第1話 ★ 少年、異世界へ転送 ★
以前から書きたかったファンタジー系の物語をやっと始められます。
皆さんに楽しんでいただけるような作品になるよう全力を尽くします。
途中、誤字などがありましたら指摘をお願いします。
また質問などがございましたら、お聞きください。
それでは、お楽しみください。
★ 異世界転送物語 ★~思い出せ、お前がしたかっことは何かを!!~
ーとある大学病院ー
ここは都会に存在する大学病院の一つ。医療面では癌治療において都内のみならず、全国的にもそこそこ名を刻んでいる。だからとて夜までぶっ通しで仕事をしているはずがない。しかし、今の時刻はまもなく夜の十二時を回ろうとしているのに、一箇所だけ窓から光が漏れているところがあった。
三村 弘一
もう真夜中というのに電気がついている部屋の表のプレートにはその名前が入っている。30歳で教授。教授にしてはかなり早い出世だったから医者の世界ではそこそこ名が通っている。弘一が早くに出世できたのは、数々の功績があったからだ。過去の癌の摘出手術にミスは一切なく、尚且つその後のケアが非常に親切だと評判だった。そこで、教授職が弘一に舞い降りてきたのだが、彼には別に興味はなかった。彼にはやりたいことがあったから、医者になった。そのために大学をトップの成績で出て、優秀な医者と呼ばれるまでになったのだ。そして今日、彼が目指していた目標の第一歩が始まった……のだが、それには協力者であるやつが来ないのだ。
弘一は今、自分のデスクに肩肘を付き、頭を支えている。開いた手はペン回しをしている。誰が見てもこんな暇そうにしている医者を深夜勤務中の医者とは思わない。まさにその通り。さらに断っておくが、決して夜間勤務に回されたからいるわけではない。人を待っているのだ。本来ならそいつはもうとっくに来ていてもおかしくない。それどころか、弘一の本来の予定ならもうその件を終わらせてさっさと帰りって寝る用意をしている、はずだった。
ボーン、ボーン、ボーン、ドッカーン……。
部屋に置いてある振り子時計の時報の音だ。なぜか、いつもと違って聞いてはいけないような音がしたのだが、弘一の耳には最初の音しか届いていなかった。もうこのかなり渋い鐘の音を五回も聞いているのだ。そりゃ五時間も待たされているのだから、当然といえば当然かもしれない。良い加減、堪忍袋の尾が切れそうになっていたそのとき、そいつはノコノコとスライドドアの向こうから姿を現した。
時谷 深夜
それが入ってきた少年の名前だ。年齢は18歳。容姿は身長が高く、顔も良い。世間ではイケメンと呼ばれる類に入る。勉強の方はと言うと、とても優秀。まさに非の打ち所が無いように思える深夜なのだが、そこそこ長い付き合いで弘一は深夜が二つだけ完全なる欠点があると感じている。
「遅すぎだ!! 一体、何をしていたんだ!!」
いつもは穏やかである弘一だが、どうしても叫ばずにはいられなかった。相手をひどく待たせているのだから、部屋に入ってくると同時に詫びの一言でも入れるならわかるが、深夜は如何にも知らん顔を装って堂々と自分の前の回転イスに腰掛けたのだから。そう、一つ目の欠点は深夜が時間というものに対して非常にルーズなこと。おかげで、弘一は何度煮え湯を飲んだことか。
「……準備はできているのか?」
だが、弘一の一般常識は深夜には通じない。今の深夜の言葉は弘一の言葉とまったく関係がない。そう、深夜のもう一つの欠点は自分の都合しか興味がないことだ。別に秀才と呼ばれるだけの頭を持っているのだから、聴覚も悪いはずがない。
「できてはいるが。お前、詫びの言葉を一つくらい言ったらどうだ?俺はお前のせいで五時間も待ってたんだぞ!!」
弘一はその反応を聞いて半ば諦めてはいるが、さすがに詫びの一言は欲しかった。
「なら、行くか」
深夜のその応え。それはもはや弘一の声がほとんど届いていなかったこと意味している。いや、届いてはいたのだろうが深夜は「できている」という言葉以外にしか反応しなかったのだ。弘一としてはもはや言いたいことが山のようにあったのだが、深夜とはまともに話ができないことを前から気づいていたので仕方なく矛を収める。それに目標の第一歩が踏み出せたんだから、と自分に言い聞かせる。
「わかった。付いて来い」
弘一はドアをスライドさせて、近くのエレベータホールに向かう。乗ろうとしているエレベータは三つの内、左端のエレベータだ。それしか目的の場所に降りていかないのだ。
やがて、エレベータのドアが開く。弘一はゆっくりと乗り込む。深夜はスタスタと乗り込む。その姿にはこれからやろうとしていることに対しての恐怖がまったく感じられない。
弘一は階層ボタンの横に設置されているカードリーダーに自分専用のIDカードを翳す。するとエレベータは自動的に目的地を認識する。階層パネルには存在しない所へ……。
PF階。
Pandora Floorを略してそう呼ばれている。ご大層な名前が付けられているが特に危険なところではない。もちろん、生物兵器とかがあるわけではない。精密機械が多々、そこに保管されているために関係者以外の立ち入りを禁じるのが目的だった。しかし、外部の人間に
PF階に着いて弘一はその突き当たりのドアへと歩く。深夜はやはりその後ろを歩いている。ドアには先ほどより厳重な警備のためにカードリーダーのみならず、指紋認証まで設置されている。弘一はカードを読み取らせ指を機械に乗せる。数秒して、グリーンのライトが点灯する。認証完了の合図だ。横のコンクリートで出来たドアがゆっくりと、重々しそうな音を立てながら開いていく。その様子はまさにパンドラの箱を開けるようだ。
「慌てるな」
深夜は弘一がドアが開ききるのを待てないかのように、弘一の待ての合図を無視してまだ開ききっていない隙間から体を滑り込ませて入っていった。本当に深夜は自分のことしか考えていないんだな、と弘一はある意味感心しながらやれやれと弘一は首を振った。
弘一は部屋に入って電気を付ける。暗闇から現したのは周囲をガラスで覆われた筒型の箱のような機械だ。もっとも箱といっても縦2m、横1mと巨大だが。何より目立っているのはそのすぐ上にある中枢だ。これが2階層分の高さを持つのだから当たり前といえば当たり前だが。
Body Of Human Transfer
これがこの機械の名前だ。通称は「ボース」。日本語に直すと人体転送と言う意味であり、人体を異世界に転送するためのゲートみたいなものだ。
「良いのか?体が吹き飛ぶ(死ぬ)かもしれないんだぞ」
弘一はどこかそんなに乗り気ではなかったこの計画。いや、乗り気ではあるが動物に対する影響がまったくわかっていないのに、いきなり人を被験体にして良いものかまだ考えあぐねていたのである。
だから深夜に問う。
「心配するなら俺のことより機械の心配をしろ」
深夜の台詞は弘一の質問に対して回答として成り立っていなかったが、弘一はそれが肯定を意味するのだと付き合いで理解している。弘一は中枢の主電源を入れる。自動的に中枢自身が行う中枢の調子はグリーン(異常なし)を示している。
「準備は良いな?」
ガラス張りと言っても外との空気の出入りをも完全に遮断する。それは例え地球上で最も小さいと言われている素粒子でさえも受け付けない。だから、弘一の声は制御室のマイクからボース内のスピーカーを通して伝わる。だがまるでこれから洗礼の儀式を受けるかの如く目を閉じて肩の力を抜いている深夜は一言も発さず(ボース内にマイクはある)、首さえ僅かながらも動かさなかった。そういうやつだもんなと内心で呟きながら弘一はボースへの電力供給を開始するスイッチを入れる。途端にボース内はオルトポジトロニアス光が現れる。それを見て、弘一は電力の供給を調節するレバーを一気に前に倒す。途端にオルトポジトロニアス光がボース内を埋め尽くす。その光はこの部屋の電灯よりも強く、まるでそこに太陽が出現したかのようになる。弘一は専用のサングラスをかけて、制御室からただその光景を見守る。
やがて、まぶしいくらいの光が収まったとき、そこには誰もいなかった。
実験は成功した。
これで第1話は終了です。
次話投稿は3月18日午後12時までを予定しています。
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