエルトニア様」
「明日の宴で歌うんじゃない? あ、急いで 変装の準備しないと」
「行こう エイル ナーリン」
「ランデイ・・あれがエルトニア姫・・それに・・」娘は笑う・・
「・・劇場の舞台もあるし もう行きましょう」
「獲物は 明日の宴の後で・・」
娘・・アムネジア(テインタル王女)は言う
「はい アムネジア様」うなずく ランデイと呼ばれた赤毛の男
髪を茶色に染め 髪型を変え 目立つ青の瞳には 自分の髪とベールで隠すエイル
耳には 独特の城の国の者の耳を隠すために金の半月型の耳飾り
両耳にすぽっと はめる
服はいつもの綺麗な足が目立つ短いものでなく 長めの服にする
ナーリンの黒髪は 肩より 少し短く 肩半分のところで 切りそろえてる
しかし顔横の両方の前髪を少々伸ばして それぞれ丸い小さな金や宝石で 幾つかつけて
髪飾りをつけてる
今回は 他にもアクセサリーをつけ おしゃれをした。
そしてエイルの変装を手伝う・・
アーシュは いつもの黒の短めのチュニックを着ている
胸元には 丸を半分に切ったような大きめの金の飾り 服の飾り
「じゃあ 行こうか?」とアーシュ
街で大きな事件に巻き込まれるとは・・
巨人族の手先となり果て その美しい身体に
巨人族の王に従う魔法の呪文の文様を入れ墨された
生きていたアーシュの実の妹に襲われる事となるとも知らずに・・
異母兄妹テインタル王女 今はアムネジアと名乗る リュートの姫
・・先の黒の王妃アリアンの稀なる美貌を受け継いだ娘に・・
王都・・ 城下街は 雪花と呼ばれる大きな木が幾つもあって
美しい真っ白な 雪花の花を咲かせてる 小さな花々が木を覆っている
花ビラが散り終えたら 短い期間だが やがて冬が始まる・・
花びらが雪のように ひらひらと舞い落ちる中
祭りで街は 賑やかであった ・・
出店が道いっぱいに並んでいる
菓子に 酒や果物の飲み物
各地の食べ物・・
美味しそうな鳥の焼き鳥も・・
ホットワインに 名物の焼き菓子
リュース公の領地の大きな湖で取れる 名物の焼き魚に食べ物・・
白の国のテイン・ベリーという果実に それを使ったお菓子・・
「すごく 賑やかだね!」アーシュ
「そうだね!アーシュ」エイル
「本当に賑やかですね」ナーリン
「何か食べる?それとも先に あの舞台座の余興を見る?」
「先に舞台座に行うよ アーシュ ナーリンもそれで構わない?」
「ええ もちろん エイル様」ナーリン
「後で エイルの好きなテイン・ベリーの果実と・・リュース公の湖で取れる焼き魚に
鳥の焼いた物に・・それから 菓子やジュースも買おうか」
笑うアーシュ
三人は連れだって 賑やかな街の中を歩く・・
一見すると どこかの裕福な大商人か貴族の娘に見えるエイル・・エルトニア姫
その連れのアーシュは歳の離れた弟
ナーリンは 姫たちに仕える侍従か あるいはその友達にも・・
「おい 見ろあの娘 なかなかのべっぴんだ・・」
「ちょっと酒に どこかの酒場の中にある宿の部屋に連れ込んで
俺達の遊び相手でもしてもらおうか・・くくく」嫌らしい笑い
「連れのその子供は 俺達にかなうわけもないしな・・ああ あの隣の黒髪の少女もいい」
どんと数人の男達が わざとエイルにぶつかる
頭にかぶったベールが落ちる それを一人の男が拾う
「あ すいませ・・」とエイルが言いかけたところを 男がエイルの顎を指先で掴み
まじまじと見つめ
「おや オッドアイの美しい娘じゃないか? 思った以上に可愛らしく極上の顔だ
それにその耳・・白の国か白の国の者達の地を引くリュース家ゆかりの者か?」
エイルの耳に手をやり 片方の金の半月型の耳飾りを外す
「!な 何を?」慌てるエイル
金の半月型の耳飾りとベールを男達の手から取り返す
そこに すかさず エイルを彼らから引き離し ナーリンともども 自分の背に庇うアーシュ
「話があるなら 俺を通せ 無礼な奴らだ」
「けっ! 姫を守る騎士のつもりかよ!
その長い耳 まあ黒の貴族の子みたいだが・・ 生意気な」
再び近づき エイルの腕を取る
「つんけんするなよ」
「きゃ!」エイル
エイルは腕を振りほどき アーシュの傍に行く
カッとなるアーシュ 怒りで焔色の瞳を見開く
「・・・・」黙って睨むアーシュ
「憎たらしいガキだ!」
「やるか!」彼らが行動を起こすより 先手必勝!
「触るなといったろう!」
アーシュは 高々とジャンプして 男の顔にドカッと!乗って踏み倒す
次は飛び蹴り
肘で 男の腹を思いきり突く
くるんと廻り 廻し蹴り 三人目を倒す
「このガキ!」 殴りかかてきた男をさっと避け
短く呪文を唱え 炎の魔法が男の頭に 髪が燃えさかる
「お 俺の髪が!!」ジャンプして 髪が燃える男を飛び越え 道に手をつき
逆さに踵落とし 五人目
「くそ!覚えてろ!」男達は捨てセリフを投げつけ 逃げ出した
「・・たいした事ないな・・大丈夫?エイル ナーリン」
くるんと廻って エイル達に話しかける
「うん 平気 有難うアーシュ」エイルことエルトニア姫
「有難うございます さら・・いえ アーシュ様」ナーリン
「じゃあ 行こうか」笑ってアーシュは歩き出す
「エルトニア姫様 アーシュ様は とても明るくなられたと思いませんか?」
「・・そうだね 僕が覚えてるアーシュは 無表情で 無口で・・」
「大きくなられてからは 少し余裕も出来て 明るい表情もされてましたが
やはり 時折 子供時分のような 暗い無表情な御顔も・・記憶をなくされたせいでしょう
本来は こんなに明るい方だったのですね・・」
「‥そういえば ナーリンは幾つなの?
10年以上 魔法の水晶に閉じ込められてたって
聞いたけど・・?」
「女の歳は・・秘密です エルトニア様 でもお二人より年上ですよ・・
実は アーシュ様の実の母親君の事もよく知っております」
「えっ!」とエイル
「いつか 詳しく御話しますわね 可哀そうなあの御方の事を・・
アーシュ様の実の母君は 義兄のセルトお兄様とも 縁があるんですよ」ナーリン
「・・うん わかった」エイル
三人が ある二人の人物とすれ違う
二人の人物 女性の方は素晴らしい美貌と身体で 簡素な服に黒髪を一つにまとめ
髪をまとめる布を巻き 耳を隠している
何かを二人で 歩きながら 話している
手にはリュートを持っていた
男の方は赤毛だった 彼女の恋人なのだろうか? ぴったりと寄り添い歩いていた
女性とアーシュがすれ違った途端
女性とアーシュの二人は何か 響くような 痺れるような感覚を同時に覚えた
そのまま すれ違う
アーシュは 振り返る
女性は一度立ち止まり アーシュを見てたが すぐに振り返り 後ろ姿をみせながら立ち去る
奇妙な感覚
「リュートを持った さっきの女性 すごく素晴らしい美貌だったね
‥そういえば・・さっき黒の王宮で 歌っていた二人かも・・
男の人の赤毛が印象的だったから」エイル
「・・・」アーシュ
「え そうなんですか?私は気が付かなくて・・」ナーリン
「・・・・」アーシュ
「どうしたの?アーシュ?」
「・・あ、ああ どこかで会った気がして・・」
「そう言えば 瞳の色がアーシュと同じだったような・・」
「まさか!エイル様 アーシュ様の瞳は火竜王の証
あの不思議な燃えるような輝く焔の瞳は 他人が待ってはいませんわ」ナーリン
「そうだね 僕の見間違えか・・」とエイル
「・・・・」アーシュはただ黙ってるが やがて口を開く
「行こう エイル ナーリン」いつもの明るい表情・・
あの顔・・俺は知っている・・失われた記憶か?
あの瞳・・燃えるように変化する紅い瞳は・・
俺と同じ・・力を示すもの・・
何故?
「アーシュ?」エイルが声をかける
「なんでもない・・」
そうだな・・やはり 俺の見間違えか・・きっと考えすぎだ・・
そして・・明るかった子供のようなアーシュの表情
このアーシュの表情に 再び暗い影のような表情をするようになるとは まだ誰も知らない・・
リュートを持った女性・・それはアーシュの異母兄妹テインタル王女ことアムネジア
確かに 彼女は 同じ火竜王の不思議な焔の瞳を持っていた・・。
先程の・・アーシュとすれ違い見た時
アムネジアは思った
アーシュラン アーシュ兄様・・
貴方は私と同じ者・・
この世に 二人しかいない 一対・・
子供の姿になり・・何も覚えてない 貴方・・
本来なら 結ばれる運命にあった私たち・・
「アムネジア様?」連れの赤毛の男ランデイは言う
「ランデイ さっきの三人を見た?
黒の王アーシュランとエイル・エルトニア姫 もう一人は知らないけど・・」
「えっ? あれが 黒の王 火竜王!
と白の国のエルトニア姫!しかし黒の王宮で見たエルトニア姫の先程の姿とは」
「エルトニア姫の方は少々 変装してたけどね・・」
「子供の姿になったとは 間者の報告で聞いてましたが・・まさか」
「間違いないわ・・記憶にある 子供の頃の幼かったアーシュ兄様そっくり・・
今の姿は白の国に
向かう為 別れた当初より 少々 大きいけど・・」
「・・・」
「狩りを始めるわよ・・ランデイ
どうやら 予定を変更して 今日 やれそうね・・
今回 巨人族の王に命じられたのは 人さらいをする奴隷商人から買い物をする事・・・・
巨人族の王に献上する為の人達の・・」
「とっておきの土産になるかもね・・」アムネジア
その頃 劇場の控えの部屋では 一人の美しい娘 少々吊り上がり気味の大きな瞳
黒の貴族の血を混ざってるのか 大きな長い耳
少し黒い肌と銀の長い髪をまとめ
胸には 布を巻き 首には金の大きな飾り 腰には腰布 ベルト代わりに洒落た金と宝石の飾り
整った均整のとれたしなやかな身体 服は 胸元と腰布だけなので ちょっとしたビキニ姿
劇場の舞台では 踊り子として登場する予定である・・
その部屋の中の物陰に潜む男が三人・・
男達は 奴隷商人の手下
ひそひそ声で話をしている・・
「あの耳 黒の貴族の血が混ざってるのか? あさ黒い肌に銀の髪・・それともあの銀の髪
リュース家の領地の者達の方か? いい身体つきをしている
顔もいい 極上品だな」
「ああ おかしらも気にいるだろう・・
また 味見してから 売るだろうな・・」
「じゃあ やるか」
「ああ 捕まえるぞ!」
男達は 踊り子の娘に飛び掛かる
娘の目がニヤリと笑う
廻し蹴り! 「うおっ!」
手の甲で顎を打ち 「うお!」倒れかかた所を肘で打つ
残りの一人は 床に手をつき 逆立ちをしてそのまま 足で足蹴り 「ぎゃあ!」
数秒で 倒す
「さあ 聞かせてもらうわよ 攫った娘たち・・特に聞きたいのは リュース家の領地や
王都に来て そのまま行方不明になった娘たちの事よ
お前たちの隠れ家はどこかしら?」
部屋のドアが ゆっくりを開く ローブを深々と被っている大柄な男
ローブを脱ぐと そこには 竜の顔をした男・・
「セルト将軍?」
「姫・・探索は我々が・・」
「うふ・・もちろん お願いしますわ でも お手伝いするから よろしくね」
「確かに 貴方様の力なら たやすいでしよう・・しかし・・リュース公が心配されてます」
「戦の時は あれだけ簡単に信じて まかせてくれたのに・・どうしたのかしら?お父様」
「ところで 私の変装はいかが?セルト将軍?」
「なかなか良いです 一見してわかる者はないでしょう アルテイシア姫」
「うふ・・あ、これから舞台に出るから・・貴方も 城で祭りの儀式があるから
一旦 黒の王宮に戻るのでしょう?
アーシュ様の身代わりが儀式をするし 気になるんじゃない?」
「それに 前の戦で捕らえた 巨人族の捕虜の取り調べ・・
もうすぐ・・さらわれた黒の貴族の女性達との交換に 巨人族の国へ帰す前に
しなくては いけないのでしょう?」
「はい 王族が混ざってると言う 噂もあって 確認している所です」
「今日の儀式の王の身代わりは 仮面を被って儀式をするので 大丈夫だとは思うのですが
火竜王(サラマンデイア様)に見えるように 念の為 妖しの呪文をかてますおりますし
元々 声もよく似てます
話しかけられても どう対応するか 勉強もさせてます・・
タルベリイ殿もあられるので 大丈夫とは思いますが・・
また伺います では・・」
セルトを見送り 舞台に向かう 変装したアルテイシア・・踊り子
彼女は頭に大きな額飾りをかぶる
劇の舞台に拍手する観客達 最前列に席を取り 三人並ぶ 真ん中にアーシュ
左右にエイルとナーリン
仲良く舞台を見てる
舞台の上・・空から 水の泡の魔法に包まれて 数人の踊り子達が
ふわふわと浮かんで下りて来る
「まあ 水と風の魔法ですわ!」ナーリン
「本当だ」エイル
「・・・ふう~ん」アーシュ
魔法を解いて くるんと空中で一回転して
次々と舞台に降り立つ 踊り子達
舞を舞う・・
その中の一人の踊り子 席にいるアーシュランに気がつくと
嬉しそうに 投げキスをおくる
「・・・?」
「あら・・あの踊り子 アーシュ様を知っているのですか?」
「そうなの?アーシュ?」
「・・・さあ? 誰だろう?」怪訝な顔をする
踊り子の舞いが済み 拍手と歓声
次は演奏者達が 舞台に立つ その中の一人
先程 ぶっかったあの美貌のリュートの娘がいる・・歌も歌いリュートを奏でる
「あら 目は黒いわ・・やはり見間違えたのね」ナーリン
「・・そうだね・・でもあの顔 でこかで見たような・・」エイル
「どこだろう・・あ 城にある 黒の王族達の肖像画 先の黒の王妃アリアン様」
「まあそう言えば・・似てますわ 不思議ですわね」
「んっ・・・!」演奏するリュートの姫を見て顔色を変えるアーシュ
がたん!席を立つアーシュラン
演奏が終わり 舞台を去ってゆく演奏者達・・
「どうしたの?」エイル
「いや すまない
少し席を外すけど すぐ戻るから‥舞台を見てて二人とも」
その女・・あのリュートの娘・・
何か・・何かの強い力に俺は・・アーシュは引き寄せられるように・・
奇妙な感覚に逆らえなかった
「わかった」エイル
「はい わかりました」ナーリン
「行ってらしゃいアーシュ」ニコッと笑うエイル
「すぐに戻るから・・」そう言って ちゃっかりエイルの唇に軽くキス
「・・あ・・もう」顔が赤くなるエイル
「・・ふふっ アーシュ様たら・・」微笑むナーリン
だが・・この時・・後々アーシュランは 自分が離れて 二人を残した事を
深く後悔する事になる・・
そう・・俺は 二人を残してゆくべきでは なかったのだ・・
愛しい人‥エイルの傍を離れるべきでは なかったのだ
二人を残して 劇場の中を先程の娘を捜しまわる
あの瞳・・あれは 妖しの魔法・・俺には通じない!
確かに あの瞳・・あの瞳は俺と同じ焔の色!
それにあの顔 あの肖像画・・先の黒の王妃アリアンに 似すぎている・・。
まさか・・?どういう事だ?
・・・何か気配がする 俺を呼んでる? 地下だ
あの階段・・あそこか・・
地下には リュートを持つ娘が一人立っていた・・リュートの姫君
「アーシュ兄様が私を捜してる・・ああ わかる」
「同じ血が呼ぶのね・・」
「! いた!」
「・・・黒の王 火竜王」リュートの姫君は歌うように微笑み言った
「・・俺の正体を? 何者だ? それにその瞳・・」
「ええ・・恐らく 貴方には妖しの術は通じないと思っていた・・」
頭に巻いていた布を解き 長い流れるような黒髪がさらりと風に揺れる
現れたのは アーシュと同じ長い耳・・
「私は ずっと貴方に会いたかった・・懐かしい
昔のままの姿・・いえ あの頃より少し大きい」
「・・・何者だと聞いている?」アーシュは問いを繰り返す
「ふふ・・今は貴方の敵よ・・私は今は巨人族の王に従う呪術の呪い文様を入れ墨された身
服を少し脱いで 肩と胸元に彫られた 入れ墨を見せる
「‥貴方を殺す・・その呪文を彫られてる・・抗えないの・・」
「私の事を‥本当に昔の事を忘れてしまったのね アーシュ兄様・・」
「・・!お前まさか! 昔 黒の王宮に巨人族が押し寄せ その戦いで 死んだはず!
俺の異母兄妹・・テインタル王女なのか?」 アーシュ
「私の今の名前は アムネジア」
表情を 心を読み取られまいとして 静かに言う
「・・俺以外の王族は 皆・・十年前の・・あの黒の王宮での戦いで
皆殺しにされたとタルベリイは言った・・」
「・・貴方は 昔の事をすべて・・忘れてしまったでしょう?
アーシュ兄様・・」
アムネジアは 幼い頃の事を思い出す・・・
柱の道 中庭を挟んだ向こう側 上の柱の道・・反対側で寂しげに立っていた
アーシュランお兄様・・
「あ アーシュお兄様」
「テインタル・・」あの後・・傍にいたお母様は
アーシュ兄様に近ずけまいとした・・。
・・・・私は死んだとされ・・忘れられたこの国の王女・・
アーシュを見ながら 懐かしそうする・・
「懐かしいわ・・昔の姿のアーシュ兄様・・・」
「うふふ・・ねえ・・いいの?先程 一緒にいた二人 一人はエイル・エルトニア姫・・
私も あんな変装くらい 見抜けるわ・・美しいオッドアイの姫!」
「憎い・・あの姫が・・愛しい貴方のすぐ傍で 愛されて守られてる あの姫が!」
「言ったでしょう? 私は巨人族の王に従う者 貴方の敵だって!」
「・・私は ひどい女よ・・ 貴方の愛しいお姫様にとっても酷い事をしてあげる・・」
「王女を一人に してはいけなかったわね」
「!!」エイルが!
目を見開き慌てて 二人の元に戻ろうとしたアーシュに声をかける
「・・逃がしはしない・・ねえ 殺し合いをしましょう?
呪いから解放する為に私を早く殺して」
彼女の両方の手から 炎が燃えがる
アーシュは振り返り
彼もまた 左手から炎の呪文で 火の塊を生み出す
「・・本気なのか?」
「ええ・・始めましょうか」とアムネジア(テインタル王女)
アムネジアは次々と火の魔法を投げつける
御返しとばかり 火の魔法を投げつけ 軽々と放たれた火の魔法をかわす
横に何度も逆立ちなどして 避けて
そして 間合いを詰めて すぐ傍にジャンプ
一回転をしながら 「炎!」手に炎を出現せて
着地前に
横一文字にアムネジアの顔 近くに横に流れるように 火の魔法
「きゃあ!」悲鳴
「女の顔に炎の投げつけるなんて ひどいわ」
カチンときて むっとするアーシュ
「仕掛けてきたのは お前だ!」
「ふん・・早く私を殺して あの二人のもとに帰るのね アーシュ兄様」
じゃないと 間に合わなくてよ・・」
「・・・・」
一瞬 唇を噛み締め 炎の呪文を唱える
「焔よ・・焔の竜よ 火の竜の王たる我に力を」
あたりを焔が包む
今度はアムネジアが同じ呪文を唱える
「焔よ・・焔の竜よ 火の竜の王たる我に力を」
アーシュの身体に炎が包む
軽く薙ぎ払い 炎を消す
「火竜王には通じないぞ!」
「・・どうかしら? 母親を人族に持つ貴方・・
この瞳 焔の瞳・・・私も同じ火竜王
しかも 血は 純粋で私の方が濃いわ!」
「炎帝たる竜の王! その加護により 敵を倒せ!」
再び火の魔法が放たれる
「っつ・・」よけきれずに 軽いやけどを負うアーシュ
キッと睨み 再び 魔法の呪文を唱えようとする
・・・・
その頃 劇場の外では 奴隷商人の手下が 騒ぎに紛れて
人さらいをする為に 廻りに油をまき 火をつける・・
火はたちまち燃え上がる
舞台では観客達が マジックショーを見て 歓声を上げていた
「あら・・なんか 焦げ臭いない?」
「あら・・そうね」
真ん中の席を空けてアーシュの帰りを待つ 二人 エイルとナーリン
剣舞がはじまり 踊り子達は それぞれ自分独自の舞を舞う
銀の髪の踊り子は 両手で 剣を持ち 舞っている
「あら、あれは 黒の国の貴族に伝わる剣舞ですわ
何でも 湖畔地域の黒の貴族達 リュース家の方は 舞いの形で
剣を教えるそうですわ・・
「・・剣の型・・」
エイルは昔の事をふと思い出す・・
アーシュランがまだ大人の姿の ちょっと前の事・・
剣の練習をしてもらって こけて 僕は鼻を少し怪我して・・
「まったく 全く剣の型がなってないじゃないか?」
ポンポンと手にした剣で自分の肩を軽くたたく
やれやれと・・文句を言って
僕の鼻に癒しの魔法をちょこんと掛けてくれたっけ・・
「教えてくれるの?」エイル
「・・教えるのは 白の国の剣の型か それとも黒の国?」
「大体・・白の国にいたリアンという
お前の従兄のは 教わらなかったのか?」
「俺としては 護身術も必要だけど
エイルにはお姫様しててほしいけどね」
ふんと後ろを向くアーシュ
「・・アーシュ」
「もしかして・・それ焼きもち」
「・・誰かさんは 剣の練習に忙しそうだし
お前の おやつ・・テインベリーの焼き菓子は 俺が食べておいてやるよ」
「だ・・だめって!」
ふふ~んと後ろを向いたままのアーシュ
「まあ 頑張れよ」アーシュは顔だけ振り返り 笑みを浮かべて言う
「ちょっと それは僕の物!
それに 剣の型は?教えてくれないの}
結局 僕は一休みしてアーシュと一緒に焼き菓子を食べた・・
「戦士には 向いてないな お前・・
エイル そろそろ 素直に俺の花嫁にならないか?」
「却下!」エイルはあっさりと言う
「ふん・・」アーシュ
ちょっと捻くれてて・・あの頃のアーシュは・・今もちょっとだけど・・
「少し遅いですわね・・エルトニア姫様」ナーリン
「そうだね・・もう演目が終ちゃう・・遅いよねアーシュ」エイル
劇場の地下では アーシュとアムネジア(テインタル王女)が
戦いを続けていた・・
「まだ・・本気を出してないでしよう? アーシュラン兄様」
戦いながら 綺麗な声で言うアムネジア
「・・・」
睨みながら 魔法の小技や体術で戦うアーシュ
ジャンプなどを繰り返して 攻撃を避ける
本当に俺の妹なのか? 生きていたのか?
しかし 確かに あの瞳 焔の瞳は 火竜王の証
俺と同じもの
「早く・・戻らないと エイルとあの連れの少女が危ないわよ!」
言われて 唇を噛み締め 一瞬 迷うように瞳を閉じ
決心した
目を大きく開き 叫ぶように呪文を唱える!
「炎よ 古の火竜よ 我に力を 焔の柱!」
「きやああ!」
全身が炎で覆われる 身体はほとんど焼けないものの 身につけた服は炎に包まれ
燃え尽きる
きびすを返して 上に上がる階段に向かう
「・・手加減したわね・・私を殺さないと後悔するわよ」
アムネジア(テインタル王女)
炎の中で 全裸となった彼女の美しい白い肢体には 痛々しい魔法の文様の入れ墨
「・・・」一瞬 振り返り 思いつめた顔を見せた後 すぐに階段を駆け上がる・・
アムネジアは呪文を唱える
彼女を包む 炎は消える・・。
魔法で 空中から布を出現させる
「殺して・・お願い 兄様 貴方の手で・・この苦しみから 私を解放して・・」
涙を流す アムネジア
階段から上がると 劇場が炎上していた!
「!」
逃げ惑う劇場の中の人々
「・・どこだ! エイル!ナーリン!」
騒ぎの中 二人を捜すアーシュラン
「行きましょう!エルトニア姫様!」ナーリン
「でも まだアーシュが・・」心配そうなエイル
「アーシュ様は炎の加護を持つ者 大丈夫ですわ」
煙と炎の中の混乱の中 観客や劇場の人間達も逃げ惑う
「げほげほ・・」煙でせき込むエイル
「エイル様!」ナーリン
「大丈夫 ナーリンは?」エイル
「何とか・・」ナーリン
「早く逃げて アーシュと合流しなくちゃねナーリン」
エイルは頭に被っていたベールをどこかに落としていた
「ベールを落としてしまいましたわね・・」
「お気に入りだったけど・・仕方ないよ・・ナーリン
それより早く 逃げよう!」
二人は手をつなぎ 出口を捜す
そこに 崩れて来た石がエイルの上に落ちようとして
それをナーリンが庇い ドンと向こうに押す
「危ない!」
今度はナーリンの上にその石が!
「ナーリン!」 エイルの悲鳴
さっと赤毛の男が 「危ない!」と叫び ナーリンの腕を引っ張り
落ちて来た石から守る
そして 赤毛の男はエイルとナーリンの二人を出口へ・・外に連れ出した
「あ・・有難うございます・・」
「ここまで来れば大丈夫」赤毛の男
「あ・・あの貴方?道ですれ違った・・」
その赤毛の男には見覚えがあった
確かあの美貌のリュートの娘の連れだった男
「・・・道ですれ違っただけなのに よく覚えてるな・・」クスっと笑う
「可愛い綺麗な娘さん・・いやエルトニア姫・・」赤毛の男
「えっ!」驚くエイルとナーリン
「・・申し訳ないな・・俺はあんた達を攫うのが目的でね
黒の王の想い人エルトニア姫
「俺の名はランデイ・・お前たちを狩りに来た者さ・・
さあ 大人しくしないと・・」
そう言いかえた赤毛の男ランデイを 敵と知るやエイルは素早く足を高々と上げ
顎に一発!
「うっ!」顎を押さえるランデイ
「逃げるよナーリン!」ナーリンの手をつかみ逃げようとした所を
数人の目つきの悪い男達が取り囲む
「・・・」「・・エルトニア姫様」
エイルとナーリンは捕まった
「全く・・とんでもない お転婆だ・・いて・・いいキックだ・・」
やれやれと顎を押さえつつ 言うランデイ
二人は 捕まり どこかに連れて行かれた・・。
何度も二人の名を呼ぶ
その頃アーシュは燃えさかる劇場の中をまだ探し廻っていた
「エイル! エルトニア!」
「ナーリン! エイル!」
二人とも無事か!どこにいる
梁に使われた支えの支柱に火が燃え移っている
煙で視界が悪い
そこに一人の男が声をかけた
「そこの・・あの可愛い二人の少女の連れだろう?」
「二人を見かけた?」その通りすがりの男に聞くアーシュ
「まずは 外へ」と男
「ああ 二人とも綺麗な子だったから 覚えてる
男達に捕まった所を見た」
「!それで・・」
「何とかしたかったが この騒ぎですまん・・
あっちの方に行った・・多分 左の道の奥の廃墟となった神殿だ・・
よく 怪しい連中が出入りしてるから・・」
「わかった 有難う」礼を述べるとアーシュは 左道の廃墟となった神殿に向かう
走り去るアーシュを見ながら ニヤリと笑う道を教えた男・・。
エイルとナーリンは 右の道の奥にある奴隷商人の
大きな屋敷に連れて行かれた
奴隷商人は うやうやしくランデイに頭を下げる
「これは これはランデイ様 おやアムネジア様は?
それに ご自身達で その娘達は攫って来られたようですね」奴隷商人
「アムネジア様はすぐ来る 牢屋の部屋を一つ借りるぞ」ランデイ
「お部屋におられるあの御方・・魔法使い様はもう戻られてます
・・ご伝言があります」
ヒソヒソ耳打ちする
「了解だ・・じゃあ 借りるぞ」
まず両方の耳を覆っていた耳飾りを外し
次には エイルに水をかけ 髪の染め粉を落とす
現れたのは ウエーブのかかった金の髪・・
ずぶぬれとなるエイル
「なかなか可愛らしく美しい姫だ・・エルトニア姫?
それにそのオッド・アイ 見事なものだ」
後ろから男に両手首を捕まれるエイル
「はなして!」エイルは叫ぶ
「エイル様ああ!」
「ナーリン!」男達がナーリンを両手を左右から握る
そして 別の部屋へ
二人は引き離された
「ナーリン!」
「エルトニア姫様ああ!」
互いの名を呼び 二人は叫ぶ
ナーリンの連れて行かれた部屋には
ローブを顔を隠すように立つ 魔法使いの男
その姿に ナーリンは覚えがあった
「貴方は!」
「二十数年ぶりというのに よく覚えている・・セルト将軍の妹姫
ナーリン・・」
クククッと喉の奥で笑いながら・・台に置かれた大きめの水晶玉を手に取る
「では・・こちらも覚えてるだろう?
今は 将軍となったセルトを罠にかける為に使った物
ナーリン お前を二十数年間も閉じ込めた水晶と同じ物だ!
二十数年間・・眠り姫のようにこの中で眠っていた・・。」
「・・ま、まさか・・また私を・・?」ナーリン
「ふふふ・・その通り・・」魔法使い
ローブを被った魔法使いの男は 呪文を唱え始める
「い・・いやああ!」ナーリンの悲鳴が上がる
別部屋にいるエイルにも そのナーリンの悲鳴は聞こえた
「ナーリン! お前達 ナーリンに何をした!!」
叫ぶ 綱で腕を巻かれたエイル
「ふん・・それどころじゃないだろう?
自分の事を心配する事だ!」
ランデイは言う それに頷く仲間の男達
取り囲む男達を睨むエイル・・
そしてランデイは 身動きの出来ないエイルを鞭打つ
「っつ!」エイル
「ほら どうした?さっきの勢いは?」
エイルを何度か鞭打つランデイ
唇を噛み締め エイルを悲鳴を上げまいとする
「気が強いな・・」ランデイ
睨みつけるエイル
部屋の中の牢屋のドアを開け エイルをそこに押し込む
「いい子にしてるんだ・・お前は巨人族の王への貢ぎ物だ」
笑うランデイ
「巨人族!」
「・・僕をここから出せ!」エイル
「両生体で 元は子供時分は 男とは聞いていたが・・
口の悪いお姫様だ・・」
エイルにはとりあわず 見張りを残し 部屋から出るランデイ達
一方 ナーリンは 水晶玉に魔法で封じ込まれ
その水晶玉のなかで 泣きながらバンバンと手をたたき続けていた・・
何かを叫び続けている
「すぐにまた 眠くなる・・それまでは
しばらくその水晶玉の中で、もがいているがいい!」
魔法使いの男は笑う・・
「では・・また・・眠り姫ナーリン」
魔法使いの男は 部屋を出ていく
「・・さて 私は あの黒の王の相手をせねば・・」
呪文を唱え その姿は消え、廃墟の神殿へと魔法の力で移動した
エイルは しばらく 牢屋の中でじっとしていたが 急に床に倒れ
苦しみだした・・。
「? おい どうした?」見張りの男が牢屋のカギを開け 中に入る
エイルは パッと目を開け いつの間にか 縛られていた縄を外すと
素早く起き上がり
両腕を上げ 手を握り 両肘で打ちつける
「ごくおっ!」床でも頭を打ち 見張りの男は 気を失う
そして 数少ない 僅かに覚えてる・・アーシュに教わった風の魔法を使う
「風の精霊よ 僕の服と髪を乾かして・・」
ひゅんと音がするなり 風が吹く・・エイルの髪は風に舞い 髪と服は一瞬のうちに乾く
「・・ナーリンを捜して 一緒に逃げなきゃ・・」
エイルは大慌てで 部屋を駆け出す
部屋の幾つかにも牢獄・・そこには捕まった娘達がいる
そばにあった花瓶で 見張りを倒し 見張りの服の中から 鍵を取り上げ
彼女たちを助け出す
「早く逃げて!」
「有難うございます 貴方も!」
「いえ 僕は 一緒に捕まった連れを捜さないと・・じゃあ」エイルは立ち去る
そして ついに エイルは部屋を見つけ出す
テーブルに置かれたナーリンが閉じ込められた水晶玉を見つける
「ナーリン!」
水晶玉の中で うずくまり眠っているナーリン
「‥ナーリン・・助けるからね」
水晶玉を両手で握りしめ エイルは部屋を飛び出し 駆け出す
廊下を走ってると・・
何か鋭く細い小さな刃物が飛んで来て エイルの腕を貫く
「あ! 痛い!」
ランデイが笑みを浮かべ立ちふさがった
「そこまでだ・・」ランデイは言う
「あ・・」
「少々 お仕置きが必要だな」
そう言って エイルの左腕に刺った刃物をさらに突き刺す
腕の反対側に 刃物の先が見える
「きゃああ!」
エイルは
ナーリンが閉じ込められてる 水晶玉を取り上げられて
左腕の応急処置だけされ また、鞭で打たれた後 牢屋に閉じ込められた
エイルは心の中でアーシュに助けを求めた
しばらく後に 艶やかな長い黒髪そのまま流した 一人の娘が現れた
服は着替えたらしく 先程の服とは変わっていた
「・・君は・・道ですれ違い 劇場でリュートを弾いていた人・・あ、はっ!」
「・・その耳!黒の貴族か まさか黒の王族・・」
よく見れば その娘の顔には たしかに覚えがあった
黒の王宮に飾られた 大きな先の王(黒の王・・竜の王)と王妃達
家族の肖像画
美貌の黒の王妃アリアンに 面差しがそっくりだった・・。
しかも その瞳・・
今は あの不思議な焔色・・アーシュランと同じものだった
・・・・アリアン様より とても若い 僕と大人びて見えるけど
・・多分 僕と同じ歳くらい・・・
「君は誰?」
「・・・・・・」
黙って笑みを浮かべ 立ってる娘
その姿は純白のゆりを思わせる 素晴らしい美貌と肢体・・
「・・そうだ あの先の黒の王達の肖像画の中の小さな女の子
テインタル王女!アーシュの異母兄妹・・」
「・・・当たり・・よくわかったわね エルトニア・・」
「今の私の名は アムネジア 巨人族の王に従う
魔法の呪術の文様を身体に 刻みこまれた
見て この入れ墨・・文様を・・」
服を少し脱ぎ エイルに肌を見せる
美しい白い肌に彫られた入れ墨 文様
痛々しい・・
「なんて 酷い・・ねえ 僕と逃げよう!
君の兄さんも きっと喜ぶよ
君とアーシュは 二人だけの血族なのだから・・」
「そうね 私とアーシュ兄様は 本来なら 運命の一対・・
この黒の王族は 重婚も・・兄妹婚も可能って・・知ってた?」
「え?」
「私は今もアーシュ兄様が好き・・愛している・・」
「・・でも この入れ墨の魔法の文様は・・
巨人族の王に従う事と・・アーシュ兄様を殺す呪術の力が込められてる・・
私の中にいる 血に飢えたもう一人の私・・私は抗えないの・・」
「そんな!」エイル
「・・人の心配をしてる場合?
私は貴方が憎い・・憎いわエルトニア!
兄様といつも一緒で 一途に愛されてる貴方が!!」
「なっ・・!」驚き そのオッドアイを見開く
「心配しなくとも いいわ・・たいした事はしない・・いえ どうかしら?」
ふふ・・と笑うアムネジア(テインタル王女)
「それにしても 本当に似てるわ・・その同じオッドアイ 白のエリンシア姫・・」
「エリンシア姫に貴方の幼い頃の肖像画も見た・・」
「・・!知ってるの?エリンシア姫 そうか 前の人質として
黒の王宮に居たから・・」
「アルテイア姫と一緒に 白の国の言葉や文字
それに歴史とかも教わった・・・」
「今・・どうしてるかしらね・・あの巨人族の国で・・」
無表情で話すアムネジア
「!!・・生きてるの? 僕の叔母様!羽琴の姫君、エリンシア姫様」
「・・・だから 人の心配をしてる場合じゃないわよ エイル・・」
表情をゆっくり変える・・眉を上げ 睨みつけるアムネジア
アムネジアが 呪文を唱え
すると手の中に丸い光が生まれ それが小さなナイフなような物に変化する
エイルに巻かれた包帯を外して
ざくっ! 怪我をしているエイルの左腕にそれを刺す「きゃあ!痛い!」エイルの悲鳴
「や!やめて!痛い」エイルの瞳に痛みに涙が浮かぶ
その声に手を止めて エイルの瞳を見つめる・・
「綺麗な瞳・・青と薄茶のオッドアイ・・エリンシア姫より
茶色い方の瞳は 金に近いわね・・」
しげしげと 首を少々傾けて アムネジアは言う・・。
「・・・よく似てる・・さすが母娘ね・・」
「・・・・」
「…知らないでしょう‥そう・・私は以前ヴァン伯爵に聞いていたから・・」
「・・貴方の本当の父親は 白の宗主の異母兄弟・・実の弟
白の宗主の座を確実にする為に 邪魔な弟を殺したそうよ・・
エリンシア姫は その弟と恋人同士で 貴方を身ごもり
貴方を産んで 白の宗主に抗えず・・敵である宗主の側室となった・・」
「!!」
瞳を見開いたまま 茫然として その話を聞いているエイル
今度は 白の国の言葉で話し出すアムネジア
「大事な我が子・・貴方を庇って 先の平和条約の盟約で
人質に選ばれた貴方を庇い 身代わりになった・・」
「・・・・・」口も聞けず黙ってるエイル
「・・本当に綺麗で優しい人・・
黒の国で いつも宴で羽琴の姫君の呼び名通りの見事な演奏や
いつも私には お菓子をご馳走してくれたり
そう・・アル・・アルテイア姫から聞いた事ある?
まだ幼かった私とアルの二人は エリンシア姫から白の国の言葉や文字を
教わったのよ・・」
エイルも白の国の言葉で話し出す
「・・・その話は 僕も初めてアルテイア姫と会った時に聞いたよ
僕の顔を見るなり エリンシア姫によく似てる・・
叔母だと言ったら 納得して 嬉しそうに笑って 事細かに
彼女が覚えてる限りの話をしてくれた・・
再会の約束をして・・
翼竜に乗って 黒の王宮から帰ったのが 最後の別れになったと言っていた」
「‥貴方達・・恋敵というのに 仲がいいのね・・」
「・・アルテイシア姫は アーシュの第二王妃になるって宣言してる・・。」
「・・成程・・アルらしいわ 貴方は構わないの?」
「選択はアーシュがする事だよ・・僕は必ず黒の王妃になるとは限らないし・・」
「・・・本来なら 私とアーシュ兄様は・・
お前達は 運命の一対だと・・私の父 先読みの力を持った先の黒の王 竜の王は言ったわ
独占欲は母親譲りで強くて 欲深く嫉妬深い方なの
アルでも 第二王妃になるのは 私は嫌がったかもね・・」
「・・・でも アーシュ兄様が選んだなら・・
相手は あのアルだし・・なんとか納得したかもしれない・・・」
アムネジアの焔の瞳が赤く輝き エイルを睨む・・
今度は黒の国の言葉で話し出す・・
「・・・どうして どうして そんなに貴方はエリンシア姫に似てるの!
そんな優しい気性まで!やりにくいじゃない・・こんなに憎いはずなのに!
許したくなる・・!
ああ・・可哀そうなエリンシア姫 黒の王宮の陥落の際
ヴァン伯爵の兵士達に犯されて ヴァン伯爵にも乱暴され
身ごもっていた 先の黒の王・・私の父か リュース公の子供を流産して・・」
「!! 兵士達に・・ヴァン伯爵が乱暴した!
それに 身ごもっていたって・・!
叔母様・・いえ ・・エリンシア姫・・本当なの? 僕の実の母親・・」
そう言われて エイルには思い当たるふしが あった・・
そうだったんだ・・やはり 叔母様・・いや エリンシア姫は 僕の・・
「エリンシア姫・・お・・お母様は生きてるの?」
黙って エイルを睨むアムネジア・・
「・・・自分の心配をしなさい エルトニア姫・・エイル」
「・・・本当に貴方は綺麗だわ・・女好きの巨人族の王も喜ぶわ・・
でも その前に 私があなたを所有する・・」
今度はアムネジアの瞳が金色に光り輝く
「あ・・・」
「この金の瞳 私はお父様の力も受け継いでいるのよ
まあ・・先読み・・予知は出来ないけれど・・
それとアーシュ兄様の方は力を受け継いだかどうかは知らないけれど・・」
「人の心に入り込む力・・人を惑わす力・・抗えないでしょう?
ほら 身体が麻痺したように 動けない・・」
「あ・・・」エイルの表情に恐怖が浮かぶ・・
エイルを睨みつけたまま 言う
「巨人族の王に 手籠めにされる前に 私の物にする・・私の物である証を
刻んであげる・・」
傍に引き寄せ 服を引っ張る時にエイルの胸元に触れる・・
「あら・・?」
それに気が付き・・確認する為に
エイルに 先の黒の王 竜の王から受け継いだ
過去見の力を使う・・
「あら 貴方 まだ完全には女性化はしてないのね・・しかも
アーシュ兄様たら 貴方を抱いても いない・・
案外 奥手ね・・
最初の相手が あの乱暴な巨人族の王になるなんて・・」クスクスと笑う
「・・・・」何かを言おうとするが 身体が麻痺して 何も喋れない
アムネジアは魔法で出現させた小さな玉は 再びナイフとなる
ザクッ!と何度が そのナイフで刺す 刺したうち 何度目かの分は
刺したまま ぐるりとえぐる
「あうっ!」何度か悲鳴を上げるエイル
腕から血が流れ 牢屋の部屋の床に流れ落ちる
「・・痛いでしょう・・」無表情で言うアムネジア 口元には満足そうな笑み・・
「・・でも その前に印をするわ・・私と同じ呪術の文様・・私の名前を刻むわ・・」
アムネジアの一指し指に炎が現れる
その指先を エイルの左腕に押し付ける
「! あうっ!」
ジュウウウ・・人の肉が焼ける嫌な匂い
指先の炎でエイルの左腕を焼きながら ゆっくりと アムネジアの文様と同じ物を描く
アムネジアの文様よりは 小さいが・・
「う・・うう・・」エイルが苦悶する 痛みに 小さく左右の顔を振る
それから その者に従うように 所有の証
アムネジアの名前を描く
黒の国の言葉で アムネジアあり所有者テインタルと・・
エイルは激しい痛みで 気を失う・・
まだ 何か足りないのか 何度か 指先の炎で エイルの左腕を焼く
痛みに目が覚めては 悲鳴を上げ また気を失うエイル
「ふ・・ふふ・・あはは!」
「だから 言ったのに アーシュ兄様ったら! 後悔するって!」・・
「エイル・エルトニア・・これで 貴方は私の物!」
叫ぶように 笑いながら アムネジアは言った・・
その頃 アーシュランは 廃墟となった神殿の中を
二人の名前を呼びながら捜しまわっていた・・
「エイル!ナーリン! 何処だ!」
そこに・・
「何をお捜しですかな?」
「クククッ 黒の王・・火竜王・・」
何処からか いやな笑いの込めたような男の低い声がする・・
「誰だ!」
呪文の詠唱の声・・
すると崩れた神殿の大小の石ころが音を立てて寄り集まり 数体の巨人の姿となる
アーシュは 赤い焔の瞳を輝かせ その石の巨人を睨む
「石のゴーレムか・・だが この神殿で戦うには 身体が大きすぎて
動きにくいんじゃないか?」
アーシュの左手には 炎・・
石のゴーレムの攻撃! 素早い動きで腕のパンチを繰り出す
一撃目は 魔法の炎を宿した左手で横に薙ぎ払う
次の石のゴーレムの攻撃
横すれすれで 避けるアーシュ 少し頬をかする
「っつ・・」顔をしかめるアーシュ
「大地の精霊よ 我に従え! 岩の柱!」
大きな岩が 石のゴーレムの足元から 突然現れ 石の身体の一部を壊す
「炎!」 アーシュの利き手の左手 炎が生まれ それを繰り返し 投げつける
すると石の巨人の廻りの大きな石が幾つか ふわりと浮かび アーシュに飛んでくる
ジャンプ 逆立ち またジャンプして 間合いを取る
アーシュの左手には また炎の塊
さて・・奴は 石・・岩の塊・・やはり 炎の魔法は通じないか・・
どうしたものかな?
やはり 地の魔法 岩をぶつけて 砕くか・・
「ふふふ・・」柱の陰から 女の含み笑いの声・・
「・・誰だ!」アーシュ
ウインクしながら 柱の陰から 現れたのは
先程の劇場の舞台で踊っていた銀の髪 あさ黒い肌の踊り子
「ちょっと お困りのよう・・本当に手を焼いてますわね・・」
クスクスと笑う
ぴと・・アーシュの後ろに回り込み
後ろから抱きしめ その豊かな胸をアーシュの背に押し付ける
「!」 その胸のふくらみを背に感じて 赤くなるアーシュ
・・香水の香り・・この胸の感触・・前にも同じく 抱きしめられた
「んっ! お前?まさか・・」
「ふっふふ・・気が付きました?」
「・・水よ」踊り子がそう言うと 彼女の髪を解き
ふわりと広がった髪の銀色の染粉と肌の染粉を落とし 本来の姿に戻るアルテイシア
「アル! アルテイシア!」
「んっふ・・加勢に参上しましたよ 我が愛しの王様」アルテイシアは笑う
アルテイシアは 魔法の呪文を叫ぶ
「水の魔法! 魔法の水よ その敵を包み 砕け!」
何もなかった宙から生まれた 小さな丸い形を取った水が現れ
その大きな蛇のように 岩のゴーレムを包み
グワシャン!と大きな音を立て砕く
「ちょっと 苦戦されてたみたいですね ふふ」アルテイア姫
ガリ・・ゴロ・・砕いた無数の岩のかけらが動き出す
ビューン ビューン 風を斬る音 無数の岩のかけらが 宙を飛び跳ね
アーシュとアルテイシアを襲う!
アルテイシアは サッと横に避け
そのまま アーシュを抱きしめ一緒に床に倒れる
アーシュを床に押したまま
床に臥せ 顔だけ 上げて 動きを見やる
無数の岩の塊が飛び交う中 アーシュを抱きしめたまま 上半身だけ起こす
「・・・・アル・・」アーシュの顔がゆがみ 口元から八重歯が見える
「アル・・」アーシュの顔が赤くなっている
「・・アルテイシアあああ!」アーシュの押し殺した声が大きく吠える
「・・・」
とりあえず無言で アーシュを抱きしめたまま
飛んでくる岩を左右に揺らして避けるアルテイシア
しかし アーシュの顔はアルテイシアの両胸の間に押し込められて・・
左右の胸の間に思いきり挟まれてる
「アル・・」
「・・放せ・・胸が邪魔で息が出来ん!」顔が真っ赤になったままアーシュは言う
「きゃはっ!」アルテイシアは大きく口を開けて 楽しそうに笑う
その頃・・黒の王宮では・・
将軍セルトと前王の時代から仕えてる側近のタルベリイが話をしていた
「儀式の方は 無事に 滞りなく行われましたなセルト将軍
まあ・・後一つ儀式が残っておりますが・・」
「はい タルベリイ殿 ところで 雪花祭りの最中なのですが・・
2つの問題・・
巨人族の捕虜の中 指揮官の一人が巨人族の王族だとか・・」
「取り調べを進めてるが・・どうやら 噂は間違いだったようですよセルト将軍」
「そうですが・・王族ならば もっとこちらの条件を良くする事も可能だったのですが・・
ならば 問題なく 先の戦争で
攫われて奴隷とされた黒の貴族の女性達との交換の話を進めて
彼ら捕虜と交換します」
「そうですな・・」
「・・それに やはり白の国の羽琴の姫君エリンシア姫の行方は・・?」
「ええ・・わかりません・・」タルベリイ
心の中で セルトは思う・・やはりヴァン伯爵のあの最後の言葉通り
乱暴され流産した事が原因で 牢屋の中で亡くなられたのか・・
パンプローナの森に亡骸を捨てられて・・
ため息をつく
「‥最近 暗躍している奴隷商人・・我らの王都やリュース公の領地でも
娘達が多く 行方不明になっております・・」タルベリイは言う
「この雪祭りの賑わいの中 奴隷商人もまた人さらいをすると踏んで
私の部下や・・それとリュース公の公女アルテイア姫様も
動いております・・」セルト
「おお・・あの姫が それは百人力・・
確かに リュース公の領地の者達は白の国達との血も多く引き 見目麗しく
狙われて 攫われているから アルテイア姫様も動いたのだろう・・」タルベリイ
「私も 黒の王宮で行われる もう一つの祭り儀式が済み次第
アルテイア姫様の元に向かいます」
「頼みましたぞ セルト将軍」タルベリイ
「セルト将軍! たった今 アルテイア姫様から知らせが!」
タルベリとセルトの前に兵士が現れて
魔法の小鳩の足につけられていた文を差し出す
アルテイシアがアーシュの後を追い 廃墟の神殿に入り アーシュが戦ってるのを見て
ます魔法の小鳩を呼び出し 小鳩の足に文をつけて 飛ばしたのだ
それから アーシュのと供に戦った
「・・事態は急を要するようです すみませんが 私は参ります」セルト
「わかりました 後の事はお任せください・・お気をつけてセルト将軍」
黒の王宮の地下の牢獄・・
収容所から 移され 取り調べを受けてる巨人族の多くの兵士達
その中で 二人の男がヒソヒソと話をしている
一人は 見事な赤毛の男
「取り調べを 上手く 切り抜けられましたね アーサー様」
「ああ・・無事に王族とはわからずに済んだ・・」赤毛の男・・アーサーは言う
アーサー・・
彼は巨人族の王の側室だった白の国のエリンシア姫 羽琴の姫君の今の夫・・
「無事に帰れそうだ・・」
胸元のペンダントの蓋を開ける 中には小さな絵
エリンシアとエリンシアの腕に抱かれてる赤毛の赤ん坊・・
アーサーか王か どちらかの子供・・
「待っていてくれ エリンシア・・」
「もう少しの辛抱ですね」
「ああ 君も 早く家族の元に帰りたいだろう・・」
地下の牢獄・・ 上の方には小さな鉄格子のはめ込み窓がある
そこから 雪花の木々が覗ける・・
「雪花の木か・・花びらが 我が国の雪のようなだな・・」
「そうですね・・ここは暖かい国ですが 我らの国は雪深い・・」
「そうだな・・」暖かい国で 育ったエリンシア・・
寒がりの彼女は暖炉の前でまた手を温めてるだろうか?
それとも・・また 従兄である巨人族の王にまた酷い事をされて泣いているやも・・
それにエリンシアの赤子は 大きくなっただろう・・どうしているのか・・
様々と想いながら・・雪のような・・
降りしきる雪花の花びらを見る巨人族のアーサー・・
廃墟の神殿の中では アーシュとアルテイシアが飛び交う岩のかけら
石の塊に 手を焼いていた
「水の魔法! 飛びさかる石を 包み込め!」アルテイシア
岩の塊の幾つかは 水に包まれ勢いをなくして 床に転がる
「凍るがいい!」アルテイシア
ピキン 氷の塊に包まれ そのまま動けなくなる
「大地の精霊よ 盾となり 攻撃を防げ!」とアーシュ
幾つかの床の平たい石が動き 盾となって二人の前に立つ
続けて アーシュは呪文を唱える
「風よ! 奴らの動きを防げ!」
風が吹きすさび 次々と 石つぶて・・岩の塊を壁に 打ち据える
カキン! グアアシャ! 音を立てて 砕け散る
やがて 廃墟の神殿は 静まり返る・・
「ククク・・岩のゴーレムに 少々 手間取ったようですな お二人とも
火竜王・・水竜の女王アルテシア姫」
「誰!姿を現しなさい!」アルテイシア
「アル 奴の声・・どこかで聞いた気がする・・多分 昔の俺・・
俺の失った記憶の中に・・」
「アーシュ様?」
「・・・・・」眉間に少し、しわを寄せ 何とか思い出せないかと思うアーシュ
「・・ふっ・・少しは昔の記憶が蘇りましたかな?
黒の王 火竜王
私は何度も 貴方の子供時分にも いつも何度もお会いしましたよ
戦場でも 巨人族の牢獄でも・・」
「! 巨人族の牢獄! さては 貴方!
昔 アーシュ様を捕らえた 巨人族の王に仕える魔法使いね!」
「流石は 黒の王の護り手の一人・・水竜の女王アルテイシア姫だけはある」
声だけが 廃墟の神殿に響き渡る
「では 大いなる魔法の力を秘めたお二人には このような物は
如何でしょうかな?」
ギギギ・・ あちらこちら 神殿の奥から 何かが動く低い音がする
ます上半分が壊れた大きな彫像がゆっくり 二人の元に歩み寄る
他にも 少々壊れた沢山の彫像達が 向かってくる
それに 神殿の中の墓の骨・・人骨が墓の中から 現れる
「炎!」アーシュが両手を広げて 横一文字に魔法で 炎を生み出す
炎は 骸・・迫りくる人間の骨達を焼き尽くす
「うおおお!」「ううう!」声を上げ 焼かれる人骨達・・
「水よ! 水の精霊 氷の塊を生み出せ!敵を倒せ!」
次にアルテイシアが叫ぶように 水の魔法の呪文を叫ぶ
水が先程と同じく 宙より現れて 水は 複数の氷の塊となり
次々と矢のように 大理石の彫像群に当たり 彫像は砕け散る
「大地の精霊! 我に力を!」アーシュが地の呪文を唱える
今度は 大地に属する物・・所々 剥がれて 見えてる土が 蛇のように動き出し
彫像に絡みつき 彫像を砕く
シュウウ・・奇妙な声・・
見上げる程の大きな大蛇が 神殿の奥から 現れた・・
長さは30メートル程・・
「次から次と・・全く懲りないわね!」アルテイシア
「やるしかない アル・・」焔の瞳を輝かせアルテイシアに言うアーシュ
「はい♪ アーシュラン様」笑うアルテイシア
「ああ!頼むぞ!」アーシュ
「炎!」アーシュは魔法の呪文を叫ぶ
炎が大蛇を包む・・が・・しかし 身を大きく震わせて 炎を蹴散らし
ビクともしない
「水の蛇!現れよ!」アルテイシア
幾つもの水の塊が また宙に浮かび 細長い蛇の様な形をとって
大蛇に絡みつく
大蛇は暴れて 絡んだ水の蛇達を こちらも蹴散らした
水の蛇は 次々と水の形に戻り 床に零れる
「炎の剣!」アーシュの左手に炎が出現し 細長い剣の形をかたどる
炎の剣を握り締め そのまま 高々とジャンプして 今度は大蛇の真上から
両手で魔法の剣を握り 縦に振り下ろす
ぎおおうっ! 声を上げ 大蛇は 顔半分を縦に斬られて 床にその身体が崩れ落ちる
ひょいと トン!軽く音を立て アーシュは床に立つ
シュウウ・・シュウウ・・ また神殿の奥から 巨大な大蛇 しかも3匹!
素早くアーシュは炎の呪文を唱える
「炎竜よ この火竜王の呼びかけに答えよ! 炎の柱!」
幾つもの炎の大きな柱のような火柱が 神殿の床から吹き出し
巨大な大蛇を焼き殺す
「ギュオオオンン・・」叫び声を上げ まずは一匹
「氷の槍 現れよ!敵を貫け!」アルテイシアの水の呪文
また宙から 水が出現して 何本もの大きな細長い氷塊となる
そのまま その氷の槍は 大蛇の身体を貫く
2匹目の大蛇が倒される
三匹目の大蛇 牙の生えた大きな口を開き アーシュに襲いかかる
身動きもせず 焔色の瞳を輝かせ 見据えたまま アーシュは炎の呪文を唱えようとする
ぐおおんん! 口を大きく開いたまま 声を上げ 大蛇の動きが止まる
そのまま 横に 身体半分が後ろから斬られ 真っ二つとなり 大きな音を立てて
倒れる
「火竜王様! アルテイシア姫様!」
大剣を手にして 後ろから三匹目の大蛇を倒した張本人 セルト将軍が駆け寄って来た
セルト将軍・・黒の王・火竜王アーシュを守護する者・・
「お二人とも ご無事ですか?お怪我は?」
「大丈夫だ アルは?」アーシュ
「全然 大丈夫ですわ うふっ」アルテイシア
「‥礼を言う アル セルト 助かった・・」アーシュ
「いえ 貴方様をお守りするのは私の役目ですから」セルト
「・・うふ」微笑むアルテイシア
「・・アーシュ様?」
かがんで アーシュとの顔の位置は同じくらいの傍近く
顔を傾け 真近に顔を近づけて
何かおねだりするような顔つきになるアルテイシア
「・・・・」半開きの目になり 少々 顔に汗のアーシュ
「・・うふっ♪」アルテイシア
「・・・・・」黙って そっとアルテイシアの頬に軽くキス
「ご無事で何よりですわ アーシュ様」とりあえず満足そうなアルテイシア
「・・ここにエイル達が奴隷商人に捕らえられてるはずだが・・?」
「いえ・・ここには誰もおりません・・先程 私の部下たちにも捜させましたが?」
「何だと」アーシュ
「そう言えば・・これが落ちていました・・」指輪・・魔力を秘めた 魔法の道具
「・・・それを 俺が捜す」手を出して指輪を受けとるアーシュ
一舜 目を閉じ それから目を見開く 瞳が金色に光輝く
それは 先の黒の王・・竜の王と同じ瞳の色
アーシュも 竜の王の力を少々受け継いだ・・
火竜王焔の王であるアーシュは
水の守護は持たず・・また人を操る事は出来ない
先読みの予知は出来ない・・
過去見の力・・それを使う・・
まじまじと指輪を金色の瞳で見つめて 言う
「・・わざと落として行った・・奴隷商人の屋敷・・何処かわかった」
「行きまよう!アーシュ様」アルテイシア
「お供します」セルト
目的地である エイルとナーリンが囚われてる奴隷商人の屋敷に着く・・
近づき ハッとするアーシュ「血が・・同じ血が俺を呼んでいる・・」焔の瞳が輝く
「えっ?」アルテイシア 「?」怪訝な表情をするセルト
「・・いや なんでもない 急ごう・・」
屋敷内に入ると アーシュはまた瞳を閉じ それから開く 金色の瞳
先程の敵の魔法使いの落とした指輪を握り締め 言う
「こっちだ あの部屋だ」
部屋の扉近くで 敵の大群が襲いかける
剣を持った男達に 魔法で作られた泥人形の群れ
まだ他にも集まって来る
「先に!アーシュ様 ここは私達が! 奴らを倒します」
「アルテイア姫様!」セルト
「了解!セルト将軍!」アルテイシア
「わかった 頼む!」
金色の瞳のままで アーシュは部屋のドアを開けて飛び込んだ
そこには あの異母兄妹 アムネジア(テインタル王女)と倒れてるエイルの姿
どうやら エイルは大怪我をしているようだ 服は焼け焦げ 血が流れている
牢屋があり 二人はそこにいた
「エイル!」
牢屋の扉から出てきて
アムネジアは驚きもせずにアーシュに言う・・
「・・金色の瞳・・やはり お父様の力を受けついたのね・・
・・過去見の力・・・」
「エイルに何をした!テインタル!」
「・・私の物にした・・それだけよ・・ケガも少々・・ね」
「・・・もう遅いわ アーシュ兄様 白の国のエルトニア姫は私の所有物・・」
「私を倒さないと・・殺さないと・・
巨人族の王にエイルを貢ぎ物として捧げるわよ・・」
ニヤリと笑うアムネジア(テインタル王女)
「・・エイルの最初の相手は 巨人族の王になる・・
どんなに乱暴な王か・・可哀そうねエルトニア・・」今度は無表情で淡々と言う
「・・・お前・・」怒りで 瞳が金色から焔の色に変わるアーシュ
炎がアーシュの左手から生まれ それをアムネジアに投げつける
さっと かわすアムネジア
「炎竜よ 我が名 火竜王の名にかけて
我が敵を 燃やし尽くせ!」
アムネジアのすぐ傍に 炎竜が現れ 襲いかかる
「ぐおおお!」声を上がる炎竜
「ふっ・・」笑みを浮かべるアムネジア
炎竜は 口から炎を噴き上げ それをアムネジアに向かって 吐く
ゴオオオッ
「大地の盾!」地の呪文を唱えるアムネジア
床を突き破り 大地の土が 盛り上がり アムネジアの盾となる
「・・・水の大蛇!」
目を閉じて 口元に軽く笑みを浮かべ 水の呪文を放つ
アムネジア
「!まさか!水の守護も持ってるのか!」」顔色を変えるアーシュ
水で出来た水の大蛇は 炎竜の身体に巻き付き 炎竜は
「ゴオオンン」声を上げ たちまちに消え去る
同時に 役目を終えた水の大蛇も蒸気となり 消える
続けて 呪文を唱えるアムネジア
「火竜王の名において いでよ炎の大蛇!」
アーシュの全身に炎の大蛇が巻きつく
「くっつ!・・風の魔法!敵を消し去れ!」
炎の大蛇をアーシュが呼んだ風の精霊が吹き散らして
こちらも消える 全身の所々 軽い火傷をするアーシュ
「・・さすがに 水の魔法は使えないみたね!
黒の王 私の火竜王」
「・・・俺は 人族の血を引き 半分は人族だ・・
力は テインタル、お前より劣るだろう・・だが・・簡単に倒せるとは思わない事だ!
「俺は 火竜王・・」焔の瞳が輝やかせ 睨みつけながら アーシュは言う
「ふっ・・それでこそ火竜王 私の兄様・・」無表情でアムネジアは答える
静かに言う 魔法の呪文
「光・・光の剣・・」
アムネジアの手に魔法の剣が生まれる
アーシュも対抗して 手から魔法の剣を生み出す
「光の剣!」
カキイインンン
今度は 剣で戦うアーシュとアムネジア
カキン! キン! カキン!
幾度も剣がぶつかり 互いに一歩も譲らない・・
強い・・剣の修練を巨人族の元で学んだかテインタル! アーシュは剣を交えながら
アムネジアを睨みつつ 思うアーシュ
流石に・・剣の腕前も確かね・・アーシュ兄様
アムネジアも思う・・。
アーシュは後ろにジャンプして また片手で逆立ち ジャンプ
魔法の呪文を唱える為に 一旦 間合いを取った
剣をすぐ傍の宙に 浮かべながらし
まず エイルに向かって防御の呪文を唱える
「風の精霊よ エイルを包め!」
空気の大きな丸い玉が まだ気を失って倒れてるエイルを包み込む
そして次に両手で魔法の文様を描く 大きな呪文を詠唱する為に 口を開く
「・・大地の守護者たる太古よりありし者
地に眠りし大地の竜よ・・我が呼びかけに答えたまえ
我が名は 火竜王!
現れよ!敵を倒せ!」
床の破れた所から 露出している土・・
それが 浮き上がり 巨大な竜の形となる
「ぐおおお!」竜が吠える
再び 文様を描き 魔法の呪文を唱える
「業火の炎よ・・現れよ・・炎の竜・・・我が呼びかけに答えよ・・
我が名は火竜王!」
巨大な炎の竜が現れ 部屋を火の海にした
「ギャオオオンン」炎の竜の声
エイルは魔法のボールの中で守られて 無事である
あたり一面の業火・・赤くアーシュとアムネジアを照らす
「水よ・・水の精霊!」アムネジアは 微動だにせず 呪文を唱える
水が 炎を鎮めようとするが おさまらない・・
「全く・・屋敷ごと 私を燃やす気? 部屋の外にいる者達の事も考えたら?」アムネジア
「燃やすのは お前とこの部屋だけだ・・心配しなくてもいい!」
アーシュは目を吊り上げ言う
「炎の大蛇!」
巨大な炎の大蛇が アーシュの身体に巻き付く
「風!」アーシュが叫ぶ 炎の大蛇は 風に吹き散らされ 消える
大地の巨大な竜が アムネジアを襲う 踏み潰そうとする
それをかわして 避けるアムネジア
「遅い!」アムネジア
次に 大地の巨大竜は 前足・・両方の手で 握りつそうと手を伸ばす
素早く 彼女はジャンプして 身体にしまってある
黒い翼をはためかせる
そのまま部屋の上に 飛び去り 大地の巨大竜の顔に乗る
魔法の剣を 左にいったん持ち返え 空いた右手の平を押し当て 叫ぶ
「大地の竜よ 我が名は 火竜王!
汝に命令する! 土に還れ!」
大地の巨大竜は たちまち土くれとなり 大地の土に戻る
アムネジアに 炎竜が火を噴く
「つう!きやああ!」 たちまち炎に包まれる
そこをアーシュはすかさず 宙に浮かせて置いた
光の魔法の剣を取り
アムネジアに斬りかかる!
アムネジアは よけきれずに 胸元近くを横に斬られる
「つうっ・・!」胸元の入れ墨の文様が露わになる
「・・殺してやる! 殺してやるよ!お前の望み通り 解放してやるさ!」
「覚悟しろ!」魔法の剣を振り上げるアーシュ
「だ・・ダメえええ! やめてアーシュ! お願い!」
エイルが目を覚まして 叫んだ!
「エイル・・」アーシュ
「エル・・エルトニア?」アムネジア・・アムネジアは黒い翼を身体にしまう
「・・ダメだよアーシュ・・アーシュの大事な妹・・テイタル王女なんだよ・・
たった一人残された 唯一の血族・・兄妹なんだから・・」
「悪いのは・・巨人族の王達・・アーシュの妹姫に
彼女にあんな呪いの文様の入れ墨をした奴らだよ!
アーシュ 彼女は・・本当は悪い子じゃない・・」
泣きながら エイルは言う
「エイル」
「・・・バカな子・・私なんて価値はないわ・・。
貴方に酷い事をした私を許す・・たいしたお人好しね・・
言ったでしょう? この入れ墨の魔法の・・呪いの文様に逆らえない
居たら・・アーシュ兄様と貴方を殺すわよ・・」
「・・魔法を封じる方法は きっとある・・だから信じて・・戻っておいで・・
君の兄さん・・アーシュの元に・・」
「・・・無理・・」そう言って アーシュに魔法の剣で斬りかかる
今度はアーシュがよけきれず 腕を斬られる
「うっ!」アーシュ
「アーシュラン!」エイルは叫ぶ
「アーシュ殿!」部屋のドアを開け アルテイシアが飛び込んできて
素早く敵と認識した 魔法の剣を持つ 黒髪の娘・・アムネジアに斬りかかる
カキン! 剣がぶつかる!
「水の大蛇!現れよ!敵を倒せ!」
たちまち水の大蛇が現れ アムネジアの身体に巻き付く
「水の大蛇よ! 先の王 竜の王の娘たる私が命じる!
消えろ!」焔色の瞳が金の瞳に変わる
「!!」アルテイシアは一瞬 動きを止める
・・今、なんて、なんて言った 竜の王の娘
「まさか?テインタル!」驚くアルテイシア
「ダメええ!アルテイシア」エイルが叫ぶ
「え・・エイル?」
「ダメ! テインタル王女なんだ・・アーシュの異母兄妹テインタル王女なんだ」
「・・・テイ? テイなの?」アルテイシア
よく見れは 確かにその顔は 亡き黒の王妃アリアンに生き写し・・
テインタル王女・・アムネジア
瞳の色は 金色から また元の焔色に戻っている・・
アーシュと同じ 瞳の色
「テイ! テイ! 何故? どうして貴方 生きていたの?
どうして! アーシュ殿に剣を向けてるの?戦ってるの?」
「・・どけ アル その女は俺が殺す!」アーシュ
「!いけません!アーシュ殿!」アルテイシア
「・・・エイルに大怪我を負わせ エイルを巨人族の王に献上すると言った
俺は許さない!」
アーシュの目は吊り上がり 焔の瞳の光が燃える
「・・・ダメ・・そうしたら 今度は僕が許さない アーシュ」
「・・アルテイア姫・・テインタル王女の身体には 呪いの文様の入れ墨が
彫られてるんだ・・巨人族の王に従う事と・・アーシュを殺すようにと・・」
呻くように床に臥したまま 絞り出すような声で エイルは言う
「!」呪いの入れ墨の文様?驚いて テインタル王女の方に振り向く
彼女の破れた服から見える 呪いの入れ墨の文様
「・・アーシュラン様」テインタル王女・・アムネジアを背に庇うアルテイシア
アルテイシアの瞳には 涙が浮かんでいる
「情けは無用よ・・アル・・会えて嬉しかった・・こんな形でも・・
殺しなさい! アーシュ兄様!」テインタル王女・・アムネジアの瞳が焔色に輝く
「炎の大蛇!」アムネジアが魔法を唱える
アーシュの身体が炎の竜に巻き付かれ 燃え上がろうとしている
「・・」身動きも 呪文も唱えず 考えてるように 目を閉じるアーシュ
「だめええ!」エイルが叫ぶ
「み・・水の精霊! 水竜の女王 この水の女王が命じる! 炎の大蛇を消せ!」
アルテイシアは 慌てて 水の魔法で 炎の大蛇を消す
そこに 今度はドアを開けて セルトが飛び込んできた
「ご無事ですか! 火竜王様 アルテイア姫様 エルトニア姫は?」
大声で叫ぶ
アルテイシアの背に庇われたままのテインタル王女ことアムネジアと・・
傍には 無言で睨みながら立つアーシュの姿
扉があいたままの牢屋の中には
床に倒れて どうにか上半身だけ起こすエルトニア
エルトニア姫の方は大怪我を負っているようだ
彼女の血が流れている
「これは一体?何事ですか? 火竜王
アルテイア姫様?」
アルテイシアも 茫然としたまま 背中で テインタル王女アムネジアを庇ってる
アルテイシア姫が背で庇っている娘は 魔法の剣を手にしている・・
その顔は 亡き先の黒の王妃アリアンのもの・・だが まだ年若い・・
アルテイシア姫やエルトニア姫と同じくらい・・
瞳は・・瞳の色は 火竜王の証 アーシュランと同じ
不思議な輝きを現す 焔色!
黒の王宮にある 先の黒の王 竜の王達
家族の肖像画を思い出すセルト
家族の肖像画・・そこに描かれていた
黒の王妃に似た まだ幼い美貌の少女・・王女 テインタル王女・・
「・・まさか・・アルテイシア姫の背に庇われている娘は・・」とセルト
「・・・黒の王 火竜王に 水の女王アルテイア姫
それにセルト将軍とは・・ちょっと分が悪いですね アムネジア ふふふ」
空中から 魔法使いのローブを頭から被った男が突然 現れる
ローブの中から口元だけ見えている
さっと アルテイシアの背に庇われていたアムネジアを抱き寄せ
片腕で包み込む・・
されるがままの無表情のアムネジア・・しかし 瞳には涙が浮かんでいる
「!お前は!」アーシュ
「!貴様! 巨人族の王に仕える魔法使い! 二十数年前に
ナーリンを水晶玉に閉じ込め
私を金の首輪の魔具で心を封じ 操り人形にした男」怒りを込めてセルトが叫ぶ
「・・皆さん お静かに・・今回は 我々は引きますよ・・」
「生きて帰れると思うな!」アーシュ
「お前は許さん!その腕の中の姫を放せ」セルトが大声で言う
空いている片手て 光が浮かび 丸い形を取る
それは・・水晶玉・・ナーリンが閉じ込められている
「ナーリン!」ほぼ同時に 再び倒れたエイルをのぞき 皆が叫んだ
ギギギ・・ 石で出来たゴーレムが数体 部屋に入ってくる
その後ろから 「魔法使い様!」赤毛の男ランデイが部屋に入る
素早く 剣をかまえ 魔法使いの横に立つランデイ
「・・彼らの相手は 石のゴーレムに任せましょう・・行きますよランデイ アムネジア」
姿が薄くなり消えかかる
魔法で何処かへ飛ぶ寸前に アムネジアは 魔法使いの手から さっと水晶玉を取り上げ
それを・・水晶玉を・・
「アル!」と叫び 水晶玉を投げ渡す
「テイ!」ぽんと受け取るアルテイシア
「! 油断ならない仕方ない御方だ・・そんな事をすると、またお仕置きをしますよ
アムネジア・・」
「・・・・」黙っているアムネジア
三人の姿は 消え 石のゴーレム達が襲い掛かる
「すまん! あいつらを頼むアル!セルト!俺はエイルを・・」
「了解!アーシュ様」
「わかりました御任せください!」
「氷の矢!」次々と水の魔法で 氷の矢を打つアルテイシア
「うおおお!」大剣で 石のゴーレムを叩き壊すセルト
牢屋の扉を入り エイルを抱き起すアーシュ
エイルの左腕の刃物で何度も突き刺された
一つは腕を貫通して 酷い怪我・・それから・・幾つもの火傷と・・
「焼き印の‥魔法の文様! それに黒の言葉で書かれた名前
テインタル王女・・彼女の入れ墨と同じ物・・
この焼き印は 一生 消えない・・魔法の焼き印
・・あいつ・・
・・・エイルを所有したといった・・ちょっとした魔法で
彼女にエイルは思うまま従うだろう・・
・・・・あいつ・・絶対に許さない・・
唇を噛み締めるアーシュ
「・・・アーシュ」目を覚ますエイル
「大丈夫だ ナーリンの閉じ込められた水晶玉も取り戻した
心配いらない・・」
「お願いが二つあるの・・アーシュ」
「何だ?」そっと聞きながら 腕に手当を施す 魔法で左腕の怪我を直し
焼き印の腕には 痛みを感じなくさせる魔法と癒しの魔法
「・・精霊よ・・この者に癒しと痛みをやわらげよ・・」呟くように魔法
それから包帯代わりに 自分の服にかけてたトーガを引き裂き
それを それをひとまず 包帯の代わりとして巻く
「この腕の事・・絶対 アル・・アルテイシア姫には・・」
「・・わかった・・言わない」包帯代わりの布を巻きながら言うアーシュ
エイルの他の打ち身や鞭の跡も魔法で消し去る
「・・もう一つのお願いは・・エイル?」
「・・わかっているでしょう・・彼女をテインタル王女を許してあげて」
「・・それは出来ない」 冷たい目をしてアーシュは言う
「お願い お願いだから! 大事なたった一人の妹だよ・・
それに 僕 気を失いかけたけど・・見たよ・・
あのナーリンの入った水晶玉を アルテイシア姫に投げて帰したところ・・」
「・・・・今は・・無理」
「・・・お願いだよ・・アーシュ・・怪我の手当有難う・・」
また目を閉じるエイル・・
エイルを抱きしめるアーシュ
石のゴーレム達を倒し 牢屋に入ってくるアルテイシアとセルト
「・・今 眠ったところ・・」
「そうですか・・」セルト
「エイルは大丈夫なの?アーシュ様」とアルテイシア
「黒の王宮に帰ったら・・薬師に見せよう・・
・・・ナーリンも水晶玉から魔法を解いてださないとな」アーシュ
「私がお運びします」セルト
パチ セルトに抱きかかえられて目を覚ますエイル・・エルトニア
「・・アルテイシア姫・・」
「何?エイル 休んでいた方がいいわよ」心配そうなアルテイシア
「・・テインタル王女に・・あんな形だけど・・会えてよかったね・・
無事に生きていてくれて 良かったねアル・・」エイルは微笑む
「・・・この子たら・・全く・・」
「・・僕は 今度は 黒の王宮に・・テインタル王女をもう一度・・
地位を復活させて・・それから・・あの呪いの文様を消して・・それから・・」
「・・大丈夫・・きっとそうなるわ・・きっとね・・」アルテイシア
「・・・」アーシュは無言で黙っている
あの呪いの文様の入れ墨は・・あの呪いは決して消えない・・
不可能だ・・
それに・・エイル・・俺がついていながら・・あの呪いの文様と同じものを・・
許せない・・決して・・俺は許さない・・
部屋から出ようとして
黒い羽・・テインタル王女の背中の黒い翼の羽が落ちてる事に気がつく
それを何気に手に取り・・無意識のうちに 金色の瞳となり輝く
過去見の力・・
幼い頃のテインタル王女・・アムネジアの記憶
「あははは・・アーシュお兄様!」
「テインタル王女・・また母上に俺と遊んだら叱られるぞ・・」
少し硬い表情を緩めアーシュは 幼いテインタル王女言う
「大丈夫 今日はお留守よ・・庭のお花で 冠を作ってアーシュお兄様!」
「・・」やれやれという顔をして 望み通り 花冠を作り頭に乗せる
「有難う お兄様 これ お菓子 一緒に食べましょう」
「・・有難うテインタル・・」菓子を分けてもらい 王宮の広い庭にあるベンチに腰かけて
一緒に菓子を食べる
「・・お兄様はテインタルの事好き?」
「・・・・」あの黒の王妃アリアンに面差しのよく似た幼い少女 王女はアーシュに問う
「・・ああ 好きだよ」アーシュは答える
「私も 私も大好き!アーシュお兄様!
ねえ・・王族は異母兄妹なら 結婚も出来るわ・・好きよアーシュお兄様
いつか・・お兄様の花嫁になりたいの ふふ」少し赤くなりテインタル王女は言う
「・・・まあ 大きくなったら考える・・」アーシュ ちょっとそっぽ向いてアーシュ
「きっとよ!うふふ」テインタル王女
・・他にも様々な情景が浮かぶ・・
テインタル王女の記憶の情景・・
アーシュの失ったはずの記憶が その情景が引き金となって
ほんの少しだけ 思い出す・・
そうだ・・俺は・・あの黒の王妃アリアンが好きだった・・
そして・・母親によく面差しの似た妹のテインタル王女の事も・・
一瞬 アーシュの心に迷いが生じる・・
目を閉じ 首を軽くふり その想いを振り払う・・
・・駄目だ・・あれは・・アムネジア・・巨人族の手下・・・
俺のエイルに あんな惨い事をした女だ・・
あのテインタル王女は・・もう死んだんだ・・
・・・様々な想いが混ざる・・・
エイルが・・あんな惨い目にあったのに・・奴を許せと俺に・・
必死になって・・あの時 俺達が戦っている時に 声を絞り出しながら・・
俺に言った・・。
今は・・俺はまだ あの女を許せない・・それだけだ・・
あいつは・・俺の敵・・同じ瞳のしたあの娘 同じ血の・・唯一の同族
しかし 敵なんだ・・許す事が出来ない・・
それに あの入れ墨の呪いの文様は消せない・・解放を望んでいた・・
確かに 俺に殺される事を望んでいた・・
黒い羽を握り締める
彼女の悲しみを感じる・・伝わってくる・・
「アーシュラン様?」アルテイシアが声をかける
ハッとして いつも焔の瞳に戻る・・
「・・ああ、すまない 行くよ」 黒い羽を捨てようかとも思ったが
何か 巨人族の情報がわかるかも知れないと思い アーシュは黒い羽を服にしまう
その頃 廃墟の神殿では・・
「まったく・・あの水晶玉を彼らに返すとは・・何たる事ですアムネジア・・」
魔法使いの男はアムネジアを咎める・・
「・・・もっと魔法の文様の入れ墨を加えてもよいのですよ・・
今度は あの巨人族の王に 抱かれるように・・
炎の魔法が暴走しないようにする呪いの文様を・・クククッツ」
一瞬 青くなり顔色を変えるアムネジア
だが すぐにいつも無表情の顔になる
「‥舌を咬むわ・・それとも剣で胸を突くわ・・沢山よ・・」アムネジア
「魔法使い様」心配そうな顔をするランデイ
「・・・ふっ・・仕方ない・・今回は大目にみましょう・・
次回はわかりませんよ・・テインタル王女・・アムネジア・・」
ひとまず 胸をなでおろすアムネジアとランデイ・・
「そうそう・・先の白の国への侵略戦争・・巨人族の捕虜達が
奴隷となった黒の国の者達と引き換えに帰ってきますよ・・
もしかしたら あのエリンシア姫の夫・・王の従弟アーサー殿もいるやも知れません」
ハッとするアムネジア
もしそうなら どんなにエリンシア姫が喜ぶか 再び巨人族の王の玩具となった
エリンシア姫を 解放して 夫アーサーと子供の元に返せるかも知れない・・
「兵士に混ざって 迎えにいきますか? それとも囚われてる黒の王宮を探ってみますか?
間者として 黒の王宮を探索するなら ぜひ他の情報も探っていただきますが?」
「・・わかったわ・・行きましょうランデイ」
「はい アムネジア様」
黒の王宮では・・
アーシュが セルトとタルベリイと三人で 話していた・・
「・・奴隷売りの競売の前に
奴隷商人を捕まえた事で 多くの攫われた娘達が助かって良かったな
セルト アル 二人とも・・リュース家の領地の者達は多く 助かった・・
まだ 何十人か 行方知れずだが・・」
「恐らくは・・すでに巨人族の国に連れて行かれたのでしょう・・
今度の捕虜達の交換で その者達の身柄も 助けるように 手配するつもりです」
タルベリイ
そして・・ここでため息をつくタルベリイ
「・・まさかテインタル王女が生きておられるとは・・」タルベリイ
「・・呪いまじないの入れ墨とは・・なんと惨い・・」
窓辺に座り 横を向いたまま 冷たい声で言い放つ
「・・・俺は 王女を許さない・・
俺の手で殺す・・・」
「さ・・火竜王様!」
「いけません!王!」それぞれセルトとタルベリイが慌てて叫ぶ
「・・・呪いの呪術は消せない・・エイルのも・・」
「エイル様の腕の呪いの文様は 小さいものですから
魔具の魔法の腕輪で 封じる事は可能ですが・・
テインタル王女のものは・・」
「・・だから 殺す・・王女も呪いの解放を望んでいる」アーシュの冷たい声・・
「俺は 過去見の力で テインタル王女の心を見た・・」
今度は二人を見ながら
彼女の残した黒の羽を見せながら言うアーシュ
「しかし・・何か術があるやも 知れません エルトニア姫は
あの囚われた牢獄でも助命を言っておられましたし・・あの優しい方が知ったなら・・」
セルトは慌てて言う
「俺に怒って・・許さないだろう・・そして・・泣くだろうな・・」
無表情で淡々と言うアーシュ
「・・アーシュラン様」困り顔のタルベリイ
「・・・術はない・・」アーシュラン 続けて言う
「・・それと・・エリンシア姫は生きているぞ・・」
「えっ? しかし・・」セルト
「・・何を知っている?セルト」黙ってセルトを見つめる
「・・・ヴァン伯爵の最後の時・・
あの男は言いました・・前の戦い・・黒の王宮の陥落の時に
兵士達に犯され、ヴァン伯爵にも乱暴され 牢屋で息絶えたと・・
・・タルベリイ様この事はご内密に・・リュース公もおられて・・
リュース公がヴァン伯爵を殺しました」
「・・そうでしたか セルト将軍」
「・・・」
「・・・俺もいたのか?」アーシュ
「はい 私に口蓋しない事を言われまして・・」セルト
「・・・アムネジアの記憶によると エリンシア姫は巨人族の王の側室だそうだ」
「・・夫もいる・・どちらの子かわからない子供だ・・」
「!!」驚くタルベリイ
「・・セルト・・それと黒の王宮陥落の際
恐らく あの事も知っていたな・・エリンシア姫の孕んだ子供を
流産した事も・・
父親は先の黒の王かリュース公」
「・・はい」
「リュース公にも この事は知らせよ・・
巨人族の国に間者を彼も潜入させている
ただアルテイシアとエイルには言うな
巨人族に潜入した 間者にも調べさせて・・・」アーシュ
黒の羽を握り締め ハッとするアーシュ
たちまち金色の瞳になる
・・・赤毛の男・・エリンシア姫の夫・・巨人族の王族・・
俺は少し前 黒の王宮に連れて来られてた
巨人族の捕虜達を見た・・
その中にあの顔を見た・・。
・・エリンシア姫の夫は 捕虜として この黒の王宮にいる・・
・・・・どうする?・・
「アーシュラン様?何かわかったのですか?」
「・・いや・・たいした事じゃない・・」再び焔の瞳に戻る
・・・これは ナーリンの閉じ込められた水晶玉を返した礼だ テイタル王女・・
それとエイルの実の母親の為・・
「・・悪いが ひとまず席を外す エイルの様子を見て来る」アーシュ
「はい 王・・」二人は頭を下げる
ガチャリ・・アーシュがドアを開け 出て行く
立ち去ったアーシュの後で 二人は話す・・
「本来なら 一番にテインタル王女と白のエリンシア姫の解放を
交換条件に持ってゆくべきなのですが・・」セルト
「・・・・巨人族の王は知らぬふりをするでしょう・・
エリンシア姫は何でも今は 巨人族の王の側室になっているとか・・
間違いなくこちらも知らぬふりを通すでしょう・・
テインタル王女の方は あのような呪い魔法の文様の入れ墨をした後では・・
返すに 返せないでしょう・・」タルベリイ
「しかも・・火竜王様のあの様子では・・
今は・・時期が悪すぎる・・
また 戻ったとしても 呪いの入れ墨のせいで 再び火竜王様や
エルトニア姫様に何をするか・・
王宮内の離れの屋敷か 何処かの城にでも 幽閉するしかないでしょう・・
しかし・・もう二度と こんな機会はありえないでしょうな・・
実に残念です・・」タルベリイ
エイルの部屋・・部屋にはアルテイシア姫とナーリンがいて
エイルはベットで寝たまま 上半身だけ起こしている
三人は仲良く 何かを食べながら 話をしていた
テーブルには アルテイシア姫が街で買ってきた
出店の沢山の食べ物・・エイルの好きなテイン・ベリーの果実も・・
土産とお見舞い用にと・・それを三人仲良く食べていた・・。
「あ、アーシュ」嬉しそうなエイル
「アーシュラン様」ナーリンとアルテイア姫
「・・美味しそうだな 俺もご相伴しても?」
「どうぞどうぞ!うふ」アルテイシア
「もう明日には 動いても大丈夫だそうだ・・」
「・・踊りも大丈夫?」
「・・んっ・・少しくらいなら・・多分」
「じゃあ! 明日 街の広場で踊る?アーシュ?
王宮の宴の踊りは 正体を隠してるから 無理だけど・・」
「・・・そう言えばエイル言ってたっけ・・俺が記憶をなくして
大人の姿から 子供の姿になる前に 雪花祭りで一緒に踊るって約束したんだよな・・」
「うん そう!」嬉しそうなエイル
「・・せっかくなら 以前 御話してました例の変身の魔法の玉・・
手に入りましたわよ ここに 持参してますわ」アルテイア姫が差し出す
小さな魔法の玉を差し出す
「小一時間ぐらいなら 大人の姿に変身して 踊りを王宮の宴で
踊れますわよ♪」ウインクするアルテイア姫
「ええ! いいのアル!」エイル
「うふん・・ただし・・私からもお・ね・が・い・・お願い」
アルテイア姫はアーシュの顔をジッ・・と見つめる
「・・・わかった エイルの次にアルと踊る・・有難うアル」アーシュ
「うふふ・・約束ですわよ ではまた明日・・エイル アーシュ様」アルテイア姫
「では 私も・・また後で来ますねエルトニア姫様」ナーリン
「あ・・二人とも これを持っていけ」紐で縛られた小さな袋を投げて渡す
「エイルの分もちゃんとあるぞ」アーシュ
袋の中には焼き菓子が入っていた
「あら・・これ お菓子」アルテイシア
「ああ・・アーシュ様の手作りですね」ナーリン
「えっ!」驚くアルテイシア
「アーシュ様 お料理上手なんですよ・・
実は 流行り病で コックは皆・・女官たちも殆ど者達が倒れて・・
街のコック呼ぼうか どうするかと悩んでいたら・・」
「アーシュ様 数日間 一人で黒の王宮中の皆の食事を作られて・・
デザートまで・・とても美味しかったです
最近は コックがアーシュ様に料理を習う程でしたもの」
「料理は俺の趣味だから・・」事もなげにアーシュ
「まあ いちいちコックの了解を取るのも 邪魔になるのもなんだし
空いている部屋に俺専用のキッチンを作ろうと思っているけど・・」アーシュ
「僕も手伝うね」エイル
「・・いやエイルは・・いい」アーシュ
「大丈夫ですよエルトニア姫様」 慌てるナーリン
きょとんとするアルテイシア
まだ彼女は エイルがいかに味音痴で 料理が下手か知らない・・
それがどんなに恐ろしい事か・・
全員おなかを壊した・・あのどんな粗食に強いはずのセルトまでも・・
・・あの最強の男を倒したのだ?いや 彼のおなかを壊したのだ・・。
それに 一度 料理に魔法を使い 調理室を吹っ飛ばした事も・・
吹っ飛ばすといえば 魔法の練習中 何故か癒しの呪文なのに 練習で唱えたら
すぐ傍の塔を破壊した事も・・
幸い・・塔には誰もおらず・・無人だった・・。
その後 エイルは魔法の練習の時は 必ずアーシュか魔法が使える者の指導で・・と
厳命された
「‥そう言えば・・料理はアル?」アーシュ
「え?ええ、まあ」 焦るアルテイシア 横を向く
・・料理は苦手か・・まあ エイル程じゃないだろうが・・心密かにアーシュは思う
そして・・
二人は部屋を出て アーシュとエイルが二人残された・・
「・・・街の祭りはどうする?」
「エイルの体調次第 今度はナーリンだけじゃなくセルトも連れて行こう」
「うん・・有難うアーシュ」エイル
「そろそろ・・一度横になった方がいいよエイル」優しくアーシュは言う
横になったエイルに毛布をそっと掛けるアーシュ
「・・アーシュ・・あの・・」エイル
「・・アムネジアの事か それともお前の実の母親エリンシア姫の事か?」
「・・アーシュも・・もう知っているんだね」
「・・・テインタル王女は はっきりとは言わなかったけれど・・
エリンシア姫・・生きてるかも・・随分 とても酷い目にあったけれど・・」
「エリンシア姫は僕の身代わりに黒の国の人質になったんだ・・
ここ 黒の国に来る少し前に 白の宗主様から聞かされた・・」
ぎゅうと・・横になったまま毛布を握り締めるエイル
「エリンシア姫の事は気にするな・・彼女が選んだ事だし
実の子であるお前‥エイルを守りたかったのだから・・」
「・・間者が 巨人族の国に潜入している リュース公の間者もな・・
調べるよ‥エイル」
「有難うアーシュ・・そう言えば テインタル王女の黒い羽を拾って
過去見の力で 探ったって・・」
「・・ああ・・見せてやるよ」アーシュは優しく微笑んで
エイルの手を取る・・
「?」きょとんとするエイル
一瞬 目を閉じ 再び目を開けると アーシュの瞳は金色に変わっていた
アムネジア・・テインタル王女の記憶の一部を選んでアーシュは
それを エイルの手を通して エイルの頭の中へ 映像として見せる・・
「ああ・・エリンシア姫様・・小さなアルもテインタル王女も・・見える」
「ふう・・」あまり この術は得意じゃないアーシュ
再び 焔の瞳に戻る・・
「・・少しだけだけど・・」
「有難うアーシュ・・」
「・・エイル・・まだエリンシア姫については 詳しくは分からない
巨人族の国は 雪深い 温かな国で育った姫には 身体には少々 辛いだろう・・
人には過ごしにくい所だ・・今はどうしているかは 分からない」
「・・お前の異母姉弟の事も調べる・・会ってみたいか?」
「うん・・アーシュ」
「・・・まだアルテイア姫には・・秘密だ」
「うん・・わかっている」エイル
「・・じゃあ お休みエイル」
「アーシュ アーシュの好きな林檎もあるよ
アルからのお土産・・他にも好きなのがあったら 持っていって」
「いや・・後でまた来るから その時に一緒に食べよう」アーシュ
「わかった・・後でね お休みアーシュ」
エイルが寝てしまうのを確認してから アーシュは部屋を出ていた
「・・お休み エイル いい夢を・・」パタン音を静かに立てて ドアが閉まる
まだ・・この時は エイルの部屋から 小さな2枚の絵が紛失してる事には気がつかない
リアンの絵と・・アルテイア姫とエイルと大人の姿のアーシュの絵
・・捜しまわって見つからず
結局、三人の小さな絵は アーシュが同じ物を持っていたので複製して
リアンの方の絵はリアンにまた送ってもらう事になる
2枚の絵を持ち出したのは 女官に化けたアムネジアだった
エリンシア姫の土産にする為に・・
次の日・・宴には
髪に飾りをして耳飾り 首には 宝飾のネックレス
白を基調にしたドレス 刺繍を施した薄い布を何枚か重ねたもの
額には 細い金の輪 中心部分に青のサファイヤと金色のトパースの宝石が
ぶら下がっている
左腕には大きな金の腕輪で傷跡を隠して お洒落をしたエイルと
同じく アルテイア姫・・赤の華やかな衣装を身につけ 額には 金の冠
額の中心部分でそれぞれ 緩くしたにカーブして先についてるのは
涙型の楕円形の大きな赤い宝石がぶらさってついている・・
他に髪飾りに耳飾り
大きな赤や緑の宝石が施された 大きな首飾り・・
その服はエイルと同じく 同じ赤色の生地の薄いものが何枚も重なってる
薄い布には 刺繍が施されている
そんな二人の前に 大人の姿に変身したアーシュ・・黒を基調とした服に
裾には金の縁飾り
右肩に横斜めに 赤のトーガを纏った トーガと服は金刺繍の帯で縛っている
「・・素敵ですわよ」
「二人も綺麗だ エイルの方は怪我はもういいのか?」
「うん 大丈夫
さっき 王宮付きの薬師の方にも診てもらった
有難うアーシュ」
アーシュは笑みを浮かべる
「行きますわよ さあ・・」アルテイア姫
「・・まずは 僕とだよ アーシュ」エイルは言う
「了解 姫・・」クスッと笑うアーシュ
音楽に合わせて 上手に踊りのステップを踏む
くるりと片手をあげて そのまま回るエイル
幾重もの薄い布を重ねたドレスがふわりと広がる
「上手だね アーシュ」エイル
「アルに 本番が始まる前に 念のため 教わった
一応 身体は覚えてたようだ・・」笑うアーシュ
「さあ 次はアルの番だよ 頑張ってアーシュ」
「ああ・・了解だ」アーシュ
嬉し気にアルテイシアは アーシュと踊る
「お上手ですわよ」アルテイシア姫
「有難う アル・・教えてくれた先生が上手だったから」アーシュ
「うふふ・・どういたしまして!」
柱の陰から 様子を伺う 女官に化けたアムネジア
また 同じ血が引き寄せないように・・
感のいいアーシュに気ずかれぬように・・その場を立ち去る・・
私は 二度とあの輪に中には 入れない・・忘れ去られたテインタル王女・・
もう あの頃の私は死んでしまったのだ・・
・・アーシュ兄様 私を決して許さないでしょうね・・。
物想いに耽るアムネジア
そこに髪を黒く染め 変装したランデイがやって来た
「アムネジア様 目的の秘密文書は手に入れました・・それと
これを・・貴方様への俺からの贈り物です・・」
小さな絵を手渡す
黒の王宮に飾られてる大きな絵と同じ物・・
先の黒の王・竜の王の家族達を描いた絵を小さくした絵
絵には前黒の王や黒の王妃アリアン 王妃の腕には小さな赤ん坊 王女の弟
それにその傍にまだ小さい少女・・テインタル王女
「これ・・」アムネジア
「絵は上手いですよ これでも・・描き写しました」ランデイ
「・・有難う ランデイ・・」
「それと 牢獄の中にアーサー様がいました
警備が厳しいので 今は近づかない方がよいでしょう」
「よかった 無事だったのね・・エリンシア姫が喜ぶわ
これで彼女も あの巨人族の王から解放される・・。
牢獄に近づかないのはわかったわ・・迎えの兵士に紛れましょう・・
さあ・・行きましょう・・」二人は黒の王宮を後にした
王宮の中の中庭 沢山の雪花の花ビラが降る・・
「・・雪のように綺麗ね・・」アムネジアは言った
アルテイシア姫と踊りながら ふと気が付く
踊っている中に者達の中に 着飾ったナーリンとセルトが二人
踊っている・・少々セルトの方はぎこちない・・
「ナーリンが誘ったみたい・・セルト将軍の義理の妹だし
参加したらと エイルと二人で言ったの アーシュ様」
「・・そうか・・ナーリンは嬉しそうだな」
「ふふふ・・アーシュ様 にぶいわね 気が付かない?
ナーリンはね セルト将軍の事が好きなのよ」
アルテイシアはアーシュと踊りながら 言った
「・・え?」驚いて目を見開く
「兄妹とはいえ 血の繋がらない兄妹だし
ナーリンがもう少し頑張れば セルト将軍も落ちるわね・・ふふっ」
「・・そうか・・それもいいな」口元に笑みが浮かぶアーシュ
くるんと踊りでアルテイシア姫が廻る・・
赤いドレスの重ねた薄い生地の裾が 赤い花びらのように舞う
音楽が止まり 次の曲が始まる
「有難うございます アーシュ様」
アルテイシア姫は 礼を言うと エイルに挨拶して
並べられた食事の方に向かい 果樹酒を飲む
アーシュは
壁に置かれた幾つかのイズの一つに座っているエイルの方に行く
「・・体調は?」アーシュ
「傷跡が少し痛むけれど
炎症を抑える押さえる薬と痛み止めの薬飲んだし
塗り薬も塗ったよ大丈夫」
「・・もうすぐ 魔法の変身が解ける・・」
「変身の魔法の玉は 一度使うと 明日までは使えない・・・
子供の姿に戻るが・・皆と一緒に 街の雪祭りはどうする?
祭りは 明日までは あるけど・・念の為に今晩は休むか?」アーシュ
「ううん・・せっかくアルテイア姫が来てるから・・ね」エイル
「じゃあ 街の入り口まで 飛竜で行こう・・」アーシュ
そこに アルテイア姫と姫の父親であるリュース公がやって来た
「こんばんわ アーシュラン様 エルトニア姫様」リュース公
リュース公は金の髪を束ねて 薄い青のローブを纏い
刺繍入りの深い青のトーガを斜めに片方の肩にかけている
頭には 金の輪・・
相変わらずの美丈夫ぶりである・・。
「先程 お父様は来られたの・・ アーシュ様 エイル」
「おひさしぶりですリュース公」嬉しそうに笑うエイル
「ちゃんとお土産は持参しておりますよ
いつもの白の国の果実と地元の湖で取れた魚とか・・」
「あのお二人とも この後は・・?」
「私達は 一晩 ここに泊めていただきます」
「良かったら 一緒に街の雪花祭りでも・・」エイル
「・・私はご遠慮します この髪は目立つので よく絡まれるのですよ
まあ 黒髪の染め粉を使ってもいいのですが・・
アルテイアは 行ってらしゃい それと今回はセルト将軍にも
付いていてもらいましょう・・ナーリン様も行かれるでしょうし・・」
「そうするわ アーシュ様 もう一曲 踊りをよろしいですか?」アルテイア
「・・わかったアル」アーシュとアルテイシアは 踊りの輪に加わる
「・・少しよろしいですか?」リュース公はエイルに話しかける・・
「はい」エイル
「・・もうすべて ご存じなのですね・・エリンシア姫の事
私は セルト殿から すべて聞きました・・」
「・・エリンシア姫が流産した子は・・」
「私の子です・・エリンシア姫は 私とご結婚されるか
私の屋敷の方で預かる約束でした・・テインタル王女ともに・・」
「‥先の黒の王・竜の王は 予知の力をお持ちでしたから
二人に降りかかる不幸を 避けるつもりだったようです・・。
自分と妻である黒の王妃アリアン様と アーシュラン様の弟君の方は
どうやっても 死は免れないと おしゃって・・」
「・・ただ今回にかぎって 日時を読み間違えられましたが・・
多分 敵の魔法使いの力か 何かの魔法が邪魔をしたようですが・・」
あの魔法使い・・あの竜の王の先読みの力を妨げるとは・・何者なのか・・
どれ程の魔力を保有しているか・・そして魔術の知識・・
先の黒の国の奪還の時にも あの魔法使いに どれだけ邪魔をされたろう・・
幾度となく 危機に陥った・・
リュース公は思う
リュース公は 一瞬 顔を曇らせ また いつもの愛想のいい顔に戻る・・
「・・・エリンシア姫は僕の身代わりに・・」うつむくエイル
「・・その事は あまり気にされませんように・・
実の子である貴方を守れたのですから・・あの御方も満足でしょう・・
それに恐らく 黒の王 アーシュラン様も
同じような事をおしゃられたと思いますが・・」
「・・はい そうですリュース公」エイルは顔を上げる 涙が浮かんでる
「・・・泣かれないで下さい・・私の間者も巨人族の動向も もちろん
エリンシア姫の事も調べてますから・・」
「それから 姫 これをどうぞ」
「アルには当然 口留めしてますが・・私には全ての事を
アーシュ様達から聞き及んでおります・・
・・必要になるだろうと・・お持ちしました」
金の大きな腕飾り 宝石に 魔法の文様が彫りこめられている
魔法の呪いの焼き印の魔術を防ぐ効果もあります
また 替えの分も幾つか ご用意しますよ・・」
「! 有難うございますリュース公」エイル
腕輪をリュース公に貰った物と取り換える
そこに アルテイアとアーシュが帰ってきた
「あら 腕輪取り替えたのね」アルテイシア
「うん リュース公がプレゼントしてくれたんだ」エイル
「・・・・」腕輪をよく見るアーシュ 魔法の文様が刻まれる事にすぐ気がつく
「・・・有難うリュース公 相変わらず気がきく・・」アーシュ
「ふふ どういたしまして・・また替えの分も お持ちしますよ」
「・・エイル・・腕輪? そういえば 左腕を怪我したって・・」
「跡が残りそうなの・・まあそのうち消えると思う・・
あんまり気にしないで アルテイシア」エイル
「そう・・じゃそろそろ 街に行く準備をしましょうか?
変身の魔法が解けたらすぐ行きますわよアーシュ様」
「そうだね」エイル
「ああ・・」アーシュラン
「・・行ってらしゃい 楽しんでおいでアル」リュース公
エイルとアルテイシアの二人が立ち去った後
リュース公とアーシュの二人は・・・
「・・やはり大人の姿もいいですね・・りりしくていいですよ・・ふふ」
リュース公
「・・そうか?」アーシュ
「・・・頼まれた事なら お任せください
そちらの間者とも 連絡を取り合ってます」リュース公
「いつも すまないリュース公」アーシュ
「どういたしまして 貴方様を守護するのは 私の役目
先の黒の王は私の恋人でしたし・・おっと・・これは・・」リュース公
「えっ?」驚くアーシュ
今・・何とリュース公は言った? 俺の父王と恋人?
「いえ・・あの私は両生体でして
兄が亡くなり 跡継ぎが必要になる前は
女だったのですよ・・
未分化でしたから
女として育てられてまして・・それで・・」
リュース公は慌てて言う
「・・そ・・そうなのか・・俺は以前の記憶もないし・・」
少し焦り 冷や汗のアーシュ
「まあ‥そういう事です あ、ほら 身体が揺らめいている
そろそろ変身の魔法が解ける頃では・・お祭り楽しんで来てください」リュース公
「ああ・・じゃあまた」立ち去るアーシュ
それを見送るリュース公
そして アーシュの変身の魔法が解けて
アーシュにエイル アルテイシア セルト将軍にナーリンの五人は
二頭の翼竜で街に向かった・・
街はフイナーレが近ずき
賑やかで 街の雪花の花びらも そろそろ散り終えそうだった
出店で 食べ物をほおばり エイルとアーシュとナーリンは果実のジュースを飲む
アルテイシアは 果実の酒・・
セルトは悩んでいたが・・
「一杯ぐらいなら 支障はないさセルト・・」アーシュ
「・・すみません では・・」そう言ってアルテイシアと同じ果実酒
「ねえ アーシュ様 そこの弓矢の出店で 腕を競いません?
勝ったら アーシュ様が私の頬にキス うふ」アルテイシア
「・・俺が勝ったら それはなし・・俺が勝ったら?」
「お好きな食べ物を幾らでも ご馳走しますわ」
「よし!決まりだ」アーシュ
二人は弓矢の出店で 次々と矢を中心に命中させた
「引き分けかな」アーシュ
「まだまだ♪」アルテイシア
「頑張って二人とも」エイル
「頑張ってください」ナーリン
弓矢の景品を渡され ほくほくのエイルとナーリン
「あ・・」アーシュの手が滑り 矢は当たったものの大きく外れる
「ちっ!」舌打ちするアーシュ
「ふふん~っ」余裕のアルテイシアはまた中心に命中
「・・・」黙っているアーシュ じと目である
「や・は・り 私の勝ち!うふ」
あきらめたように アルテイアの頬にキスするアーシュ
クスクス笑いのエイルとナーリン
目元をほころばせてるセルト
「雪花の大樹の廻りで お皆が輪になって踊ってるよアーシュ 皆」エイル
「踊るか・・体調は?エイル」
「大丈夫」
そして廻りに気がつけれぬように
そっとアーシュに耳打ちするエイル
「・・この魔法の腕輪・・癒しの効果があるみたい
全く 痛くない・・」エイル
「良かった」アーシュ
「セルトも行くぞ」アーシュはセルトにも声をかける
「・・私もですか?」少々焦るセルト
「王宮でナーリンと踊ってただろう?」
「しかし・・本当は不得意で・・」
「大丈夫ですわ セルト義兄様」ナーリン
「しかし・・」渋い顔のセルト
「・・練習と思って 頑張れセルト・・命令だ」笑うアーシュ
「・・はい」渋々従うセルト
皆 踊りの輪に加わり踊りだす アーシュとエイルとアルテイシアは三人で
ナーリンとセルトは二人で・・
しばらく後 アーシュは
「ちょっと一休み エイルも休もう アルはもう少し一人で大丈夫か?」
「了解ですわ アーシュ様 お待ちしてますよ」アルテイシア
「エイル こっち」
近くの木の陰に腰かける・・
そっとあたりを伺い アーシュは 自分の顔を近づけて
エイルにキスをする・・
黙って目を閉じるエイル
「・・・身体が成長して・・大人になったら お前を抱く・・」アーシュ
座っているエイルを抱きしめて耳元で子声で言うアーシュ
「・・愛している・・。」
「・・・・・」エイルは黙っている 戸惑い少々困ったような笑みを浮かべている
「・・アーシュ 成長って言ったら 今朝 森の奥深くに住む薬師で魔法使いのジェンが・・」
「・・あのジェンか?・・俺の身体を子供して 俺の記憶も吹っ飛ばした張本人・・」
思いきり口元をゆがめ 目は半開きになっているアーシュ
「・・御話は途中・・最後まで聞く・・」エイルはやれやれという感じで言う
「・・はいはい・・どうぞエイル」アーシュ 相変わらずの渋い顔・・
「僕の身体を診察してくれて それから・・」
「それから・・?」
「アーシュの身体がちゃんと成長してるか確認するから来てねって・・
もし、何か用事が出来て いなくても ワン子という御弟子さんがいるって・・」
「ワン子?」
「犬の姿で2本足で立ってて・・言葉もちゃんと喋れるらしいよ
早く会ってみたいね」
「ふうーん まあ 確かに もし成長が止まったままじゃ心配だしな・・」
「・・ところで エイル・・」
「何・・一応 俺の事はともかく 女の性を選ぶんだろう?
そろそろ・・僕じゃなくて 私にしたら?」アーシュ
「う・・うん そうだね」エイル・・軽く冷や汗
「・・俺の覚書・・自分の日記を読んだけど・・まあ あまり書いてなかったが
エイルに黒の言葉を教えたの?俺?」
「そう・・なかなかのスパルタだった・・結構 今と違ってちょっと意地悪だったし・・」
「エイルが望むなら 幾らでも意地悪になれるぞ」ふふ~んと笑うアーシュ
「・・それは 許してね」エイル
この時 二人はワン子さんと初めて会った時に
そこで 事件に巻き込まれるとは思いもしない
・・それはまた別の御話・・
(※その御話は掲載しております
銀色のラベンダー金色ブルーベリーという御話です)
アーシュとエイルが座って居るところに 痺れをきらしたアルテイシアがやって来た
「エイルは大丈夫なの? 踊りはどうしますの?」アルテイア
「今 行く・・大丈夫か?エイル」
「僕・・じゃない私は大丈夫・・踊ろうね」エイル
「セルト達は?アル」アーシュが聞く
「セルト将軍は 二度こけましたし 三度 他の人の足を踏みましたが
なんとかナーリンのリードで まだ頑張って踊ってますわよ うふふ」アルテイシア
「セルトらしいな・・行くかエイル」アーシュ
「うん」エイル
「うふふ」嬉しそうに笑うアルテイシア
夜 遅くまで踊り そして 出店をまた廻ったり 歌や路上での出し物を見学したりと
皆は 雪花祭りを満喫した・・。
数日後・・黒の王宮のエイルの部屋のバルコニーで
アーシュとエイルは一緒に軽い軽食を食べていた
料理はアーシュの手作り・・
「美味しい?」アーシュは聞く・・
「うん 有難うアーシュ」
「じゃあ 俺はちょっと用事があるから・・またね
夜 遅くなるから 悪いが一人で先に食べてて・・」
エイルの頬に軽くキスするアーシュ
「わかった・・アーシュ行ってらしゃい」エイル
入れ代わりにナーリンがやって来た
「あら火竜王様 ここにいらしゃると・・」
「出かけたよ・・夜遅くなるって」エイル
「そうですか・・多分 兄のセルトと出かけたのでしょう・・」
「何?どうしたの?」
「巨人族の捕虜と攫われた黒の国の者達との交換があるのです」ナーリン
「・・そうなの・・」エイル
「・・・ナーリン アーシュね・・最近また あの表情を見せるようになったの」
「私も気がついておりました・・昔のような 冷たい無表情な顔・・」
「いつもは 僕・・じゃない私の前では努めて明るく 振舞ってるけど」
「・・・・」
「・・・仕方ないね・・この前の事件の後だから・・」
口には出さなかったが エイルは思った・・
僕の傷跡・・呪いの火傷の印の事と・・
異母兄妹テインタル王女の事が重くのしかかているんだねアーシュ
自分の事も責めてる・・。
「・・・一国の王なのですから 重い責任があります
重苦しい表情も これからはまた
御見せになると思いますわ エルトニア姫様」ナーリンは言う
「・・そうだね」
「エルトニア姫様がいれば 大丈夫ですわ」ナーリン
「うん・・わかった・・」
そこに はらりはらりと 雪花の花ビラが落ちて来る
「・・もう 今年の雪花も終わりだね ナーリン」
「そうですわね・・雪が降るのもすぐですわ・・急に寒くなってきましたし・・」
「アーシュの作った料理あるの 一緒に食べようよナーリン」
「よろしいのですか? 明日、温めてまたアーシュ様とお食べになれば?」
「いいの! さあ」エイル
「・・では ご馳走になります 有難うございますエルトニア姫様」
ナーリンはアーシュの座っていた席に腰かけて 一緒に食事を食べた・・
夕刻頃 国境付近で セルト将軍と黒の兵士に連れられた
巨人族の捕虜と 黒の国の女達の交換が行われた・・
「・・・何人か 女性達の数が足りないが・・」
「申し訳ないですが その者達は自害したり 病気で死にました
何せ・・我が国は雪深い国・・温暖な国で育った者達には 少々 酷でして・・」
どこまで本当かわからない・・自分の奴隷とした女達を手放したくて
嘘を言っているやも知れない・・しかし
今回の機会を逃す訳には いかない・・
・・潜入している間者たちが密かに助け出すかも知れない・・。
「・・わかりました・・では 始めましょう・・」
捕虜達と黒の国の女性達の交換は無事におこなわれた・・
解放され 同じ巨人族の兵士達に囲まれ 歓喜する捕虜達・・
その中に見事な赤毛の男エリンシア姫の夫 アーサーもいた
「・・アーサー」若い娘の声・・
人目を避け そっとアーサーに耳打ちする兜をかぶった兵士・・
小声でアーサーは「アムネジア様ですか?」 頷く兵士
二人は 歓喜する一団から少し離れた人のいない場所に移動する
「ふう・・」兜を脱ぐアムネジアことテインタル王女
長い黒髪がはらりと風に広がりしなやかに舞う
「・・ランデイは急な要件が出来て迎えにはこれなかったけど 私は来たわ」
「お帰りなさい・・アーサー これでエリンシア姫も・・」と言いかけて
二人は 視線を感じて振り返る
物陰からアーシュが現れた・・
「・・アーシュ兄様・・!」顔色を変えるアムネジア
「・・やはり 来てたな・・はじめまして・・でいいかな
王の従弟で 羽琴の姫君・・白のエリンシア姫の夫アーサー殿?
また会えたな 我が妹姫 テインタル王女・・」軽く睨みつける燃えるような焔色の瞳
声は冷たく響く・・表情も冷たい・・
「・・本来なら 白のエリンシア姫は返して欲しいところだが 子供も産み
王の側室なら 帰る事も出来ないだろうな・・
愛する夫もいる事だし・・
王から解放されて また夫と子供と一緒に暮らすのだろうな・・」
「・・テインタル王女・・テイ・・お前 黒の王宮に帰りたいか?
俺はお前の望み通り 殺してやりたい所だが・・」
ここで一旦 瞳を閉じるアーシュ 再び目を開け続けて言う
「・・時折 エイルが泣くんだ・・お前やエリンシア姫の事を想ってな・・
お前を許せと そればかり言う・・わかっているだろう?エリンシア姫の娘だから
・・優しすぎるんだ・・それにアル‥アルテイシアも・・」ため息をつくアーシュ
「どうする? テイ?」無表情で問うアーシュ
「・・帰れないわ・・お兄様・・わかっているでしょう?
この呪いの入れ墨がある限り・・もう また 貴方を殺したくてうずうずしている
もう一人の私がいる・・
必ず 貴方やエルトニアを傷つける・・殺そうと襲うでしょう・・
それに帰ったとしても・・」アムネジアことテインタル王女・・
再び目を閉じて 静かに淡々とアーシュは言う
「そうだ・・お前を何処かに幽閉する
でなければ 必ず暴走するだろう・・その呪いのまじないの入れ墨がある限り・・
その力は危険だからな・・もう一人の火竜王
間違いなく 人族の母の子である俺よりも その血は純粋・・魔力はお前の方がまさる・・
更には お前は 先の黒の王 竜の王の力を受け継いだ・・俺よりも・・
俺が使えない 水の加護さえ持ち合わせている・・多分 他にも・・」
うっすらと開ける瞳は 一瞬の黄金の色・・だがすぐに元に戻る
焔色の瞳を開き アーシュは続けて言う・・
「それに俺は まだお前を許した訳じゃない
エイルやアルが お前の事を心配して 泣くからだ・・
黒の王宮内の離れの屋敷なら幾らでも空いている
快適な暮らしは約束するが・・?」アーシュ
「・・お断りするわ・・」
「こんな機会はめったにないぞ・・今度はお前を許すとは限らない・・
いや・・まだ許してはいないが・・」
焔の瞳が燃えて輝くアーシュラン
「・・また機会があれば考えるわ・・エリンシア姫の事も気がかかりだしね・・」
アムネジアことテインタル王女
「・・・わかった これを受け取れ」ポンと大きな袋をなげて渡す
「?これ・・?」アムネジア
中には大量の食材や果実・・
「黒と白の国の食材だ・・エリンシア姫の土産にでもして
アーサー達と食事でもするんだな・・」アーシュ
「・・どうして?」アムネジア
「魔法の水晶玉に閉じ込められたナーリンを返した礼だ・・
ついでに言うが・・
お前の残した黒い羽で そのアーサーの事もわかっていたが・・とりあえず
黙っておいた・・これで 貸しは 返した・・」
一瞬 アーシュの瞳が金色に変わる・・先の黒の王・・父王と同じ金色に・・
「・・有難う アーシュ兄様」
「・・・礼は要らない ナーリンを無事に返した礼だ・・
それに エイルの母親 エリンシア姫の事を守れるのは お前とその夫アーサーだけだしな」
「・・それでも礼がしたいなら エリンシア姫の子供の絵でも 欲しいところだが・・
エイルの異父姉弟・・エイルが会いたがっていた・・」
「・・次に会う時は お前は敵だ・・テイ」アーシュ
「わかっているわ・・」
アーシュは立ち去った・・後に残る二人 アムネジアとアーサー
「・・本当に帰らなくてもよかったのですか?アムネジア様?」
「いいです アーサー殿・・これで・・
もう私達二人の運命は定まってしまっている・・
帰りましょう 早くエリンシア姫を解放してあげなくては・・
貴方とエリンシア姫のあの子も寂しがってます」
瞳には うっすらと涙・・それを指で拭うアムネジア・・
こちらは黒の国の陣営・・
セルト以外の人の気配がないの確認すると そっとセルトの陣幕の中にアーシュは入る
「アーシュラン様・・」セルトが帰って来たアーシュに声をかける
「やはり テインタル王女は来ていた・・帰らないそうだ・・」
「そうですか・・残念です・・」
「・・俺はホッとしてる・・俺には呪いの入れ墨はないのに
殺したい衝動が 抑えられない・・」
無表情で淡々と言うアーシュラン
「アーシュラン様・・」セルト
「悪いが 一足先に帰らせてもらう・・早くエイルに会いたい・・」
「はい わかりました・・」セルト
アーシュは着ていた 自分の黒のチュニック・・服を上の方を両腕の方に少し降ろす
背中が半分はだけ その背から 身体にしまっていた 漆黒の翼を出現させる
アーシュは夜の空を 黒い翼をはためかせ 黒の王宮へと 飛び去った
翌朝 巨人族の国へと帰る 解放された捕虜達と兵士の一団・・
その中の少し離れた位置に 二人・・アーサーとアムネジア
道には雪花の花ビラが舞う・・
「綺麗な花びら・・」
「もうすぐ黒の国も冬ね・・巨人族の国も雪が降っているわ・・」
「そうですね エリンシア姫も子供も待ってます・・
ぜひ 今晩は私の屋敷で皆で食事をしましょう」アーサーは微笑む
「有難う‥ご馳走になるわ・・お土産も沢山あるし・・」
「黒の王にもらった白と黒の食材も沢山ありますし・・召使に料理させます」
「有難うアーサー殿・・それと 他にも私 エリンシア姫にお土産があるの・・」
荷物の中にしまっていた2枚の小さな絵を見せる・・
「これは エリンシア姫が可愛がっていた成長したリアン殿と・・
我が子のエルトニア姫とアルテシア姫と大人の姿だった頃のアーシュお兄様
その後の消息を知りたがっていたから・・」アムネジア
「・・これは・・きっと喜びます・・ん?あれ?
この淡い金の髪の青年 リアン殿ですが・・
斜めに肩に掛けたトーガで隠してますが・・右腕が・・」
「・・ないの・・先の戦 貴方が参加した
あの白の国への侵略戦争の時より少し前の
別の戦いで 片腕をなくしたらしいわ・・」
「・・そうですか・・エリンシアは悲しみますね・・」アーサー
「・・そうね・・優しい人だから・・」
心の中で アムネジアは思う・・この呪いの呪い入れ墨の本当の意味・・
そして・・貴方の子供・・身代わりになってまで 庇った我が子エルトニア姫に
私が何をしたか 知ったなら・・貴方は悲しむわね・・そして私を憎むかしら・・?
いいえ・・恐らく きっと貴方は それでも 私を許す・・
きっと 全てを この呪いのまじないの入れ墨のせいにして・・
あのエルトニア姫と同じように・・
雪花の花ビラが舞う中を 巨人族の一団が通り過ぎる・・故国を目指して・・
雪深い国・・それぞれの家族 友人たちが待つ故郷へと・・
巨人族の王宮・・
巨人族の王は 一応はエリンシアを夫アーサーに返したものの
まだ未練があり・・
エリンシアが 月に一度 10日程 王宮に滞在するようさせた・・。
完全には エリンシア姫を解放出来ず・・アムネジアは悔しく思う・・。
そんな日々の中・・
エリンシア姫がまだ来てない時の王宮に 一枚の大きな魔法画が持ち込まれた・・
昔の黒の国を侵略した際 巨人族の貴族の一人が 戦に参加していて
黒の王宮から盗み出したもの・・
それを 莫大な相続税の代わりに王に献上した
黒の国の竜人の画家が描いた魔法画・・
以前 黒の国を裏切ったヴァン伯爵が献上した魔法画と同じ物であった
竜人の老人の画家の作品 三枚あって そのうちの二枚は こうして巨人族の王が手にいれた
その大きな絵 ヴァン伯爵の献上したものは 4枚の羽を持つ オッドアイの白鳥・・
そのイメージのモデルは エリンシア姫・・
魔法画の中の白鳥は幻影ながら 生きていて 手で絵に触れると 絵の中から飛び出す・・
美しい声で鳴き・・エリンシア姫の羽琴の演奏に合わせて良く鳴いた・・
王宮にいる時には 時折 エリンシア姫とアムネジアは この幻影の白い白鳥と遊んだ・・
そして・・今回 献上された絵には 赤い子竜が描かれていた
手で触れると ぴよんと飛び出して来た赤い子竜・・
手を触れてないのに 白い白鳥も魔法画から飛び出す・・
嬉しそうに 二匹はクルクルと宙に浮かんで 廻る・・
「!そう・・お友達だったのね・・」
今度は赤い子竜がアムネジアの顔に顔を近ずけ そっと頬にキス・・
「あら!」驚くアムネジア
それから アムネジアは手を差し伸べる・・そっと赤い子竜は腕に留まる・・
アムネジアの瞳が突然 金色に輝く 無意識に過去見の力が発動する・・
魔法画を描いている竜人の老人・・描いているのは赤い子竜・・
まだ描き終えていないというのに 絵の中から飛び出して 空を飛ぼうとする
「これこれ・・大人しくしなさい・・もう少しで仕上がるから・・
お前のモデルの黒の王子アーシュラン様は大人びて・・
・・・そうか・・本来のアーシュラン様は このような御方なのだな・・」
ふむふむと・・納得する竜人の老人の画家・・
・・・この絵・・赤い子竜はアーシュラン兄様がモデル・・
アーシュランお兄様の本質を絵に描いたもの・・
不思議な思いで・・赤い子竜を抱きしめるアムネジア
赤い子竜は抱きしめられて嬉しそう・・アムネジア・・テインタル王女の胸に顔を埋め
その小さい手で アムネジアの胸を子猫のように もみもみする・・
「あら・・?甘えてるのかしら・・それとも・・?」怪訝な顔のアムネジア
しっかり小さい手で胸をもみもみしながら・・顔を胸の間にグリグリと押し付ける赤い子竜・・
胸の感触に浸っている・・。
アーシュ兄様の本質・・
奥手と思っていたけど・・案外・・H・・かな?
首を少しひねる・・
・・やっぱり 男よね・・アーシュ兄様・・。
ジト目の・・半目になるアムネジア・・顔にちょっと冷汗・・。
ジト目で半開きの目のしぐさは・・アーシュと同じ仕草
さすがは血の繋がった同じ兄妹である・・。
赤い子竜は・・相変わらず アムネジアの胸の間で安らいでいる
・・うっとり幸せそうであった・・。
それからしばらく後・・アムネジアは許可をもらい 魔法画の二匹を外へと
連れ出した
巨人族の王宮を出るなり アムネジアは背中に身体に身体にしまっている漆黒の翼を広げ
飛び立つ・・赤い子竜は両腕で抱きしめて 肩には大きな袋をかけていた
白い白鳥は 自分の四枚の羽を使って アムネジアと並んで飛び立つ・・
「エリンシア姫とアーサーの屋敷に行くわよ 赤い子竜ちゃんと白鳥さん・・
きっと子供達が喜ぶわ・・皆で遊ぼうね・・
袋の中身は ひさしぶりに手に入った黒と白の食材と果実・・アムネジア
上空から見上げれば あたり一面は雪・・雪は夜に降り 今は空に青く雲が少し・・
胸に抱きしめた 赤い子竜は甘えて また胸を揉み揉み・・
顔をアムネジアの胸の中に埋めてる・・うっとり・・アムネジアの胸は俺様席・・
「・・相変わらずよね・・この子たら・・」
軽く・・半目とちょっと冷や汗・・
「名前・・付けた方がいいかな・・エリンシア姫と相談しましょうね」
二人の屋敷につき ドアを叩く・・
「反応がない・・」何気に押したドアには 鍵がかかってない
「エリンシア姫 アーサー」呼びかける
すると二人の幼い子供が泣きながらアムネジアに抱きつく
「?」きょとんとするアムネジア 赤い子竜は 何か異様な気配を感じ
アムネジアの腕から 離れ 自分の翼で空中にとまっている・・
大人しくしているのは白鳥も同様・・
「あ・・アムネジア様ああ・・」抱きついたままアムネジアの名を呼ぶ
「ウイル・・テイナ・・どうしたの?」
「お母さまが お母様が・・」
「いったい・・?」アムネジア
「・・アムネジア様・・もう知らせを聞いたのですか?
・・・いや遊びに来られたのですね 早すぎる・・」まっ青のアーサーが言う
「ええ・・この魔法画の絵の子達を連れてきて 皆で遊ぼうと・・」
「・・その大きな袋は 白と黒の国の食材と果実?」
「ええ・・?」アムネジア・・
「・・いつも有難うございます・・ですが
エリンシアは・・エリンシアは・・」
アーサーの瞳から 涙が零れ落ちる・・
「ど、どうしたの?一体何が?」
「・・・先程 エリンシアが突然倒れ・・そのまま息を引き取りました・・」
「エリンシアは あまり苦しまずに 逝きました・・まるで眠っているようです・・」
「!なんですって!!」
羽琴の姫君・・
エリンシア姫の遺体は まるで眠んているようだった・・
もう、あの優し気な美しいオッドアイの瞳は もう開く事がないのだ
「シア・・エリンシアああ・・」
アムネジアは 冷たくなったエリンシアに抱きつき 泣き叫ぶ
・・羽琴の姫君・・エリンシア姫の死・・
アムネジアは屋敷に泊まって 明日の葬式に参加する事になった
「・・喪服と寝間着を取ってくるわね この魔法画の子達も 返さないと・・」
泣きはらした顔のアムネジア
「私は葬式の準備がありますから・・それから 頂いた食材は
今晩の食事にしますね・・」まだ目が赤いアーサー
「何か手伝える事は?」アムネジア
「召使達がいますから 大丈夫です 有難うございます アムネジア様」アーサー
「これを・・アムネジア様・・」
以前エリンシア姫に上げた絵のうちの1枚
大人のアーシュとアルテシア姫とエルトニア姫が描かれた小さな絵・・
「・・これ?」
「‥貴方のお兄様が描かれてるから・・
生前 エリンシアに頼まれてました・・多分 その頃から 自分が長くないと
悟っていたのでしょう・・」
「・・有難うアーサー」
再び 空に翼を広げて 飛び立つ・・
胸に抱いた赤い子竜は アムネジアの心を感じ取り 知っているのか
心中を察したか・・
ただ‥黙って 大人しくして 抱かれている・・
そして 心配そうにアムネジアを見上げている・・
白鳥も同様だ・・
赤い子竜と一緒に抱いた小さな絵・・
「うっ・・うう・・」焔色の瞳には涙 嗚咽がもれる・・
赤い子竜と小さな絵を抱きしめ・・アムネジアの瞳からまた涙が零れる・・
翌朝 ささやかながら葬式が執り行われた
参列者は アーサーと二人の子供・・それにアーサーの叔父夫婦に友人達・・
家に仕える 数人の召使・・そしてアムネジア・・
「今日は有難うございましたアムネジア様」
「元気を出してね・・あの二人の子供達の為にも・・」アムネジア
「はい・・」アーサー
「・・下のテイナちゃんは 赤毛以外はお母様に似てるわね・・」アムネジア
「面立ちだけでなく・・テイナは両生体で 白い羽もありますよ」アーサー
「!」驚くアムネジア
「生まれた当初は 女の子とばかり思っていたのですが・・」アーサー
「・・白い羽は 他の者達に知られたら エリンシアのように切り落とされるかも
知れないので 秘密にしてます」
「・・アーサー殿 お願いがあります」アムネジア
「何でしょう?」
「ある人に 子供達の小さな肖像画を贈りたいの・・
出来れば・・テイナちゃんの白い羽も描き添えて・・
絵心のあるランデイに頼むわ・・
彼ならテイナちゃんの秘密も守ってくれるだろうし・・」
「・・それは構いませんが・・ある人とは・・?」アーサー
「・・・テイナちゃん達の異父姉妹・・白のエルトニア姫」アムネジア
「・・・・わかりました では・・他にも私からお願い出来ますか?」アーサー
エリンシア姫の髪をひと房切り取り リボンで括ってアムネジアに渡す
「これを・・白のエルトニア姫に・・」
黒の王宮・・アーシュとエイルの二人には ちょっとした変化があった
森の奥に住む 魔法使いで薬師でもあるジェンの家のわん子との出会い・・
彼のドジのおかげで 大変な事件があったり・・
そして 丁度 その事件の最中
白の国からエイルの事を心配した エイルの親戚でもある
片腕の武官リアンがやって来て 白の国の使節として 黒の王宮に滞在する事になったのだ・・
リアンは エイルを見守りながら リュース公に頼んだエリンシア姫の行方の情報を
待っていた・・。
短い冬の季節が通り過ぎ・・穏やかな春の季節を迎えていた・・。
ある日・・リュース公がセルト将軍の元に訪ねて来た・・
「これを・・セルト将軍」テーブルに小さな絵と切られた髪のひとふさを置く
「・・これは?」小さな絵には赤毛の二人の幼い子供と金色の髪がリボンに結ばれ
ひとふさ程・・
赤毛の女の子の方は 小さな白い羽が生えている・・
「男の方はウイル 女の子に見える子はテイナだそうです」
「女の子に見える・・とは・・?」
「両生体だそうです・・白の国の人間の特質をエリンシア姫から
受けついだのです・・」
「白のエリンシア姫様のお子! 一体どうゆう事なのですか?」セルト将軍
「・・テインタル王女が夜遅く 私の部屋のバルコニーから訪ねてきました・・
ご自身の翼を使い 湖を渡って来られました・・。
これを エルトニア姫に届けてほしいそうです・・
何でも・・アーシュラン様に以前 捕虜交換の時に会われて
頼まれたとか・・ 」リュース公
「・・一つ 告白する事があります エリンシア姫の流産した子は私の子でなく
先の黒の王竜の王の子です・・
彼に頼まれました・・エリンシア姫と結婚するか 子供と姫とテインタル王女を預かると・・」
「・・・・」セルトは驚き ただ黙っている・・。
「まあ・・貴方は 以前 先の黒の王 竜の王に婚約者を奪われて
追放されて あまり よくは思ってはおられないと思いますが・・」
「・・私の婚約者の人族の娘は アーシュラン様を産み しばらく後に病で死にました」
「その事は ご存じでしょう‥リュース公」セルト
「はい・・それともう一つ・・この金色の髪は エリンシア姫の物です」リュース公
「まさか!」
「・・突然 逝かれたそうです あの御方は・・
苦しむ事なく その死に顔は 眠るようだったと・・
遺体は 彼女の夫アーサーという者の家の墓に埋葬されたそうです・・」
「・・可哀そうな御方です・・最初の恋人は恋人の兄である前の白の宗主に殺され
先の黒の王には 身体と心を奪われ・・
黒の王宮陥落の時には 兵士達に暴行され ヴァン伯爵にも・・
あげく・・巨人族の王の側室にされた・・
せめてもの救いは・・あのエルトニア姫と 巨人族のアーサーという夫と子供達ですね」
「ところで・・この小さい絵と髪の事ですが・・」と話かけたリュース公
その時 ガチャリとドアが開く
そこに立っていたのは アーシュランと白の国の武官リアン
リアンは蒼白になり 茫然として立ち尽くしている
ドアを開けたアーシュの方は
無表情で 感情が読み取れない・・ただ 赤い焔の瞳だけが輝いている
「・・お二人とも・・」慌てて座っていた椅子から立ち上げるリュース公
目を見開き どうしてよいかわからないセルト・・
最初に口を開いたのは アーシュラン
淡々と言う・・
「・・その小さい絵が エリンシア姫 エイルの母親の異父姉妹の絵か・・
俺がエイルに渡しておいてやる・・
・・・その金の髪は 黒の王室の墓に内密に少し入れるか・・
先の黒の王 竜の王の恋人だったという話なら・・
それとリュース公の家の墓と・・」
その後を引き継ぐように 蒼白なった顔のまま 少し擦れた声でリアンが言う
「残りの髪は 白の国に送り エイルの実家の墓に埋葬します・・」
「・・・アーシュラン様 あまり驚いていませんね」リュース公
「・・・ある程度の事は セルトから聞いている・・それに
テインタル王女が残した彼女の黒の羽で 先の王から受け継いだ過去見の力で知った・・」
一瞬 金色の瞳に変わり また元の焔色の瞳に変わる・・。
「・・セルト・・俺の母親とお前が婚約者同士だった事は 初耳だぞ・・」
半開きの目で 淡々とした調子で言うアーシュ
「・・・すいません」セルト
ポンとテーブルに 小さな袋を置くアーシュ
「これは・・?」セルト
「・・俺が作った焼き菓子・・作りすぎたから おそわけだ・・
菓子はあまり好きではないと聞いたが
食べないなら ここにリュース公が来たと聞いたから・・持ってきた」
「私は頂きますよ・・甘い物は好きですから・・有難うございます」リュース公
「・・私は途中の回廊でアーシュラン殿と会って・・リュース公が 来られたと
聞き エリンシア姫の調査の進展を伺いに こちらの部屋に伺いました・・
立ち聞きするつもりでは なかったのですが・・偶然・・」リアン
「・・声が聞こえてきたからな」アーシュ
「‥リアン殿 本当の事を伏せておいた事をお許しください」リュース公
「・・いえ・・ご配慮には感謝します」リアン
「・・エルトニア姫には どのように話されますか?アーシュラン様」リュース公
「・・・ただ 巨人族の国で出会ったアーサーという男の元で妻として
ささやかながら 幸せだった事だけ伝える・・ アル・・アルテイシア姫にも・・
リュース家の墓標に白のエリンシア姫の髪を埋葬するなら 話さないわけにはいかないだろう?」
「・・丁度 アル アルテイシア姫もエイルの所に遊びに来ているから・・」
「おや・・出かけるとは言っておりましたが こちらに来てるのですか・・
わかりました そういう事でしたなら 私も参りましょう・・
二人はとてもエリンシア姫の事を慕っていたましたし
悲しみ 泣くでしょうから・・」リュース公
「・・私も行きます」目頭を左手の指で両方押さえ 涙をこらえながら リアンは言う
「‥リアン・・エイルは もうエリンシア姫が叔母でなく 実の母親である事を知っている」
「!・・そうですか・・わかりましたアーシュ殿」リアン
「そうだな・・じゃあ また後で 今度は酒でも持ってくるセルト」
「私もこれで・・すいませんセルト将軍」リュース公
「・・すいません失礼します 将軍」リアン
「はい・・ではまた あ、リュース公 アーシュ様のお菓子の袋を・・」セルト
「すいません では 私が頂きます 有難うございます」リュース公
誰もいなくなり セルトだけが部屋に残された・・
その頃 黒の王宮の広い庭 花のアーチをくぐった先の・・
そこにはまわりに一面の白い綺麗な花々が広がる池の中の橋のかかった小さな東屋には
お茶とお菓子を片手に エイルとアルテイシア姫が楽し気に談笑していた・・。
「ナーリンが留守なのは 残念ね」
「ちょっと 要件があるって 出かけたよ 明日の朝には戻ってくるよ」
「・・夕方頃 雨が降るらしいよ・・今晩は泊まっていくアルテイア?」
「あら そうなの・・じゃあ 泊まってゆくわ
黒の王宮には 私と父のリュース公専用の部屋もあるし・・
その部屋には ちゃんと寝間着も着替えも沢山あるから・・
お父様には 魔法の伝書鳩でも使って連絡するわ」
二人が話をしている最中に
橋を渡り 二人の元に来たアーシュとリアンとリュース公の三人・・
「あら お父様!それにアーシュ様にリアン殿」弾んだ声でアルテイシア
「アーシュ リアン兄様 それにリュース公様」微笑むエイル
「今 御席の椅子と お茶を用意させますね ご一緒にどうぞ」
「有難う エイル・・これを・・お前が欲しがっていた物だ・・」
アーシュから 小さな絵を受け取るエイル
「アーシュ・・これ・・」驚き 瞳を大きく開きアーシュを見るエイル
「何?何?」好奇心からアルテイシアは小さな絵を・・エイルの手にある絵を覗き込む
「・・ん・・絵の中の赤毛の小さな女の子‥白い羽・・リュース家の縁の子?
いえ・・違う この赤毛は 多分 巨人族・・
それにこの顔・・そうだわエリンシア姫に似ている・・」不思議そうな顔をするアルテイア
「・・アーシュ」何かを感じ取り不安そうなエイル
それに何故 アルテイシアがいる前で この小さな絵を手渡したのか・・
アーシュは一瞬 瞳を閉じ 再び開ける
「・・・話がある 二人とも・・落ち着いて聞いてくれ・・」ゆっくりと‥話を始めた
青い空がどこまでも広がり 木々には 小鳥がとまり さえずる
池のまわりの白い花々には蝶が数多く飛び交う
心地よい春風が吹き渡る・・
そして 夕方 黄昏の時間・・雨が降る・・
エルトニアとアルテイシア・・二人の姫が流す 涙のように・・
FIN