表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王はいい奴です。え?倒すって?なら俺がアイツを護るまで

作者: 鍵ネコ

 今日はいつもと変わらない。

 何でもない日。


 はずだった。


 本当なら毎日毎日変わらなくつまらない日々の繰り返しだろう。


 だけど今日は違った。


 魔物だ。

 俺の村に魔物の群れが襲って来たんだ。


 その魔物はオーク。そして、それらを率いている群れの将、ボストンスオーク。

 ボストンオークは、通常のオークの3倍の体躯を持ち、オークの豚と悪魔を合わせたような醜悪な面をより醜く、恐怖を駆り立てるつらにした魔物。豪腕から繰り出されるパンチは一撃で地形を変化させ、その膂力(りょりょく)で、何もかもを握りつぶして行った。


 結果は火を見るより明らかなことだった。


 蹂躙だ。


 オーク達は男を嬲り殺す。それは徹底的なまでの嬲り殺しだ。腕をバキバキに折り、脚を折り挙句に男の尊厳までも握り潰した、そしてじっくり時間を掛けて斬り殺す。

 女達は犯して、泣き叫んでも逆に欲情するのかまた犯して。それに年齢は関係がない。子供だろうが年寄りだろうが唯々犯す。


 そして、それを見ていち早く逃げた俺。


 胸糞が悪いことだ。

 魔物とはクソな奴だよ、ほんと。そんな奴らの親玉の魔王なんて死んでしまえ。


 今にも泣き叫びたい衝動を怒りに変え、自身を抑える。ここで声を出せば、自分もあの仲間位になるからだ。それだけは、火を見てはに飛び込むのだけは嫌だ。


 後ろは振り向かず、ただひたすら走った。



 今日は、俺が街に売り物を売りに行く番だった。

 村で収穫した作物や、作った工芸品。衣服や木々などの素材を月に一度、大きな荷車に乗せて近くの街に行く。

 そうして、二日がかりで馬を走らせ、村の懐が温まったと喜び顔で帰ってきたらこの有様。

 もう、どうしようもなかった。怖かった。


「はぁはぁはぁ。こ、ここまで来れば_____」


 そう安堵の息を漏らす。


 が、なんて事は無かった。近づいてくる足音。

 その音が大きくなるにつれて、巨体は全貌を明らかにすした。


「嘘だろ、おい」


 魔物が、それもボストンスオークが追いかけてくる。


 目からは涙が出かけるが、それをグッと堪え再び走る。

 ここで泣いてしまえば、俺は死ぬ……!






 もう、どれくらい走ったのだろうか。

 もう無理だ。これ以上は走れない。


 俺は体力に自信があった。脚の速さもだ。

 なのに、後ろの奴は全く疲れをみせないどころか、まだ余裕の雰囲気だった。


 距離を確認しようと後ろを振り向くと、ボストンオークは口を三日月の様にしていた。醜悪な顔に醜悪さを掛け合わされている。



 怖い。



 あの、顔も。今の状況も。



 ああ、死にたく無い。

 誰か助けて。


「いやだ、まだ死にたく無い」


 今日は退屈な日々じゃない。寧ろスリリングな日だ。ただ、こんな楽しくない事は望んでいない。

 退屈な日々を変えてと願ったことはある。けど、こんなこと望んでないんだ。死を掛けてまで楽しくしたいわけじゃないんだ!


「だれか、助けて」


 喉が渇き、フラフラと走りながら、助けの声を漏らす。


 すると、何かが空を切った。




 シュン




 ボト




 そして何かが落ちた。




 それが何なのか、音が聞こえた後ろを振り返ると、バンと音を立てて落ちて行く、首がなくなったボストンオークの身体があった。

 それを見て、身体の力が徐々に抜けていくのを感じた。


「たす、かった……」


 そして俺は、助かった安心感からか気を失った。










 何かに揺られている様な、心地がいい落ち着く感覚がある。

 それになんか、いい匂いがする。


「よいしょっと」


 可愛げな女性の声。

 さっきの心地いい感覚から離されるようにして、また別の安らかな感覚が、身体を包み込む。


「ふー。ほんと驚きました、突然倒れてしまって」


 右頬に、細く暖かな手か何かが添えられた。


「そうか、じゃあ診とくよ」


「お願いします、カールさん……。カールさんの腕を信じていますよ」


「あいよリザ様」


 足音が遠ざかって行く。


 そう言えば、俺は、一体何を。


 記憶にある範囲で思い返す。


 たしか俺、ボストンスオークから逃げてて……。


 思い返すだけで反吐がでるような光景。今、自分だけが生きていると思うと、気持ちが落ちていく。


 あ。……そういえば、急にボストンオークが首を無くして倒れた。

 首がないって、それってつまり、誰か助けて来れたということじゃないか。


 じゃあもしかしたら、さっきから言葉を交わしているこの人達が助けて来れたのか。

 なら行ってしまう前にお礼を言わなくちゃ。


「助けて……くれ……て…ありが……とう……ございます」


 何でだろ身体に力が入らない。


「ん、起きてるのか?」


「はぁ。良かった。脈はあったのだけど全く起きなくて」


「それにありがとうか、久々に聞いたわい」


「私、いっつも言ってますよ」


「か、か、か。それもそうか」


 そこまで聞こえたが、抗えない睡魔に意識が飛んだ。







「ん……ここは」


 周りを見渡すと、見える範囲に3つベッドがあって、俺の横もそうだが、向かいのベッドにも区切りとしてカーテンがあった。

 ここはアルコールの独特な匂いがするな。消毒液の方の匂いだ。

 一度嗅いだことのある匂いだ。忘れない。


 ならここは病室か……?


「おわっ!?」


 辺りを探索しようとベッドから降りると、力なく膝をついた。


「いてて……」


 ベッドにしがみつき起き上がる。


 一体全体どうしたんだ、俺の身体。


 動きにくい身体ではあるが、動かせない事はないので他に何かないかと、ベッドや壁を伝って探索していると、ふいに声を掛けられた。


「お、漸く起きたかい」


 声のする方を見ると一人の老人が座っていた。


「あ、えーと。はい。おはようございます?」


「か、か、か。おはようさん」


 老人は、陽気な性格なのか白い綺麗な歯を見せて笑った。


 そして、直ぐにあの時の声であることに気がつき、違うくても、と老人に向かってお辞儀をした。


「助けていただきありがとうございます」


 この人が医者なのかは分からないが、ようやく起きたという事は、それまで看ていてくれたのだろう。

 分からずとも、そこらへんのお礼はしないとだめだろう。


「か、か、か。お辞儀までせんでいい。顔を上げな」


 そう言われたので顔を上げると、ニカッとした笑顔があった。実に笑顔の多い老人だ。


「あ、えーと、自己紹介がまだでした。俺カイトと言います」


「か、か、そうかそうか」


 老人はそう言いながら、微笑まし気な顔で俺の頭をポンポンと叩いた。


「あ、そうだったそうだった」


 老人は頭を叩いていた手を引っ込め、近くにあった椅子に腰かけた。


「カイト君といったかい。起きて早速で悪いんだが、動けるのなら姫さんに会ってくれんか? あ、動けんとは言わさんぞ。さっきまで歩いてるところを見ておったからの」


 どうやら、初めから見ていたらしい。

 あの時、声をかけられるまで気づかなかったが。


「え、ええ。大丈夫です。そんな恩をなんとも思わないたちじゃないので。というか、その前に姫とは?」


 一つ一つ、脳内で整理させていくと、その姫という言葉が引っかかった。


「? 姫さんは姫さんだ。あ、違ったな。女王が正しいのか」


 女王…。


 っ!? 女王様、つまり王族!?

 え、王族の人に助けられてしまった! えーと、そうなると貴族よりめんどうだぞ。な、何を返せば良いんだ? お礼? お礼だとしたら金? 俺の首? それとも俺自身? いやいや。絶対全部入らないよな……あーどうしよう。


「ふむ。考えている事は大体わかる。が、大丈夫だ。お礼の言葉だけで大丈夫だ」


「本当にそんなので良いんですか?」


 本当にそんなので良いのかな?

 いやでも、出来ることなんて無いしな。


「ああ、喜びおるぞ」


 老人は自信満々に言った。


「そうですか。あの、それなら早速で悪いのですが、お姫様にお会いさせていただきますか? お礼がしたいんです。この命を救っていただいたお姫様に」


 多分、女王さまの警護兵が倒したのだと思うけど、姫様のご厚意がないと助からなかった命だ。

 これは、絶対お礼は伝えないと。


「ふむ、じゃあ一緒に行くか。行き方を教えてやる」


「はいお願いします」


 どうやら連れて行ってくれるようだ。


 椅子からから降りた老人は、ドアノブに手をかけてこっちを見た。


「行くぞ」


「あ、はい」


 そういいながら駆け寄ると、脚から急に力が抜け転んだ。


「大丈夫か?」


「え、ええ」


 曖昧な笑顔を作りながら起き上がる。


 っ……。本当にどうしたんだ? 力すらまともに入らないなんて……。


 そんな事を考えていると、老人は驚きの言葉を放った。


「そうか。まぁ二週間も寝ていればそうなるか」


「に、二週間!?」


 そんなに寝てたのかよ俺。

 ほんと世話にもなってお礼するにも仕切れない。


「歩けるか?無理なら手を貸すぞ」


 この人ほんと優しいな。見た目のまんま白衣きた優しいおじいちゃんぽいしね。


「大丈夫です。直ぐなれると思いますし」


「そうか? ならあんまり無理するなよ」


「はい」


 あの部屋を出てからは壁伝いで歩いて行った。

 そのおかげか、脚の使い方が慣れてきた。


 そして、導かれるままに歩くと、目の前にかなり大きな、それでいてゴージャスなつくりの扉の前に着いた。

 その扉の脇には鎧を着た二人が立っていた。


「おーい、門番」


「はっ、何でしょうカーティス医師」


 へー、このじいさんカーティスって言うんだカッコいいな。てか、やっぱり医者だったのか。


「この子を謁見させたいのだが……えーとカイト君だっけ」


「はい。カイトです」


「カイト君で間違いないそうだ。この子は怪しいもんじゃ無い。で、姫さんに例の子が御礼に来たと伝えてくれんか」


「分かりました、確認を取ってきます」


 そう言って門番は何処かへ行った。


 それにしてもカーティスさんってかなり凄い人なのか? 一介の医師とかなら門前払いをくらいそうだけど……でも、まぁそんなレベルの低い医者を王城に置くわけないか。

 でも、対応は早いものでは無いだろうか。少し前に読んだ礼儀作法本には、謁見の話を入れるだけでも最低3日は掛かると書いていたし。


 じゃあやっぱり凄い医者なのか。


「いんや、わしゃ唯の医師だ」


「絶対違うでしょあんた!? てか、心なんで読めるの!?」


「まぁ、長年生きてたからかな」


「いやいや、無理でしょ」


 長年でって、どこの仙人だよ。

 いや、でもなんかマジそうなんだよなカーティスさん。


 と、そこで門番が帰って来た。


「確認が取れました。直ちに謁見を執り行いますので」


「ああ、早速なのか。じゃあ、わしは医務室に戻るから頑張れよカイト君」


「え?」


 ええ! お、置いていかないで! 謁見なんて初めてなんですよ!


「ま、頑張れよ」


 カーティスさーん!!



 諦めて執り行うのだった。



「カイト様おなーりー」


 取り敢えず門番の人に聞いたところ、敷かれたカーペットの袖に跪いて、頭をあげろと言われたら頭を上げるのだと。


 聞いた通りに動く。


 そして、コツコツという歩く音が聞こえて来た。


 あー緊張する。

 粗相が無いようにしないと。


「面をあげ____だめ、これなれないわ」


「え?」


 おもったより声が高かったような。


「頭、上げてもらえるかな」


 あ、やっぱり高い声だ。


「はいっ」


 あー緊張する。

 頑張ろ。




「綺麗だ」




 え、なにあの子可愛すぎてヤバいよ。なんか一目惚れしたんだけど。


 まるで絵に描いたような美人だ。

 白銀に輝くその髪は長く伸び、透き通る紫色の瞳は吸い込まれるような魅惑な目だ。

 笑顔が可愛いのが印象的。


 あー凄い。

 こんな綺麗な人を見れただけで俺はもう幸せだ。


 一人、頭の中で彷徨っていると誰かに呼ばれている気がして我に返った。


「あのー! あのー!」


「は!す、すいません! ついボーとしちゃっ___ボー」


 あーずっと見ていられるような気が……はっ!


「すいません!」


「えっと、大丈夫ですよ」


 うふふ、と微笑む女王さま。

 吸い込まれるような美貌を前に、何か言わなければと声をうわずらせる。


「あ、えーと! お、俺___僕、女王さまにお礼をしたくて参りました」


「ふふ、そうなの?」


「はい。貴方様に救われた命。それに看病まで。お礼するにも仕切れませんが言わせて下さい_____」



 全身全霊を込めて。



「____救っていただきありがとうございました!」


 間違ってないよな。

 噛んで無かったよな?


「うふふ、助けた甲斐があったってものですね。無事で何よりです、カイト? さんでしたか?」


「はいカイトと申します」


 すると、女王さまは唐突に思い出したかのように声を上げた。


「あ! そうだ。私のほうがまだ名乗っていませんでしたね」


 王女さまは玉座から立ち上がり、腰に手をやって言った。


「私は第15代目魔王、アスティリア•リーザ•ガーネットと言います」


「え」


 い、今___


「魔王と言いましたか?」


「はい。私の代で15になります。あ、私親しい人にはリザって呼ばれるので、よかったらカイトさんも呼んでください」


 ま、おう。

 魔王だと。


「あ、あの、僕の聞き間違いじゃありませんよね? 本当に魔王なんですか?」


 目が泳ぎ、体が小刻みに震える。明らかに動揺している。


「え、ええ。魔王です」


「魔族の王で……魔王。この魔王ですか?」


「う、うん。そうだよ?」


 暫くの時沈黙が続く。


 その沈黙を破ったのは、身体を怒りに震わせ、膨れ上がる思いを爆ぜさせたカイトだった。


「お前が、お前が魔王なのかあああ!!!」


 見た目は見目麗しくても腹はドス黒いんだな!

 このクソ魔王が!


「お前のせいで! 村のみんなが死んだんだぞ!!!」


 右腕に力を込め走る。


「えっ」


 なーに、素っ頓狂な声を出してんだクソやろうがあ!!!


 俺が込められる最強のパンチを繰り出す。



 そして響いた乾いた音。



「はぁ、やはりこうなるか」


「カーティスさん」


 俺のパンチはカーティスさんの掌で止められていた。


「カール」


「すまんすまん、一応光学迷彩で姿を隠して成り行きを見ておったのだが」


「なぁ、カーティスさん。止めないでくれよ。俺はコイツを、魔王を殺さないと気が済まない」


 するとカーティスさんは深いため息を吐いて言った。


「カイト、まずこれを前提に聞いてほしい。我々魔族は何もしていないし、これからも何もしない」


「我、我……?」


「ああ。わしも魔族だ」


 そんな、そんな。

 いや、でもそうか。ここに魔王がいるなら、そりゃこいつも魔族だよな。ははっ。


「お前らは、お前らは俺を騙して何がしたいんだよ!!」


 室内に響く嘆き。

 もう何が何だかわからない。災難ばっかだ。


「なぁカイト君。まず話を聞いてくれ。君は、君たち人間は誤解をしておるのだ」


「誤解だとっ!」


「そうだ。君たち人間は大きな誤解をしておる。……我々魔族に魔物を操る力などない。どちらかと言えば魔力量が多く長寿な人間で、魔物の駆除に日々励んどる」


 そんな、そんなわけないじゃないか。人間界での常識だぞ! 魔物を使役するんだろ! お前らが俺の村を襲ったんだろ!!


「カイト君。そもそも、我々は君たち人間と同じ種族の括りにいたんだ」


「は?」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。


 カーティスさんはそのまま話し続けた。


「だが、我らの祖先はその中で膨大な魔力を持って生まれてしまった。他の人間達はそれに怯えて恐れ迫害した。そんな人々の集まりが魔族の始まりだ」


 そんな事初めて聞いた。

 村の人や本なんかでは完全悪で、魔物を使役し人間を襲う悪魔だって言われている。

 だが聞くぶんには同じ人間?


「我ら祖先はそんな事があっても憎まなかった、それが運命なのだと受け入れたんだ」


「受け入れる……」


「そうだ、恨み戦いあったわけでもない。我々魔族はただ平穏に暮らしているだけなんだ」


 カーティスさんは両手を広げていった。


「じゃ、じゃああんた達は人間と変わらないってことかよ」


「元はそうだな。因みに我々が長寿なのはこの膨大な魔力が細胞の老化を遅れさせているんだ」


「その話を信じるつもりはないが……本当にあんた達は人間を恨んでないのか」


「ああ、(みな)何とも思っておらんさ。敵視どころか昔の事など関係なく友好的地と思ってあるのだが、そっちが敵視しておってな」


「……」


 あー!もうなんだ、分かんない!どれを信じたらいいんだよ!


「カイト君。我々は人間を襲いも殺しもしない。今後もない。証拠にそっちを我々が襲ったという記録はないだろ」

「……っ……たしかに、そういう実例は聞いたことがない」


 たしかにそんな記録は見た事がない。それに聞いたこともない。聞くのは魔族は敵で害悪だという事


「寧ろ、襲われているのは我々なのだがな。魔物にも、君たち人間にも」


 カーティスさんは一人呟いた。


 そうだったのか。

 たしかに、そうなる材料はあるかも……。


 カイトは、信じ切るに値しないけど、信じないわけでもないという不思議な感情を抱いた。


 そうだとしたら、あの魔王も、魔族も無実なんだろうか。

 今回の事には関係ないんだろうか。


 そうだったのだとしたら……。


「殴りかかってすいませんでした!」


 それなら謝らないと。


「決断が早いな。もう少し話さないとダメだと思ったんだが」


 そんな俺に、カーティスさんは不思議そうな顔をした。


「確かに完全には信用できてません」


「ま、だろうな。昔な植えつけられた知識は変え難い」


「ですが、僕は魔王様アスティリア•リー、、、何でしたっけすいません」


「リザで良いよ」


「リザ様に助けられました。これは変えられない真実です」


「こっちが謀った事かもしれんぞ」


 確かにその可能性はある。


「それを言ったらきりが無いです。それで、僕は少し此処を見たいとおもいました。嘘なら、城下町を見ればわかることなので」


「ん?こっちに滞在するつもりか?」


「ええ。僕の村は襲われて帰るところがなくなりましたし、此処が何処にあるのか分からないのです戻れないですし。まぁお金がないので野宿ですが」


「ふむ、成る程」


 此処で生活をしてみてどうなのか、この話は嘘なのか。それとも本当に、俺たちの考え方が間違っているのか。それを知っていけたらと思ってる。

 少し過ごして見て、嘘ならいいようにされる前に死のう。


 色々と決断していると、玉座のある場所の階段を降りながらリザ様が突拍子もない事をいいだした。


「カイトカイト。なら私のお城で暮らさない?」


「えええええ!!!!」


 絶叫が轟く。


 あ、あのリザ様がそんな事を言ってるのですがカーティスさん。


 どうしたらいいのな、助けを乞うようにしてカーティスさんを見ると、すーっと透明になっていった。


 カーティスさん!?逃げないでぇ!!


「いや、だってリザがこう言ったら決まりも同然なんだ。それにリザは君をかなり気に入っているようだ。ま、相手してやってくれ」


「ええ……」


 あ、相手ってそもそもなにしたら良いんだ。しがない村出身の、馬の骨はどうしたらいいんですか!


「カーイートー。で、どうなの?」

「え、あ、はい!えーと……その」


 あー。俺が此処で滞在するとして、お金も知り合いもいない。

 だからやっぱり野宿だ。

 でも、ここだと、安全はまだあるだろう。この話が嘘だとしたら、結局下町でも危ないだろうし。

 それにカーティスさんがあー言ってたし……。


「お願いします」


「やった!」


 可愛い……

 この笑顔守りたい!


 ふと、彼女の笑顔を見てそう思った。




 それからは楽しい日々だった。

 初めは城での生活に緊張していたが、今じゃ慣れた感じだ。

 驚いたことはリザに一緒に「寝よ」って言われたことだ。何故に俺!? とは思ったがなんか俺と寝たいらしかった。その日は全く寝付けなかったことはわかると思う。ま、今じゃ慣れたもの……では無いが、そこまでじゃ無いくなった。


 こっちでの食事は一日3食、朝昼晩だった。

 そっちの方が体に良いのだと。あっちじゃ基本1、2食だったから食べ過ぎとはおもったが、前よりも肌の質や体力が増えた感じがある。


 俺はそんな毎日の中で学園に通う事になった。

 理由はリザが一緒に入ろうって言ってくれたからだ。


 そのおかげで楽しい日々だった。


 学園では、自分の力を競いあうアラカルム学園大会というものがあった。他にもイベントがたくさんあった。

 そして、1番のイベントだっとのが、俺のリザへの告白だった。リザからオッケーの言葉をもらった時は、もう死にそうになった


 それからもデートを重ねて、結婚しようという話になった。ただ結婚はまだ早いらしく後2年、俺が20歳になるまでダメなんだって。



 俺はこの街を見て思った。あっちとは全く違った。

 文化も技術も、それに幸せの数も。

 全部こっちが上だ。

 街はいつも賑わいが絶えず、笑顔で溢れかえり幸せで満ちていた。それは、話の真偽を疑っていた頃にみた景色と変わらなかった。


 俺はそんな人々の毎日をみて考え方を変える事にしたんだ。





 こっちに来てから6年。

 俺が20歳になったある日。




 遂に現れた。




 皆んなの幸せを壊しにきた、何も知らない力の化身達。







 勇者パーティーが。







「リザ、どうする」


 勇者パーティーがこっちに来ている報せが入り、緊急の会議が開かれた。


 この会議ではこの俺を入れた7名が参加している。


「そうね……どうしたら良いのかな。お父さんやお

 爺ちゃんは力で追い返したって言ってたけど」


「リザは強いから、やろうと思えば追い返せるとは思う」


 リザは本当に強い。

 と、しか表現できない。次元が違うんだ、根本的に。


「だがな、今までもそうだったが追い返しても戻って来おったぞ。「俺たちはもう負けない」など言ってボロボロにやられてかえったがな」


 カーティスさんがそう言った。


 ま、確かにそうかもしれない。

 リザから聞いた話だと、歴代の魔王達はこっちの人間を殺さない程度に戦って力を記していたらしい。

 それは相手から見たら互角という力加減で。


 だから強さのレベルを上げてまた挑んでくる


「あ、こんなのはどうかな。逆にもてなして和解するってのは? 正直勇者パーティーの話を聞く限りじゃ、この戦いは不毛でしかない。それに俺はこっちが何もしていない事を知ってるから、無駄な殺しはして欲しくない。あっちの勝手な行動で、こっちの人々の笑顔が無くなるのは嫌だ。だから先ずは、敵意を削ぐようにもてなしたら良いと思ったんだ」


「ふふ、流石私の夫ね」


 リザにそう言われると照れるのだが……。

 顔を真っ赤にして俯く。


 そんなピンク色の空気に一喝した声が放たれた。


「ふむ、俺は賛成だ」


 ゴルデンさん。

 筋骨隆々の渋い顔をした魔国騎士団長だ。

 その強さはリザに劣るが近しい力の持ち主らしい。


「私も〜。その意見さんせ〜」


 気が抜けるような喋り方のヘーゼロッテさん。

 金色髪のポニーテールがチャームポイント。魔国魔導師団の団長だ。

 その強さは、ゴルデンさんと同じでリザに近い。


「ワシもだな」


 シルビングさん。

 リザのお爺さんだ。

 温厚な面持ちで、皺が多いらしいのだが俺の目からしたらは目立つものは無く、まだ50代くらいに見える

 因みに、強さはこの歳でもリザを軽く凌駕するらしい。


「ワタシもだ。カイト君、中々に良い意見を言ってくれる。その助言があればワタシの代では楽が出来たかもしれんのに、それに今後の世代もな」


「ありがとうございます」


 ソーライナスさん。

 リザのお父さんだ。

 その威厳のある顔は、ダンディな男感を引き立てる。

 強さはリザよりは上だがおじいさんには勝てないらしい。


「ワシもだな」


 カーティスさんも賛成のようだ。


 ソーライナスさんは、姿勢を正して膝を長机におき、手を組んだ。


「さて全会一致だな。早速何をするか決めようか」







 作戦は入念に話しあわれた。







 ⚫︎勇者side


「漸くだ、漸く魔王との決戦だ」



 勇者パーティーのリーダー、勇者ハーリー。

 彼は全人類(・ ・)が認めた、最高峰の力の保有者の一人だ。




「そうね。漸く、漸く殺された皆んな気持ちを報える」



 勇者パーティーの副リーダー、シェリル。

 彼女は街で育ったが、大量の魔物達によって蹂躙された。その時の生き残りだ。彼女は何とか生き残って新しい街で過ごしている中で、1つの才能が開花し始めた。それが聖魔法。

 それから勇者パーティー結成の話が上がると、直ぐに入団希望をしその力が認められた。


 彼女は聖女として勇者パーティー屈指のヒーラーだ。




「漸くだ。長かった」


 彼はジル。

 幼い頃、魔物達に村の人々が殺されたことがきっかけで冒険者となった。冒険者は魔物を狩るエキスパートで彼はそのトップランカーだった。

 そんなある日、勇者パーティー結成の話を小耳に挟んだ。

 ジルは自身の居場所を消し去った魔王を恨み入団を希望した。

 彼の体力はずば抜けており、またA級以上の魔物達の攻撃でも受け止められる程の力を持つタンカーだ。


「いっちょ頑張りましょ〜」


 いつもポワポワしている彼女はカーナ。

 実は一番魔物の被害を受けたのは彼女なのだ。

 彼女は暮らしていた村を魔物達に消された。それも転々とする毎に襲っては居場所を消される。

 終いには自分のせいだと思い山に引きこもった。

 そんな中、魔物への怨みが募っていき殺す方法は無いのかと探していると魔法を使えることが分かった。

 そして彼女は今までの怨み晴らしに魔物を狩った。

 絶するような経験をした彼女の力は、人類最高峰の力となり、その魔法の力を魅入られ勇者パーティーに勧誘された。


 彼女は世界屈指の魔法使いだ。


 因みに全員美男美女だ。


 そんな色々な過去を持つ勇者達。

 彼らがいざ魔王のいる魔界に行こうとした時大きな音がなった。


「敵襲が!?」


「いや、違う……。これはトランペット?」


 そうリズミカルになるトランペットの音だ。


 そして歩くに連れて、それが何なのか見えてくる。


「な、なんなんだ……あれ」


 勇者達はその光景に唖然とした。

 何が何だかわからなくて、警戒しつつ歩んでいくと___


「勇者パーティー様のおなーりー」


 そう言われた。


「一体なんなんだ」


 大門は開かれ、両脇にはトランペットを上に傾け吹く者たち。そしてその真ん中は、目の前からでも見える巨大な城、魔王城まで長く敷かれた赤の生地に金の糸で刺繍されたカーペットが敷かれていた


 その中を最大級の警戒をとりいつでも攻撃出来るよう構える。


 そうして進んでいると二人の男女が立っていた。


「お、お前たちはなんなんだ」


 前代未聞の聞いたこともない、攻め込んだ敵国が歓迎ムードである事に動揺していた。


「はい。私は第15代目魔王アスティリア•リーザ•ガーネットと言います」


「僕はそっち側出身のカイトと申します、勇者パーティー様」


 その言葉に深く動揺した。






 ⚫︎カイトside


 あー緊張した。

 噛まなかったな、よし。


 会議の結果、第1計画として大門で盛大に歓迎しようとなった。


 楽団を置き、長ーいカーペットを敷いた。

 何気に高いのは楽団の方だったりする。まぁ、命の危険もあるから妥当ではあるが。


 今はリザとともに城を歩き、作戦第二を執行するべく部屋は向かっている。


 大きめの扉が見えた。

 あそこが第2作戦の部屋へ行く扉だ。



 扉の前に立ち、リザは奥で待つ人たちに言った。


「勇者様一行をお連れしました」


 すると扉はゆっくりと開けられた。



 そこには長い机と椅子、それと料理がたくさん置かれていた。




 ⚫︎勇者side


 魔王といった女に導かれるまま進むと、大きな扉があった。


 なにか待ち受けているのか。

 トラップか。

 魔物がいる部屋か。


 だがそれは想像の斜め上をいく光景だった。


 大きな部屋に置かれた高価そうな机と椅子。椅子に座る人たち。そして美味しそうな料理の数々だった。



「な、なんなんだこれ」


「う、美味そうだな」


「こら! ジル! これ絶対罠だって」


 そうだ、これは絶対罠だ。


「勇者様、先ずはお好きな席にお座りください」


 席に座れって促されたよ、怪しさ満点だよ。

 だが、行動を取らないと話が進まなそうだ。


「……取り敢えず座ろう」


「ちょっと、ハーリー!」


「何が目的か知らないが何か話すつもりでここまでしているのだろう。ならさっさと話した方が良い」


「でも、これ罠だって。座ったら襲ってくるでしょ絶対!」


「ああ、可能性はある。だから警戒は怠るな」


 伊達に勇者をしていない。僕はこれでも洞察力が高く敵意などには敏感なのだが、この人らには敵意を感じない。


 みな渋々と席に着く。


 座った席の前にはグラス、皿、フォークとナイフが置かれていた。


 食事か。


「皆さま席に着きましたね。では今から、食事の時間とさせていただきます。皆さんたくさん食べてください」


 女がそういうと他の人たちも料理を取り出した


「さ、勇者様達も」


 魔王の女と居た男。

 こいつからは微量な魔力しか感じなかった。

 質は人間のものだった。


「君、人間なのか」


「? 何をいっているんですか、此処にいる皆人間ですよ」


「いや、それは違う。君と僕らを含む人間以外は全員魔族だ」


 そう、ほかの人から感じ取れる魔力は魔族の物とされるそれだった。


「それは括りとしてですよ。本当はあなた達の言う魔族は人間なんですよ」


 何をいっているんだこの男。

 魔族は魔族なんだ。

 それを我らと同じなんて。


「君、聞かされていないのかい? 魔族や魔王、魔物の関係性なんかを」


 先ず先ず気になっていることがあった。

 それは、この男がなぜ魔界に居るのかだ。服装も魔界の奴らが着て居るものと同じなのだが魔力は間違いなく人なんだ


「ええ、知っていますよ。真実を僕は知っています」


 知っていながらこっちに居ると言うことは。こいつ、人間でありながら魔族に加担すると言うのか。


「君はどっちの味方だい?」


「そうですね……。味方と言う表現は嫌いですかね。僕はこっちの方が好きです」


「そ、うか……」


 仲間達にテレパシーを送る。


『この男洗脳か魔族に寝返っている』


『え』


『それは本当か』


『ああ』


『それは大変なのです〜』


『だから洗脳の線で考えてみる』


『了解』


『分かった』


『です〜』


 ほんとテレパシーは便利だ。


「ねぇ、君の気持ちは本心かい?」


 一応はこの男も人間だ。寝返っても思うところはあるはずだ。少なくともさっきまでの会話では異常な人間って感じではなかった。


「ええ、本心ですね」


「……洗脳か」


「洗脳?」


「君は洗脳されている、その魔族達に!」


 部屋に響く大きな声。

 それには皆手を止めた。


「はぁ……。何を言いだすかと思えばその様なわけのわからないことを」


「カーナ、洗脳解除の魔法を」


「ちょっとじっとしてて」


「あ、はい」


 男は動かなかった。

 どう言うことだ? 洗脳が解除されても良いのか? 逆に動けば怪しまれるからか?


 色々と考えていたらスペルが完成したようだ。


 洗脳の魔法。その解除の魔法は、どれま高度なものだ。

 構成するまでにはどうしても時間はかかる。


「ブレイクスペル!」


 半透明の玉は男に当たると広がるように光を浴びた。


 そして光が収まった。


「もう大丈夫だ。これで自由だよ」


 だが反応はない。

 いや、もっと別の反応だった。


「もう十分ですか? 洗脳ではないことを理解できましたでしょうか?」


 洗脳が解けていない。


 そんなに高度なスペルを用いたのか。

 この男にどれほどの利用価値があるんだ。


 魔族の洗脳に驚いていると魔王の女が歩いて来た。


「勇者様、私たちは絶対にそのような事をしません」


 そう笑顔で言った。


 ああ、成る程ね。

 この魔王、この男を気に入ったから離すまいと魔法で綱を握っているのか。


「ねぇ、君はこの魔王の女が好きなのか?」


「ふふ、聞いちゃいますか。僕は彼女を愛しています。彼女のためなら火でも水でもなんでもこいです! それに僕たち結婚するんで」


 そこまで聞いて理解した。

 この男に掛かった魔法は魔王の女がかけたものなんだ。


 こういう魔法の解除には二つの方法がある

 一つは、相対するスペルで、掛かった魔法を打ち消す事。

 もう一つは術者の死亡。


 彼には微塵も迷いがなかった。

 それ程までに心を蝕まれたんだ。


「そうか」


『カーナ、魔王の女を殺せ』


『ラジャー』


 カーナの特技は高速で魔法の構成をする事と、魔法の構成時出来上がる魔法の魔力隠蔽だ。

 それは30分かかる魔法でもものの1秒で構成できてしまう。

 今唱えているのは5時間かかる風魔法だ。

 風魔法は流出魔力が1番小さく放った速度は速い。


「ソルシーブリード!」


 それにいち早く動いたのは。




 魔力を殆ど持たない男だった




「リザ!!!」


 女は、その呼びかけに反応するが何が何だかわからない様子だった。だがそれも一瞬で、自分に魔法が迫っていることに気づいた。が対処が出来ないと分かったのか自身を守った


「届けぇ!!!」


 男は魔王の女に飛ぶ魔法に飛び込んだ。






 スバーーーーン!!!

 そして破裂音が響いた。





 ⚫︎リザside


 カイトに呼ばれ振り向くと魔法が急接近していた。


 だけど気づいたところで遅かった。だから最小限のダメージを抑えようと腕で体を守った。





 だけどいつまで経っても痛みは無かった。


 そして、気づけば血まみれのカイトが私を押し倒していた。




「あ、あ、あ」


 カイトが。

 カイトが!


 このままの事を想像してしまうと涙が出てきた。


 嫌だ、離れないでよ! カイト!


「いやああああああ!!!」


 泣き叫んだ。

 大好きなカイトが居なくなってしまうことが、怖くて悲しくて私だけの世界が嫌になって___



「絶対に許さない」



 もうこんな事は終わりだ。

 こんな作戦もう要らない。お終い。


 こんな事されて、ただ黙ってなんか居られない。


「殺す!」


 初めて沸いたこの気持ち。

 憎い憎い憎い! カイトを、何もして居ないカイトを! 私を救ってくれたカイトを! 大好きなカイトを!


「あああああああ!!!」


 絶対に殺す!

 全身の魔力が活性化していくのがよく分かる


 殺す!


「いかん!リザを止めろ!!」


 皆んな私目掛けて走ってきた。


「やめて! 離して! 殺すの!アイツらを、カイトにあんな事したアイツらを!!」


 リザはこの部屋に居た勇者一行とカイトを除く者たちに取り押さえられていた。


「カーティス! カイト君の治療を! 早く!」

「やめて! お父さん離して! お願い! 何でもするから! 離して!」

「じゃあこのまま大人しくしてろ!」

「嫌だ! 離して!!」


 なんで、なんで止めるの皆んな!なんでなんで。


「なんで許せるのよ!」


「何言ってんだリザ。誰も許してなんかいないぞ。皆んな必至に堪えたんだ」


 その言葉には怒気が含まれていた。

 皆んな、怒ってるんだ。


 その事に取り敢えず暴れる事を止めようと、自分を落ち着かすのだった。




 ⚫︎勇者side


 周りからは殺気や怒気が充満していた。

 どういう事だ、お前らにとったら道具のようなものだろ。


 そう思っていると元は温厚そうな顔なのだろうが眉間に皺が寄り、怖くなっていた魔族が睨みつけてきた。


「やっぱり、あっちの人間は殺すべきだったか? 道具など微塵も思ったことないのになぁ」


 老人から感じ取れる程の殺気。強者がもつ覇気。

 その濃さに脚が竦む。


 それよりも驚いた事は僕の考えを読んだ事だ。


「父さんやめてくれ」


「いや、すまん。ついな」


 老人はそう謝りを入れるが殺気が漏れていた。


「お、お前たちにとってなんなんだその男は」


「? そうだな……。俺たちの大切で可愛い娘の、俺たちが認めた大切な婿だ」


「……」


 もう訳がわからない。

 なんなんだ。


 今まで魔王を討つために戦ってきたのになんなんだこの状況!

 それは、ほかのパーティーメンバーも同じでこの状況に目を白黒させていた。


「取り敢えず部屋を割り当てるからそこでゆっくりしておいてくれ」


 男はパンパンと手を鳴らした。


「勇者一行を部屋に」


 そう男が言うと、部屋の外から2枚こちらに向かって歩いてきた。


「こいつらについて行ってくれ」


 僕たちは唯々流されるだけだった。




 ⚫︎カーティスside


 すごい傷だ。


 左半身は殆どが吹き飛び骨が露出していた。

 こりゃあと1秒遅れとったら死んでたな。


 今はワシが出せる最高位の回復魔法を放っていると。


 これは欠損や状態異常、血までも取り戻させる魔法。だが、その為には半分くらいの魔力が飛んでいく。


 汗が浸り落ちる。


「何とか治ったな」


 身体は無事に元どおりになり顔色も良くなっていた。

 さ、後はリザだな。


 治ったは良いが死にかけるカイトを見て一番激しく憎悪したのがリザだった。

 治ったといえど、されたのは間違いない。あの子がどう出るか心配だな。


 そう取り押さえられるリザを眺めるのだった。






 ⚫︎カイトside


 ここは。


 眼が覚めるとアルコールの匂いがした。


 病室か、久々だな。

 こっちに来て、初めて見た場所がここだ。


 そう懐かしんでいると扉が開かれた。


「カイト……」


 リザの声だ。


「リザか……。おはよう」


「……カイト!!」


 するとリザは、俺を見るなり飛び込んで来た。


「おっとっと、大丈夫かリザ。怪我は無かったか?」


 正直あの状況で怖かった事はリザが傷つく事だった。ま、俺が代わりになれて良かった。


 泣きながら抱きつくリザの綺麗な銀色の髪を撫でながらあやす。


「なんで、なんで自分の心配をしないのよぉ〜」


「だって、俺はリザが傷つく姿を見たく無かったから」


 そう言うとまた泣き出す。


「ごめんごめん」


 そう言いながら髪を撫でる。

 強く抱きしめて。


「無事で良かった」




「あ、あのー。し、失礼します、、、」


 リザが落ち着きを取り戻した所に誰か入ってきた。




 勇者パーティーだ。




 彼らは入ってくるなり、余所余所しくすまなそうなそうな表情で黙っていた。その表情は見たことがある。昔の俺のようだった。


 多分、話を聞いたんだろう。

 じゃあ俺から話すか。


「分かってくれたなら良い。それは誰も知らない事だったから」


「本当にすいませんでした!!」


『すいませんでした!!』


 腰をおり、身体を前へ傾けた。

 綺麗なお辞儀。


 それにリザは何とも思わない目で見ていた。

 こう言う時は怒りを抑えている時に出る表情だ。

 出来るなら、このまま首を切り落としたいと考えているのかもしれかい。


「もういいよ。あんたらの誠意は分かったから、だからやめて、話しづらくてさ」


 勇者達は各々姿勢を戻した。


「本当にごめん!」


「いいよ、もう」


「でも!」


「良いじゃん。こっちは唯の街で魔物と魔族が関係ない事を知ったんだろ?」


 そう問うと勇者達は首肯した。


「俺たちの今日の作戦は勇者達との和解、つまりこの状況のために動いたんだ。怪我をするのはちょっち予想外だったけど」


 確率がないわけではなかったがな。


 勇者達は顔を俯けた。


「あーいや、ごめん。そう言うつもりじゃ無かったんだ。計画は途中で崩れたけど、収穫はあったから成功でいいか」


「よいしょっと」


 ベットから下りる。


「勇者パーティーも参加してくれるかな。今からみんなと話をするからさ」


 肩をグルグルと回し「よしっ」と、気合いを入れた。


 第三計画開始だ!


 第三計画。それは、同盟を結ぶというものだった。






「そうですね……。取り敢えずこの情報を持ち帰って、上の方々、王達と話をしたいと思います」


「宜しくお願いします」


 会議では同盟について視野に入れて考えると言うことになった。


「では、この事をいち早く知らせないといけないので帰りますね」


「分かりました」


「あ、僕たちは転移魔法を使えるので報告は直ぐに出来そうです」


「そうかそうか、何とか結んでくれよ。唯々面倒なだけだからな」


「すいません。……カーナ」


「はい〜」


「みんな集まって。皆さん本当にありがとうございました。同盟が決まり次第話に参ります。皆さん本当にすいませんでした」


 勇者達は頭下げて謝った。


「転移」


 そして頭を上げるとカーナが転移の魔法を唱えた。


 ハーリー、シェリル、ジルは終始頭を下げていた






 同盟会議から3ヶ月。

 勇者パーティが漸く現れた。

 その事で緊急会議が開かれた。


「どうだった?」


 お父さんがハーリーに聞く。


「はい、無事に同盟の承認を貰いました」


 そう言って判が押された紙を見せる。


 それを見てみな安堵の息を吐いた。


「何とかだな」


「そうだな」


「ふー、よかったですね」


「それもこれもカイトのおかげよ。本当なら戦っていたと思うし」


 リザは地味に脳筋思考であったりする。


「取り敢えず制約はどうなっておるかの」


 リザのお爺さんが机に置かれた同盟書を手に持ち読み上げた。


 一、人族(じんぞく)への暴行、隷属を禁止とす。又それは我らも同じとす


 一、魔物の駆除は手を組み行う事


 一、魔族を一種族とす


 一、これらの了承のもと同盟は確立す


「大きくはこれか」


「お父さん、この魔族を一種族とすってのはどうします?」


「そうだな、皆はどうだ」


「私はしょうがないと思う。私たちは膨大な魔力で長命になったし、魔力量も質も長い時間で変わったから。それに同じ括りとしては能力面が違いすぎるからね」


 その意見には皆同意のようだ。


「じゃあ、これは了承という事ですか?」


「まぁな。で、後2つだがこれはどうする」


「先ず暴行、隷属はもってのほかです。これは了承です」


 それに反対意見はない。

 これに異論を唱えるのは、危険思考の持ち主だけであり、そんなやつはここにいない。


「じゃあ最後に魔物だが……。これは全種族間で手を組まないとやっていけんからな」


「ですね〜。魔物、何匹でも湧きますから〜」


「だな。騎士団としてもそこに人員を削ぐ事が多いから少なくなるのはいい事だ」


「ワシは賛成だ」


「僕も」


「私も」


「わしもじゃ」


「全会一致だな」


 そう言うとお父さんは、青色のこねられた粘着質の粘土を了承判の所に置き判を押した。


「これで頼む」


「了解しました。では日時は改めてご報告させていただきます」


「ああ」


「カーナ頼む」


「はい〜、転移!」


 ハーリーとカーナはそうして居なくなった。


「さ、皆んな飯を食おう腹が減った」


 お父さんがそう言った。







 それから2日後ハーリーが来て日程を知らせた。

 日程は来週のこの日、昼の12時から王都大会議を開くそうだ。







 ー会議当日ー



 キュッ


 いつもの緊急会議とかではなく他国の王達と会うため身なりに気をつけた


 無地の白シャツに紺のジャケット、それとジーパンという奴だ。


 靴を履き王城を出ると全員準備を終え待っていた。


「あ、漸く来た。カイト、それカッコいい」


「待たせてしまいすいません。一応何着たらいいか、わからなくてシンプルな方を着て来たんだけど大丈夫ですか?」


「うん! 大丈夫だよ!」


 それにいち早くリザが言った。


 それは良かった。

 リザの言葉に頬を染める。


「ごほん。リザ、カイト君。行くぞ」


 お父さんからのお咎めに、さらに顔を赤くしながら歩き出した。




 そして、その日。人族と魔族の間で同盟が結ばれた。

 この同盟はかなり良き成果となり、魔族と人族はより絆を深めた。










「カイト君、ウチの娘を頼むぞ」


 今日は俺とリザの結婚式当日。


 同盟を結び、色々とお祭り騒ぎがあった。

 そんな祭り騒ぎの1ヶ月後、俺とリザの婚約を公言しまたお祭り騒ぎとなった。


 そんな事があった今日、漸く結婚式を迎える事ができる。


 結婚式は外で執り行われ、沢山の人々に見られる式。


 王城の門が開き、リザとお父さんは腕を組みバージンロードをゆっくりと歩いて行く。


 あー緊張して来た!


 リザとお父さんは神父のいる所を目指し歩いて行き、そこに着くとお父さんはそこから退場した。


 さ、行くか。

 花嫁を迎えに。



 これから俺たちは結婚をする。

 結ばれるんだ。



 俺は絶対君を守る、何があっても。

 力で助けられないのなら心の拠り所として。

 絶対に守る。

 そして愛し続ける。


 リザのウエディングドレスのベールを取る。


「では、指輪の交換を」


 リザの細く綺麗な手の薬指にダイアモンド付いた綺麗な指輪をはめる。


「ふふ、恥ずかしいね」


「それは俺もだよ」


 指輪はぴったりだった。



「新郎、カイト。貴方は新婦、アスティリア•リーザ•ガーネットと生涯を共に過ごす事を誓いますか」


「誓います」


「新婦アスティリア•リーザ•ガーネット。貴女は新郎、カイトと生涯を共に過ごす事を誓いますか」


「誓います」


「では、誓いのキスを」



 お互い顔を赤らめながら近づける。


 そして唇を重ねる。


 俺は幸せにする。

 君を、君を愛する夫として。




 皆キスを見届け、どっと歓声が湧いた。

ずっと書きたかったので書きました

誤字脱字あったら教えて下さい


お読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ