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新任大公の平穏な日常  作者: 古酒
二年目の日常
26/52

11.選定会議に出席するのは二度目です

 俺にとっては二度目の選定会議が、その日行われた。

 一度目は自らの大公位を認定してもらうため、二度目の今日は他者を認定するため。

 今回、俺の席順は円卓を一つあがった。

 かつてマストヴォーゼが座っていた大公位第六位、その席に腰を下ろす。右手に大公位四位のウィストベルが、そして左手に新任の大公が座ることとなる。従来の大公で移動があったのは俺のみだ。


 ウィストベルはまだ来ていない。また、この間の選定会議の時みたいに、魔王様と……うん、あんまり深く考えないでおこう。

 陛下を入れるとデーモンとデヴィルは綺麗に四対四、しかも右手と左手にきっちり分かたれている。誰かが謀ったかのようで気持ち悪い。


 っていうか、今の時点で席についているのは俺だけだ。

 なにこの、つい嬉しくって早くにきちゃった、てへ、だって新参なんだもん、みたいな状況。

 俺恥ずかしいの? 今、恥ずかしい感じなの?

 四隅に真面目な顔して立ってる衛兵たちに、「プッ」って内心で笑われちゃってる感じ? まさか、そんなことないよね……。

 ちょ……ちょっと、席をはずそうかな……?

 それともどっしりした態度で座って待ってた方がいいかな?


 そんな風に迷っていると、扉が開いて、サーリスヴォルフが入ってきた。

「おや、今回は早いね、ジャーイル大公」

「ああ、サーリスヴォルフ大公」

 大公五位である彼(今日も男)の席は、俺からは新任の席を挟んだ一つ向こうだ。

「この間は会議も早々に終わってしまって、すぐに帰ることになったから、君とはあんまり話もできなかったよね。残念に思っていたんだよ」

 そう言いながら彼はにこやかに席に着いた。

 うーん。確かにサーリスヴォルフはちょいちょい挑発的なことも言うが、一見したところ、デーモン嫌いには思えないんだけどな。普通に会話できるし。

 まあしかし、俺は所詮まだ新任。相手の表面的なところしか見えていないのだろうが。


「で、本当のところ、どうなんだい?」

「本当のところって?」

「ベイルフォウスさ。君の妹御に入れあげているって、この間の会議の時にいってたろ?」

 あ……ああ、そういや、そんな誤解を受けてもしかたない流れだったっけ……。

「いや、入れあげてるっていうか、ふつうに身内のようにかわいがってくれているだけだよ、ベイルフォウスは」

 大丈夫、俺、ちゃんと否定しておくから。ベイルフォウスのためというよりむしろ、今後のマーミルの評判のために!

 年頃になった時に、あんな女癖の悪い男と噂がたっていたら、まとまるものもまとまらないからな。

「ほら、ベイルフォウスは兄しかいないだろ。それでうちの妹のことを、自分の本当の妹のように可愛がってくれているんだ。ただ、それだけのことだよ」

「へえ?」

 サーリスヴォルフは俺の言葉をずっとにこにこ笑って聞いてはいるが、その真意は読めない。


「そういえば、新しい大公はどんな感じ? 君、立ち会ったんだろ?」

「ああ。えっと……確か、見受けられる限りでは、ラマの顔にトカゲのしっぽ、人の手足に羽虫の翅を生やしていたような……」

「へえ、それはなかなか期待できる容貌のようだね」

 あ、ごめん、そこら辺は俺には判断しかねる。デヴィル族の審美眼は持っていない。


 新任大公に対するサーリスヴォルフとの会話は、プートとアリネーゼが一緒にやってきたことで、中断された。サーリスヴォルフがアリネーゼの姿を見るや、すぐさま席を立って側に寄っていったからだ。

 そしてすぐさま始まる甘い台詞のオンパレード。

 うーん、ベイルフォウスといい、この見境ない本能感。


 それから間もなくベイルフォウスとウィストベルが続いて到着し、魔王陛下が新任の大公デイセントローズを率いてやってきた。

 全員が席につくと、すぐに会議は開会された。俺の時と同様、大公たちに否を問うプートの声だけが響く。そして誰一人異を唱えることはなく、あっさりと閉会した。


 俺は一番乗りだったんだし、帰るのも一番に帰ってやろう、と意気込んで席を立つ。

 前回のことが引っかかっているらしいマーミルから、今日は早く帰ってくるように、と言われたことも影響しているといえば、している。

 だが、プートの発言で、俺は留まらざるを得なかった。


「陛下、せっかく大公がそろったことですので、私から皆に決をとりたい事案がございますが」

「なんだ、申してみよ」

 俺は渋々、席に着いた。

「御前会議のことにございます。この」

 プートは末席のデイセントローズを手で示した。

「デイセントローズの挑戦により、随分早くに閉会してしまいました。あれではとても、御前会議を行えたとは言い難い状況。ぜひとも、期間を置いて再度、招集していただきたいと思うのですが」


「あの会議をもう一度、じゃと?」

 プートの提案に難色を示したのはウィストベルだ。

「それほどにあの会議が重要であろうか?」

 俺と同じ赤金の瞳が、きらりと光ってアリネーゼを捉える。おいおい、ここでこの間の続きとか勘弁してくださいね、お姉さん方。

 幸いなことに、アリネーゼは今回はウィストベルの相手はしないことに決めているようだった。視線もあわさずに、ツンとしている。

「まあ、そうだね。四年に一度しか開かれない会議だからね。いいんじゃないかな? 私は賛成だね」

 そう言って手を挙げたのは、サーリスヴォルフだ。

「俺はどうでもいいな、別に」

 吐き捨てるように言ったのは、ベイルフォウスだった。うん。お前は随員も少なかったもんね。最初からどうでもいいってのが見え見えだったね。

「では、プートの提案通り、決をとることにしよう。賛成の者は起立を。反対の者はそのまま着席を」


 ちなみに、会議で採決をとる場合は、魔王様は参加しないらしい。七人の大公の意見の、多数決で決定するのだ。

 そして現状、起立は四人、着席が三人。

 結果は見事にデヴィルとデーモンに分かれていた。

 俺が着席したままだったのは、正直面倒くさかったからだ。

 が、多数決により、開催が決定される。

 また随員を決めるのか……いや、まあ、決めるの俺じゃないんだけどね。


「時期について、意見はあるか?」

 魔王様が言い出しっぺのプートに尋ねた。

「デイセントローズも落ち着いてからの方がよろしかろうと思いますので、半年の後ではいかがでしょう」

 またこれも決をとるのか? と思っていたら、あっさりと魔王様がうなずき、それで決定のようだった。

「よかろう、では賛成多数により、これより半年後に再度、御前会議を開催する。各大公は改めて随員を定め、準備をしておくように。詳細は魔王城より出す使者を待て」

 魔王様がそう言い渡すと、プートは深く頷いた。

「では、これにて解散――」

 今度こそ、と、俺は立ち上がる。

 だが、またも帰宅を阻止する者が現れた。


 退席する前に今度はすかさずデイセントローズが立ち上がり、こう切り出したのだ。

「今回は、わたくしの大公位就任のため、こうしてお集まりいただきましたこと、皆様のご厚情に深謝いたします」

 なんか、長そうな挨拶がはじまった。

 仕方がないので、俺はもう一度着席した。

「そこで、ぜひ、皆様とお近づきになりたいと存じまして、一ヶ月の後には我が城にご招待し、心ゆくまでご歓待させていただきとう存じますが」

 俺はデイセントローズをじっと見つめた。

 おい、就任後の舞踏会でも開く気か? 俺の時は止むに止まれぬ事情があってそうしたが、別に強制的な慣習ではないというのに……。


「いかがでございましょうか? この場でご賛同いただけるようでしたら、すぐにでも招待状を用意し発送したいのですが」

「そんなの」

 ベイルフォウスが嘲笑を浮かべて右手を振る。

「好きにしたらいいじゃねぇか。誰の賛同もいらんだろ。招待状が届きゃあ、行きたきゃいくし、行きたくなけりゃいかねえ」

 え、そうなの? じゃあ、みんな一応俺の開いた舞踏会には、来たいと思ってくれたってことでいいの?

「いえいえ、是非とも皆様におこしいただきたい。私はそれまで、いっさいどなたの城をも訪ねぬつもりですので」

 それってつまり、誰とも同盟を結ばない、結ぶ相手はその催しの後に決めるってことか? まあ別に必ず同盟を組まなければならないと決まっているわけではないし、組むにしても期限があるわけじゃないが。

 だいたい、今の発言は自分と同盟を結びたかったら食事会に来いと言っているようで、ずいぶん横柄に感じる。正直、別に俺はお前と同盟なんてくめなくてもいいんだけど、とか言ってやりたくなる。


「それこそ俺には関係ない。好きにすればいい」

 あ、実際に言った奴がいた。

 ベイルフォウスはそう言い捨てると、席を立って部屋を出ていってしまった。

「ベイルフォウス大公には、どうやらわたくし、嫌われてしまったようですね」

「気にするな。あれは元からああいう勝手な性格だ。悪意あってのことではない」

 兄としてか、それとも魔王としての立場からか、ルデルフォウス陛下がフォローを入れる。

「しかし、ベイルフォウスが言ったこともある意味正しい。そなたが会を主催しようというのに、この場の承認は必要ない。好きにいたせ」

「は」

 デイセントローズが腰を折る。


「では改めて、解散といたしましょう」

 魔王に続いてプートが宣言し、今度こそ俺は家に帰るためにその場を後にしたのだった。


 ***


「お兄さま、お帰りなさい。今回はお早いですわね」

 お前が早く帰ってこいといったのだろう、妹よ。

 ちなみに、妹はこのところ少し神経質だ。

 というのもやはり、マストヴォーゼの大公位奪取が影響しているようだ。


 マストヴォーゼがデイセントローズに破れた二日後、俺は約束通り、彼の妻と娘たちを家臣に迎えにやった。

 そして現在、俺の城の一棟の多くを占めて、スメルスフォと彼女の娘二十五人が滞在している。

 一人でも成人し、かつ爵位をもつ娘がいれば、俺の城に全員でやっかいになるのではなく、娘のところに一部なりと身を寄せるという手もあったろう。たとえ爵位をもっていなくとも、成人してさえいれば家人として雇い入れることもできるが、あいにくと二十五人全員未成年なのだから客人扱いだ。

 もっとも城は広すぎるくらいなので、部屋はまだまだ余っているし、もとからデヴィルの多い城なので、彼女たちが増えたところで違和感もない。


 が、それはあくまで俺の見識だ。

 妹にとってはそうはいかなかったらしい。頻繁に仕事で食事を別にする俺と違い、妹はマストヴォーゼの一家と三食を共にしている。それにもともと、娘たちとは年も近いこともあって、仲良くしていたようだし。

 そうでなくとも、やはり父を失ったばかりの相手に、妹も気を使わざるを得ないのだろう。あれやこれやと世話を焼いていると、エンディオンから聞いている。


 俺たちの両親も爵位の簒奪によって命を落とした。俺はすでに男爵として独り立ちしていたが、妹は両親と暮らしていたので、結果俺が引き取ることになったのだ。

 今よりずっと幼かったとはいえ、当時のことを嫌な記憶として思いおこしてしまうのかもしれない。


 そうなると、気になるのはやはり俺の身らしい。

 大公という位にある限り、いつか俺もマストヴォーゼと同じように挑戦を受け、死んでしまうかも知れない、ということを事実として実感したようだ。マストヴォーゼの娘たちには母もいるし姉妹も多いが、俺が死ねばマーミルは一人っきりになるからな。

 まあ、実際には俺はとっくに挑戦を受けているし、きっちり退けてるんだけどね。あと、ウィストベルみたいな化け物クラスじゃない限り、そう簡単に負けるとは思わないけどね。


 そんなわけで妹はやや俺の動向に神経質になっている。

 そして、御前会議から無事に帰れたのは自分が贈ったペンダントの効能だ、と思いこんだらしく、出かける時にはそれが何の用であれ、必ず首から下げることを強要されている。

 気持ちはわかるので、しばらくは大人しく従っているつもりだが。


 ちなみに、スメルスフォは成人女性として、ただ世話になるのは申し訳ないと思ったらしい。マーミルに礼儀作法や大公の家族としての心得みたいなものを、教えてくれているようだ。正直助かっている。

 剣や魔術の教師はつけたが、行儀作法までは気が回らなかったからな。

 が、その効果が現れるのは……現れるかどうかもわからないが、かなり先のことだろう。今のところマーミルに変わりはない。

 俺としてはこのままマーミルと娘たちがいい関係を築いていられるようなら、彼女たちの面倒を成人までみて、結婚相手を捜すか、実力によっては爵位を与えてもいいと思っている。

 まだまだ先のことだが……。


 とにかく、マストヴォーゼの家族は、けなげにも俺の城の一員として、なじもうと努力しているのだった。

 今も、妹の横には双子の四女と五女がいる。

 マーミルの年に一番ちかい二人だ。

 長女は引っ込み思案であまり自室から出てこないし、次女はむしろしっかりと妹たちの面倒をみているようで忙しいらしい。三女以下の他の妹たちは、その次女の言うことをよくきいて、様々な勉学に励んでいるようだ。

 というわけで、俺と会う機会が圧倒的に多いのは、妹とつるんでいるこの双子だった。

 いや、正直に言おう。単に妹といるから四女と五女だとわかるだけだ。もし、二人がマーミルとでなく、妹たちの間に混じっていたら、見分ける自信はない。なにせ全員同じ顔だからな。

 二十五人全員が背の順に並んでくれれば、だいたい当てられるが。


「お帰りなさいませ、ジャーイル閣下」

 双子は声を揃えて言う。父の最後をその目で見ていたはずだが、今の彼女らに悲嘆の色はない。少なくとも人前では、強く朗らかにあろうとしているようだった。

「ただいま、ネネリーゼ、ネセルスフォ」

 この間と逆の順番で名前を呼んだ。いつも同じ方から呼んでは駄目だと、マーミルが言うのだ。双子だと、こういうところに気をつかわねばならないらしい。

 正直兄は、ちょっと面倒です。


「三人でどこかにでかけるのか?」

 ここはまだ大公城の前庭だ。そこへ三人そろって走って出てきたのだから、俺がそう問うたのも無理はないだろう。

「何おっしゃってるの、お兄さま。三人でお兄さまをお出迎えにきたんじゃありませんの。ねー」

「ねー」

 あ、そうなんだ。それはどうも。

「それでお兄さま、相談がありますの」

「相談?」

 マーミルが上目遣いに見上げてくる。なんか、イヤな予感がする。

「ネネとネセも、私と同じように剣と魔術の勉強がしたいそうですの」

 きたか。まあ、二十五人も娘がいるんだから、誰かはそんな考えを持つだろうとは思っていたが。

 変な相談でなくてよかった。

「話は中で聞こうか」

 俺は三人の娘を引き連れて、城に入っていった。


 ***


 魔族であれば、男であろうが女であろうが関係なく、爵位を望むのは自然なことだ。マストヴォーゼの娘たちにその技量があれば、もちろん応援してやろうと思っている。

 だから別に、彼女たちを執務室にいれて話を聞くことにしたのは、反対だったからではない。

 だが、マーミルはそう思わなかったようだ。扉が閉まるなり、くってかかるように言ってきた。


「だって、お兄さま、そうでしょう。爵位がなければ、自分の思う結婚も難しいのですわ」

 うん、それはお前がベイルフォウスに言われて決起した言葉だね。

「大公にまで登りつめる必要はありませんけど、自分の思うように生きるには、ある程度の地位が必要なのですわ」

 そう、俺もそう思ったから、男爵位を死守するつもりだったんだが。

「ですから、私たち三人とも剣と魔術の腕を磨いて男爵になり、自分の好きな相手と結婚して、三人で内輪の舞踏会やお茶会を開いて、楽しく暮らすつもりですの!」

 俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 いや、前半はよかったんだが、後半が……。

 まあ、いいけど。


「ネセルスフォとネネリーゼは」

 さっきと反対の順番で呼ぶこと、と。

「母君には相談したのか? 反対なさっておいでなら、俺が勝手に許可することはできないぞ」

 まあ、許可も何も、うちの妹は勝手におっぱじめてましたけどね。さすがに余所の子はね。

「もちろんですわ、お母様は賛成してくださっています」

 またハモった。すごいな、双子。

「では、確認しておこう。最終的な判断は、その後に伝える。それでいいな?」

 もちろん母親がいいと言ってるなら、俺は止めない。この際だから、教師役も俺が選んでもいい。

「ええ、お兄さま。お願いいたしますわ」

「話はそれだけか? 俺はこれから……」

 そのとき、執務室の扉がノックされた。

「旦那様、副司令官どのがお出でです」

「ああ、入ってもらってくれ」

 エンディオンの声かけに、俺は立ち上がる。

 割と高確率で、この城には軍団副司令官がいることが多かった。まあ、ほとんどジブライールなんだけど。

 たぶん今日もいるだろうと思って、姿を見たら執務室に呼んでくれるようにとエンディオンに頼んでおいたのだ。


「失礼いたします」

 が、入ってきたのはジブライールではなかった。

「フェオレスか。珍しいな」

 スラリとした猫を二足歩行にした姿の公爵だ。あ、尻尾はハムスターで猫耳の横には羊の角が生えているが。

「お召しと伺い、まかり越しました」

 彼が優雅に一礼するのへ、横を通りがかった双子が見ほれるような視線を向けた。

 それはあれか? 動作が見事だからなのか、見た目がいいのか、どっちなのだろう。

 そういや、この子たちはマストヴォーゼにそっくりだが、彼はデヴィル族一の美男子と呼ばれていた。やっぱりこの子たちもかなりの美少女と言われているのだろうか?


 いや、そんなことは、どうでもいいんだけど。

「悪いがフェオレス。実は半年ほど後に、御前会議をやり直すことになった。魔王城から正式の通知もあると思うが、また同伴者の選定と、会議に必要な資料作成を適度に分担してやってくれ。資料は前回のをほとんど使い回せばいいから」

「は」

 フェオレスは綺麗に頭を下げたが、それに異を唱えたのはマーミルだ。

 妹は部屋を出ていこうとしていたのだが、俺の発言を聞いて扉を開けたところで立ち止まり、踵を返した。フェオレスに見惚れて歩いていた双子とぶつかったが、マーミルは気にした風もなく、俺をじっと見つめてくる。


「その話、本当ですの、お兄さま!」

「もちろん本当だ、妹よ」

「この間中止になったのに」

「そうだが、どうしても開催を望む大公がいて、再度開かれることになった」

「そんな……」

 マーミルが何を心配に思うのか、わからないでもない。

 毎回その時を選んで挑戦者がやってくる訳はないとわかっていても、つい過剰に反応してしまうのだらろう。

 俺は立ち上がって妹へ歩み寄ると、その金髪の上に手を置く。

「大丈夫、会議のやり直しをするだけだ。他には何もない」

「そ……そうですわね。失礼しましたわ」

 そうしてやっと双子の存在を思いおこし、彼女たちの前で不安な気持ちを抱くのはよくないと戒めたのだろう、にっこりと微笑むと、俺とフェオレスに一礼して出て行った。


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