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第2話 ★ 招かれざる来訪者 ★






ーヨンナム村ー


 グレンダル王国南部ヨンナム村にはおよそ百人程度の老若男女が暮らしている。この村は四方を山に囲まれている。雨でできた川によってきれいな水を確保でき、食物も山の恵みがたくさんあるのでまったく不自由がない。村人たちはそこに家を拵えて牛や馬、あるいは羊を飼って自給自足の生活を送っている。まさに田舎と呼べる村で」ある。


 その村に一人の少女がいた。


 リーリン=マリーングラム

 綺麗な茶髪をツーテールにして、少し幼い印象の可愛い顔をしている彼女の名である。

まだ15歳だが、リーリンの住んでいる家に人は他にいない。それは親が出稼ぎではないということだ。リーリンは8歳のときに「グレンダル闘技大会」で両親をなくした。その悲しみは今でも消えていない。だが、彼女は考えないようにしている。ある意味性格のせいではあるが、「考えても仕方が無い」と理解しているからだ。もちろん、それだけで彼女は生きてこられたわけではない。彼女には心で決めている目標、いや志があった。


『いつか両親の仇を討つ』


 そのリーリンの家に一人の男が来ていた。その男の服装はヨンナムの物ではない。どこからどうみても他所から来たことがわかる。では、なぜここに来ているのか。数分前に遡る。


 リーリンは朝食を食べ終わってヨンナム童謡を歌いながら皿洗いをしていた。そんなとき、呼び鈴が鳴らされる。回覧板にしては時間が早いけど、と思いながらドアを開けるとその男がいたのだ。時々、首都アイアスに行ったことのあるリーリスは男の服装がアイアスで流行っているものだとすぐにわかった。よって、すぐさまドアをピシャリと閉める。なぜ、アイアスの男がここに来たのか。リーリスは大方把握していた。だから閉めたのだが、残念ながら男の足が咄嗟に入れられてしまったことで失敗に終わる。


「リーリン=マリーングラムか?」


 リーリンは男が自分の名前を知っていることからして、やはりそうかと毒付く。


「そうですが、どなたですか?普通自分から名乗るものでしょ」

「これは失礼した。私はインペリアル=ロイヤルガード所属、レオナルド=クロイツェルと言うものだ」


 インペリアル=ロイヤルガード。別名、王国近衛兵。それはグレンダル最強の戦闘部隊であり、リーリンの親のかたきである。


「それで、王国最強部隊のお方はこちらに何用で?」


 インペリアル=ロイヤルガードは王、貴族と来た次に一等軍という階級を持っている。一方でリーリンはただの一般人である。階級は二等軍、三等軍の次の市民に当たる。つまり、クロイツェルはリーリスにとって明らかにお偉い方。王法第3条にも「階級が下の者は上の者に遜るべし」と記されているのだから、リーリンは最低限度として敬語を使用するべきなのだが、彼女にその気は毛頭なかった。これを他の人が聞いたら「怖いもの知らず」と呼ぶレベルなのだが。


「貴様の発言は些か癪に障るがまあいい。では、国王からの勅書を読み上げる。リーリン=マリーングラム、そなたに魔法研究の報告書の提出を命じる。また、直ちに王都に参上せよ、以上だ」

「拒否します」


リーリンは勅書と理解していながら、あっさりと拒絶の意を示す。


「少し国王に対して失礼ではないか?」


 クロイツェルの眼が鋭いものになる。だが、それに対してもリーリンは一切怯まなかった。いや、それどころか身動きひとつしなかった。勅書と言われて何も反応しないのだから当然といえば当然かもしれないが。


「構わないわ。法にも然るべき事情があれば第3条はその力を失うと補助法に書いてあるわ」


 補助法は例外の措置が必要なときのために作られた+αのような存在で、あまり知られていない。リーリンが言ったことも確かに補助法の第1条に記されている。実は過去にどうしても王法にて対処できなかったことが緊急事態が生じて、例外対策として作られた。だから、知っていれば法的力は王法と同じ力を持っているのでそれはそれはとてもお得なのだが、何分上流階級の者にとっては面倒くさいことが生じる部分があるので、裏の法という形で世間一般からは存在自体が隠されている。そんな裏法をどうしてリーリンは知っているのだろうか?


「よく知っていたな」


 クロイツェルとしては感心せざるを得ない。何せ補助法の存在を知っている市民は王国中でも手に握れるほどしかいないであろうから。


「ならば、補助法第6条に補助法第3条を適用なれど、王命に関してのみ王およびその代理が必要と考えるとき決闘を認める、と」


 リーリンは溜め息をつく。もちろん第6条を知らないはずがない。この後が面倒なので思わず出てしまったのだ。


「それであなたは私との決闘を望むと」

「そうだ」


「わかったわ。そこのベンチにでも腰を掛けてて」

「あ、ああ」

 クロイツェルとしては家に通されると思っていたのだが、あまりに粗雑な扱われように口

を開けてしまった。と、リーリンは考えていたのだが本人の意思は些か違った。クロイツェルにも似たような過去があったからだ。インペリアル=ロイヤルガードなどの部隊は指揮官こそ貴族ではあるが、兵士は大半が元は市民だ。上位階級を貰って昂揚する者もいれば元は同じ市民に対して哀れみを感じる者もいるわけだ。クロイツェルは後者の方だった。


(俺はこんなことをするために兵士になったのではないんだが)


 クロイツェルは頬に触れたそれを触って心で呟く。


 叛逆と捉えかれない隠さざるをえなかった己の志を、彼は忘れてはいなかった。






第2話は終了です。


第3話投稿は3月21日午後12時までを予定しています。

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