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高貴さは強制する

 ごく当たり前のことだがどこの世界にも権利と義務は存在している。


 日本でも教育を受ける権利があり、税金を納める義務があるようにこの世界にもその法則が適応される。


 貴族である俺たちには、この領地を納める権利があり、それに付随してこの領地と領民を守る義務がある……らしいのだ。



 ていうか領主なのは知ってたけどウチが貴族なんて今初めて知ったんですけど。


 みんなは知ってたのかよ?


 そう知ってたのか……


 おいミライちゃんそんな馬鹿を見る目でこっちを見るんじゃありません。あなた貴族が何か知ってるのか?


 えっ?『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない?』『庶民のあなたがここに来るのはふさわしくありませんわ』『こんの、泥棒猫』


 ……うん、一人女王さまが混じってるのはともかくひどく偏った知識だね。


 それ多分典型的な悪徳貴族だから。

 貴族ってのは高潔なプライドと矜持を持った日本で言う戦国大名と公家の合いの子みたいな凄い人達だからね。


 あぁ、ごめんミライちゃん戦国大名知らないのね。

 ……それ元愛知県民として終わってない?




 話は戻るがどうやらウチは貴族だった。しかも爵位は辺境伯。地味に位高いし……


 辺境伯をわかりやすく説明すると国の領地のうち他国と接する国境近くに比較的大きめの領地と大きな軍事権を持った伯爵より位が高く侯爵よりは位が低い役職である。


 ちなみに辺境伯を日本語で訳すと『侯爵』になるらしいのだがこの世界ではその2つはそれぞれ別の爵位なので異世界と元の世界を同一視しないように注意しよう。


 へー、そうなのかって。父さんはある程度理解してないと馬目なんじゃないの?


 あれ、これしかも、もしかしなくても俺次期辺境伯爵じゃね?



 なんで唐突にそんなそんな話をするのかって?


 貴族社会や貴族の仕事だの仕組みだの何だのを一から詳しく説明しようとすると何日あったとしても足りないので今の自分に関係する事柄だけ簡潔にまとめると。


 貴族の息子として、次期アカツキ家当主として学ぶべきことは無数に存在するということだ。


(教育の)鬼が笑った。


 結論、異世界式帝王学1時間目の授業が始まるよ。




 ♂♀




 時の流れは平等でどんなことがあろうとその歩みを止めることはない、例え俺たち一家の中身が変わろうと広大な視点から見たら些細なことに過ぎず、何ら特異なことを起こすには値しないらしい……


 少しおかしなことを話してしまったがこれはほんの少しだけノスタルジックを感じているだけで聞き流してもらっても構わない。


 過去ではなく現在(いま)の話をしよう。この世界で俺たち一家が生活を送ることになってからかなりの時間が経った、かなりの時間というのは季節が一巡つまり元の世界でいうところの一年が経過したという事だ。


 日本人が異国に訪れたとして一年も経てばある程度現地になじめるように、たとえ世界が違っていたとしても生活しているのは同じ人間だたとえ習慣が違っていたとしてもそれだけの時間が経てばこの世界に愛着を抱くこともあるし、俺たちが周りに対して抱いていた警戒心が取り去らわれるのにそれほど時間はかからなかった。


 俺はこの世界に来てからのことをふと思い出して、それからもう1年が経つことに気が付きすこし感傷的になったのだった。



 先ほど現地に馴染むと例を出したように1年が経ち俺たちがこの世界で送る生活は日常の一コマなのだと呼べるようになっていた。


 父のビャクヤ・アカツキは貴族としての仕事に幾分か慣れ領主としての威厳を醸し出すようになり。


 母のセツナ・アカツキは俺に対しての英才教育と並行して教師として教育の場を広げるべく努力をしている。


 弟のイザヨイ・アカツキは魔法に熱中するのかと思いきやアカツキ家が保有している騎士団に混ざって剣をふるっていた。


 妹のミライ・アカツキは勉強して教養を身に着けたり、街をふらついて面白いことを探したり、いろんな人に話しかけて友達を作ったりと恐らく家族の中で一番この世界を満喫していた。


 そんな中、この俺レイト・アカツキはこの一年のほとんどを、勉学に占められていた。


 受験がついこないだ終わってキャンパスライフを満喫できると思いきや、ところ変わって異世界で立派な為政者になるべく帝王学のお勉強だ。朝は朝食を食べてから昼休憩を挟んで夕食の間までの勉強を六日間と一日の休息の繰り返し、という勉強漬けの一年間。勉強内容は文武に及び歴史や作法、乗馬や剣を振ったりなんかもした。

 今思い出すだけでも苦い思い出だ、唯一の休日も休息と予習復習であっという間に消化されてしまう、貴族とかお金持ちずるいなんて思っていた自分はどれほど無知だったのだろうか、権利を持つ者には持つ者なりに義務が有るのだというのに。


 正直受験勉強で身に着けた集中力がなければとてもじゃないがやっていられなかった、精神年齢が19歳だったからよかったものの本物の8歳児だったら泣いて逃げ出していてもおかしくないと思った。




 しかしですねお母さま、今までを振り返ってふと気が付いたのですが一年でひと段落するって勉強の計画ミスってないですかねぇ?




 俺と目線を合わせようとしないお母さまは放っておいて陰気臭い過去ではなく輝きを放っている未来に視点を当てていこう。


 勉強も漸くひと段落が付きこれからも多少はやらなければならない事は在れど俺はようやく念願の纏まった自由な時間として手に入れることができるようになったのだ。





 自由な時間を手に入れた俺がまずやったことと言えばこの一年の間、毎日瞑想を続けて磨きに磨いた魔法を使うことだった。


 魔法を使うと言ってもどっかの馬鹿の様に高威力の魔法をそこら辺にドカンと放つわけではない、というかそのバカのせいで監督者不在での攻撃魔法は禁止になった。

 俺がやろうと思っているのはいつぞやの温泉を造ったように何かしら便利な施設でも造ろうと思ったわけだ。


 そんなわけで無心で土魔法を使って整地しながら考えていて思いついたのが『工房アトリエ』である。

 その理由は俺の中の魔法使いといった存在は自分の拠点や施設なんかをもっていてそこで実験をしたり実験成果や貴重な資料なんかを保管しているイメージがあったからだ。


 というわけで実用3割、暇つぶし7割で自分だけの工房製作を行ったところ思いのほか興が乗り熱中してしまった、およそ東京ドームに匹敵するのではないかと錯覚するほど広大なアカツキ家の屋敷の庭の半分ほどを整地し尽くし、近所にあった森から伐採してきた原木を加工し、自力で工房(小屋)を造り、水魔法で川の流れを思いっきり歪めて水路を造り、スペースが余ったので畑を作り、暇だったので工房を改修して立派な二階建て一軒家が完成した所に母さんが突入してきてお説教が始まった。


 なんでも説明もなしに庭に家を建てられたらさすがに困るといわれた。


 もっともである。


 ただ言い訳させてもらうと、熱中するあまり現実が見えてなかったんや。手段と目的が入れ替わって造ること自体が命題になってしまったんや。何度たいまつと作ろうと思ったか、何度直下堀しそうになったか、言うなればクラフターの血が騒いだわけである。



 魔法なんて言うチート技術があったせいで作業が捗り、現実味があんまりなかったせいでゲーム感覚で進んでしまったという事だ。



 暇だったからノリと勢いでやった今は後悔している。


 そう母さんに釈明したところ頭を抱えられた、おかしいな俺は常識人で通っているはずなのに。


「言っておくけど、一線を知ってる分3人の中でレイトが一番タチが悪いのよ」


 失礼な、ぼくは悪くないきっと娯楽の少ないこの世界の方が悪いに決まっている。



 ♂♀





 俺が暇つぶしに製作(クラフト)した工房は当初の目的通り俺の研究拠点として利用されることとなった、それにあたり2人の使用人と俺に守役としてリイン・ベルトナーが付けられた。如何やらリインには俺のブレーキ役を期待して付けられたらしい。当人は重役のプレッシャーにすでに押しつぶされそうである。


 使用人についてはリインの親戚の子らしく面識があり青髪ショートのリリと緑の髪のショートのルルという名前の双子のかわいらしい少女達だ。彼女たちの年齢は12歳であるがこちらの国では立派な労働力として認識され真面目に職務に取り組む彼女たちの姿はやはり世界の違いというものををまざまざと教えられる。




 色々あったけれど結局今回の出来事をまとめてみると、リインと協力して、可愛らしい双子に手伝ってもらいながら自分が興味を持った事柄を調べる事が出来る拠点が完成したというわけで、これでテンションが上がらない筈がないだろう。まず初めに俺はいろいろと足りない道具集めから始めるのであった。



 前の世界の俺は趣味で「読書」と言うことが出来るくらいには本を読んでいた。ジャンルは特にこだわりはなくライトノベル、推理小説、歴史小説、ホラー、童話、海外文学、SFと知人の影響が色濃くあれど幅広く読み漁っていた。


 そんな読書家な俺から一言言わせてもらえばこの世界の蔵書については特に不満はなかった、辞典や図鑑の類は前の世界と共通点がある植物があって進化の可能性を感じたり、「どんな魔界の植物だよ」と突っ込みたくなるような奇抜なものまであって一日見てても飽きないし。歴史や過去の英雄譚なんかはSF小説みたいで面白い上に勉強した内容での前知識がある分読みやすいし。魔法について書かれた本は前の世界にあった黒魔術や催眠術みたいな怪しげな本を彷彿とさせるから少し不信感を持っていたが中には魔法について理路整然と記していたのもあってとても参考になった。


 要するにこの世界の書物の内容に対しては特に不満はないのである。中には面白くもなんともないはずれな作品もあったが、まあ何か物を作る上ではそれは付いて回る代物だ。




 内容に不満はない、では何に対して不満を持ったのかというと本の品質に対してだ。


 なんと本の半分以上の原料は何らかの皮を使った羊皮紙で紙の本も存在はするがあまり普及はしていない、文字にしてもインクで一つ一つ手書きである、傷んで居たり書き手によっては読むのが困難な作品もあった。


 今回は「本」についてを例に挙げて語ってみたが此処の生活では前の世界に有ったものに比べると明らかに数歩劣る物品があるのだ、そんな道具なんかを少しでも改良して暮らしを楽にできたらいいなと思って造ったのがこの工房である、半分以上趣味の面も混じってはいるが。





 さて準備も順調に進んでいることだし、何から手を付けたものかな……



 俺は頭の中にあると便利なもの、作成方法を鑑みて実現できそうなものを幾つかピックアップしてから……




 全部破棄した。




 まず最初は愉悦(たのしい)いことから始めよう。


 心の中でそう決めた俺の顔にはうっすらとした笑みが浮かんでいたのだった。

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