無作為
県営住宅の一室。僕は高校時代の旧友と久々の再会をしている。
「夜景を眺めながらの再会なんて、風情があると思わないかい?」
「意味がわからないね。どういう状況なのか説明しろよ」
「僕がこれから起こす殺人事件の被害者になってもらおうと思って。旧知の仲だし、それくらい引き受けてくれるって信じてここに呼び出した。残念だけど明日の同窓会には参加できないや、一日早い同窓会になったけど許してね」
「何を言ってるんだお前は!復讐か?それとも私怨か?」
僕の話を聞いた旧友は手足を縛られたまま叫んだ。当たり前だと思う。予想通りの反応だ。つまらない。
「冗談は言ってない、本気さ。僕は殺人犯になる。君には一番の被害者になってもらう予定だ」
「考え直せ!そんな事して誰が得するんだ!」
「誰も得しないよ。損得の問題じゃないんだ。これは高校時代の教えを活かすチャンスなんだよ」
旧友は、今にも殴りかかってきそうな目で僕を睨んでいる。縛っていなかったら殴られていただろう。
「僕の計画はすでに準備してある。僕を殴った瞬間に作動するとか、僕を押さえつければ止まるとか、そんな計画じゃない」
「何が目的なんだ!お前が何を考えてるのか、全然わからない!気持ち悪い!」
旧友が騒ぐ。目元が濡れている気がする。旧友の拘束を外し、床に投げ飛ばす。
「あと五分くらいで予定している時間になるキッチリ計画された犯行さ」
本当はあと一分だ。旧友は、床に倒れ込んだままだ。動かない。殴りかかってくると思ってたのに……。
「さぁ、始めようか。僕の殺人事件」
旧友はやっと立ち上がった。僕を殴るために近づいてくる。残念。君は残されていたチャンスを床に這いつくばって逃したんだよ。
轟音。部屋が揺れる。向かい側のビルが爆発した。予定通りに。窓からは燃え上がり、崩れ始めたビルと、逃げ惑う人々が見える。きっと何人も助かっていない人がいるだろう。
「はじまった。どうだい?特等席だろ?僕の無差別殺人」
旧友は無言のまま窓の外を眺めている。怒りのような、悲しみのような、グチャグチャな表情をしながら。これが見たかったんだ。こんな表情するのか。僕の復讐。高校時代の旧友は、床を殴りながら咽び泣きを始めた。何か叫んでいるようだが、爆破と崩壊の轟音で聞こえない。高校時代の親友。大学に入ってから僕をいじめるようになった旧友に、僕ができる最後の反撃。僕はちゃんと聞いてもらうために旧友の耳元で囁く。
「イジメや差別はダメだって、君も先生に教えてもらったでしょ?」
囁き終わると同時に僕の復讐の轟音が、非日常となった街を襲った。逃げる人を巻き込むために準備した二度目の轟音の音だった。僕の復讐はまだまだ、終わらない。
読んでいただきありがとうございます。
「無作為」と「無差別」
意味があまり変わらない言葉を利用させていただきました。
無差別をタイトルにすると面白くないとかんじたので。