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さくらゆき ─ 三日月宗近 ─

作者: 金木犀

「さくらゆき」という架空の桜をテーマとして書かれた一話完結の短編型テーマ連載です。

審神者が登場しますので、苦手な方はご注意ください。


⚠︎今剣 修行表現あり

本丸の縁側から見える庭の一角に植えられた、一本の不思議な木がある。

桜が咲くにはまだ早い、けれども冬というには少し遅い。冬と春の狭間に、何年かに一度たった4日間だけ咲く桜。


「なぁ、主。今度はあれが咲くだろうか」

「どうでしょうか。気まぐれな桜ですから」


まだ少し肌寒さの残る縁側に腰掛け、澄んだ濃紺の空に煌めく数多の光に囲まれた月に照らされながら審神者と共に庭を眺めるのは、その名にも月を宿し天下五剣にして最も美しいと称される刀剣──三日月宗近の付喪神である。


「あれは、どうして咲く瞬間(とき)を見極めるのだろうなあ。はて、付喪神でも宿っているか──」

「宿っていたとしてもおかしくはないでしょうね」


こんなにもたくさんの付喪神に囲まれているのですから、と審神者は笑う。

つられるように、三日月宗近も顔を綻ばせ、ついと再び桜に目をやると、小さく零す。


「叶うならば、咲いてほしいものだ……」

──明日は、あやつが修行に出るからな。


さてもう寝ましょうか、と審神者は腰を上げ三日月宗近にも部屋へ入るよう促す。

うむ、と短く返事をし腰を上げた三日月宗近は、ちらりと桜を一度振り返ったあと、審神者に向き直るとおやすみと声をかけて自身の部屋へと戻っていった。







───牛の刻。

ぽつらぽつらと、淡い桃色の花が開く。

はじめは所々であったそれは、あっという間に枝を埋めつくし、風にさざめいた。

月の光に照らされた花びらは、優しく笑うように柔らかな色でそこに在る。


「あなや……」

「咲きましたね、"さくらゆき"」

「ああ……なんと見事なことか」


審神者、三日月宗近と共に、旅支度を整え桜を眺める小さな少年──彼もまた、刀剣に宿りし付喪神のひとり、その名を今剣。


「あるじさま、三日月。それでは、ぼくはいってまいります」

「気をつけて行ってくるのですよ」

「今剣よ、のたれ死ぬなら…それまで」


修行に旅立つ小さな背中を見送る傍ら、昨夜咲いたばかりの桜はすでに散り始めている。

ひらりと目の前に落ちる花弁を手のひらに乗せれば、それは瞬く間に溶けて消えた。


「雪のように溶ける桜……故にさくらゆき」


──今剣よ。きっと帰って来い。

この桜が、散り切ってしまう前に、どうか。

強く、強くなって、帰って来い。





さくらゆき さくらゆき

人知れず咲き 瞬く間に散る生命(いのち)

暖かな(いろ)は心にやどり

触れた冷たさは瞳を濡らす


さくらゆき さくらゆき

儚さに隠れるその強さは

人の生を写してか 散り際さえ美しく


さくらゆき さくらゆき

さくらゆき さくらゆき


さくらゆき───…

ここまでお読み頂きありがとうございます。

三条はどうしてもシリアスみが出てしまう…。


次回は鶴丸国永を予定しています。

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