第3話 ★ 少女の思い ★
リーリンは家の地下室にいた。そこは十年前からリーリンが魔法を作り出すために使う部屋だ。そう、十年前というのはリーリンの両親が死んだ年である。かつて、両親も魔法を作り出すために使っていた。才能は親子、遺伝子間で似るという。マリーグラム家は二代に渡って魔法の研究と新魔法の創造をしているということだ。
だがいくら才能が同じ、いや似ていると言ってもリーリンと彼女の両親では研究をする目的はまったくの正反対だった。
リーリンの両親は戦闘が趣味だった。別に戦闘狂というわけではない。その戦闘に勝つために従来の魔法に対抗あるいはそれに打ち勝てる新魔法を開発していった。そのため「ストロンガー」(最強)と渾名されるようになっていったのだ。そして、今から十年前に王国の秘密裏な命令で動いていたある貴族による陰謀によって新魔法のプロセスなどを強奪され、その際に受けた傷が元で死んだのだ。
それに対してリーリンは別に戦闘などにはこれっぽちも興味がない。ただ、両親が次々に新魔法を開発していくそんな姿に憧れただけだ。といってもそれだけというわけでもないのはもうわかっているだろう。そう、両親を新魔法のプロセスごときで殺されたのだ。復讐の念が起こらない者の方が異常だろう。そのためにまず「グレンダル闘技大会を潰す」と考えている。だからこそ、リーリンはひっそりと地道に新魔法の開発をしてきた。
そして今、リーリンは細部は異なるものの王国によって両親と似たような状況に追い込まれていた。
「さあ、始めましょう」
リーリンは新魔法の研究内容を書き込んだ羊皮紙を抱えながらクロイツェルの前に姿を現す。といっても十数枚の羊皮紙をくるくるっとまとめて細くしても女の子が持てる量ではない。もっとも男でも無理だが。羊皮紙たちはリーリスの開いた掌のおよそ1㎝の所を微動だせずに浮いていた。つまり、リーリンは重力制御魔法を使用していた。
その光景はクロイツェルを驚愕させるには十分だった。
「な、何だと!? 重力を制御している、だと!?」
それも無理はない。クロイツェルが知っている魔法は重力魔法であって、重力制御魔法ではないのだから。では、両者は違うのか。もっとも実質的なことは魔法名でわかると思うが、重力を意思で制御できるかどうかにある。今までの魔法は重力解放、重力復元しかできなかった。例を挙げると、人が自身に重力解放を使用すれば地上から浮上できる…のだが、使用したまま放っておくと、そのままお空へサヨナラの状態になる。じゃあ、重力復元があるから大丈夫…というわけでもない。重力復元はただ元の地面からの引力を復元するだけの魔法なのだから、そのまま使用し続ければ地面を抉るかの如くぶち当たって無惨な状態となる。実際にそんな事例がいくつもある。さらに重力魔法は発動プロセスが難しい。だから、重力魔法は「アフレイド・マジック」と呼ばれている。こんなじゃじゃ馬な魔法であるから仕方がないだろう。
だから、クロイツェルは驚愕した。物質にかかる重力を完全に制御できているのだ。それだけなく魔法は人が自身にかけるのはそう難しくない。というか簡単だ。一方で自身以外の物質に魔法をかけるのは少々難易度が上がる。それらのことから、クロイツェルは驚愕したのだ。
そんな思いをリーリンは知ってかどうか、まるで自分が重力制御魔法を使えるのを見せつけるかのように羊皮紙の塊を自分の掌からクロイツェルの方へとゆっくり空中を滑らせていく。そしてそれらは両者の中間くらいで止まる。
「それで、決闘スタイルなのはわかったけどルールは?」
「あ、ええと」
まだリーリンが滑るようにしてお互いの中間くらいまで移動してきた羊皮紙をまるで幻を見るように、眼が飛び出るほど食い入るように見つめていたクロイツェルはリーリンの声で現実に引き戻される。
「あ、ええと魔法は何でもありだ。武器も自由」
「わかったわ。で、私の賭ける物は研究書だとしてあなたは、何を賭けるの?」
「賭ける?」
「当然でしょ?私がわざわざ決闘を受けるって言ってるのよ。その代償はあるべきじゃない」
もちろん、そんなことはない。通常の決闘ならいざ知らず、王命による決闘はその代表が負う責任は本来はない。
クロイツェルはリーリンの勇ましさに感服していた。
「……いいだろう。だが、あいにくと私には今賭けられるものがない。お前が決めてくれ」
「いいですよ。でしたら、私の戦力になってほしいの」
「せ、戦力、だと?」
リーリンはこの先、自分の成し遂げたい事が独力で成し遂げられるものではないと悟っていた。必ず、いつかは自分だけでは間に合わなくなる時期が来ると。だから、これを言い出したのだ。それも実力は定かではないが、仮にもクロイツェルはインペリアル=ロイヤルガード。弱いはずがない。
「そう。もし私が勝ったら私の成し遂げたいことに手をかしてほしいの」
「先にきいてもいいか? お前が何を成し遂げようとしているのか」
「それは無理ね。もし万が一私が負けたり、あなたが尻尾を巻いて逃げて、私が追撃できなかったら大変な事態になるから」
それはその通り。グレンダル闘技場を潰すのは王国に謀反を起こしたも同然。おいそれと人に言えるはずがない。
「了解した。では始めるしようか」
そう言って、クロイツェルはポケットからコインを取り出す。
「このコインを今から投げる。それが地面に着いた時、決闘開始だ」
リーリンはクロイツェルの言葉に頷く。
それを確認してクロイツェルはコインを指で弾く。コインはやや上がってそして地面へと落ちていく。
そして、下でチャリンと音がしたとき二人の周りが異なる色の光で覆われた。
次話では魔法戦闘があります。
お楽しみに!!
投稿は3月22日午後11時までを予定しています。